ハイチの債務免除

February 2nd, 2010 by Rion このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをはてなブックマークに追加 4 comments »

ハイチに対して債務免除を行うべきという声が上がっているが、その効果をめぐって疑問が投げかけられている。

For Haitians’ Sake, Drop the “Drop the Debt” | David Roodman | Global Development: Views from the Center

the benefits of debt relief over the next few years, however done, will be tiny.

ハイチの対外債務支払いは2009年で1,800万ドル、2011年で3,400万ドルだと言う。しかもそのうち900万ドルはIDB経由でアメリカ政府が負担しているそうだ。残りは台湾とベネズエラへの負債で、アメリカなどでの市民運動が影響を与えるのは難しい。

How to square this with the enormity of $1.25 billion? Most of Haiti’s debt is not due for a long time. So a typical dollar written off today might not help Haiti (by lowering debt service) for a decade. That’s why cancellation does little good in the short run. It is not a coherent response to crisis.

しかし、ハイチの対外債務は12.5億ドルといわれている。これはその債務の殆どが長期であるためで、債務免除は災害に対する援助としてはあまり意味がないという。

リンク先の記事ではさらに債務放棄に必要な政府のリソースの問題や、援助団体のモニタリングの問題に触れられているが、次のグラフが全体像をよく捉えている。

ハイチが債務のために海外へと支払っている金額は、移民の送金・援助・貿易で入ってくる資金に比べると些細な大きさだ。よって債務放棄のためにリソースを振り分けるのは非効率的だと主張されている。こういう大まかな規模の把握は資源を無駄にせず、効率的な援助を行うために必要だ。

私は債務免除に関しては賛成しない。将来ハイチへの貸付を行う主体がいなくなるという問題もあるが、それ以前に他人に一種の寄付を強制させることに資源を使うことのは非生産的だ。寄付は基本的に所得移転なので、それ自体として何かを生み出すことは少ない(参考:ビジネスをしてお金を稼いで社会のためになろう)。本人が寄付に価値を見出して行うのであれば何らかの効用があるのだろうが、労力を使って他の人間に非自発的な寄付を行わせることは社会全体としてマイナスだと推定するのが自然だろう。

資本家の反資本主義

February 1st, 2010 by Rion このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをはてなブックマークに追加 9 comments »

ダボス会議に関連してDon BoudreauxがThe Washington Postに送ったレターがCafe Hayekに掲載されている。

Don’t Throw Me Into that Briar Patch!

題材となったのはこちらの記事の以下の部分だ:

When Sarkozy had finished his anti-capitalist rant, he got a standing ovation from an audience made up mostly of wealthy capitalists.

サルコジ仏大統領が反資本主義的な演説をし、まさに裕福な資本主義者であるはずの参加者がスタンディングオベーションをしたという。サルコジ氏の演説内容は以下のように記述されている。

The leading rabble-rouser was French President Nicolas Sarkozy, who opened the conference with a speech urging global citizens to reform the system. “From the moment we accepted the idea that the market was always right,” he said, “globalization skidded out of control.” An overemphasis on free trade had “weakened democracy,” he argued. Human values had been undermined by soulless speculators for whom “the present was all that mattered.”

市場原理主義(!)を受け入れたときからグローバリゼーションは手が付けられなくなったとか、自由貿易は民主主義を弱体化を招いたとか、さらには今現在しか見ない魂のない投機家が人間の価値を蝕んでいるとか、なかなか香ばしい内容だ。どうしてこのような内容に名だたる経営者が賛成するのか。リンク先ではそれを明快に説明している。

Nothing is surprising about this fact. To the extent that trade – both national and international – is restricted, incumbent capitalists are shielded from what Joseph Schumpeter called the “gale of creative destruction.”

既存の企業にとって交易が制限されることはシュンペーター的な創造的破壊を免れることになる。これは既に成功している企業にとっては現状を維持する素晴らしい手段だ。

Such “anti-capitalist” protection harms not only upstart entrepreneurs; most importantly, it hurts the countless unseen and unrepresented consumers who are denied the gains they would have enjoyed from the innovation and competition that are squelched by the “anti-capitalist” restrictive policies that seem so in vogue today at Davos.

しかも、そういった「反資本主義」的な保護政策はこれから企業を作る起業家への逆風となるだけでなく、新しい企業がもたらすはずだったイノベーションや競争の利益がなくなることで消費者を害する

政治では事実よりもストーリー

January 31st, 2010 by Rion このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをはてなブックマークに追加 5 comments »

最近興味のある話題にぴったりの記事がBBCから:

BBC News – Why do people often vote against their own interests?

マサチューセッツで民主党が議席を失ったことは大きな反響をよんでいる。これによりオバマ政権が医療・健康制度改革を成し遂げることはより難しくなっている。そして、医療制度改革に反対している人々の多くは、まさに新しい制度により助けられる人々だ。どうしてこのような事態が生じるのか。

If people vote against their own interests, it is not because they do not understand what is in their interest or have not yet had it properly explained to them.

人々が自分の利益に沿わない投票を行うのは、自身の利害を理解していないからでも適切な説明がなされていないからでもないという。

They do it because they resent having their interests decided for them by politicians who think they know best.

There is nothing voters hate more than having things explained to them as though they were idiots.

有権者は政治家が知った顔で選択を押しつけることに憤っているし、何よりも子供相手のようにいちいち説明されるのが嫌いなのだ。

As the saying goes, in politics, when you are explaining, you are losing.

説明をしている時点でもう負けているという。気が滅入るような話ではある。

Gore: “Under the governor’s plan, if you kept the same fee for service that you have now under Medicare, your premiums would go up by between 18% and 47%, and that is the study of the Congressional plan that he’s modeled his proposal on by the Medicare actuaries.”

Bush: “Look, this is a man who has great numbers. He talks about numbers. I’m beginning to think not only did he invent the internet, but he invented the calculator. It’s fuzzy math. It’s trying to scare people in the voting booth.”

Mr Gore was talking sense and Mr Bush nonsense – but Mr Bush won the debate.

しかし例として挙げられているブッシュとゴアのやりとりを見れば頷かざるをえない。ゴアはメディケアのプレミアムについて数字を出して論じ、ブッシュはそれを皮肉っている。ブッシュの発言部分なんて読んでいて吹き出してしまうレベルだが、ディベートに勝ったのがブッシュだが笑ってもいられない。

[...] stories always trump statistics, which means the politician with the best stories is going to win [...]

統計よりもストーリーが大事であり、勝つのは最もいいストーリーを持っている政治家なのだ。間違ったことをいってはいけないが、本当に人を動かそうとするならうまい話を考えることの重要性も忘れていはいけない。政治はこの微妙なバランスで成り立っている。そしてそれゆえに、支持の得られない正論・道を踏み外したポピュリズムがどこの国にでもあふれているのだろう。

農業補助金をやめるべき六つの理由

January 30th, 2010 by Rion このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをはてなブックマークに追加 29 comments »

農業補助金が話題になったので、Wikipediaの記事を参考に補助金を縮小・廃止すべき理由を六つほど並べてみた。もちろん補助金を続けるべきだという意見もあるとは思うが、やめるべきだという理由を明らかにすることは結論はどうであれ重要なことだろう。常識に属するような話だが、繰り返しいろんな場所で論じられることには意味がある。

農業補助金は保護主義

そして保護主義は(社会全体でみるとマイナスという意味で)社会厚生上望ましくない。自由貿易をすることによって国際的な分業がなされ世界的な生産の効率が上がる。より多くの商品が安価に生産できて困ることはないだろう。

食糧自給率の維持は非現実的

有事の際の食糧自給を持ち出す向きもあるが、この議論は基本的にナンセンスだ。エネルギーを全く自給できない国が海外からの補給なしに戦争を継続することはできない。極端な話、食糧が生産できても消費地まで輸送すらできないわけだ。むしろ食糧の供給元を分散化したり貯蔵量を増やしたりするほうが効果的な対策だろう。

途上国に対する害悪

アメリカやヨーロッパにおける過剰な補助金によって、国際市場における農作物の価格が下落している。これは補助金を出す国の国民にとってマイナスなだけでなく、農業を主産業とする途上国の交易条件を悪化させる(彼らの輸出品の価格が下がるので必要な輸入のためにより多くの本来自分たちの消費に使える資源・労働を犠牲にする必要がある)。これは開発援助をまるっきり打ち消してしまう程の規模だ。

補助金は国内市場も歪める

これはどんな補助金についても言えるが、外部性を内部化するための補助金・税金でなければ価格を人為的に変えることで生産・消費を歪めてしまう。ある農作物が特別に安ければ、その作物は過剰に生産・消費される。アメリカのソフトドリンクの多くが砂糖ではなくハイフルクトースコーンシロップ(HFCS)を使っているのはコーンに対する補助金のためだ。このことの健康への影響も取り沙汰されている。

安定性は保険や先物でカバーすべき

農業への補助金が、不安定な農業経営を助け安定した供給を目指すためにあるという意見もある。しかし、収益が不安定な業界は他にもあるし、それを政府を補助することはない。通常は保険や先物によってリスクはヘッジされる。

レントシーキング

これだけ農業補助金に反対すべき理由があるにも関わらず先進国ではどこでも補助金があるのはレントシーキングのためだ。少数の利益享受者がロビー活動により補助金を求める。個々の消費者にとっては立ち上がって反対するほどの悪影響もないので政治的には比較的簡単に通ってしまう。補助金自体が社会厚生を悪化させるだけでなく、レントシーキングために費やされる資源は社会に何ももたらさない。

タブレットと新聞業界 by Google

January 29th, 2010 by Rion このエントリをdel.icio.usに追加このエントリをLivedoor Clipに追加このエントリをはてなブックマークに追加 7 comments »

Advertising AgeにGoogleでChief EconomistをつとめるHal Varianによるタブレットと出版業界との関係についての発言がまとめられている(今週の水曜日にJ-schoolであった)。

Google Exec Says Newspapers Need to Re-Think Their Models – Advertising Age – Digital

まず新聞業界が直面している問題についてはこう述べている:

The trouble is the audience for news has been declining. Newspaper circulation has been slipping since 1990 and has plummeted in the past five years. Online, only 39% of internet users surveyed by Pew said they spent time online looking for news.

紙の発行数が落ちているにも関わらず、オンラインでニュースを探している人は39%しかいないという。

“The verticals that drive traffic are things like sports, weather and current news, but the money is in things like travel and shopping,” says Mr. Varian. “Pure news is the unique product that newspapers provide, but it is very hard to monetize.”

しかもそのオンラインで人々が読むのはスポーツ・天気予報・最近のニュースなどであって、新聞社にとってお金になる旅行やショッピングではない。そういったものは専門のサイトにいけばいいからだ。紙の流通費用によってさまざまな情報をバンドルして売っていた新聞はその能力を失っている。本当に新聞特有の情報である純粋なニュースは(著作権の保護もなく)利益にするのが非常に難しい

Typically, 53% of newspaper spending goes to traditional printing for distribution — costs eliminated through digital distribution — compared with 35% on what the Google exec called the “core” functions of news gathering, editorial and administration.

これに対抗する一つの方法は支出を減らすことだ。新聞社の支出の53%は印刷や配達などに充てられており、ニュースを作ることには35%程しか使われていないそうだ。よって、オンラインに移る過程で前者の支出をカットしていくことが収益改善につながる。The Huffington Postなどがいい例だろうか。

Google wants to help publishers use web technology to grow, Mr. Varian said. “I think papers could better exploit the data they have. They need better contextual targeting and ad-effectiveness measurement.”

逆に収益を増やす方法としては、Googleらしく情報の活用を上げている。オンラインでの行動は現実世界のそれに比べて情報収集が容易だ。これを利用すればより効果的な広告を打つことができる。個人の情報に基づいたきめ細かな価格差別によって収益率を上げることも可能だろう。

“We know there will be eventual competition from other devices, like the Kindle,” he said, “and of course there’s still the whole web. I don’t think the tablet should be viewed as the be-all and end-all of distribution.”

iPadがiPodのようにプラットフォームを支配して、消費者余剰を吸収してしまうことについてはKindleのような競争相手がいるので大丈夫だとしている。

“Users will likely engage with the tablet during peak leisure hours, and you would imagine that’s very attractive to publishers.”

むしろタブレットの存在はニュースが読まれる時間を増やすことにつながるため、新聞社にとっては魅力的だという。これはまず全体のパイを考えるエコノミスト的な視点だ。

しかし、一つGoogleにとって都合の悪いことが抜けているようにも思われる。確かにiPadがe-bookの市場を独占し余剰を吸収することはありそうにない。しかし、オンライン収益の鍵となる広告の市場はどうだろう。Googleが圧倒的なシェアを握る広告市場において、Googleはオークションの設計を通じて市場支配力を行使できる。もちろん既存のチャンネルよりも効率的なチャンネルを可能にした企業が利益をえるのは正当なことだが、それによって実際にコンテンツを生産している人間の利得が減ることはコンテンツ生産のインセンティブを与える著作権制度の趣旨からすると懸案事項だろう。

Mr. Varian’s list of suggestions doesn’t include pay walls, such as the New York Times’ plan for a metered approach to charging users. “It’s too easy to bypass,” he says.

ちなみにNYTの有料化については、簡単に回避できるという技術的な理由でうまくいかないとしている。