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中国の発展と政治

ノーベル平和賞でまた中国の政治的問題が浮かび上がる一方で、中国の発展は続いている。この経済と政治との乖離をどう説明するべきか。面白いグラフが紹介されている:

William Easterly Is Shrill!

中国の経済成長に関して独裁的な体制がプラスに働いているという人は多い。確かに、あれだけの大きさの国が秩序を維持しているのは強権的な体制によるものだろうが、経済成長自体から独裁制を擁護するのは難しい。

これは紀元後のアメリカと中国の一人当たり精算を表したグラフだ(元データはこちら)。1800年当たりからアメリカが爆発的な成長を始める一方で、中国は1500年ぐらいのレベルで停滞している。

こちらは1900年から1970年までの推移だが、相変わらず中国は停滞し続けている。

そして最期がここ四十年のグラフだ。中国が遂に経済成長を見せている一方で、絶対的水準は依然として低いままだ。これらのグラフから分かるのは、中国の経済成長について驚くべきは最近の成長ではなく、五百年にも及ぶ停滞ということだろう。

アフリカは何を指すか

開発の話になると「アフリカ」が一番のトピックになる。しかし、「アフリカ」という括り自体にはあまり意味が無いようだ。

Economics: That depends on what you mean by “Africa”

Now take the 45 countries in Sub-Saharan Africa. Over 2000-2005 the average growth rate was 2.2%—exactly the global average—but the standard deviation among African countries was 6.1%—much higher than the global variance.

アフリカは成長しているのか停滞しているのかという議論をよく目にするが、どうも成長率に関して「アフリカ」という枠で見るのはあまり得策ではないようだ。 例えば2000-2005年のサブサハラアフリカ諸国の平均一人当たりGDP成長率は2.2%だったが、その標準偏差は6.1%もあったそうだ。

いまさら説明するほどのことでもないが、標準偏差はサンプルの散らばり具合を現す数値だ。元の分布が正規分布だとすれば平均から標準偏差一つ離れたところまでに約68%のサンプルが含まれる計算になる(以下はWikipediaの挿絵だ)。 つまり、平均2.2%といっても2/3程度の国が-3.9%から8.3%に入るよ、という程度の精度しかないということだ。これではある国がサブサハラアフリカと言われても成長率がプラスなのかマイナスなのかすら確信を持って言うことができない。こういった問題が生じるのは、サブサハラアフリカ諸国がまとめて成長率を論じるほど、(少なくとも経済的には)似ていないためだ。アフリカについて語る場合にはその地域内での差異をよく認識する必要がある。

北朝鮮の経済成長

北朝鮮経済に関するスウェーデン語の本の書評だが、グラフが興味深い。

Super-Economy: North Korean economic history

韓国と北朝鮮における一人当たりGDPの推移を五十年以上に渡って推計したものだ(データ)。1970前後を境に二つの経済が大きく乖離しているのが分かる。韓国は指数関数的に豊かになっていく一方で、北朝鮮はまったく成長していないどころか九十年代に大きく落ちている。このような共産主義国家における経済の停滞は以下のように説明される。

We can also speculate that centrally planned economies do better the first few decades. When the revolutionary fervor is still high the incentive problems are mitigated. During the initial phase the country can grow through brute capital accumulation (forced savings) and by pushing everyone into the labor force.

共産主義国家の成立直後は革命の余韻もあり労働意欲も高いし、国家権力によって強引に貯蓄・投資を行い、労働人口を拡大させることで経済成長が達成される。

But after a while the socialist economy inevitably runs out of steam, and starts to stagnate. They have never been able to solve the information problem to produce decent consumer goods.

しかし、しばらくするとそういった労働意欲は減衰し、貯蓄・投資の向上や労働人口の増加、教育水準の上昇といった政策にも限界が見えてくる。市場メカニズムなしでは、次に何を生産すべきかを適切に判定することも難しい。

またこのグラフは、経済成長を犠牲にすることの意味も示している。成長率は毎年積み重なっていくものなので、僅かな違いが長期的には莫大な差につながる。仮に1970の時点で北朝鮮国民がたとえ成長が遅れても共産主義でいいと考えていたとしても、四十年後にこれだけの格差を生むことを受け入れたとは思えない。

アフリカ経済

JETROのレポートがなかなかいい:

サブサハラ・アフリカ主要国の消費市場(2010年3月) – アフリカ – ジェトロ

何かと絶望説ばかり囁かれるアフリカだが近年いい動きがあるようだ。

絶対水準だけでなく、成長率でも世界平均を下回ってきたアフリカだが、2000年以降世界平均を上回る成長を続けているのが分かる。

家計最終消費は2000年代に入り爆発的に伸びている。

また、消費者1人当たりの購買力も、2000年以降、加速的に成長している。アフリカの1人当たりの購買力平価(PPP)ベースのGDPは、1990年に1,132ドル、2000年に1,326ドルと順調に増加しており、IMF推計によると2010年には2,167ドルになると見込まれる。

購買力平価で見ても目覚ましい所得の伸びだ。

特に輸入が拡大しているが、残念なことに日本のシェアは低下傾向にあり、逆にシェアを毎年伸ばしているのは中国だ。

さらに、従来消費者とは見なされてこなかった層にも、企業は注目し始めている。アフリカ人口の大半を占める低所得層だ。従来、低所得層は、消費活動を行えるような所得を持ち合わせていないとされてきた。しかしながら、手が届く価格帯でニーズに合う商品であれば、低所得層であっても積極的に消費活動を行うことに、企業が気づき始めたのである。

特に最近注目されているのは低所得者層だ。高い人口増加を背景にアフリカの世界人口に占めるシェアは年々上がっており、市場として注目が集まっているようだ。

きちんと数字を使ってアフリカの経済の話をしているのは珍しいので興味のある方は本文を御覧下さい。

追記:こんな番組があるそうです(ht @dr_norick)「NHKスペシャル|アフリカンドリーム 第1回 “悲劇の国”が奇跡を起こす

逆頭脳流出

アメリカからの頭脳流出に警鐘を鳴らすRichard Floridaの記事:

Is the U.S. Facing a Brain Drain?

From the beginning, I’ve been worried about this talent shift. Two things are happening. Countries such as Canada, Australia, and New Zealand are going after our best and brightest. In China and India, the best and the brightest are staying.

近年、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドなどが優秀な人材を取り組む努力をしているという。実際アメリカの移民政策はそのイメージよりも厳しい。他にもイギリスやシンガポールなど英語が公用語の多くの国が積極的な受け入れを行っている。また、同時に長く人材の供給元であった中国・インドにおいて流出の減少と帰国が目立っている。

もちろんネットでみればアメリカに流入する人材の方が遥かに多いだろうが、その傾向に変化が見られていることに対する懸念だ。

How to save Detroit, how to stimulate the mortgage industry. This flight of talent out of this country is actually a much more fundamental problem than anything talked about in Washington. Keeping top talent here as well as attracting top talent to our shores is a fundamental economic advantage.

国内問題がクローズアップされているが、人材の流出はそれらよりも遥かに十代な問題だと主張されている。これは日本にも当てはまるだろう。文化・言語の差によって人材の移動が制限されている面はあるが、これからもそれが続くとは限らない。

I think that the important core of American ingenuity is not American ingenuity. It’s the ability to attract the world’s best people.

アメリカの強さは最高の人材を惹きつける能力にあるというのは全面的に賛成だ(逆に言えば個々の政策レベルでアメリカを参考にするのは危険ということでもある)。

One of the biggest tools foreign companies have is our business schools. All these great companies are coming to recruit.

まあビジネススクールの人材がそれに当たるかどうかは分からない。むしろ理工系の人材供給を考えた方がいいとは思う。