Amazonのユーザー参加

食べログが(悪い意味で)話題になったが、ユーザー参加型のサービス自体はこれからも伸びる一方だ。

What Motivates Amazons Hardcore Raters?

ユーザーレビューといえば老舗とも言えるのがAmazonだ。Amazonでは当初からユーザーが書評をアップロードする仕組みができている。この記事ではそのAmazonで大量のレビューを公開しているユーザーのプロフィールやモチベーションを紹介している。

And that explains why Amazon’s reviewer system is so successful. It’s built entirely on the back of the everyman. Cholette might call herself a fitness enthusiast, but she still spends most of her hours doing things the average Amazon shopper can relate to: working, commuting, being with family.

こういったレビューがAmazonにとって極めて重要であるのは明らかだ。一般読者による感想は、Amazonにとって費用がかからないと同時に、他のユーザーから見て分かりやすい視点で書かれている。

Under the new ranking system, Cholette places fourth because 93 percent of her comments have been chosen as helpful by readers. She also has more than 240 fan voters, or customers who frequently return to see what she has to say.

ランキングやファンといったシステムはレビューの書き手にやる気を与えるだけでなく、一般ユーザーが価値あるレビューワーを見つけるのを容易にする。役に立つレビューを見たいのなら、ランクが高いレビューワーを見ていったり、気になるユーザーがファンになっているレビューワーを探したりすればいいわけだ。

Publishers recognize the value in this system. Klausner, Grossman wrote back in 2006, receives an average of 50 free titles every week from publishers hoping to get her attention — and her review.

もちろんこのビジビリティーは何も一般ユーザーに対するものだけではない。レビューしてくれる人を探している出版社にとっても有用だ。Amazonのレビューワーランクで上位にくれば多くの出版社が評価コピーを送ってくる。

Artist representative and gallery owner Grady Harp, another twelve-year Amazon veteran, also receives galleys from new writers looking for an opinion on their work.

新人作家が意見を求めてくることもあるそうだ。

Harriet Klausner may not be a self-promotion robot for publishers, but it seems they are benefiting from the system. Send book to Beth Cholette, get review, sell more books. It’s a win-win-win, for publisher, for user and even for Cholette.

レビューワーは本をもらったり、仕事につなげたりできるし、出版社はレビューを書いてもらい本を売ることができる。ユーザーもそのレビューを参考にすることができる。こういった関係を作り出すことで、小売店たるAmazonは大きな価値を創造している。レビューはストックなので長年続けることで新規参入者にはない競争上のメリットになっている。

どうやって参加者全員に価値を提供し、コミュニティを創り上げていくのかを考えることは、「消費者」が情報発信能力を持つ(ないしこの場合持たせることができる)時代に重要なこととなっている

アマゾンのソーシャル化

Appleが音楽SNSであるPingを発表した裏で、アマゾンが著者のためのページを提供するとのこと。

アマゾン、著者自らが最新情報を掲載できる「著者ページ」

著者ページから動画コメントなど近況の更新が可能なようだ。普段ソーシャルネットワークを使っていればこれが何かに似ているのは直ぐ分かるだろう。

Facebookのファンページだ。上のスクリーンショットはLady Gagaのページだが、このように有名人やブランドなどがまるで個人であるかのようにファンページから情報を発信している。個々のユーザーは上にある「いいね!」ボタンで支持を表明したり、掲示板に書き込んだりすることが可能だ。

おそらくAmazonが著者ページを作る理由は書籍の世界でこのようなネットワークを構築するためだろう。Amazonには既に熱心にリストを公開したり、レビューを投稿したりするユーザー大量に存在している。著者をこのシステムに加えることにより、Amazonのプラットフォーム(Amazonは読者と著者を結びつける場だ)としての価値を高めることができ、またAmazonで実際に購入しなくてもユーザーに関する情報を収集することも可能となる

将来的にはユーザーに自分のページで読んだ本を公開させたり、推薦させあったりするようなフルフレッジドなニッチ向けソーシャルネットワークになっていくだろう。本を熱心に読み、わざわざ感想を公開するような人はFacebookを常時利用する層とは異なるため効果的な作戦だ。もちろん書籍のソーシャルネットワークだけで足りる人はいないだろうから、Facebookを含め既存のプラットフォームと相互に連携する仕組みを立ち上げるだろう。

GoogleとAmazonの競争

GoogleとAmazonと言うとebookやクラウドストレージでの競争が注目されがちだが、本当の対立はそこではない。

While Google fights on the edges, Amazon is attacking their core

Google is fighting battles on almost every front:  social networking, mobile operating systems, web browsers, office apps, and so on.  Much of this makes sense, inasmuch as it is strategic for them to dominate or commoditize each layer that stands between human beings and online ads.

Googleの最近の戦略は検索広告以外のマーケットに出ていってそれをコモディティ化することだ。ユーザーの情報を集めることで広告の精度を上げ、中抜きによって広告市場での収益性が上がる。それらの市場で単独の利益を上げる必要もないし、別にその市場を取れなくても競争が激しくなるだけで構わない。

In fact, Google and Amazon’s are already direct competitors in their core businesses. Like Amazon, Google makes the vast majority of its revenue from users who are looking to make an online purchase.

しかも検索広告ですらその大半はGoogleにとって収益性が低い。Googleのコアビジネスは広告、特に何かを購入しようと考えて検索エンジンを使うユーザーだ

The key risk for Google is that they are heavily dependent on online purchasing being a two-stage process:  the user does a search on Google, and then clicks on an ad to buy something on another site.

Googleがこの製品検索へ広告を提供することで利益をあげるためには、ユーザーが何かを買おうとするときにGoogleの検索エンジンを使ってもらう必要がある。そしてそのためには、買い物する場所が散らばっていなければならない

Amazonがオンラインでの製品販売で拡大していくことはこのビジネスモデルに大変都合が悪い。何か欲しいときにGoogleで闇雲に検索するよりも、Amazonで検索してレビューを読んだ方が早いことは多い。Amazonは一般的な検索でGoogleと争う必要はないし、全ての製品を自社で提供する必要もない

本当に収益の上がる部分は製品を探す客と製品を提供する客とのマッチングだ。Googleの高収益性は検索アルゴリズムが他のマッチング手段、オークションやショッピングモール、よりも効率的であることに依存している。検索エンジンとしてトップを保つだけでは足りないのだ。

出版業界の矛盾

日本の出版業界で最近よく目にする矛盾が分かりやすく一枚に収まっている名作:

電子書籍:「元年」出版界に危機感 東京電機大出版局長・植村八潮さんに聞く

音楽業界のようにほぼ一手に握られることになれば、間違いなく日本の出版活動は続かなくなり、書店や流通の問題というより、日本の国策、出版文化として不幸だと思う。

まずは「文化」だ。文化として不幸かどうかより、消費者が不幸になっていないかを気にして欲しい。ところで日本の音楽業界が停滞しているのはiTunesのせいだという前提があるのだろうか。

アマゾンやアップル、グーグルなど「プラットフォーマー(基本的な仕組みを提供する企業)」の時代になるといわれている。

[…]

米国でプラットフォーマーに対抗できるのは、複数のメディアを傘下に収める巨大企業だけ。

アマゾン、アップル、グーグルが複数のメディアを傘下に収めているという話は聞かないが何か大型買収でもあったのだろうか(それとも日本企業がプラットフォームを作るというのは想定外なのだろうか??)。そもそもコンテンツを垂直統合していたらそれはもうプラットフォームではない(プレイステーションのゲームが全てソニー製だったらプレイステーションはプラットフォームとは呼べない)。

出版社4000社、書店数1万6000もある日本の出版業界が、このままで対抗できるわけがない。

[…]

日本人は紙質や装丁にこだわり、読み終えても取っておく人が多い。米国で成功したから日本でもというのは、分析が足りないと思う。

あれ?アメリカのプラットフォームが日本では成功しないなら、日本の出版業界は対抗できるのではないだろうか

iPadはそんな新しいメディアとしての可能性が高い。ただ、熱狂的なアップルファンは買うだろうけれど、広く日本人に支持されるかは分からない。

これも同じだ。日本の文化だから守る必要があるというために日本の特殊性を主張すればするほど、じゃあ保護の必要はないのでは?という矛盾に陥る

iPadはe-bookリーダーじゃない

間の抜けたタイトルですが(どうも題名をつけるのは難しい)、Appleからついに発表されたタブレットマシンiPadがそこら中で話題なので関連記事でも紹介:

Three Reasons Why the iPad WON’T Kill Amazon’s Kindle – Bits Blog – NYTimes.com

iPadはiBooksという電子書籍ソフトウェアを搭載しており、AmazonのKindleの対抗馬と目されているが実はそうでもないという記事だ。

The Kindle is for book lovers, and the iPad is not.

Sure, the Kindle’s potential market may have shrunk today, since the two-books-a-year folks will now opt for the more versatile iPad.

But the Kindle (and other devices with E Ink screens) will continue to be the best device for lovers of long-form reading, period.

一つ目の理由は、Kindleがターゲットとしてる層とiPadがターゲットとしている層が全く違うということだ。これは非常に重要なポイントだ。何故なら、読書と音楽ではユーザーの嗜好の分布が全く異なるからだ。音楽であればもちろんマニアは存在するが、一般人もかなりの消費を行う。しかし、これは書籍には当てはまらない。

1/3 of high school graduates never read another book for the rest of their lives.
42 percent of college graduates never read another book after college.
80 percent of U.S. families did not buy or read a book last year.
70 percent of U.S. adults have not been in a bookstore in the last five years.

どの程度信用できるかは分からないがこちらのページが引っ張ってきた統計だ。普段から読書をする人には信じ難いが、読書を全くしない人というのはかなり多い(参考:Facebook | Grad Students グループ)し、識字率にさえ問題のあるアメリカでは(参考:ヤクザと識字率)その傾向はさらに顕著だ(待ち時間なんかにただボーッとしている人が多い)。

Kindleが読書マニア向けのデバイスとすれば、iPadは読書のライトユーザーのためにデバイスとなるだろう。これはAppleがiPodでとった戦略に近いだろう(iPodが音質を売りにしたことはないと思う)。例えば、ゴシップ誌が唯一の読み物という(おそらく毎月一冊以上本を読む人より多い)層にとってe-inkは必要ない。カラー液晶の方がいいに決まってる。

ただiPodと違うのは、読書のライトユーザーは音楽のライトユーザーとは異なり、大したコンテンツ消費を行わないということだ。Appleはこの層だけを相手に(既にAmazonが大きなシェアを持つ)電子書籍ビジネスを行うことはできない。逆に他の会社が電子書籍を独占しその余剰を回収されるほうが困るのでオープンなePubフォーマットが採用されているのは自然だ。

Appleの狙いは今のところ限定的な市場であるタブレットを市場として確立させることだろう。それを成し遂げるためにはタブレットの価値を上げる必要があり、電子書籍はその一つの方策、行ってみればおまけだ(もちろんKindleとの関係を市場が騒ぎ立ててくれる分には大歓迎だろうが)。そのブランドを最大限に活用して電子書籍リーダーとしてのKindleやネットブック・ラップトップとは違う新しい市場を開拓するというのはAppleらしい。実際Appleは「Apple – iPad – The best way to experience the web, email, & photos」と紹介しており、e-bookは出てこない。

Amazon will continue to improve on the Kindle.

Amazonは先行者ではあるが、Kindleはニッチ市場を相手にしているため、さらに製品の特化を進め、一段とiPadから離れていくはずだ。本業が書店であるAmazonにとってこの戦略は非常に合理的だ。本を殆ど読まない層を頑張って取り込む必要もない。

The Kindle store will continue to thrive.

Amazon smartly separated its Kindle hardware division from its Kindle e-book store and has since released or announced Kindle apps for the iPhone, PC, Mac and Blackberry.

Kindleを生産するハードウェア部門は電子書籍の販売部門とは分離されているし、Kindleのアプリケーション版は様々なプラットフォームで展開されている。これはプラットフォーム企業に典型的な戦略だ(参考:Googleのプラットフォーム戦略)。プラットフォームの魅力が増すことが最も重要なことであり、その上のアプリケーション層を狙うのはむしろ特殊なケースだ

KindleにはDRMもあるので、あわよくばe-bookリーダー市場でiPodのようにシェアを取れればいいと考えていたのだろうが、書店であるAmazonにその絶対的必要はない。e-bookリーダー市場が他社に独占されて書籍販売による利益を回収されてしまわなければ十分だ。Amazonが欲しいのはハードウェアとしてのKindleではない。リーダーが競争的に(安く)供給されるならAmazonは書籍販売で利益をあげられる。もちろん競争はあるだろうが、それは電子書籍でなくても同じことであり、Amazonがそこで既に競争優位を持っている。