Google+とアイデンティティ

最近、IT関係のサイトでよく見るこの話題。もとになっているのはエリック・シュミットの以下の発言。

He (Eric) replied by saying that G+ was build primarily as an identity service, so fundamentally, it depends on people using their real names if they’re going to build future products that leverage that information. 

GoogleはGoogle+を個人のアイデンティティ・サービスと考えているということ。そして実名というアイデンティティを利用するのが一番生産的だと述べている。しかし、もし生産性が理由ならユーザーは実名を強要しなくても自分から実名を利用するはずであって、実名制を取る理由にはならない。

ではGoogleはなぜ実名制を採用するのか。Googleが実名を使うことがGoogleにとって(広告を売る上で)利益になるからだという意見もある。だが、これもやはり的を外している。Googleにとって必要なのは各アイデンティティが誰に紐付けされているかであって、ユーザーが実名をGoogleに明らかにしている限り、実名を表示してサービスを利用してもらう必要はない。むしろGoogleだけが実名を知っているほうが都合がいいだろう。

実名制を採用する一番の理由は戦略的なものに思える。Googleは何かを消費者に提供するとか、このサービスで自分の利益を伸ばすといったことを主眼に置いているのではなく、Facebookと競争するということを目的にしているのではないだろうか。もしGoogle+が多くのユーザーを獲得し利益につながったとしてもFacebookがそのままならGoogleの目的は達成されるとは思えない。

グルーポン・ストアとローカル広告市場

Googleがグルーポンを買うのか買わないのかという話は全然追えていないけど、グルーポンが近日提供するというGroupon Storesは興味深い。グルーポンのバリュエーション高すぎという話やカルチャーが違いすぎとかいう話を見かけるが案外ありかもしれない。

Groupon 2.0, You Better Believe This Is The Future Of Commerce

グルーポン・ストアが提供する機能それ自体は実は真新しくない。

  • グルーポンに自社のページを作れる
  • (「健全な」10%のマージンで)自分のグルーポンが作れる
  • 作ったグルーポンは適切にマッチングされたユーザーのフィードに流れる
  • その他、客と店との標準的なソーシャル機能が実装される

自社ページを作れるなんて単なるモールだし、クーポンなんて自社サイトで作れる。ソーシャル機能が欲しければTwitterでもFacebookでも何でも使えばいい。しかし、これら全てを達成しているプラットフォームはない。

例えばYelpには多くのレストランレビューがあり、お店は広告を打ったり情報を発信したりできる。しかし、Yelpがこういった情報のワンストップサービスになるのは難しい。Yelpのが提供する情報のコアはレビューであって一般客を惹きつける力はそれほど強くない。言い換えれば、見るだけの人が圧倒的に多い。

その点、グルーポンのコアはディスカウントであり、一般消費者に強くアピールする。その結果が大量のメール購読者だ。グルーポンはセンセーショナルなディスカウントを使って多くの消費者を呼びこむことで、消費者がローカルなビジネスについての情報を得るプラットフォームを作る可能性を持っている

消費者の多くは実際、ローカルな情報を多く必要としている。新聞の折り込みチラシが相変わらず重視されるのはその証拠だ。しかし、今のところこういったローカル情報をデジタルで効率的に収集する場所は見当たらない。それは折り込みチラシよろしくプラットフォームビジネスで、消費者と事業者を両方巻き込んで始めて成立するためだ新聞はその記事を使ってプラットフォームを形成しているが、グルーポンは有名なクーポンを使ってそれが出来る

ここにグーグルがどう絡んでくるか。グーグルは長年ローカルな広告市場で苦戦しているし、Facebookやその他位置情報サービスとも競合関係にある。グルーポンはそのローカル広告市場で今までのところ一番サクセスフルな解を見つけた企業だ(クーポンというマス消費者や小規模店に馴染みあるヴィークルを使ったのがポイントだろう)。 また、グルーポンがAdWordsやYouTubeに出稿している広告料も膨大だ。統合すればこういったコストを内部化できるし、同様に広告が出ているFacebookへの対抗策にもなる。

買収の噂は賛否両論で両者のカルチャーの違いなど疑問視する向きにも説得力があるが、案外ありな話なのかもしれない。

追記:タイムリーにEbayがローカルショッピングサーチエンジンのMiloを買収したそうで。既存のビジネスとのコンフリクトをどう処理するのか興味深い。

変わるコンテンツの主流

ネットの主役は誰なのか。一つの指標は誰が一番帯域を使っているかだ。以下の表は北アメリカにおける帯域使用率トップ10だ(出展)。

Netflix’s Squeeze — No Not That One, The Other One

左側がアップストリーム、右側がダウンストリームを示している。アップストリーム(一般ユーザーからの発信)では相変わらずP2P(BitTorrent)が首位を占めているが、注目はダウンストリーム(ユーザーにとってのダウンロード)だ。なんとNetflixが20%を超える帯域を利用しており、その割合はHTTP、つまり通常のウェブブラウジングに迫っている。ビデオ配信だけ見てもYouTubeの二倍だ。その他にも大量の画像を共有しているFacebookや音楽ファイルをダウンロードさせるiTunesがトップ10に食い込んでいる。

映画やテレビにおいてもネットでのストリーミングへシフトが起きているのが分かる。日本ではまだこういったコンテンツのストリーミングはあまり行われておらず、今後このセグメントでどんなことがおきるか興味深い。

Facebookとリクナビ

Facebook Japanの児玉太郎さんへのインタビューが話題になったが、早速日本でのペネトレーション戦略が明らかになった。

リクナビ2012|学生のための就職活動・就職情報サイト

Facebookが就活中の学生に対し、同じ大学で同じ分野を志望する学生や内定生、OBなどを検索する機能を提供し、それにリクナビがトラフィックを誘導している。

これはFacebookが日本に足場を築く上で賢い作戦だ。「Wave開発中止のポイント」で述べたように、ネットワーク効果の強い業界に参入するためには「ブロック」を抑える必要がある。アメリカでFacebookは一流大学の学生というブロックから始まった。

リクナビとの提携は「就活生」という日本独自の集団を狙っていることを意味する。就活生にとって必要なコミュニケーション相手は他の就活生や企業関係者にほぼ限定されているためブロックとして優秀だ。そして、リクナビはこの就活生グループに一気にリーチする機会を提供するだけでなく、企業関係者に対してFacebookに窓口を設けるように働きかけることができるだろう(いまのところこのディールでリクナビがどう利益を上げるのかは明らかになっていないようだが、ここから収益を上げることも可能だろう)。

過去の自分のネットでのアイデンティティと就職活動におけるそれとを区別したいという人は多いし、就職に使うのであれば名刺同様、実名でなければ用を果たさないFacebookがいわばアメリカにおけるLinkedInのようなスタンスで、大人のためのソーシャルネットワークというポジション取りをするのは実名制を保持したまま日本で展開する方法としては適切だ。今までは学生だから匿名で好きなことを書いていたかもしれないが、これからは実名で自分の情報を管理した上でネットワーキングすべきなんだと問いかけるわけだ。

また、既に新卒の就職市場で圧倒的なプレゼンスを誇るリクルートが、LinkedIn的な独自のキャリア系ソーシャルネットワークを作る方向ではなく、日本で展開し始めたFacebookと提携するというのは企業の姿勢として面白い。流石といったところか。

P.S. Facebookのガイド本の著者としては大変ありがたい展開です:)

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