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将来売ります

自分の将来所得を担保に投資を募る実業家の話題が盛り上がっている。

Entrepreneurs offer their life’s future earnings for an investment

Kjerstin Erickson, a 26-year-old Stanford graduate who founded a non-profit called FORGE that rebuilds community services in Sub-Saharan African refugee camps, is offering 6 percent of her life’s income for $600,000.

NPOの創設者が自分の所得の6%の見返りに$600,000の投資を募集しているそうだ。6%で$600,000ということは、所得のリスクも割り引いた現在割引価値(≠生涯所得)が$10,000,000必要なわけで、普通に考えたら割に合わない。

それだけでなく、持分への投資ということで、株式会社などが持つガバナンス上の問題点を共有している:

  1. 94%は本人という社長兼大株主が所有しているわけで、少数株主たる投資家との間に利害対立がある
  2. 公開会社のような上場審査や法定監査があるわけではなく、所得の6%といっても所得の数字自体信頼できない
  3. そもそも意思決定に加わるわけではない

その結果次のような問題が考えられる:

  1. 所得の限界効用が落ちるので働く気が失せる
  2. なるべく所得に現れない便益を優先する、例えばお金にはならないが楽な仕事しかやらない

このような懸念に対して、

The transparency afforded by social networking is making it easier for investors to vet people’s reputations and hold them accountable.

ソーシャルネットワーキングによって透明性が増しているから何とかなるのではと述べられているが、会社法を考えれば分かるようにそんな簡単な話ではないだろう。

ただこの個別事例が成功するかと言われればおそらく成功すると思われる。このような議論を呼ぶ募集を行うことは本人やそのプロジェクト(そしておそらく投資する側)にとって大きなPRになるからだ。これを弾みに成功していけば割に合う投資になる可能性はそれなりにあるだろう。

また、この取引を投資ではなく寄付の一種だと考えることもできる。将来所得と引換に融資を受ければその個人は金銭的な報酬を優先するインセンティブを失うが、これはNPOが自ら利益を配分しないことと似ている。もともとNPOは属人的な正確が強いので、組織ではなく個人に投資するという考えもありうるだろう。

余剰資金は成長産業へ

最近、企業がもっと従業員に利益を分配しろという意見が多い。しかし、重要なのはどのような資源配分が最も効率的かだ。

トヨタもキヤノンも内部留保を使うが雇用には使えない? -10年で2倍増の内部留保こそ“埋蔵金”

企業の内部留保が2倍以上になった1998年から2008年の10年間で、労働者の非正規化が進み、ワーキングプアが3人に1人に激増し、労働者の給与は35万円も減ったということです。

内部留保が倍増する中で労働者の取り分が減ったということから次のような疑問が提示されている。

普通に考えて、いくらなんでも内部留保が10年前の2倍以上というのは溜め込み過ぎでしょう。少しは労働者や社会に還元してもいいのではないでしょうか。

「普通に考えて」と言えば、考えなくてもいいわけではない。企業は従業員に給与を払っているし、利益を上げる過程で社会に便益をもたらしている。「少しは」が何を意味しているのかよく分からない。たくさんあるんだから少しよこせという話ではない。

日本経団連は、「内部留保は生産設備などに使われており、現金に換えることはほとんど不可能」などといって、雇用にも賃上げにも使えないと主張し続けています。

当たり前だが内部留保と現金は違う。内部留保は会計上の利益が配当されずに留保されたものだ。企業会計は現金主義ではないので、利益の発生と流動性資産の発生とは一致しない(そもそもそれを分離するのが目的だ)。当然、内部留保は支払原資の存在を意味しない。もちろん、不存在も意味しないがそれなら保有している流動性の高い資産の存在を問題にすべきで、内部留保を槍玉に上げるのは焦点がずれている。まあこの辺は会計畑の人に任せたい。

しかし、素朴に考えて、10年前の2倍以上にもなっている内部留保を使えないというのはおかしな話です。

「普通に考えて」を「素朴に考えて」に変えて同じことを提案してもだめだ

トヨタは、2009年3月に、13兆9,322億円あった内部留保を取り崩して、株主配当3,135億円を払っています。

キヤノンは、2009年12月に、3兆9,436億円あった内部留保を42億円取り崩して、株主配当の一部に使っています。

確かに膨大な内部留保から配当が行われている。この数字を見て私が素朴に考えると、もっと株主配当をすべきだと感じる

内部留保は、株主配当には使えるが、雇用・賃上げには使えないという決まりでもあるのでしょうか?

企業が人件費を増やせば利益が減るので内部留保は減っていくだろう。それを内部留保を「使う」というのであればそれは可能だ。

本題に移ろう。企業が実際に多額の資金を溜め込んでいるとしよう。確かにそれは問題だ。事業を営むことが目的の営利企業が必要以上に資産を持っているのは、資源が有効に活用されていないことを意味するからだ。例えば経営者が個人的に企業を大きくしたいだけとか、自分を含めた従業員が不景気でも大丈夫なようにお金を貯め込むとかいろんな理由が考えられる。株主による経営者の監視は極めて不完全なので、こういったことが生じる。

では日本企業が不必要に資金を保有しているとしてこれをどう使うのが望ましいだろうか。もし企業の雇用・賃上げに使えば、不景気に関わらず利益を出している好調な企業にいる社員やそこで運良く採用された人は喜ぶだろう。しかし、それが社会全体からみて効率的な活用方法だとは思えない。労働者を助けるというなら、失業者や不調な企業の従業員が先だろう

必要なことは逆に内部留保を株主配当で資本市場に戻すことだ有効利用のできていない資金を生産性が高い、成長の見込みのある企業へと移すことで経済全体のパイを大きくすることができる。それにより新しい産業で雇用が生まれ、労働者にとってもプラスだ。資金の有効な使い道が分からない企業に人材を集めてもしょうがない

働きたい会社

毎年恒例の100 Best Companies to Work Forの2010年版が発表された。これはアメリカの大手企業にかなり注目されているリストだ。調査会社が社員へ聞き取りを行うなどして指標を作成する。新卒学生の行きたい企業ランキングなんかよりも余程信頼できるだろう。

今年のトップはソフトウェア大手のSAS。金融や臨床などで非常によく使われる統計パッケージの開発元だ。私も半年程使っていたことがある。

100 Best Companies to Work For 2010: Full list – from FORTUNE

What makes it so great?

One of the Best Companies for all 13 years, SAS boasts a laundry list of benefits — high-quality child care at $410 a month, 90% coverage of the health insurance premium, unlimited sick days, a medical center staffed by four physicians and 10 nurse practitioners (at no cost to employees), a free 66,000-square-foot fitness center and natatorium, a lending library, and a summer camp for children.

ランク付け方法は企業秘密か公開されていないが、SASが一番になった理由として、月$410のチャイルドケア、健康保険の90%会社負担、無制限の(有給での)病欠(sick day / sick leave)、無料の医療施設、巨大なジム、プール、図書館に子供のためのサマーキャンプが挙げられている。

さらに調査会社のサイトには、SASの社内文化が紹介されている

Over 24 executives have active internal blogs. When executives update their blogs, they are automatically featured on the main page of the SAS Wide Web so that employees can read the blogs and offer their comments.

24人以上の重役が内部向けのブログを持っており従業員はそれを読んでコメントをつけられるという。

In response to a question asking what might be changed at SAS to make it a better place to work one employee responded: “I don’t think of anything. If I did think of something, I am confident that I could give that feedback to management, and have it considered”.

何か改善の余地があれば経営陣に伝えて考慮してもらうことに自信がある」という社員の言葉を紹介している。こんな言葉が得られる日本企業はどれくらいあるだろうか。

And all salaries at SAS are set in the same way – by matching market data to the job title.

社員のサラリーは全て、ジョブタイトルごとに市場での水準に合わせて設定される。これは時代の流れだ。

All staff who might be contracted out in other organizations – gardeners, food service employees, healthcare staff – are SAS employees.

正社員(?)だけの特別待遇かというとそうではなく、通常は外部に委託される業務でも、従業員としてサラリーで雇用している。

もちろんSASは社員に対して慈善事業をやっているわけではない。ABCは次のように報道している

Managers say that investment pays off with extremely low employee turnover that in turn reduces training costs.

SASはこれにより極めて低い離職率を達成し、社員の研修・訓練費用を節約しているという。実際、離職率はソフトウェア業界にして僅か2%だ。社員が離れないために努力する終身雇用が理想で、転職が難しい社会との違いが現れているのかもしれない

Over 24 executives have active internal blogs. When ex-ecutives update their blogs, they are automatically featured on the main page of the SAS Wide Web so that employees can read the blogs and offer their comments.