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Sonyは何の会社?

何やらSonyについて盛り上がっているようですが、Sonyが今どんな会社かはIR情報を見れば分かる。

これが2010年第二四半期のビジネス分野別売上だ。青い部分がSonyと聞いてまず思い浮かぶ電気製品の類で、緑はPlayStationのようなゲーム機本体やゲームソフトだ。後はSony PicturesやSony Music Entertainment、そしてソニー生命・ソニー損保・ソニー銀行といった金融業務となっている。こうみると一般の消費者のイメージ通りエレクトロニクスとプレステの会社かな?と思われる。

しかし、会社にとって売上よりも大事なモノがある。それは利益だ。各セクションの売上高と利益が上のグラフにまとめられている。利益を一番稼ぎ出しているのは金融業務で、エレクトロニクス関係は利益率が相当低い事がわかる。映画にいたってはマイナスで、かろうじてプラスのゲーム関係もようやく黒字化といったところだ。IBMのように収益性の低い業務を切り離すというのもありえない話ではない(但しソニーの強みが本当に金融なのかと言われると…)。

起業家ビザ

逆頭脳流出」では、アメリカが外国から優秀な人材を惹きつける力が落ちているのではないかという懸念されていたが、その例が記事になっている。

Silicon Valley is losing foreign-born talent

Silicon Valley may be the cradle for tech start-ups, but some foreign-born executives, engineers and scientists are leaving because of better opportunities back home, strict immigration laws here and the dreary California economy with its high cost of living.

四つの原因が指摘されている:

  1. 祖国での機会が増えている
  2. 移民政策が厳しい
  3. カリフォルニアの経済が良くない
  4. 生活費が高い

1に関してはアメリカが出来ることはないし、4は都市が発展すれば自動的に起きることだ。それに対し、2,3は改善の余地がある。カリフォルニアが特別に調子が悪いのには莫大な財政赤字があり、これは新しい政策を始めるのが簡単なのに税金を導入するのが難しい制度に一端がある。また、アメリカの移民政策は実はかなり制限的だ。最も一般的な労働ビザは雇用主がスポンサーになるため、労働者にとっては雇用主への交渉力がなくなり非常に不利だ。

Foreign-born students earned 16.6% of the total degrees awarded in science and engineering programs from local colleges and universities in 2007, compared with 18.4% in 2003, the study says.

こういった状況の中、外国人の学位取得者も減少中という(これが統計的に有意なのか分からないが)。

“For the first time, immigrants have better opportunities outside the U.S.” Often, a lack of work visas blocks foreign talent from staying.

これが上に述べたビザの問題だ。アメリカは移民が過ごしやすい文化を持っているが、法的な面では永住権を取得するまでの(通常)六年間、悪く言えばこき使われる可能性が高い。だから母国の経済が発展していれば敢えて残ろうとはしないのは自然だ。

Feld’s organization has helped shape the StartUp Visa Act of 2010, introduced last month by Sens. John Kerry, D-Mass., and Richard Lugar, R-Ind. It would grant immigrant entrepreneurs a two-year visa if they have the support of a qualified U.S. investor for their start-up venture.

この問題に対して、現在起業家用のビザ制度を用意する動きが進んでいる。アメリカの投資家から投資を受けたベンチャー企業経営者をサポートするものだ。一体何がベンチャー投資と言えるのかが曖昧という問題はあるが、現状でもEB5などを使えば実質的にビザを買うこともできるわけで正確な定義を議論することに意味はないだろう。

将来売ります

自分の将来所得を担保に投資を募る実業家の話題が盛り上がっている。

Entrepreneurs offer their life’s future earnings for an investment

Kjerstin Erickson, a 26-year-old Stanford graduate who founded a non-profit called FORGE that rebuilds community services in Sub-Saharan African refugee camps, is offering 6 percent of her life’s income for $600,000.

NPOの創設者が自分の所得の6%の見返りに$600,000の投資を募集しているそうだ。6%で$600,000ということは、所得のリスクも割り引いた現在割引価値(≠生涯所得)が$10,000,000必要なわけで、普通に考えたら割に合わない。

それだけでなく、持分への投資ということで、株式会社などが持つガバナンス上の問題点を共有している:

  1. 94%は本人という社長兼大株主が所有しているわけで、少数株主たる投資家との間に利害対立がある
  2. 公開会社のような上場審査や法定監査があるわけではなく、所得の6%といっても所得の数字自体信頼できない
  3. そもそも意思決定に加わるわけではない

その結果次のような問題が考えられる:

  1. 所得の限界効用が落ちるので働く気が失せる
  2. なるべく所得に現れない便益を優先する、例えばお金にはならないが楽な仕事しかやらない

このような懸念に対して、

The transparency afforded by social networking is making it easier for investors to vet people’s reputations and hold them accountable.

ソーシャルネットワーキングによって透明性が増しているから何とかなるのではと述べられているが、会社法を考えれば分かるようにそんな簡単な話ではないだろう。

ただこの個別事例が成功するかと言われればおそらく成功すると思われる。このような議論を呼ぶ募集を行うことは本人やそのプロジェクト(そしておそらく投資する側)にとって大きなPRになるからだ。これを弾みに成功していけば割に合う投資になる可能性はそれなりにあるだろう。

また、この取引を投資ではなく寄付の一種だと考えることもできる。将来所得と引換に融資を受ければその個人は金銭的な報酬を優先するインセンティブを失うが、これはNPOが自ら利益を配分しないことと似ている。もともとNPOは属人的な正確が強いので、組織ではなく個人に投資するという考えもありうるだろう。

不景気で育つとどうなるのか

若いときに不景気であることがその後にどんな影響を及ぼすのだろうか。いくつかの研究結果が紹介されている:

Will Recession Forever Scar Young Investors? at SmartMoney.com

一つ目UCLAのPaola GiulianoとIMFのAntonio Spilimbergoによる研究で、

Using data from the General Social Survey and matching it up with data on regional recessions in the United States between 1972 and 2006, the authors found that “individuals growing up during recessions tend to believe that success in life depends more on luck than on effort, support more government redistribution, but are less confident in public institutions.”

1972年から2006年までの地域ごとの不景気と個人の経済に対する見方を比べている。それによれば、不景気の中で育った世代は、

  • 成功は努力より運で決まる
  • 再分配政策により積極的である
  • しかし政府に対する信頼は低い

といった傾向があるそうだ。これは地域ごとに景気の波が存在するからこそできる研究だろう。

But what was truly striking was that this finding only held if the person was in his or her “formative years,” between 18 and 25, during the financial shock. Being exposed to a recession before the age of 17 or after the age of 25 had no effect in the data they studied.

しかしこのような傾向は18歳から25歳までの間の景気によってしか生じないと言う。

さらに同様の傾向がBerkeleyのUlrike MalmendierとStanfordのStefan Nagelの研究でも明らかにされているそうだ。こちらは、大恐慌を経験した世代と第二次世界対戦後の好景気を経験した世代との株式市場での投資行動を調べている。

people who have lived through periods of bad stock market returns report lower willingness to take financial risk. They also are less likely to participate in the stock market, and, if they do invest in the stock market, invest a lower fraction of their liquid assets in stocks. (Similarly, people who have experienced high inflation are less likely to hold bonds.)

不景気の中育った人々は将来的にもリスクをとらず、同様に高インフレで育った人は債権を保持したがらないそうだ(債権はインフレに連動しないため高インフレ下では望ましくない投資だ)。

The lesson: We’re slaves to what’s known as “availability bias.” We form our predictions about the world based on the data most readily available to us — on what’s happened to us personally, or what’s happened to our friends, or what we’ve read in the papers or seen on TV.

このような現象は可用性バイアス(availability bias)と呼ばれる。これは自分や親しい人間が経験した出来事が生じる確率を過大評価してしまう傾向である。

これはそれ自体でおもしろい発見ではあるが、同じ現象が日本でも観察できるだろうか。バブル崩解後、日本の不景気は極めて長いこと続いた。二つの点が特に興味深い。

一つは、不景気の状態がその後の行動に影響を与えるのか景気の悪化が与えるのかということだ。例えば私が学部にいた間、景気は常に悪かったが、悪化してというわけでもない。それでも経済に対する考え方、投資行動は変わるのだろうか。

二つめは、不景気が長期に渡ったことの影響だ。もし十年以上に渡って、投資行動に特定のバイアスを伴う(=サブオプティマルな投資を行う)人々が生まれたのであればこれは市場に大きな影響を与える。その影響は不景気の中で育った世代が四十台、五十台となりより多くの資産を保有するようになるにつれ拡大していくだろう。これは投資を行う側にはビジネスチャンスでもある。過度にリスク回避的な投資家が増えてればリスクのある投資を引き受けることは利益になるだろう。

P.S. この記事でも研究結果が紹介されているが実際の論文は示されていない。それらしい文献へのリンクをしておいた。これはジャーナリズムは普通のことなんだろうか。ちなみにavailability biasという言葉も言及されている(と思われる)論文には出てこない。記事を書いたひとの意見ということだろう。

ファイナンスの教授の投資戦略

ファイナンスを教えている教授がどんな投資戦略を取っているかについて:

ScienceDirect – Journal of Financial Markets : Confidence, opinions of marketefficiency, and investment behavior of finance professors via Overcoming Bias

First, most professors believe the market is weak to semi-strong efficient. Second, twice as many professors passively invest than actively invest. Third, our respondents’ perceptions regarding market efficiency are almost entirely unrelated to their trading behavior. Fourth, the investment objectives of professors are, instead, largely driven by the same behavioral factor as for amateur investors–one’s confidence in his own abilities to beat the market, independent of his opinion of market efficiency.

アブストラクトからの引用だ。発見は四つ:

  1. ほとんどの教授は弱度ないし準強度市場効率仮説を支持している。
  2. 能動的な投資を行っている人はそうでないひとの半分。
  3. 投資行動と市場効率仮説への態度は相関がない。
  4. 投資目的は大抵素人と同じ要因で説明できる。

まあ妥当なところか。市場が基本的に効率的でも誰かが裁定取引をする。能動的に投資するかは自分の時間をどう扱っているかによる。投資が好きな人はファイナンスの教授にはならない(!)のでこちらも妥当だ。