交通経済学

交通経済学の父とされるJohn R. MeyerについてEdward Glaeserの解説がEconomixにある:

Remembering the Father of Transportation Economics – Economix Blog – NYTimes.com

まず鉄道について基本的な二つの事実が挙げられている:

Railroads were said to be natural monopolies, and regulation was needed to deter overpricing. On the other hand, railroads were also considered prone to ruinous price wars, and regulation was deemed necessary to “insure profits sufficient for the development and expansion of the industry.”

一つは自然独占でもう一つは過剰競争だ。鉄道は非常に大きな固定費が掛かるかつ、同じ場所に複数必要ないほどトラフィックがないことが多いため、自然に一社が一つの路線を受け持つことが多い。これは価格が独占価格に高止まりすることを意味するため価格の規制が正当化される。不適切な価格規制を行うと経営努力を行うインセンティブがなくなるなど非効率が発生する。

同時に、複数の鉄道が同じ市場で競争した場合には価格が下がりすぎ破綻しやすい。莫大な固定費の影響で平均費用が限界費用より大きく、競争により価格が限界費用に近づくと固定費をカバーするだけの利益が上がらなくなるからだ。

高速道路とバスについても重要な政策方針が示されている:

First, highways will never be appropriately used until they are appropriately priced. Unless drivers pay the full social cost of crowding congested urban roads during peak hours, then those roads will remain overused and society will pay a large cost in wasted time.

高速道路は適切な価格付けがなければ適切に使われないドライバーが混雑などの社会的費用を全て負担するような価格付けにならない限り、常に過剰な需要が発生し、時間の浪費と言う形で社会的な無駄が発生するという。

これは現在の日本の政策の問題を明らかにしている。道路はその容量に達した途端に極めて非効率的な移動手段となる。しかし、個々のドライバーは自分が運転することで他のドライバーが時間を浪費することにたいし費用を払わないため、放っておくと常に混雑=容量オーバーが発生する。これを防ぐには通行料という形でこの負の外部性を個人に負担させる必要がある。

高速道路無料化ないし上限千円と言った政策はこれに完全に反している。結果は予想される通り大渋滞が発生して利用者がみな無駄な時間を過ごすということだ。このような無駄を省くには、まず高速道路の料金は渋滞をコントロールするためのデバイスであって、道路の建設費用をカバーするためのものではないということへの理解が必要だ(料金が費用をカバーできるかは規模の経済で決まるが、それは二次的な問題だ)。

よくアメリカでは高速道路が無料だと言われる。それは単に高速道路の輸送容量が十分あるためだ。容量が足りないベイエリアのブリッジではどれもかなりの料金を徴収している(残念ながらこの料金も混雑解消というよりも一種の財源として設定されている印象はある)。

利用者にとってみれば混雑している高速道路に料金を上げるというのはどういうことだという意見もあるだろうが、現実には混雑しているからこそ料金を上げる必要がある。高速道路無料化に対する立場は基本的な経済学を理解しているかを示すよい指標になっている

Second, buses are pretty much everywhere more cost-effective than urban trains. We are so used to buses as we experience them, moving slowly along crowded city streets, that we forget Mr. Meyer’s point that buses on dedicated lanes, “freeway fliers,” can be just as fast as urban trains.

バスの効率性についても指摘されている。バスは鉄道に比べると固定費も小さく、運用のための費用が全体的に小さい(それに比べ鉄道は物資の輸送については極めて効率的だ)。しかし、バスの効率性は道路の混雑に依存している。道路の混雑が適切な建設や混雑料金によって解消されていない場合バスは非常に非効率になる。バス専用レーンを導入することでこの問題は解決できるが、バスに対するイメージがあまりにも悪いため導入は進まないようだ。

これは自分の感覚にも一致する。東京で暮らしているとほとんどの場所には電車と徒歩で移動できる。バスは田舎にいったときにしか使わないためサンフランシスコなどに出てバスをみると違和感を感じる。さらにアメリカだと自家用車の利用が多いためバスは客層が好ましくないという問題もある(車が非常に不便なサンフランシスコや学生がパスを持っているバークレーはましなほうだろう)。何故東京では電車が極めて発達しているのに対しバス交通は貧弱であるかも興味深い。

交通経済学」への8件のフィードバック

  1. バスの方が便利のように思える街におります.市内(中心部)は混雑税を取っているようです.ただ,予算不足分の穴埋めのため,混雑税増税するらしいですが.同様の理由で,バス・地下鉄料金も値上げの模様です.地下鉄は便利な印象が弱い+バスより高価,です.ちなみに,地下鉄に乗り越し精算というシステムはないです.

    London travel fares to increase – Bus and Tube fares will both rise by above-inflation rates in 2010, London Mayor Boris Johnson has announced

    http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/london/8307698.stm

    London bus and tube fares to rise sharply

    Bus and tube fares to rise by average of 12.7% and 3.9%, and congestion charge to increase by £2, Boris Johnson says

    http://www.guardian.co.uk/uk/2009/oct/15/london-bus-tube-fares-rise

  2. >予算不足分の穴埋めのため,混雑税増税するらしいですが.

    これって「混雑税」と呼べるのだろうか。。。

    >ちなみに,地下鉄に乗り越し精算というシステムはないです.

    ベイエリアだとプリペイドカードに現金・カードでチャージだから乗り越し清算って概念があんまりないかな。

    ロンドンは行った記憶がないので一度いってみたいね。

  3. >これって「混雑税」と呼べるのだろうか。。。

    そのように呼べないと思ったので書きました..プリペイドカードはOyster cardと呼ばれ,チャージのことをtop upと言ってます..現金でチケットを買うとOyster cardで乗る場合の2倍程度の料金です..毎日昼間から皆さんビール飲んでおられるのでオススメですw外で飲むと結構高いように思いますが..

  4. すごい名前だなぁ。こっちは名前なんてないよ。top upってのも使わないなぁ。

    いいなぁ都会。こっちはそもそも普段公共交通機関使わないよ。歩いてばっか。

  5. ベイエリアではりおんくんの指摘通りの計画があるよ。2011年までには、一人乗りでも時間と渋滞に応じて変動する料金を支払えばカープールレーンが24/7使用できるようになるみたい。

  6. もちろん一人乗りだから、お金を払ってもHOVレーン使えないというのは非効率的。

    一人でも車でシティーに行く人は高所得である傾向があるわけで、そこにできるだけチャージするのは正解でしょう。

  7. “Lexus Lane”って呼ばれたりするから、確かに高所得者向けに思われがちだけど、南カリフォルニアでのデータだと高所得者の使用率は25%にも満たないんだってよ。

  8. まあ、移動時間への支払い意志額(willingness-to-pay)が高いというだけなので、必ずしも高所得者とは限らないよね。

    実際、余暇の時間の価値と仕事中の時間の価値では後者が高くなるし。

コメントは停止中です。