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センターピボット

センターピボット方式の灌漑設備を普及させた人物がなくなったことそうだ。

Robert B. Daugherty’s Obituary Highlights How Human Capital Substitutes for Natural Capital: The Case of Water in the Plains

センターピボット式というのはアメリカでよく見られる灌漑方式で、その名のとおり巨大なスプリンクラーが回転することで散水を行う。その仕組み故に円形の耕作地が大量に形成されるのが特徴的だ。追悼記事がThe New York Timesに掲載されている。

The breakthrough for Mr. Daugherty came in 1953, when he bought the rights to manufacture a new irrigation system, the brainchild of a Nebraska farmer, Frank Zybach.

Daugherty氏は1953年にセンターピボット方式の灌漑設備を製造する権利を得て営業を始めた。彼の会社、Valmont Industriesは現在も同方式の灌漑設備のシェアにして半分以上を占めている。センターピボット方式は次のような点で優れている。

  • 水を効率的に利用出来る
  • 人手がかからない
  • 平らでない土地でも利用可能

こういった長所ゆえに以前は経済的に利用できなかった土地でも農業を行うことが可能になり大きく普及した。

In this sense, capitalism helps us to adapt to climate change because it helps us to have the $ to finance basic research and great centers of research and discovery.

この事例では発明者自身ではない他人が権利を購入しビジネスとして成功させており、知的財産制度を含めた市場の重要性がよくわかる。次の写真はサハラ砂漠での様子だ。

ただその一方でセンターピボット方式に問題がないわけではない。

Ogallala Aquifer – depth, important, system, source

The Ogallala Aquifer is being both depleted and polluted. Irrigation withdraws much groundwater, yet little of it is replaced by recharge.

センターピボット方式が最も利用されているとされるアメリカ中部のオガララ帯水層を含む地域では地下水位の低下や汚染が深刻だ。センターピボット方式は水資源を有効活用するという点で同じ規模の農業をする上では地下水への影響が少ないわけだが、大規模な農業を可能にするため結果的には地下水へ深刻な影響を与える。環境への影響を適正化するためには単に効率化するだけではなく、水資源に適切な価格をつけるなど規制が必要なわけだ。

Bloombergのオンライン戦略

Bloomberg(ブルームバーグ)といえば、金融機関向けの端末をリースする会社だが一般向けのニュース配信にも乗り出そうとしているそうだ。

Bloomberg’s move into consumer media

Said Doctoroff, “We want to gain a greater audience for Bloomberg News, which translates into greater influence, which translates into more market-moving news, which enables us to sell more terminals.”

CEOによるとBloombergがニュースを一般に公開することでより大きな影響力を持ち、それが端末のさらなる販売につながるとのこと。

Those professionals really don’t care if the news is on a Bloomberg website or not; as far as the market is concerned, the information is public as soon as it hits the terminal in any case.

これは妥当な戦略だ。まず、ニュースは一度公開されてしまえば、それに従って市場取引が行われる。そもそもニュース自体には著作権の保護はほぼ(※)ないわけだから、例えネットに公開しなくても誰かがそうするのを止めることはできない。よってそうするのがBloomberg自身であってもいい。

(※)一応、Hot News Doctrineなんかはあるが…。

The web is simply too big: no matter how much beefed-up Bloomberg content is “dumped” onto it, that’s never going to suddenly make it a much more attractive alternative to a purpose-built news and information terminal designed very specifically for financial professionals.

Bloomberg自身がニュースをウェブに公開することでウェブ全体の情報が優位に増えるわけではなく、自社の情報端末の売上がそれによって左右されることはない。ネットに情報があるなら端末を買わないという客はすでに客であるはずはないわけだ。

The point is that Bloomberg can profit from an asymmetry: if a Capitol Hill staffer reads B Gov a lot, she’ll be more likely to talk to the Bloomberg commodities reporter calling from New York or Sao Paulo.

逆に、Bloombergが金融以外の分野で影響力を上げることは、端末を利用するユーザーにとって重要な情報を手に入れる上でプラスに働く

Bloombergは本業である金融機関・専門家という市場への外部性を狙って一般的なニュース配信市場に参入するという形だ。端末が扱う情報は極めて時間にセンシティブなのでこれが可能となる。新聞社や放送局が情報流通経路へのコントロールを失うなかで、それ自体で利益を生むことの難しいニュースを誰が担うのかに注目したい

うまくいかないフリーミアム

無料版を公開しても上手くいかない実例の紹介。

fladdict » 無料版10日で20万ダウンロード、広告料$200

勢いきってリリースした TIltShift Generator for free, 10日で20万ダウンロードを突破しました。ところが問題は、その勢いにみあわない広告費。20万本ダウンロードされて、広告料はたったの$200でございます。

とあるiPhoneアプリの無料広告版を公開したところ爆発的にダウンロードされたものの、それに見合う広告費が得られなかったとのこと。

本来20万本販売していれば、1600万円分の売り上げだったわけですが、1598万円ちかい機会損失という結末に。ついでに有料版のランキングも22位から40位以下に大幅ダウンとあいなりました。

有料版に比べて収益は微々たるもので、しかも有料版の売上すら奪ってしまったようだ。

また気になったのは、カメラアプリのインプレッション効率の悪さですね。遷移毎に広告を表示できるRSSやTwitter、ゲーム系と違い、写真編集は1回の起動にたいするインプレッション効率が悪い。これがダイレクトに響いている印象です。

この無料版自体が収益に貢献しない理由はこの通りだろう。写真編集は一日中使うソフトではないので広告収入に結びつかない

では、無料版が儲からないばかりか有料版の売上が落ちたのは何故か。フリーミアムの落とし穴でフリーミアムがうまくいく条件を挙げた。

  1. ユーザー数が増えることで製品の魅力が上がり(外部性)、有料アカウントにより多くチャージできる
  2. 製品の価値が分かっていない製品を使ってもらう
  3. 無料であることで製品が口コミで広まる

まず基本となる外部性だが、このアプリが画像にエフェクトを加えるものだ。同じエフェクトを使うひとが世の中に多く存在するというのはユーザーにとって好ましいことではない。だから無料版が大量にダウンロードされると、有料版のユーザーは逆に減ってしまう。しかも有料版と無料版の差は広告の表示だけで、そもそも無料版と有料版とで有効な差別化ができていない

またこの製品の価値を分かってもらうにしても、無料版を公開する必要性がない。既に公開されているAdobe Air版で十分だ。

無料での口コミ効果もほとんどない。に有名なアプリであるようだし、iPhoneアプリが無料というのは全く珍しくない

フリーミアムもプライシングの一種であり、需要のあり方=ユーザーの行動をよく読んだ上で設定する必要がある。なんとなくフリー版も提供してみたではうまくいかないのはしょうがないことだろう。

結論としてはフリーミアムの落とし穴で述べた通りで、フリーミアムがうまくいくかは個別ケース毎に考える必要がある。

発展途上国向け温暖化対策

気候変動対策における発展途上国の役割について:

Policies for Developing Country Engagement

温暖化対策となると日本を含めた先進国の責任ばかりクローズアップされるが、発展途上国が取り組める対策を考えるのも重要だ。特に、誰に道義的な(!)責任があるかという負担の擦り付け合いに終始しがちな点は残念だ。

For example, fossil fuel subsidies are common in many developing countries. Reducing or eliminating them would relieve budget pressures, promote more efficient energy use, improve energy security, and avoid unintended distributional consequences while also slowing the growth of GHG emissions.

しかし、温暖化対策になる政策の全てが痛みを伴なうものではない。例えば化石燃料への補助金は燃料価格を下げその消費を促進する。このような補助金を廃止することで、補助金のための財源(と課税に伴う経済の歪み=税の死荷重負担)が必要なくなるし、燃料の利用も適正化される。補助金には燃料の購買者の負担を減らすという再配分的意味合いもあるが、それは他の再配分手段で達成できる。また、実際には業界団体の圧力などで補助金が使われているケースも多く、温暖化対策を理由にそういった政治力を排除できるなら一石二鳥だろう。日本でも高速道路無料化なんて意味不明なことを言ってないで、気候や混雑への外部効果を計算にいれた適正な課税・通行料徴収を行うべきだ。

1000ページの温暖化対策法案

温暖化対策の法案であるAmerican Power ActKerry-Lieberman climate change bill)が987ページもあるのは何故か。

Making the Simple Complicated

経済学入門レベルでの温暖化対策は実に単純だ。温暖化が起きてしまうのは、大気汚染同様に、温暖化ガスを排出している主体=生産者が排出の本当のコストを負担していないからだ。二酸化炭素を出しても温暖化の分だけ罰金がかかるわけではないので出しすぎてしまう。

これを是正するのは簡単だ。生産者が排出の本当のコストを全て負担するように税金をかければいい。このような税金をピグー税という。税方式は、直接排出を規制するのに比べて多くの利点がある。以下はその例だ:

  • 経済主体が各自最適化するので情報面での政府の負担が少ない
  • 投資に関するインセンティブを歪めることなく税収が得られる

では、この法案はどうして1000ページ近くなってしまったのか。

First, it tries to do far more than just charge for carbon emissions.

一つ目の理由は二酸化炭素排出抑制以上のことに手を伸ばしすぎていることだ。

Standard economics suggests that many of these interventions would be unnecessary if we had the right tax on carbon emissions; if companies pay the full social costs of their actions, they have the right incentives to invest in greener technologies without any further help from Uncle Sam.

上に述べたように、適切な税(ないし排出権取引市場)を整備すればこうした政府によるマイクロマネジメントは本来必要ない。省エネ技術を直接補助しなくても、エネルギーが高くなれば投資・開発・利用は進むということだ。

The second reason that the bill is so big is that it uses a complicated cap-and-trade system rather than a simple Pigouvian tax.

二つ目の理由は、この法案が税方式ではなく排出権取引を利用していることだ。税方式であれば排出量さえ分かればあとは単に課税するだけだが、排出権取引の場合には権利の割り当てから取引市場の整備など制度的な負担は大きくなる。

In theory, a permit system can be identical to a tax.

排出権が税金に理論上劣っているということではない。どちらにしろ最適な水準を計算して、それだけの排出権を割り当てるかそれを実現するのに適切な税率を設定することになる。

Fixing the number of permits may actually be the right thing to do. As my colleague Martin Weitzman wrote almost 40 years ago, quantity controls are better than prices if we are more certain about the right quantity than we are about the right tax.

排出権という形で量を先に固定することは、税率よりも排出量に関する不確実性が大きい場合には(社会厚生的)に有利な政策となる。温暖化の場合でいえば、どれだけ温暖化ガス排出を抑えるべきかの方が単位当たりの費用を考える方がらくであれば排出権のほうが望ましいということになる。

Giving away permits rather than selling them is often defended as a means of ensuring that global warming doesn’t become an excuse for higher taxes.

排出権を無償で割り当てることは、温暖化対策を新たな税源とするのを防ぐという効果がある。これは税金に対する反感が根強いアメリカでは政治的に重要だろう。しかし、ピグー税による課税のメリットを享受できなくなる。

制度が複雑になる社会的な費用も考えればどちらが望ましいかは微妙なところだろう。

International trade is a third reason that this bill is so complicated, because we are trying to use domestic legislation to handle a global externality.

三つ目の理由は国際貿易だ。温暖化対策は国際的な枠組みで行わなければ効果がないが、現状では各国の国内法と条約を組み合わせていくしかなく、これによって制度が複雑になるのは避けられない。

If such treaties fail to materialize, the United States may start charging imports for the carbon used in their production.

ちなみに法案によれば貿易相手国が条約を遵守しない場合には、炭素量に応じて関税をかけるとのことだ。

While I understand the economic and political logic behind this approach, it is a distinctly dangerous path. Our trading partners will argue that these charges are tariffs in disguise.

これは、水掛け論から貿易戦争に突入する危険を孕んでいる。