給食費未納問題

給食費未納「問題」が話題になった。

給食費未納問題、平成17年度と21年度のデータ比較

文科省にあるデータ(印刷物スキャン…)がきれいに公開されている。これを見る限り、未納「問題」は半ばマスコミに作られた「問題」のようだ。ポイントは以下。

  1. 未納の生徒が存在する学校が55.4%
  2. 未納の生徒は1.2%
  3. 未納額の割合は0.6%
  4. 学校の認識としては、保護者の意識問題が53.4%、経済問題が43.7%

四年前のデータもあるが、二点では趨勢について何かいうのは難しいのでおいておく(大差ない)。まず55.4%というのは未納の生徒が一人でもいる学校の割合であり、あまり意味のある数字ではない。実際に未納となっている生徒は1.2%、額にして0.6%に過ぎない。二クラスに一人いるかいないかという水準であり、未納の原因が経済的なものである可能性も考えれば保護者のモラル云々につなげるのは早計だろう。また、未納の原因については学校側の意見であって、実際の原因は分からない

要するに、

  • 未納の規模は報道のイメージより遥かに小さい
  • 未納が近年になって増えたというデータは見当たらない
  • 未納が親のモラルの問題だという根拠は薄い

ということで、一時よく聞いた「若者の凶悪犯罪」なんかと同じくマスコミが煽っているだけのように思える。じゃあ未納はほっといていいのか、と突っ込まれそうだが、本当は重大でない問題に大きなリソースが割かれるのは社会的な損失となる。給食費でいえば回収率は99.4%であり、これ以上回収率を上げるのには大きな費用がかかるだろう。企業の売掛金回収率と比べればこの数字は相当に高い。全員が払っていないと不公平感が生まれるという意見もあるが、実際に「全員」に払ってもらうのは現在のスキームでは不可能であり、結局のところでどこかで妥協するしかない

もちろん理想的には、授業料と一緒に徴収する、天引きする、無料化するなどそもそも学校が集金を行わない仕組みにするのがよいだろう。日本中の学校が債権回収業務に従事するなんて非効率すぎる。

アメリカの開発援助

開発援助は無駄遣いと批判されがちだけど、そもそも小さすぎて財政赤字の主な要因にはなりようがないというのは意外に認識されていない。

American Public Opinion on Foreign Aid

Q44. Just based on what you know, please tell me your hunch about what percentage of the federal budget goes
to foreign aid. You can answer in fractions of percentage points as well as whole percentage points.
Mean …………………………………………………………… 27%
Median ………………………………………………………….25
Q45. What do you think would be an appropriate percentage of the federal budget to go to foreign aid, if any?
Mean …………………………………………………………… 13%
Median ………………………………………………………….10

連邦予算のうち何%が海外援助に使われているかというサーベイの結果だ。大体25%が使われているが10%ぐらいに抑えるべきだというのが平均的な意見となっている。しかし実際の海外援助は200億ドル程でこれは連邦予算約3.5兆ドルの0.6%程度でしかない。海外援助の無駄をなくすのはいいが、会社の赤字を解決するのに節電を心がけるようなものだ。

しかもその内訳を見れば「海外援助」と読んでいいのかも微妙だ

トップ5はイスラエル・アフガニスタン・パキスタン・エジプト・ヨルダンといった戦略的に重要な地域への財政支援で、長年最も大きな援助をうけてきたイスラエルとエジプトは開発途上国ですらない(実際こういった援助の半分以上は経済援助ではなく軍事援助だ)。

ストーリーによる説得

何かを示したり、相手を説得したりするときに、ストーリーを語る人と統計を使う人がいるけどのこの違いは何かという記事(前読んだと思ったら少し前の記事だった)。

Stories vs. Statistics – NYTimes.com

In listening to stories we tend to suspend disbelief in order to be entertained, whereas in evaluating statistics we generally have an opposite inclination to suspend belief in order not to be beguiled.

気になったのはこの一節。ストーリーを聞く場合には疑うのを止めて楽しもうとする一方で、統計を読むときには逆に信じるを止めるという。しかし、ストーリーの場合に疑わないのは”entertained”が目的ではない。

あるストーリーが説得的かどうかを決めるのはそれが内部的にコヒーレントかどうかだ。ストーリーは世界の状態を記述するものだが、ありうる状態は無数にある。例えば、「道を歩いているサラリーマンに通りすがりの女子高生が飛び蹴りをして蹴られたサラリーマンが突如バク転した」というのも、こうして記述できるという意味でありうる状態だ。

だがそんなストーリーを信じる人はいない。サラリーマンが歩いているだけで女子高生に蹴られるというのはありえなさそうだし、蹴られてバク転する人は見たことがない。しかし、不整合に気づくためにはとりあえずは正しいと仮定して聞く必要がある。パーツ毎に疑っていては整合性まで辿りつかない。

a.) Linda is a bank teller.

b.) Linda is a bank teller and is active in the feminist movement.

これは我々が確率計算が苦手というのを示す時によく使われる例だ。「リンダがバンクテラーである」という状態は「リンダがバンクテラーでかつフェミニストだ」という状態を包含しているのでどちらである確率が高いかといえば前者だ。しかし、多くの人は後者がよりありそう(likely)と答える。

しかし、これは確率計算を間違っているというよりも質問者と回答者の意図がかみ合っていないと捉えるべきだろう。「この商品は最高です」という宣伝文句と「この商品は最高で最高金賞受賞です」という宣伝文句があったとしてどちらがありえそうか。後者だろう。回答者は、aとbの確率を比較しているというよりも、aとbの発言どちらが信用できるかを判断していると言える。

ある事象に対する記述は無数にあるが、長ければ長いほどどこかで整合性を失いやすくなる。真実は確実に整合的なので、説明が長くて整合性が取れているほど説得力がますという仕組みだ

統計で言えば、仮説をとりあえず信じてサンプル数を増やすと検定力が上がるのと同じことだろう。

中国の発展と政治

ノーベル平和賞でまた中国の政治的問題が浮かび上がる一方で、中国の発展は続いている。この経済と政治との乖離をどう説明するべきか。面白いグラフが紹介されている:

William Easterly Is Shrill!

中国の経済成長に関して独裁的な体制がプラスに働いているという人は多い。確かに、あれだけの大きさの国が秩序を維持しているのは強権的な体制によるものだろうが、経済成長自体から独裁制を擁護するのは難しい。

これは紀元後のアメリカと中国の一人当たり精算を表したグラフだ(元データはこちら)。1800年当たりからアメリカが爆発的な成長を始める一方で、中国は1500年ぐらいのレベルで停滞している。

こちらは1900年から1970年までの推移だが、相変わらず中国は停滞し続けている。

そして最期がここ四十年のグラフだ。中国が遂に経済成長を見せている一方で、絶対的水準は依然として低いままだ。これらのグラフから分かるのは、中国の経済成長について驚くべきは最近の成長ではなく、五百年にも及ぶ停滞ということだろう。

アフリカは何を指すか

開発の話になると「アフリカ」が一番のトピックになる。しかし、「アフリカ」という括り自体にはあまり意味が無いようだ。

Economics: That depends on what you mean by “Africa”

Now take the 45 countries in Sub-Saharan Africa. Over 2000-2005 the average growth rate was 2.2%—exactly the global average—but the standard deviation among African countries was 6.1%—much higher than the global variance.

アフリカは成長しているのか停滞しているのかという議論をよく目にするが、どうも成長率に関して「アフリカ」という枠で見るのはあまり得策ではないようだ。 例えば2000-2005年のサブサハラアフリカ諸国の平均一人当たりGDP成長率は2.2%だったが、その標準偏差は6.1%もあったそうだ。

いまさら説明するほどのことでもないが、標準偏差はサンプルの散らばり具合を現す数値だ。元の分布が正規分布だとすれば平均から標準偏差一つ離れたところまでに約68%のサンプルが含まれる計算になる(以下はWikipediaの挿絵だ)。 つまり、平均2.2%といっても2/3程度の国が-3.9%から8.3%に入るよ、という程度の精度しかないということだ。これではある国がサブサハラアフリカと言われても成長率がプラスなのかマイナスなのかすら確信を持って言うことができない。こういった問題が生じるのは、サブサハラアフリカ諸国がまとめて成長率を論じるほど、(少なくとも経済的には)似ていないためだ。アフリカについて語る場合にはその地域内での差異をよく認識する必要がある。