オープンソースは裏切れない

バークレーのMBAの方のポストより:

A Golden Bearの足跡 : GoogleがDNS事業に参入!!! (後編) メール内容と素朴な疑問(ご意見募集)

Googleが何故DNSに参入するのかという話は各所で行われているのでここでは取り扱わない。ビジネススクールの環境が垣間見れるので興味のある方はリンク先をご覧頂きたい。ここではオープンソースに関する最後の一節だけ取り上げる:

そもそも無料って、良いことなのか:
Cases for Entrepreneurshipの授業で1つ心に残った学びに、「オープンソース(無料でソースコードを公開し、皆の力を借りて開発を進めること)は、 ローエンド品を開発するには、無限のリソース・パワーを与えるが、ハイエンド品を作るためのリソース・パワーは一切与えない」というものがありました。そ のココロは、無料で提供されたサービスはどこかで必ず裏切るため、企業向けなど信用が第一のところには、無料ではかえって参入できない。なぜ裏切るか、に ついての簡単な例としては、今年のMBA生の夏のインターンでも、「無料でいいから仕事させてくれ」、という人がいっぱいいましたが、フルタイムの仕事を 賃金ゼロで探す人はいないはずですので、インターン時期が終わるとそのリソースは必ず戻ってきません。Googleは、現在個人ユーザーには無料でサービ スを、開発者には無料でAPIを公開している「オープンソース」な企業。一方、昨年から企業向けに有料サービスを展開し始めて、オープンソースからの脱却 を試みているようにも見えますが、果たして既存のハイエンドユーザーがどれだけGoogleになびくかは、興味深いです。

オープンソースが外からどのように見られているかが見えて面白い。オープンソースとビジネスの関係は複雑で分かりにくいのでこれを素材に説明してみたい。まず冒頭からだ:

「オープンソース(無料でソースコードを公開し、皆の力を借りて開発を進めること)は、 ローエンド品を開発するには、無限のリソース・パワーを与えるが、ハイエンド品を作るためのリソース・パワーは一切与えない」

文脈によるが、半分正しく半分間違っている。オープンソースで多くの参加者を集めるためには多くの人に取って有益なプロジェクトでなければならず、それが「ローエンド」であることは多いだろう。しかし、参加者の多寡とリソースとは異なる概念だ。例えばスーパーコンピュータ開発は「ハイエンド」だがオープンソースのシステムを使うことも多い。これは簡単にカスタマイズできるからだ。

無料で提供されたサービスはどこかで必ず裏切るため、企業向けなど信用が第一のところには、無料ではかえって参入できない。

これは間違いだ。オープンソースのプログラムは「サービス」ではない一度提供されたプログラムを提供側が取り戻すことはできない。もちろん今後の開発やサポートの持続は保証されない。しかしそれが必要ならば通常の契約を用いて開発やサポートを依頼すればよい。

今年のMBA生の夏のインターンでも、「無料でいいから仕事させてくれ」、という人がいっぱいいましたが、フルタイムの仕事を 賃金ゼロで探す人はいないはずですので、インターン時期が終わるとそのリソースは必ず戻ってきません。

このアナロジーが適切でないのは、ソフトウェアが公共財であり、誰かが使っても他の人が利用する障害にはならないからだ。ソフトウェアはフルタイムどころか一度にあらゆる場所で同時に働くことができるだから全ての場所で賃金をもらう必要もない

Googleは、現在個人ユーザーには無料でサービ スを、開発者には無料でAPIを公開している「オープンソース」な企業。

無料のサービスやオープンなAPIはオープンソースとは違う。そして、その違いこそがオープンソースが企業に取って重要な理由だ。サービスやAPIはいつでも引っ込めることができるがオープンソースのソフトウェアを引っ込めることはできない。企業はソフトウェアをオープンソースで公開することにより、それが永遠に公開されつづけることにコミットできるのだ。

オープンソースにすることで無料でオープンなことにコミットしてどうするのか、どこで稼ぐのかという問題はある。これは通常、当該ソフトウェアと補完関係にある財・サービスの販売によって行われる。例えばRedhatであればシステムはオープンソースでサポート契約を販売する。Intelであればx86というプラットフォーム上で有益なソフトウェアをオープンソースで公開し、x86プロセッサを売る。

一方、「無料より怖いものはない」とはよく言ったものですが、我々個人ユーザーがGoogleにいつか裏切られる日があるとしたら、いつ、どのような形で 起こりうるのでしょうか。あるいは、Googleはいずれ個人ユーザーも「顧客」とみなして、サービスを続々と有料化することがありうるのでしょうか

最後にあるこの問題は正しい。しかし、それはオープンソースが裏切るからではなく、Googleの製品の多くがオープンソースではないからだ。Googleは無料であること・オープンであることが重要・必要な場合にはオープンソースを使い、コアなビジネスはプロプライエタリにすることで利益を上げているのだ。

Redhatであれば

オープンソースは裏切れない」への5件のフィードバック

  1. 禿同です。

    なお企業がオープンソースを使うのに躊躇する理由は単に、バグがあったときに形式上責任をなすりつける相手がいなくなるからというのが大きいようですね。(実際には有料ソフトでもそれを使って行った業務の責任を取る会社は滅多にないんだけども。)

  2. >なお企業がオープンソースを使うのに躊躇する理由は単に、バグがあったときに形式上責任をなすりつける相手がいなくなるからというのが大きいようですね。

    サポート雇うか保険にでも入ればいいのにと思います。ソフトウェアの製造元は責任なんて取るわけないですし。

  3. 話題に取り上げていただき、誠にありがとうございます。今回試しに、特に専門性があるわけではない分野に対して良く調べもせず思い付きを書いてみたのですが、経済学とITの双方にお詳しいRIONさんの説明で、「オープンソース」という言葉そのものの概念と適用範囲のより正確な定義など、色々クリアになり、大変ありがたいです。仕事上ではこんな無責任な発言は到底出来ませんので、気ままなMBA学生と言う立場、および、「オープンソース的な」Webツール、の便利さを改めて実感しました。どうりで巷でつぶやきが流行ってるわけですね。

    バークレーも寒くなってきましたが、お互い健康に気をつけて頑張りましょう。

  4. コメントありがとうございます。

    個人的な仕事面においてもどんどん発言していくことが重要な世の中になっていくかと思います。

    今日は忘年会参加させて頂きます。

  5. ピンバック: Googleのプラットフォーム戦略 » 経済学101

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