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農作物価格と貧困

農作物の国際市場での価格が下がると発展途上国にどんな影響があるのか。簡単な答えはその国がその農作物の(ネットで)消費者なのか生産者なのかで決まるということだが、それだけでは終わらない。

Are High Agricultural Prices Good or Bad for Poverty? » TripleCrisis

They conclude: “Adverse agricultural price shocks can have negative effects on poor urban households through labor market transmission, which can offset the gains they might realize as net consumers of agricultural products.”

農作物の価格低下は農家にマイナスであるが、消費者である都市労働者にとってはプラスというのが単純な分析だが、労働市場の動きを含めて考えると必ずしもそうはならない。農業労働への需要が減ると仕事のなくなった農業従事者が都市の労働者と仕事を奪い合うことになる。通常、離農する労働者と競合するのは都市部の比較的貧しい労働者であるため、これは逆進的な効果を持つ。

Conversely, they find that when rice prices go up the overall impact is progressive. The demand for unskilled labor in agriculture goes up, which raises incomes, and raises wages not just in agriculture but generally across unskilled labor markets.

逆に農作物の価格上昇は農家にプラスであるだけでなく、農業従事者と潜在的に競争関係にある貧しい労働者にとっても賃金上昇が食糧の価格上昇を上回る可能性がある。もちろん都市部の多くの労働者にとってはマイナスであるが、影響が貧しい層に出るのか豊かな層に出るのかは政策上重要なポイントだ。

先進国の(自国農家への)補助金は交易条件の低下を通じて開発途上国をさらに貧しくしているが、その負の効果はそのなかでも特に貧しい人に強く現れるということになる。

マイクロクレジットの危機

New York Timesからインドのマイクロクレジットが陥っている危機についてのレポート。

India Microcredit Sector Faces Collapse From Defaults – NYTimes.com

Microcredit is the extension of very small loans (microloans) to those in poverty designed to spur entrepreneurship. These individuals lack collateral, steady employment and a verifiable credit history and therefore cannot meet even the most minimal qualifications to gain access to traditional credit. [Wikipedia; emphasis mine]

ご覧の通り、マイクロクレジットというのは他に借りるあてのない貧困層に少額の資金を融資することだ。これによって、貧困のトラップにはまっているひとを救える可能性がある。

しかし、その利率は低くはないどころか普通に見れば非常に高い。例えば「Are Microcredit Interest Rates Exploitative? 」というインタビューによると、2006年の調査でメジアン利率は30%(インフレ調整後22%)となっている。かなりの高率ではあるものの、マイクロクレジットの融資先は他で融資を受けられない信用の低い層であるためプレミアムがつくのは避けがたい。

But microfinance in pursuit of profits has led some microcredit companies around the world to extend loans to poor villagers at exorbitant interest rates and without enough regard for their ability to repay.

問題は融資側が返済能力を調べずに融資を提供し、返すあてのない人がそれを受け入れていることだ。記事中ではこれをアメリカで金融危機の原因となった低所得者層への住宅ローンになぞらえている。

Responding to public anger over abuses in the microcredit industry — and growing reports of suicides among people unable to pay mounting debts — legislators in the state of Andhra Pradesh last month passed a stringent new law restricting how the companies can lend and collect money.

自殺の増加などに対し、政治家は融資や回収について新しい規制を導入した。日本でも似たような話があったのは記憶に新しい。

If the trend continues, the industry faces collapse in a state where more than a third of its borrowers live. Lenders are also having trouble making new loans in other states, because banks have slowed lending to them as fears about defaults have grown.

結末も同様で、多くの融資が回収不能になり融資する側が経営危機に晒されている。

The collapse of the industry could have severe consequences for borrowers, who may be forced to resort to money lenders once again.

もちろんこれは借り手にとっても難しい問題で、昔ながらの金貸しから資金を調達する必要に迫られる。

microfinance firms had lost sight of the fact that the poor needed more than loans to be successful entrepreneurs. They need business and financial advice as well, she said.

結論としては、一般に融資を行う際には返済能力を吟味する必要があり、マイクロファイナンスの場合であれば、貧困層が事業で返済するためには単なる融資以上のものが必要であるということだろう。また、融資側が返済できないような融資を行うおかしなインセンティブを持たないような仕組みも必要だろう。

アフリカは何を指すか

開発の話になると「アフリカ」が一番のトピックになる。しかし、「アフリカ」という括り自体にはあまり意味が無いようだ。

Economics: That depends on what you mean by “Africa”

Now take the 45 countries in Sub-Saharan Africa. Over 2000-2005 the average growth rate was 2.2%—exactly the global average—but the standard deviation among African countries was 6.1%—much higher than the global variance.

アフリカは成長しているのか停滞しているのかという議論をよく目にするが、どうも成長率に関して「アフリカ」という枠で見るのはあまり得策ではないようだ。 例えば2000-2005年のサブサハラアフリカ諸国の平均一人当たりGDP成長率は2.2%だったが、その標準偏差は6.1%もあったそうだ。

いまさら説明するほどのことでもないが、標準偏差はサンプルの散らばり具合を現す数値だ。元の分布が正規分布だとすれば平均から標準偏差一つ離れたところまでに約68%のサンプルが含まれる計算になる(以下はWikipediaの挿絵だ)。 つまり、平均2.2%といっても2/3程度の国が-3.9%から8.3%に入るよ、という程度の精度しかないということだ。これではある国がサブサハラアフリカと言われても成長率がプラスなのかマイナスなのかすら確信を持って言うことができない。こういった問題が生じるのは、サブサハラアフリカ諸国がまとめて成長率を論じるほど、(少なくとも経済的には)似ていないためだ。アフリカについて語る場合にはその地域内での差異をよく認識する必要がある。

薬の価格差

何とも緩い記事が目に入ったので軽くツッコミ。

貧困と闇を生む抗生物質 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

例えばウガンダの患者がブランド薬品を買ったとすると、一日1ドル25セント未満で暮らす貧困人口が34%増加する。中所得国のインドネシアでさえ、人口の39%が新たに貧困層入りするという。

抗生物質のせいで住民が貧しくなっているかのようなタイトルだがそんなわけはない。薬品を除いた所得が減るのは薬品を買えば当然で、購入したということは購入しないよりも本人にとっていいことなはずだ。

これは、中低所得国では所得水準に対する医薬品の価格が先進国より高くなっているからだ。

あくまで「所得水準に対する」価格が高いだけで、中低所得国のほうが価格自体は安い。製薬会社は国によって価格差別を行っている。それでも中低所得国の価格が高すぎるとすれば、転売によって価格差別が不完全なためだ。

アフリカでは寄付された薬を横流しして儲ける産業が生まれており、例えばマラリアの治療薬は6.5%が政府に届かず闇市場に流れているという。

しかし、横流しを規制するなど製薬会社による価格差別が徹底されれば先進国における価格は上昇する。これを(おそらくこの記事の主な読者である)先進国の人々は支持しないがどう展開するのだろう。

多くの国の消費者にとって薬は高価すぎる。だからこそ闇で薬を買おうとするニーズがある。

問題は価格差だったはずがいつのまにか薬はどこでも高いという話になっている。闇で薬を買おうとするのは価格差があるからで、絶対水準が高いからではない。どこでも価格が同じなら闇市場自体成立しない。

偽物の薬もそうだ。薬を手に入れようと必死の患者は、安いといわれると誘惑に負けやすい。たとえそれが偽物かもしれないと思っていても。

そして最後に突如偽物の薬に話が移っているが、もはや何を言いたいのか分からない。

北朝鮮の経済成長

北朝鮮経済に関するスウェーデン語の本の書評だが、グラフが興味深い。

Super-Economy: North Korean economic history

韓国と北朝鮮における一人当たりGDPの推移を五十年以上に渡って推計したものだ(データ)。1970前後を境に二つの経済が大きく乖離しているのが分かる。韓国は指数関数的に豊かになっていく一方で、北朝鮮はまったく成長していないどころか九十年代に大きく落ちている。このような共産主義国家における経済の停滞は以下のように説明される。

We can also speculate that centrally planned economies do better the first few decades. When the revolutionary fervor is still high the incentive problems are mitigated. During the initial phase the country can grow through brute capital accumulation (forced savings) and by pushing everyone into the labor force.

共産主義国家の成立直後は革命の余韻もあり労働意欲も高いし、国家権力によって強引に貯蓄・投資を行い、労働人口を拡大させることで経済成長が達成される。

But after a while the socialist economy inevitably runs out of steam, and starts to stagnate. They have never been able to solve the information problem to produce decent consumer goods.

しかし、しばらくするとそういった労働意欲は減衰し、貯蓄・投資の向上や労働人口の増加、教育水準の上昇といった政策にも限界が見えてくる。市場メカニズムなしでは、次に何を生産すべきかを適切に判定することも難しい。

またこのグラフは、経済成長を犠牲にすることの意味も示している。成長率は毎年積み重なっていくものなので、僅かな違いが長期的には莫大な差につながる。仮に1970の時点で北朝鮮国民がたとえ成長が遅れても共産主義でいいと考えていたとしても、四十年後にこれだけの格差を生むことを受け入れたとは思えない。