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うまくいかないフリーミアム

無料版を公開しても上手くいかない実例の紹介。

fladdict » 無料版10日で20万ダウンロード、広告料$200

勢いきってリリースした TIltShift Generator for free, 10日で20万ダウンロードを突破しました。ところが問題は、その勢いにみあわない広告費。20万本ダウンロードされて、広告料はたったの$200でございます。

とあるiPhoneアプリの無料広告版を公開したところ爆発的にダウンロードされたものの、それに見合う広告費が得られなかったとのこと。

本来20万本販売していれば、1600万円分の売り上げだったわけですが、1598万円ちかい機会損失という結末に。ついでに有料版のランキングも22位から40位以下に大幅ダウンとあいなりました。

有料版に比べて収益は微々たるもので、しかも有料版の売上すら奪ってしまったようだ。

また気になったのは、カメラアプリのインプレッション効率の悪さですね。遷移毎に広告を表示できるRSSやTwitter、ゲーム系と違い、写真編集は1回の起動にたいするインプレッション効率が悪い。これがダイレクトに響いている印象です。

この無料版自体が収益に貢献しない理由はこの通りだろう。写真編集は一日中使うソフトではないので広告収入に結びつかない

では、無料版が儲からないばかりか有料版の売上が落ちたのは何故か。フリーミアムの落とし穴でフリーミアムがうまくいく条件を挙げた。

  1. ユーザー数が増えることで製品の魅力が上がり(外部性)、有料アカウントにより多くチャージできる
  2. 製品の価値が分かっていない製品を使ってもらう
  3. 無料であることで製品が口コミで広まる

まず基本となる外部性だが、このアプリが画像にエフェクトを加えるものだ。同じエフェクトを使うひとが世の中に多く存在するというのはユーザーにとって好ましいことではない。だから無料版が大量にダウンロードされると、有料版のユーザーは逆に減ってしまう。しかも有料版と無料版の差は広告の表示だけで、そもそも無料版と有料版とで有効な差別化ができていない

またこの製品の価値を分かってもらうにしても、無料版を公開する必要性がない。既に公開されているAdobe Air版で十分だ。

無料での口コミ効果もほとんどない。に有名なアプリであるようだし、iPhoneアプリが無料というのは全く珍しくない

フリーミアムもプライシングの一種であり、需要のあり方=ユーザーの行動をよく読んだ上で設定する必要がある。なんとなくフリー版も提供してみたではうまくいかないのはしょうがないことだろう。

結論としてはフリーミアムの落とし穴で述べた通りで、フリーミアムがうまくいくかは個別ケース毎に考える必要がある。

フリーミアムの落とし穴

よくフリーミアムがどんな場合にうまくいくのかと聞かれるのでタイムリーな記事のご紹介:

Why Free Plans Don’t Work

None of these changes had a significant impact. The only thing that seemed to be consistent about my growth was that my revenue was relatively flat while my user base kept growing.

BidsketchというSaaSアプリケーションの開発者が自身のフリーミアム体験を語っている。フリーバージョンの提供によって当初多くのユーザーが有料サービスを購入したものの、すぐに有料の割合は1%に落ち込み、アップグレード率も0.8%に留まったそうだ。

有料のユーザーが増えなくても、サービス提供の費用やサポートの費用はかさむため利益は圧迫される。結局、無料版の提供を取りやめることで有料ユーザーを増やしたそうだ。

フリーミアムに対する揺り戻しは広がっている。上は37signalsが提供するBasecampの価格表だ。フリーバージョンは存在するものの非常に目立たない場所に移っている。

このような流れはフリーミアムが何故機能するのかを考えれば不思議なことではない。フリーミアムの効用は

  1. ユーザー数が増えることで製品の魅力が上がり(外部性)、有料アカウントにより多くチャージできる
  2. 製品の価値が分かっていない製品を使ってもらう
  3. 無料であることで製品が口コミで広まる

といったところにある。しかし、これら全てがフリーミアムに特有なものではない。2はトライアルバージョンで十分に対応できる。使ってみた結果としてサービスの価値を(費用以上だと)認識していないユーザーを引き止める理由はないからだ。上の例でトライアルが全面に押し出されているのはこれが理由だろう。3についても無料である必要はない。本当に価値があれば有料のものでも人に勧めることはありうるし、口コミを狙うならアフィリエイト・リファラルを用いるほうが効率的だ。Dropboxなどでは紹介で自分のサービスを追加することできる。フリーミアムが一般化しているなかで無料であることそれ自体のニュース性は皆無だ。

では1の外部性がうまくいくための条件は(外部性が存在すること以外に)何があるだろうか。次のようなものが考えられる。

  1. 追加的なサービス提供費用(限界費用)が小さい:ユーザーが増えることで費用が増えてしまっては外部効果が相殺されてしまう。
  2. 使い方が(想定ユーザーにとって)簡単である:1と重なるが、使い方が難しいソフトはサポートの費用がかかるのでフリーミアムに向かない。また習得が困難ということは製品自体が無料であってもユーザーにとっては労力という費用が発生する。使い方を覚えるのに百時間かかるソフトを使うかどうかを製品が無料かどうかで決める人は少ない(そういう人はどちらにしろ有料版を利用しない)。
  3. 機能がモジュラー形式になっている:無料版はそれ自体として有用でなければならない一方、有料版専用の機能を提供する必要がある。これは追加機能という形でなくても従量課金という形でもよい。

フリーミアムもプライシングの一種であり、需要のあり方=ユーザーの行動をよく読んだ上で設定する必要がある。なんとなくフリー版も提供してみたではうまくいかないのはしょうがないことだろう。