Sonyは何の会社?

何やらSonyについて盛り上がっているようですが、Sonyが今どんな会社かはIR情報を見れば分かる。

これが2010年第二四半期のビジネス分野別売上だ。青い部分がSonyと聞いてまず思い浮かぶ電気製品の類で、緑はPlayStationのようなゲーム機本体やゲームソフトだ。後はSony PicturesやSony Music Entertainment、そしてソニー生命・ソニー損保・ソニー銀行といった金融業務となっている。こうみると一般の消費者のイメージ通りエレクトロニクスとプレステの会社かな?と思われる。

しかし、会社にとって売上よりも大事なモノがある。それは利益だ。各セクションの売上高と利益が上のグラフにまとめられている。利益を一番稼ぎ出しているのは金融業務で、エレクトロニクス関係は利益率が相当低い事がわかる。映画にいたってはマイナスで、かろうじてプラスのゲーム関係もようやく黒字化といったところだ。IBMのように収益性の低い業務を切り離すというのもありえない話ではない(但しソニーの強みが本当に金融なのかと言われると…)。

日本は起業が難しいのか

日本では起業するのが難しく、どうにか改善する必要があるという議論をよく耳にするが実際のところどうだろうか。

Entrepreneurs – stuck on the starting blocks?

上のグラフは各国における起業に伴なう障害を数値化して並べたものだ。オレンジの部分は規制や行政の不透明性、紫の部分がスタートアップの事務負担、青い部分が競争の阻害要因(規制産業など)だ。OECD加盟国中、日本は真ん中より少し企業しにくいといった位置づけになっている。要素ごとの内訳も他国と余り変わらない。

加盟国全体で起業に対する障害は徐々に緩和されており、日本でも制度面では起業が難しいというわけではない。実際、行政書士の費用や収入印紙代、法人住民税などを用意すれば個人でも比較的簡単に設立できる。よって日本で起業が難しいという事実があるとすれば、それは起業にまつわる制度の問題ではないことが解る。

最も明らかな遠因としては雇用の硬直性だろう。起業するかどうかはキャリア選択であり、その費用には給与所得のために働かないという機会費用が含まれる労働市場が硬直的であればこの費用は大きくなる。副業で起業すればこの費用は抑えられるが、片手間で事業を行うのは難しいし、副業を禁止する雇用契約も多い。

起業に関する制度改革や起業家のサポートもいいが、労働市場が相変わらずであれば起業が増えることはなさそうだ(少子化の最大の原因が子育ての機会費用の増加であり、多少の金銭援助では効果が望めないのと似ている)。

ブロードバンドのユニバーサル化

ブロードバンドをユニバーサルサービス化しようかというニュース。

「光の道」10年間の経済効果73兆円

ブロードバンドの全国普及による平成23年度から32年度までの10年間の経済効果を73兆円と試算し、ブロードバンドにも電話と同じユニバーサル(全国一律)サービスを適用すべきとしている。

経済効果」という単語には意味がないことについては既に書いた。投資案件について論じるのだからせめて費用がいくらかぐらい書くべきだろう。

試算の結果、経済効果(「光の道」の直接効果(①+②+③)+他産業への経済波及効果(④))の10年分の総計は、73兆円(うち直接効果33.2兆円、波及効果39.8兆円)となった。[p.15]

もしかしたら報告書本体(pdf)には書いてあるのかと思ったがそんなことはない。

2015年度時点で、全ての世帯で超高速ブロードバンドサービス(CATV含む)に加入。

ついでに前提条件として全世帯の加入が挙げられている。整備率ではなく加入率で100%を仮定するのは無理があるようにも思える。

2015年度時点での超高速ブロードバンド加入率が70%にとどまった場合には、経済効果は、②及びその波及効果について、19兆円減少するとの試算結果も得られた

注記事項なんかを見ると、今回ニュースで取り上げられている数字は最高にうまく行った場合のように思える。

ブロードバンドをユニバーサルサービスにするか否かは他のユニバーサルサービスを代替できるかにも大きく掛かっている。例えばブロードバンドが普及すれば郵便や電話のユニバーサルサービスが必要無くなるのであれば、ブロードバンドの便益は相当大きくなる。ブロードバンドをユニバーサルサービスにする経済効果を測ると同時に、郵便や電話をユニバーサルサービスにする便益(?)についても計算すると面白いのではないだろうか。

出版業界の矛盾

日本の出版業界で最近よく目にする矛盾が分かりやすく一枚に収まっている名作:

電子書籍:「元年」出版界に危機感 東京電機大出版局長・植村八潮さんに聞く

音楽業界のようにほぼ一手に握られることになれば、間違いなく日本の出版活動は続かなくなり、書店や流通の問題というより、日本の国策、出版文化として不幸だと思う。

まずは「文化」だ。文化として不幸かどうかより、消費者が不幸になっていないかを気にして欲しい。ところで日本の音楽業界が停滞しているのはiTunesのせいだという前提があるのだろうか。

アマゾンやアップル、グーグルなど「プラットフォーマー(基本的な仕組みを提供する企業)」の時代になるといわれている。

[…]

米国でプラットフォーマーに対抗できるのは、複数のメディアを傘下に収める巨大企業だけ。

アマゾン、アップル、グーグルが複数のメディアを傘下に収めているという話は聞かないが何か大型買収でもあったのだろうか(それとも日本企業がプラットフォームを作るというのは想定外なのだろうか??)。そもそもコンテンツを垂直統合していたらそれはもうプラットフォームではない(プレイステーションのゲームが全てソニー製だったらプレイステーションはプラットフォームとは呼べない)。

出版社4000社、書店数1万6000もある日本の出版業界が、このままで対抗できるわけがない。

[…]

日本人は紙質や装丁にこだわり、読み終えても取っておく人が多い。米国で成功したから日本でもというのは、分析が足りないと思う。

あれ?アメリカのプラットフォームが日本では成功しないなら、日本の出版業界は対抗できるのではないだろうか

iPadはそんな新しいメディアとしての可能性が高い。ただ、熱狂的なアップルファンは買うだろうけれど、広く日本人に支持されるかは分からない。

これも同じだ。日本の文化だから守る必要があるというために日本の特殊性を主張すればするほど、じゃあ保護の必要はないのでは?という矛盾に陥る

日本の英語力

日本人のTOEFLでの点数が低すぎるという話題があったので最新データを紹介。

TOEFL® Test and Score Data Summary for TOEFL Internet-based and Paper-based Tests: 2009 Test Data

現行のTOEFL iBTはReading, Listening, Speaking, Writingの各30点、合計120点となっている。以下はデータのあるアジアの国々について各セクションの平均点数を表示し、総合点でランク付けしたものだ。ラオスが60点で最下位、日本はタジキスタンと共に67点で二番目に低い。特にスピーキングの平均16点は単独世界最低となっている。

アフリカ・中東以外だと、日本よりも平均的の低い国はハイチとラオスしかない。ヨーロッパは流石に高く、オランダでは平均点が大学院出願などで必要となる最大点数である100を超えている。

注:各セクションの平均値の合計とはずれる総合点の平均値でソートしているので順序が前後している箇所がある。

追記:国によって受験者の母集団が異なるので、この数字を持って各国の英語力ないし英語教育を論じるのは難しいですが、一応こういうデータがあるという程度に理解頂ければ幸いです。コメント欄でご指摘頂いている通り、レポート中にも注意書きがあります。

”The differences in the number of students taking the test in each country,…, and the fact that those taking the test are not representative of all English speakers in each country or any defined population make ranking by test score meaningless”.