公約を守らない政治家

政治家が公約を守らないのは世界中どこでもあることだが、どうやったら約束を守らせることができるだろうか。

Overcoming Bias : Unwanted Politicians

約束を破るというのは何も政治にだけ存在するわけではない。ビジネスでも当然約束ぐらいはする。そしてその遵守は司法制度によって担保されている。破ればペナルティがあるから約束は守られるということだ。では何故同じ仕組みが政治家には適用されないのか。

“I promise that, if elected, I will do X, Y, and Z.  But I don’t just make promises; I show you I am committed to keeping my promises.  My word isn’t my only bond; my house is also my bond.

別に国がそれを強制しなくても、政治家個人が自分の資産を担保にしてもよい。公約を守らなければ家を第三者に寄付するという契約を結べばよい。もし有権者が公約を守らせることに大きな価値を認めるのであれば、このような契約を第三者と結んだ政治家は選挙で優位に立てるはずだ。

“If elected, every month I will impanel a new random jury of voters in my district.  I will inform them in detail about my upcoming decisions, and will ask them for their choices.  Then I will just do what they say.

政策を事前に決めるのが困難なのであれば、陪審のような制度を作っても良い。何か決定する度に選挙民をランダムで選んで議論してもらいその結果を政治家が実行することにコミットする。これは政治家の裁量を縛るだけでなく、統計的には直接民主主義になるので政治家が国民の声をきかないといった批判に対する答えになりうる。

もちろん、間接民主制にはその存在意義があるのでこのような方法が社会的に望ましいとは限らないが、何も議論をしてもらう人を選挙民からランダムで選ぶ必要はない。例えば20代、30代の官僚からランダムで選ぶということもできる。もし私が政治家になるなら、いかにこの層から意見を集約できるか考えたいぐらいだ。

利益誘導や政治的圧力を防ぐ仕組みは必要になるが、法的なコミットメントまでいかなくても、毎回ランダムに人を集めて議論を行うそのプロセス・結果を公開し、実際にそれに従ったかを自ら公開する政治家ぐらいはいてもいい。

ボーナスの払い方

どうしてボーナスを金銭で支払うよりも物品で渡した方が従業員のやる気が高まるのかについての分かりやすい説明。

Why Company Cars Instead of Cash?

A gift in-kind results in a signicant and substantial increase in workers’ productivity. An equivalent cash gift, on the other hand, is largely ineffective […]

ボーナスとして物、例えば車、を支給すると社員の生産性が大きく上昇するのに対して、同額を金銭で渡しても余り効果がないという。

If I pay you money you have to share it with your family and then buy a car out of your share.  If I give you a car it is all yours.

この現象を説明する一つの方法は、金銭報酬は家族とシェアするのに対して、物品や待遇による見返りは社員本人が独占出来るからだという。例えば、前のプロジェクトで活躍した人に次はもっと面白い仕事を与えたり、新しい役職=より広範な仕事を与える。これは給料を増やすよりも効率がいい。給料が増えてもその分本人の可処分所得(例えば小遣い)が増えるわけではないからだ。

You are willing to pay at most $10,000 for a car.  But if I give you that car for free and offer to buy it back from you, you require $20,000, because you will get to keep only half of that money.

同じやり方でEndowment Effectも説明できるという。ある車に$10,000の払う意思のある人に、その車を幾らで手放すかというと$20,000と答えるというような現象だ(WTPとWTAとの間に差がある状態)。この現象は心理的なバイアスとして説明されることが多いが、このやり方であれば、$20,000が現金収入として生じても受け取るのが$10,000と想定されているというだけで心理学的な要素を持ち込まずとも整合的に説明できる。

ランダム選挙

選挙に関する面白い提案があったのでご紹介。

Fewer Voters Are Better Voters

The reason so many bad policies are good politics is that so many people vote: about 62 percent of adults at the last general election, both in Great Britain and in the United States.

どうして、どうしようもない政策が政治的に遠ってしまうのか?ロビー活動がその原因として挙げられるが、そのロビー活動が効果的なのはあまりにも投票する人数が多いからだという。

This is the position of voters in a general election. Each individual’s vote makes no difference to the outcome. Even marginal districts are won with majorities of hundreds.

自分の投票が結果に与える確率はほぼゼロなので結果を目的に投票するインセンティブはない。これは直接民主主義でも変わらない。

The answer is not to increase voter turnout. On the contrary, the number of voters should be drastically reduced so that each voter realizes that his vote will matter.

ここまではよくある話だが、次の展開が面白い。人数が多いことが問題なら減らせば良いという。選挙区毎に例えば十二人をランダムに選んで投票させればいいと提案されている。

ランダムに選択し投票を強制することで、世代によって投票率が違うといった問題は回避できる。また、個々人の投票が結果に大きな影響を与えるため考えて投票させることができる。

To safeguard against the possibility of abuse, these 6,420 voters would not know that they had been selected at random until the moment when the polling officers arrived at their house. They would then be spirited away to a place where they will spend a week locked away with the candidates, attending a series of speeches, debates and question-and-answer sessions before voting on the final day.

買収の問題を防ぐために事前には知らせずに、該当者は連行され(spirited away)、一週間候補者と共にスピーチ・ディベート・質疑応答を行うという。人数が少なければこういった啓蒙にかかる費用も小さくなる。

All of these events should be filmed and broadcast, so that everyone could make sure that nothing dodgy was going on.

これらの内容をさらに録画・放映することで疑わしいことが行われないことを担保するそうだ。

人権の問題などいろいろと弊害もあるし、実現する見込みは皆無だが、思考実験としては面白い。

手書き履歴書

昨日の記事からもリンクしたが、「履歴書なんかを手書きするという文化はまだ存在するんだろうか」という発言に多くの情報や意見が寄せられた。

Togetter(トゥギャッター) – まとめ「手書き履歴書の実態」

事実関係としては以下の通りだ。

  • 手書きを要求する企業は存在する
  • 手書きが好ましいという採用者もいる
  • 採用側にはタイプの方がいいという意見も多い
  • 学生はまわりに合わせて手書きが普通
  • 業界にもより、大手・外資といったあたりではネットで提出も多い

タイプを好む採用側の人が多く、逆に手書きが普通だと思っている学生が驚くという構造が見て取れる。これにはTwitterというメディアによって、参加者にセレクションがかかっているという面もあるだろう。

では手書きが好ましいとする理由はなんだろうか。

  • 性格が分かる
  • 志望度合いを測れる

以上の二つが挙げられている。手書きを要求する企業が存在するのでこれらの要素はある程度正しいのだろう。しかし、手書きの履歴書でなければこの役割が果たせないということはないはずだ

まず手書きの文字から性格が分かるとして、それは他の手段より効率的なのだろうか。人となりは面接ですぐに分かることだろうし、カバーレターのような文章を書かせれば文字よりも正確に分かるように思う。履歴書ならぱっと見てすぐ判定できるという利点はあるが、どちらにしろ不正確なシグナルなので本当は望ましい応募者を落としてしまう危険性がある。

志望度合いの高い人だけを選ぶという効果については、より多くの文章を書かせることで対応できる。応募者を減らしたいならエッセイを書かせても良いし、応募に(成績など)条件をつけても良い(それがダメなら一定の基準ではねればいい)。

個人的には、加登住 眞さんが使っている次の方法はなかなかいいと思う。

ご名答。その場で交通費精算書を書いてもらってます。RT @rionaoki: @kazemachiroman その場で字を書いてもらうとかは双方にとってコストが小さいので面白いかもしれません。

手書きの字で性格なんかを見たいなら、その場で書いてもらうのがいい書き手のコストも読み手のコストも小さくなるし、本人の字であることも分かる。ここでは交通費精算書があがっているが、他の書類を記入してもらってもいいだろう。

私は字を書くのが好きで、意味もなく文章を紙に写しているなんてこともあるが、応募者も書くのが大変で採用者も読むのが大変という状況は解消されるべきだろう。とりあえず、手書きでなくていいという企業はその旨明示するのはどうだろう。

P.S.

この話はTwitterでの発言から始まりました。賛否はありますが、使ったことのない方は少し使ってみるといいと思います。私のアカウントは@rionaokiです。

発着枠の「配分」

滑走路拡張による羽田の新発着枠を日航へ多めに配分するというニュース:

NIKKEI NET(日経ネット):経済ニュース −マクロ経済の動向から金融政策、業界の動きまでカバー

国土交通省は4日、10月の滑走路拡張に伴って増やす羽田空港の国内線発着枠(1日37便)の配分を固めた。全日本空輸に11便前後、日本航空に8便前後 を割り振る。日航は経営体力が低下し、リストラに専念する必要があると判断。日航より全日空を多くする。スカイマークなど新興航空会社にも全体のおよそ半 数と手厚く配分する。

一見、配分内容に目がいきがちだが、ポイントは国土交通省が発着枠の配分を決めて無料で航空会社に提供していることだ。発着枠の配分に関する審議会の資料も国土交通省のサイトで公開されている(毎度のことだが、こういう情報をニュースに載せないのはどういうことなのだろう)。次のページにある論点整理なんかは各社の考えがわかりやすい。話題のJALの意見を見てみよう。

航空:羽田空港発着枠の配分基準検討懇談会(第4回) – 国土交通省

今回増枠数(37便/日)では必要な地方路線ネットワークの構築、増便には不十分であり、最終形(72便/日の内数)で最大限国内線に配分されることが必須。(JAL)

地方便を優先してほしいという姿勢が伺える。

地方路線ネットワークの維持・拡充の観点から、前回回収分(20便)を従前使用社(大手)にまず戻し、地方路線の増便に充てるべき。(JAL)

そして地方便の優先については自分たち大手に便数を戻せと主張している。ちなみにこの論点整理には航空会社と全空協の意見しか掲載されていない。

既に各所で提案されているが、発着枠にはオークションの導入が必要だろう。オークションにより社会的に望ましい発着枠の分配が可能になるし、政府収入も生じる。高い値段で売れた場合にはそれにより更なる拡張を行えばよい。

地方便の維持や共謀などの問題はあるが、それはオークションのデザインや競争政策として対応できる。また、配分ルールが明らかになるので、官僚・政治家・航空会社などの癒着を防ぐという大きなメリットがある

アメリカでも導入はなかなか進んでおらず(参考:Court Order Delays Auction of Landing Slots at Airports – NYTimes.com)道のりは遠いが莫大な社会的利益があり政策転換が期待される。