農作物価格と貧困

農作物の国際市場での価格が下がると発展途上国にどんな影響があるのか。簡単な答えはその国がその農作物の(ネットで)消費者なのか生産者なのかで決まるということだが、それだけでは終わらない。

Are High Agricultural Prices Good or Bad for Poverty? » TripleCrisis

They conclude: “Adverse agricultural price shocks can have negative effects on poor urban households through labor market transmission, which can offset the gains they might realize as net consumers of agricultural products.”

農作物の価格低下は農家にマイナスであるが、消費者である都市労働者にとってはプラスというのが単純な分析だが、労働市場の動きを含めて考えると必ずしもそうはならない。農業労働への需要が減ると仕事のなくなった農業従事者が都市の労働者と仕事を奪い合うことになる。通常、離農する労働者と競合するのは都市部の比較的貧しい労働者であるため、これは逆進的な効果を持つ。

Conversely, they find that when rice prices go up the overall impact is progressive. The demand for unskilled labor in agriculture goes up, which raises incomes, and raises wages not just in agriculture but generally across unskilled labor markets.

逆に農作物の価格上昇は農家にプラスであるだけでなく、農業従事者と潜在的に競争関係にある貧しい労働者にとっても賃金上昇が食糧の価格上昇を上回る可能性がある。もちろん都市部の多くの労働者にとってはマイナスであるが、影響が貧しい層に出るのか豊かな層に出るのかは政策上重要なポイントだ。

先進国の(自国農家への)補助金は交易条件の低下を通じて開発途上国をさらに貧しくしているが、その負の効果はそのなかでも特に貧しい人に強く現れるということになる。

食糧危機?

よく人口増加で世界的な食糧危機がなんて話を耳にするが、単なる煽りに過ぎないでしょというよく知られたお話:

What the Starvation Lobby Ignores

With presently available technology, humanity can feed an ever-growing population, with ever-better nutrition, for centuries.

人類は十億人単位で増えていく人口を食べさせていけるのか。答えはイエスだ。現在の技術水準で増加する人口によりよい栄養を数世紀に渡って提供できる。

Happily, such terrible scenarios have not materialized. Instead, people around the world have been increasingly better fed, and are living longer and healthier lives. Recent decades have seen an unmistakable increase in world food production per person […]

世界的な食糧不足という危機を訴える人もいるが、現実にはだんだんと食べる量は増え、健康で長生きするようになっている。

The greatest starvation disasters-the deaths of seven million Ukrainians and other Soviet citizens in the early 1930s and of 30 million Chinese between 1958 and 1961-were caused by deliberate government policies: Stalin purposely murdered his people, and the Chinese communist leaders practiced tragically wrong-headed economics.

前世紀最大の飢餓はソ連と中国で起きたが、その原因は意図的な虐殺と共産主義に基づく間違った経済政策だった。

The market price of wheat adjusted for inflation has fallen over the past two centuries despite a growing world population and rising incomes.

ある財が足りないのか余っているのかを知りたければ市場価格を見るのが早い。インフレ調整された小麦の価格は二十年間下がり続けている。人口が増え、所得が上がっているにも関わらずだ。

Even more startling, the piece of wheat relative to wages in the U.S. has fallen to perhaps 1/20th of its level two centuries ago.

所得に対する小麦価格を見ると、アメリカではこの二世紀の間に1/20になっている。

摂取カロリー、肉類の消費量はともに上がってし、平均身長は上がり初潮年齢は下がっている。生産性の上昇に伴ない農業に従事する人の割り合いも激減している。どんな数字をとってみても食糧供給が悪化しているというデータは見当たらないわけだ。

Productivity per worker and per acre have improved thanks to power machinery and biological innovations induced by increased demand, the improved ability of farmers to get their produce to market on better transportation systems, and, most importantly, expanding economic freedom.

生産性が上がっているのは耕作機械の導入や農学の発展、輸送手段の進歩、そして市場経済の拡大によるものだ。これは現在食糧不足という現象が存在しないことを意味しないが、状況は世紀単位で徐々に改善していっている。

サラダはビッグマックより高い

マクドナルドでサラダがビッグマックより高いのにはいろんな理由があるが、補助金政策もその一端だ。

Why A Salad Costs More Than A Big Mac – The Consumerist via FlowingData

右側が連邦政府の推奨する食品の配分、左側が政府が出している補助金の配分だ。如何に肉類・乳製品に大きな補助金が出ているかが分かる。砂糖やハイフルクトースコーンシロップの原料となるコーンへの補助金も莫大だ。この状況でファーストフードは身体に悪いから税金をかけようというのは何かおかしい。

日本の場合どうなっているかも興味があるが、関税や輸入割当を通じた補助金以外の保護が多いので数字を出すのが難しそうだ。

水問題のスケープゴート

日本の政治はだめだみたいな話をよく聞くけど、政治がだめなのは日本の専売特許ではない。カリフォルニアにおける水資源問題について。

Deceptive arguments are being made in California’s water wars

Apportioning this finite resource among cities, farms and the environment will require well-informed discussions, conducted responsibly and in good faith, and thoughtful investments in conservation technologies.

大農業地帯であるカリフォルニア中央部のセントラルバレーでは近年水不足が深刻だ。資源が限られている時それをうまく利用するためには慎重な議論が必要なのはその通りだ。

A perfect opportunity, in other words, for political posturing.

しかし同時に政治パフォーマンスの絶好の機会でもある。セントラルバレーでは失業率が40%を超える地域もあるそうで不満な有権者には事欠かない。

McClintock’s argument appears to be that the fault lies with the “environmental left” and its puppets in Washington, who place the fate of a silvery, 2-inch fish above the needs of human beings.

その一つの戦法は問題を過剰な環境保護にすり替えてしまうことであり、今回そのシンボルとして選ばれたのがDelta Smeltという小魚だ。

この小魚を人間様より重視するというのか!!という論理だ。

Though Fresno County officials projected 2009 to be a “dire year” in production, that needs to be measured against the record harvest of 2008, when the county’s $5.7-billion production value represented a nearly 6% increase over 2007.

この手の問題では常にそうであるように、これは実態を現してはいない。まず、干ばつで生産が落ち込んでいるという主張に問題がある。前年に比べて生産が減っていはいるが、それは昨年が記録的な豊作だったためだそうだ。

In dry periods, like the last few years, the federal government has still delivered to those users 100% of their contracted supply. This year Westlands, which sits at the bottom of the rights waterfall, may receive as little as 5%.

もちろん、問題が全くないわけではなく、水不足が深刻な地域もある。しかし、それは環境保護のためではなく、水の配分に関する制度の問題だ。下流から順に割り当てて行く仕組みになっており、優先順位の低い地域ではすぐに水不足が起きる。

Mendota’s annual unemployment rate has dipped below 25% only twice in the last 10 years, according to state statistics; in 2003, when the federal deliveries were better than 75% of contract supply, Mendota unemployment still approached 32%.

この制度的問題は今に始まったことではなく、現在40%の失業率で騒がれている地域ではこの十年間失業率が25%を切ったことがない。一番水が多く供給された年でも32%であり、高失業率は構造的な問題だ。

記事中ではダムなどの過剰な環境負荷が原因として挙げられているが、対策としては適切な価格設定が必要だろう。価格がつく事により環境への外部性をコントロールできるし、地域ごとに非効率な不均衡が生ずるのを防ぐことができるはずだ。

No amount of political bluster will solve these conflicts. Nor will an approach that treats the needs of every community of water users as superior to everyone else’s, that advocates the building of new dams that just repeat or magnify mistakes committed in building the old ones, or that reduces a complex issue to a comic-book conflict between human beings and a tiny fish.

しかし、そのためには今優先的に水の供給を受けている人から資源を取り上げる必要があり、農家にとっては財政的な負担になる。解決策は、言うまでもなく、全てを小魚のせいにすることだ。

Delta Smeltの写真はWikipediaより(パブリックドメイン)。

Walmartの新しい方向性

Walmartと言えば何かと悪者扱いされる世界最大のスーパーマーケットチェーンだが、そこでの新しい取り組みが取り上げられている。

The Great Grocery Smackdown – The Atlantic (March 2010)

Walmart’s move into organics was then getting under way, but it just seemed cynical—a way to grab market share while driving small stores and farmers out of business.

そのWalmartは今オーガニック食品の販売に取り組んでいる。もちろんこれはシェアを広げるためだ。いつも通り小さな焦点や農家を市場から追い出すという話なるかと思えば、今回はそうでもない。

Then, last year, the market for organic milk started to go down along with the economy, and dairy farmers in Vermont and other states, who had made big investments in organic certification, began losing contracts and selling their farms. A guaranteed large buyer of organic milk began to look more attractive.

有機牛乳の生産のために多大な投資をした企業が苦境に立つなか、安定した大口買い手としてWalmartが注目されてきている。このブログでは何度も強調していることだが、特別な事情がなければ、金儲けのための努力は全体として社会のためになる。もちろん負ける側は損をするが、消費者の損得まで計算に入れればネットでプラスだ。不景気で経済全体が縮小する中でパイを広げることはさらに重要になっている。

The program, which Walmart calls Heritage Agriculture, will encourage farms within a day’s drive of one of its warehouses to grow crops that now take days to arrive in trucks from states like Florida and California.

これはWalmartのHeritage Agricultureというプログラムの一貫だそうだ。今まで数日かけてトラックで運ばれていた作物をローカルで調達しようとしている。

The obstacles for both small farm and big store are many: how much a relatively small farmer can grow and how reliably, given short growing seasons; how to charge a competitive price when the farmer’s expenses are so much higher than those of industrial farms; and how to get produce from farm to warehouse.

ただし、ローカルでの調達は多くの難題がある。ここでは供給量・安定性・シーズンから小規模農家の高価格体質、物流体制が挙げられている。

Walmart knows all this, and knows that various nonprofit agricultural and university networks are trying to solve the same problems.

これはオーガニック・ローカルを推し進める多くのNPOが直面している問題と全く同じであり、Walmartもまたそれを解決しようとしている。営利目的か非営利目的かは関係ない。

a ruthlessly well-run mechanism can bring fruits and vegetables back to land where they once flourished, and deliver them to the people who need them most.

全てがオーガニック・ローカルになればいいというわけではないが、消費者が求めている限りにおいてそれが供給されることは望ましいことだ。これがWalmartというビジネスとして非常に成功している企業によって取り組まれることでよりよい解決策が見つかる可能性がある。

記事では、オーガニックな食材を扱うWhole Foodsとの商品の比較が詳細に行われていて面白い。そのWhole Foodsはつい先日、非常にグレーな有機栽培表示方針を報道されている。消費者としてはWalmartであればWhole FoodsであれNPOやファーマーズマーケットであれ多くの供給者が競争することは大歓迎だろう。