グルーポン・ストアとローカル広告市場

Googleがグルーポンを買うのか買わないのかという話は全然追えていないけど、グルーポンが近日提供するというGroupon Storesは興味深い。グルーポンのバリュエーション高すぎという話やカルチャーが違いすぎとかいう話を見かけるが案外ありかもしれない。

Groupon 2.0, You Better Believe This Is The Future Of Commerce

グルーポン・ストアが提供する機能それ自体は実は真新しくない。

  • グルーポンに自社のページを作れる
  • (「健全な」10%のマージンで)自分のグルーポンが作れる
  • 作ったグルーポンは適切にマッチングされたユーザーのフィードに流れる
  • その他、客と店との標準的なソーシャル機能が実装される

自社ページを作れるなんて単なるモールだし、クーポンなんて自社サイトで作れる。ソーシャル機能が欲しければTwitterでもFacebookでも何でも使えばいい。しかし、これら全てを達成しているプラットフォームはない。

例えばYelpには多くのレストランレビューがあり、お店は広告を打ったり情報を発信したりできる。しかし、Yelpがこういった情報のワンストップサービスになるのは難しい。Yelpのが提供する情報のコアはレビューであって一般客を惹きつける力はそれほど強くない。言い換えれば、見るだけの人が圧倒的に多い。

その点、グルーポンのコアはディスカウントであり、一般消費者に強くアピールする。その結果が大量のメール購読者だ。グルーポンはセンセーショナルなディスカウントを使って多くの消費者を呼びこむことで、消費者がローカルなビジネスについての情報を得るプラットフォームを作る可能性を持っている

消費者の多くは実際、ローカルな情報を多く必要としている。新聞の折り込みチラシが相変わらず重視されるのはその証拠だ。しかし、今のところこういったローカル情報をデジタルで効率的に収集する場所は見当たらない。それは折り込みチラシよろしくプラットフォームビジネスで、消費者と事業者を両方巻き込んで始めて成立するためだ新聞はその記事を使ってプラットフォームを形成しているが、グルーポンは有名なクーポンを使ってそれが出来る

ここにグーグルがどう絡んでくるか。グーグルは長年ローカルな広告市場で苦戦しているし、Facebookやその他位置情報サービスとも競合関係にある。グルーポンはそのローカル広告市場で今までのところ一番サクセスフルな解を見つけた企業だ(クーポンというマス消費者や小規模店に馴染みあるヴィークルを使ったのがポイントだろう)。 また、グルーポンがAdWordsやYouTubeに出稿している広告料も膨大だ。統合すればこういったコストを内部化できるし、同様に広告が出ているFacebookへの対抗策にもなる。

買収の噂は賛否両論で両者のカルチャーの違いなど疑問視する向きにも説得力があるが、案外ありな話なのかもしれない。

追記:タイムリーにEbayがローカルショッピングサーチエンジンのMiloを買収したそうで。既存のビジネスとのコンフリクトをどう処理するのか興味深い。

新規店舗とレビューサイト

食べログの悪いレビューが新規開業店舗を潰してしまうというエントリー:

食べログが、レストランを潰す – Feel Like A Fallinstar

新規店舗はレビューも少ないので悪意のあるレビューワー(例えば競合店)によって悪いレビューがつけられると困るという話。もちろん、ユーザーもそういったレビューが存在すること自体は理解しているが、「火のないところに煙は立たぬ」的な論理で客が遠のくのは想像に難くない。

しかしこういったレビューサイトもレビューが有用でなければ成立しないわけでただ手をこまねいているわけではない

食べログのレビューを見てみれば、ユーザーには過去のレビュー数、レビューには参考票の数が表示されている。後者は新規店舗では期待できないが、前者のレビュー数はそのレビューワーが真面目にレビューしているかを知る手がかりになる。他にもお店全体の点を表示する際にこういった数字を考慮して計算したり、レビューが極端に少ない間は総合点を表示せずにレビュー絶賛募集中などと表示するのもよいだろう。

アメリカを中心に同じようなサービスを提供するYelpでは、レビュー点数の分布や推移を明らかにしている

こちらは比較的新しくレビューの少ないお店だ。星一つと二つのレビューが一つずつあって一時期平均点が急に落ち込んだのが分かる。

ただこのようなレビュー精度を高めようという企業努力も市場に競争がなければ期待できない。食べログが独走するのではなく、それに対抗するサービスの登場が期待される。

食べログの収益化

飲食店のレビューサイトである食べログがiPhone用アプリの課金を始めたそうだが評判はあまり良くない。

カカクコム、初の利用者向け有料サービス 「食べログ」で

検索した飲食店を、評価点数やアクセス数などで自由に並べ替えられる機能を加える。料金は月額315円。

まあ、iPhoneユーザーはブラウザでもアクセスできるし、アプリにだけ課金してもあまり害はない。しかし、こういったサービスはいかに利用者を増やすかが鍵だ。しかも、iPhoneから専用アプリを使ってまでアクセスしたいユーザーはレビューを書くようなコアユーザーである可能性が高くそこに課金するのは賢明とは思えない(アプリを使ってレビューしたら料金免除というのもありだが)。

逆にこういったユーザー層をいかに優遇するかがポイントだ。例えば同種のサービスをアメリカで展開するYelpはYelp Elite Eventというものを開催している。これは一定の条件を満たす貢献度の高いユーザーをエリートと認定し、お得な(しばしば無料の)イベントに招待するというプログラムだ。これにより、開催地となった飲食店では大きなPRが行えると同時にたくさんのレビューがYelpに追加される。コアユーザーの満足度も上がるし、エリートになろうとさらにレビューを書くユーザーもいるだろう。同時に参加者同士の交流の場ともなる。もともとレビュワー同士のつながりがレビューを投稿する理由の一つであり、直接コアなユーザー同士をマッチさせるのはいい戦略だ。

ではどこに課金すべきか。食べログの飲食店向けのページに現在の課金メニューが載っている。

  1. お店ページの強化
  2. 広告スペース
  3. 検索順位優先
  4. 特集
  5. 食べログチケット(グルーポン式)

どれも非常に妥当な課金方法だろう。さらに付け加えるとすれば、次のようなものが考えられる。

  • 客のコメントにリプライを付ける回数に課金
  • お店ページのページで競合店をサジェストしない
  • 競合店のページへのアクセス状況を含めたより広範な解析情報の提供

またグルーポン式のマネタイゼーションに関してはレビューサイトならではのやり方も可能だろう。

  • クーポンの販売対象を一定以上の貢献者(やその紹介)に限る:他の消費者の行動に大きな影響力を持つユーザーに限ることでお店にとってより有効なPRになる。食べログにとってもレビューの投稿を促す仕組みになる。
  • 割引ではなく、特別メニューを提供する:例えば、全メニューを摘み食いできるような特別コースを用意する。これによってレビューの数を効果的に増やせる。それなりの価格でも参加希望者は集まるだろうから客単価も下がりにくい。食べログはその日の利益を貰うないし折半すればよい。

レビューサイトのように二種類(以上)の顧客が存在するマーケットではどちらにどのように課金するかが重要だ。

レーティングを機能させる方法

TechCrunch Japanから(もともとのYouTubeのエントリー、TechCrunchの原文):

YouTubeが5つ星級の発見:評価システムは無意味だった

PMF of Ratings on Youtube

これは、YouTubeのビデオをユーザーがどう評価しているかを表したものだ。ご覧のとおり、1つ星が少しと大量の5つ星があって、2、3、4は事実上ゼロだ。

YouTubeが自ら認めた点とグラフまで出してくれた点が面白いが、単純なレーティングシステムがうまくいかないというのは広く知られている。大きな問題はユーザーが現在までの平均点が自分の評価より下の(上の)場合は最高点(最低点)をつけて自分の評価に近づけようとすることだ。例えば、あるユーザーが好みのタレントの動画を4点だと評価しているとする。ユーザーは4点をつけるべきだが、その動画に対する世間の評価が2点であれば、多くのユーザーは5点をつけることで評価を釣り上げようとする。

この問題への対策でパッと思いつくものを(互いに重なる部分も多いが)いくつか挙げる:

  • 得点操作を困難にする
  • ユーザーが配分できるポイントに制限を設ける
  • ユーザーに正確なレーティングを行うインセンティブを与える
  • レーティングを困難にする

得点操作を困難にする

統計値の操作を困難にする方法でまず浮かぶのはメジアン(中央値)やモード(最頻値)だろう。共に統計量として外れ値に対して頑強だ。同様に上のような得点分布を示してもよい。ここのユーザーが分布から評価を把握できる。

しかし、結局のところ上のような分布になってしまうのであればこれらの方法はあまり意味が無い。メジアンもモードも5点になることがほとんどだろう。分布もあまり参考にならない。

Digg

それに対し、Diggredditのようなソーシャルニュースサイトは各記事の評価について二種類の反応しか用意していない。ユーザーがあるストーリーが過小評価されているか、過大評価されているかだけを判断する。stackoverflowではVoteだけだ(しかもある程度の活動をしない限り行使することができない)。これらも得点操作を困難にする方法の一つだ。登録ユーザーは一つしか数値を動かすことができず、同じストーリーを何度も評価できないため総数に影響を及ぼすことはできない。点数方式のレーティングとは異なり数字が質を示すわけではないが、どれだけの人が興味を持ったかを知ることができる。ニュースが対象であればこれは妥当な指標だ。YouTubeにおいても閲覧数がこの機能を果たしていると思われる。

ユーザーが配分できるポイントに制限を設ける

Slashdot

レイティングにこだわるのであれば何らかの方法でポイントに制限を掛ける必要がある。Slashdotなどで採用されているモデレーションシステムだ。ユーザーのコメントは最初決まったポイントを持っているが、モデレーターによってそれが上がったり下がったりする。モデレーターはサイトでの活動によって割り振られ、さらにモデレーターをさらにメタモデレーターが評価することで質の維持を図っている。この方法はすでに多くの常連ユーザーがいない場合、運営者自身がモデレートを行う必要がある。

Amie Streetにおける推薦も同様な効果を持っている。推薦できる回数が限られている。この場合には推薦した曲がその後どの程度人気が出たかでクレジットの付与も行われるため、次のインセンティブとの合わせ技になっている。

ユーザーに正確なレーティングを行うインセンティブを与える

Yelp

インセンティブというとお金を支払うように聞こえるがそうとは限らない。ソーシャルネットワークを用いるのがいい例だ。例えばYelpでは個々のユーザーの得点の付け方に制限はない。しかし多くの利用者は正確なレーティングを行っている。これはYelp内にネットワークが形成されていて、個々のユーザーはその中で有意義な活動を行おうとしているためだ。例えば私が5と1ばかりをつけていたらそれが個人のページに表示される。それを見た他のユーザーは私のレーティングを信用しないだろうし、友達として登録することもない。YouTubeでもユーザー名は表示されるが単にIDとして機能しているに過ぎない。ユーザーはそのIDの評判を気にすることもないのでレーティングが機能しない。本人確認をするのも有効だろう。

レーティングを困難にする

Rotten Tomatoes

レビューサイトなどでよく見られるのがレーティングと共にコメントを残すというものだ。これもレーティングを正確に保つのに効果的である。例えレーティングが高くてもコメントがなかったりコメントとレーティングの一貫性がなければそのレーティングにはあまり意味がないと判定できる。レーティングまでにある程度の活動が必要なパターンもこれに該当する。ショッピングサイトであれば実際に品物をそこで購入したかを示すことも含まれる。

その他

YouTubeの場合には単にどの動画が面白いかさえ判定できればよいが、AmazonやYelpのように評価される対象が得点操作を行う動機をもっている場合、有効なレーティングシステムはより困難になる。実際、これらのサイトは多くの方式を同時に採用している。