日本プレミアム

円高で輸入品の販売が好調なようだが、もとから内外価格差の非常に大きな製品が多い。

Yen Pumps Up Luxury Prices

For decades, the model for selling luxury imported goods in Japan has been simple: plush surroundings, attentive service—and the “Japan premium.”

日本へ進出する海外ブランドの基本戦略は常に価格を上げることだった。日本は所得水準高く、それでいて言語的、地理的、政治的な理由(=関税など)によって裁定取引が起きにくいため、海外ブランドにとっては大きな収益を上げるための格好市場だからだ。そもそも国内の物価水準が高いため飛び抜けて高い価格がつくことが多い。高価格商品への共食いを防ぐために、低価格のラインを全く展開しないことも多い(ヨーロッパの高級車なんかが典型だろうか)。

“Given the economy and the new price transparency, while the Japan premium will not go away, it will be difficult to maintain going forward,”

しかし、この状況も徐々に崩れつつある。経済の低迷によって高価格商品への需要が落ち込む中で、インターネットを通じた裁定取引が容易になっているためだ。内外価格差を調べるのは簡単だし、乗用車のような大型商品を除けば、クレジットカードの普及もあり海外への注文も難しくない。ブランド側で輸出入をコントロールしようにも、販売した製品を輸出されてしまうのは止められない(著作権法を盾に海外輸出を止めようという動きもあるが順当にうまくいっていない)。

Coach says Japanese consumers can’t be sure they’re getting the real thing unless they buy at a Coach store, an authorized retailer or Coach.com.

ブランド側の対策としては、まず正規品であることをアピールすることがある。ここで登場しているCoachは特に内外価格差の大きなブランドでプレミアムイメージの維持には最新の注意を払っているはずだ。今まで海賊版撲滅を目指してきたブランドが、逆に海賊版が大量に存在することを放置することで(正規品の)中古市場・国際裁定取引に対抗しようという流れが強まるかもしれない。海賊版が増えると正規品全体の需要は減る一方で、正規品内での自社直販への需要は増えるためだ。

商品の構成を変えるのも有効だろう。全く同じ製品を展開しないことで単純な価格比較を難しくすると同時に、プレミアム感を高める戦略だ。Burberryなんかは昔からこの戦略をとっているが日本限定ラインが他のブランドにも広がるだろう。服などであればあからさまに国内外でラインをわけなくてもサイズの違いでラインをわけてもよい。

食べログの収益化

飲食店のレビューサイトである食べログがiPhone用アプリの課金を始めたそうだが評判はあまり良くない。

カカクコム、初の利用者向け有料サービス 「食べログ」で

検索した飲食店を、評価点数やアクセス数などで自由に並べ替えられる機能を加える。料金は月額315円。

まあ、iPhoneユーザーはブラウザでもアクセスできるし、アプリにだけ課金してもあまり害はない。しかし、こういったサービスはいかに利用者を増やすかが鍵だ。しかも、iPhoneから専用アプリを使ってまでアクセスしたいユーザーはレビューを書くようなコアユーザーである可能性が高くそこに課金するのは賢明とは思えない(アプリを使ってレビューしたら料金免除というのもありだが)。

逆にこういったユーザー層をいかに優遇するかがポイントだ。例えば同種のサービスをアメリカで展開するYelpはYelp Elite Eventというものを開催している。これは一定の条件を満たす貢献度の高いユーザーをエリートと認定し、お得な(しばしば無料の)イベントに招待するというプログラムだ。これにより、開催地となった飲食店では大きなPRが行えると同時にたくさんのレビューがYelpに追加される。コアユーザーの満足度も上がるし、エリートになろうとさらにレビューを書くユーザーもいるだろう。同時に参加者同士の交流の場ともなる。もともとレビュワー同士のつながりがレビューを投稿する理由の一つであり、直接コアなユーザー同士をマッチさせるのはいい戦略だ。

ではどこに課金すべきか。食べログの飲食店向けのページに現在の課金メニューが載っている。

  1. お店ページの強化
  2. 広告スペース
  3. 検索順位優先
  4. 特集
  5. 食べログチケット(グルーポン式)

どれも非常に妥当な課金方法だろう。さらに付け加えるとすれば、次のようなものが考えられる。

  • 客のコメントにリプライを付ける回数に課金
  • お店ページのページで競合店をサジェストしない
  • 競合店のページへのアクセス状況を含めたより広範な解析情報の提供

またグルーポン式のマネタイゼーションに関してはレビューサイトならではのやり方も可能だろう。

  • クーポンの販売対象を一定以上の貢献者(やその紹介)に限る:他の消費者の行動に大きな影響力を持つユーザーに限ることでお店にとってより有効なPRになる。食べログにとってもレビューの投稿を促す仕組みになる。
  • 割引ではなく、特別メニューを提供する:例えば、全メニューを摘み食いできるような特別コースを用意する。これによってレビューの数を効果的に増やせる。それなりの価格でも参加希望者は集まるだろうから客単価も下がりにくい。食べログはその日の利益を貰うないし折半すればよい。

レビューサイトのように二種類(以上)の顧客が存在するマーケットではどちらにどのように課金するかが重要だ。

Appleのプライシング

Appleの巧みな価格付けを解説した記事。

How Apple plays the pricing game

一つの戦略は囮価格(price decoy)だ。本当に買わせたいものと、それより劣った製品・サービスを同じような値段で提示することで前者が魅力的に映る。

[…] Apple has started to build smaller, 7-inch versions of its iPad tablet, […] If you wonder why in the world Apple would add yet another potentially cannibalizing product to its lineup of iPods, iPod Touches, iPads, laptops and computers, realize that this gadget is likely a decoy.

その例として登場が取り沙汰されている7インチサイズのiPadが挙げられている。Appleの製品ポートフォーリオを見ると、iPad, iPhone, iPod Touchなど非常に似たような機能を持つデバイスが多く、これ以上それを増やすのはどうしてだろうと首を傾げるところもある。しかし、Apple自身も7インチサイズを大量に捌くとは考えておらず、あくまで上位製品の引き立て役と見ている可能性はある。

次に挙げられているのが参照価格(reference price)だ。こちらは高価格なイメージを最初に刷り込むことでお買い得感を出す作戦だ。

Apple has played this game with itself by launching products such as the iPhone at artificially high reference prices – the iPhone cost $599 when it first hit the streets – and then rapidly lowering that price. Today, a $199 iPhone seems like a steal;

例としてiPhoneお価格を$599からスタートし、下げていったことが挙げられている。これはすぐに手に入れたい熱心なファンからより多くの収益を上げるための価格差別とも理解できる。

逆に参照すべき価格自体を隠すという方法も実践している。ユニークな製品を作ることは製品自体の価値を高めると同時に、その製品の価格が妥当なのか判断するのを難しくする。

Is the new $99 Apple TV box a good deal? Who knows? It looks like nothing else on the planet.

例えば$99のApple TVが安いのか高いのかはよく分からない。マッチする比較対象がないためだ。

最後はバンドリングによって本当の価格を隠すやり方だ。これはどこの業界でもよく見られるもので、携帯に販売奨励金を出して実際には通話料で儲けるというようなものだ。

That sexy new Apple TV thing doesn’t store anything, so you’ll pay to play.

Appleはここでもうまくやっていて、例えば新しいApple TVはセットボックスではあるがコンテンツを保存しない。よって実際に利用すると多くのコンテンツを買うことになり実際の対価は$99とはならない。

元記事のコメント欄はAppleネタということで若干炎上気味だが、コモディティ化が早い業界でどうやって利益を出すかというケースとしておもしろい。

うまくいかないフリーミアム

無料版を公開しても上手くいかない実例の紹介。

fladdict » 無料版10日で20万ダウンロード、広告料$200

勢いきってリリースした TIltShift Generator for free, 10日で20万ダウンロードを突破しました。ところが問題は、その勢いにみあわない広告費。20万本ダウンロードされて、広告料はたったの$200でございます。

とあるiPhoneアプリの無料広告版を公開したところ爆発的にダウンロードされたものの、それに見合う広告費が得られなかったとのこと。

本来20万本販売していれば、1600万円分の売り上げだったわけですが、1598万円ちかい機会損失という結末に。ついでに有料版のランキングも22位から40位以下に大幅ダウンとあいなりました。

有料版に比べて収益は微々たるもので、しかも有料版の売上すら奪ってしまったようだ。

また気になったのは、カメラアプリのインプレッション効率の悪さですね。遷移毎に広告を表示できるRSSやTwitter、ゲーム系と違い、写真編集は1回の起動にたいするインプレッション効率が悪い。これがダイレクトに響いている印象です。

この無料版自体が収益に貢献しない理由はこの通りだろう。写真編集は一日中使うソフトではないので広告収入に結びつかない

では、無料版が儲からないばかりか有料版の売上が落ちたのは何故か。フリーミアムの落とし穴でフリーミアムがうまくいく条件を挙げた。

  1. ユーザー数が増えることで製品の魅力が上がり(外部性)、有料アカウントにより多くチャージできる
  2. 製品の価値が分かっていない製品を使ってもらう
  3. 無料であることで製品が口コミで広まる

まず基本となる外部性だが、このアプリが画像にエフェクトを加えるものだ。同じエフェクトを使うひとが世の中に多く存在するというのはユーザーにとって好ましいことではない。だから無料版が大量にダウンロードされると、有料版のユーザーは逆に減ってしまう。しかも有料版と無料版の差は広告の表示だけで、そもそも無料版と有料版とで有効な差別化ができていない

またこの製品の価値を分かってもらうにしても、無料版を公開する必要性がない。既に公開されているAdobe Air版で十分だ。

無料での口コミ効果もほとんどない。に有名なアプリであるようだし、iPhoneアプリが無料というのは全く珍しくない

フリーミアムもプライシングの一種であり、需要のあり方=ユーザーの行動をよく読んだ上で設定する必要がある。なんとなくフリー版も提供してみたではうまくいかないのはしょうがないことだろう。

結論としてはフリーミアムの落とし穴で述べた通りで、フリーミアムがうまくいくかは個別ケース毎に考える必要がある。

薬の価格差

何とも緩い記事が目に入ったので軽くツッコミ。

貧困と闇を生む抗生物質 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

例えばウガンダの患者がブランド薬品を買ったとすると、一日1ドル25セント未満で暮らす貧困人口が34%増加する。中所得国のインドネシアでさえ、人口の39%が新たに貧困層入りするという。

抗生物質のせいで住民が貧しくなっているかのようなタイトルだがそんなわけはない。薬品を除いた所得が減るのは薬品を買えば当然で、購入したということは購入しないよりも本人にとっていいことなはずだ。

これは、中低所得国では所得水準に対する医薬品の価格が先進国より高くなっているからだ。

あくまで「所得水準に対する」価格が高いだけで、中低所得国のほうが価格自体は安い。製薬会社は国によって価格差別を行っている。それでも中低所得国の価格が高すぎるとすれば、転売によって価格差別が不完全なためだ。

アフリカでは寄付された薬を横流しして儲ける産業が生まれており、例えばマラリアの治療薬は6.5%が政府に届かず闇市場に流れているという。

しかし、横流しを規制するなど製薬会社による価格差別が徹底されれば先進国における価格は上昇する。これを(おそらくこの記事の主な読者である)先進国の人々は支持しないがどう展開するのだろう。

多くの国の消費者にとって薬は高価すぎる。だからこそ闇で薬を買おうとするニーズがある。

問題は価格差だったはずがいつのまにか薬はどこでも高いという話になっている。闇で薬を買おうとするのは価格差があるからで、絶対水準が高いからではない。どこでも価格が同じなら闇市場自体成立しない。

偽物の薬もそうだ。薬を手に入れようと必死の患者は、安いといわれると誘惑に負けやすい。たとえそれが偽物かもしれないと思っていても。

そして最後に突如偽物の薬に話が移っているが、もはや何を言いたいのか分からない。