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アマゾンのソーシャル化

Appleが音楽SNSであるPingを発表した裏で、アマゾンが著者のためのページを提供するとのこと。

アマゾン、著者自らが最新情報を掲載できる「著者ページ」

著者ページから動画コメントなど近況の更新が可能なようだ。普段ソーシャルネットワークを使っていればこれが何かに似ているのは直ぐ分かるだろう。

Facebookのファンページだ。上のスクリーンショットはLady Gagaのページだが、このように有名人やブランドなどがまるで個人であるかのようにファンページから情報を発信している。個々のユーザーは上にある「いいね!」ボタンで支持を表明したり、掲示板に書き込んだりすることが可能だ。

おそらくAmazonが著者ページを作る理由は書籍の世界でこのようなネットワークを構築するためだろう。Amazonには既に熱心にリストを公開したり、レビューを投稿したりするユーザー大量に存在している。著者をこのシステムに加えることにより、Amazonのプラットフォーム(Amazonは読者と著者を結びつける場だ)としての価値を高めることができ、またAmazonで実際に購入しなくてもユーザーに関する情報を収集することも可能となる

将来的にはユーザーに自分のページで読んだ本を公開させたり、推薦させあったりするようなフルフレッジドなニッチ向けソーシャルネットワークになっていくだろう。本を熱心に読み、わざわざ感想を公開するような人はFacebookを常時利用する層とは異なるため効果的な作戦だ。もちろん書籍のソーシャルネットワークだけで足りる人はいないだろうから、Facebookを含め既存のプラットフォームと相互に連携する仕組みを立ち上げるだろう。

電子書籍統一規格

電子書籍に関する懇親会が開かれたそうだ:

電子書籍に統一規格、流通や著作権を官民で整備

政府は17日、本や雑誌をデジタル化した電子書籍の普及に向けた環境整備に着手した。[…]国が関与して国内ルールを整えることで、中小の 出版業者の保護を図る狙いがある。

しかし規格統一の狙いが中小の出版業者というのはどういうことだろう。

電子書籍の形式は各メーカーが定めており、共通のルール、規格がない。端末ごとに読める書籍が限定されるほか、「資本力で勝るメーカーに規格決定の主導権を握られると、出版関連業界は中抜きにされる恐れがある」(総務省幹部)との指摘がある。

日本だけでしか流通しない独自規格を官民で整備したとして、それが誰にメリットになるのだろう。Amazon, Apple, Googleなど先進的な企業が競争した結果生き残る規格に日本発の規格が競争できる訳はないので、国外展開は絶望的だ。当然、電子書籍の流通やリーダーなどに関しても取り残されるだろう。消費者にとっても海外で使われている優れた規格が日本では利用できないという結果になりはしないだろうか。

また、テクノロジーが進歩したときに流通の一部が「中抜き」されるのは当然のことだ。出版の場合だけ政府が心配するのは何故だろう。

ちなみに懇親会のメンバーは総務省で公開されている。現職以外のプロフィールぐらい載せて欲しいと思うが、生まれ年だけ簡単に調べてみた(Googleで検索してすぐに見える情報で正確性は保障できないので間違いがあればご指摘下さい)。

  • 安達俊雄 シャープ株式会社代表取締役副社長:1948年
  • 足立 直樹 凸版印刷株式会社代表取締役社長:1935年
  • 阿刀田 高 作家・社団法人日本ペンクラブ会長:1935年
  • 内山 斉 社団法人日本新聞協会会長・株式会社読売新聞グループ本社代表取締役社長:1935年
  • 相賀昌宏 社団法人日本雑誌協会副理事長・株式会社小学館代表取締役社長:1951年
  • 大橋信夫 日本書店商業組合連合会代表理事・株式会社東京堂書店代表取締役:1943年
  • 小城武彦 丸善株式会社代表取締役社長:1961年
  • 金原優 社団法人日本書籍出版協会副理事長・株式会社医学書院代表取締役社長:調査中
  • 北島義俊 大日本印刷株式会社代表取締役社長:1933年
  • 喜多埜裕明 ヤフー株式会社取締役最高執行責任者:1962年
  • 佐藤隆信 社団法人日本書籍出版協会デジタル化対応特別委員会委員長・株式会社新潮社取締役社長:1942年
  • 里中満智子 マンガ家・デジタルマンガ協会副会長:1948年
  • 渋谷達紀 早稲田大学法学部教授:不明・一度大学から退職されています
  • 末松安晴 東京工業大学名誉教授・国立情報学研究所顧問:1932年
  • 杉本重雄 筑波大学大学院図書館情報メディア研究科教授:不明・1977年に大学卒業
  • 鈴木正俊 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ代表取締役副社長:1951年
  • 高井昌史 株式会社紀伊國屋書店代表取締役社長:1947年
  • 高橋誠 KDDI株式会社取締役執行役員常務 コンシューマ商品統括本部長:1961年
  • 徳田英幸 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長兼環境情報学部教授:1952年
  • 長尾真 国立国会図書館長:1936年
  • 楡周平 作家・社団法人日本推理作家協会常任理事:1957年
  • 野口不二夫 米国法人ソニーエレクトロ二クス上級副社長:不明・1982年ソニー入社
  • 野間省伸 株式会社講談社副社長:1937年
  • 三田誠広 作家・社団法人日本文藝家協会副理事長:1948年
  • 村上憲郎 グーグル株式会社名誉会長:1947年
  • 山口政廣 社団法人日本印刷産業連合会会長・共同印刷株式会社取締役会:1937年

生まれ年から類推するに70歳以上が7人、60-70歳が7人、50-60歳が4人、40-50歳が3人となっている(3人は不明だが50代、60代、70代一人ずつといったところか)。

年齢が高いことが一概に悪いとは言わないが、電子書籍という新しいメディアを論じるに当たってもう少し若い世代の意見を取り入れることはできないのだろうか。50歳以下だと産業再生機構から丸紅社長に就任した小城武彦氏、ヤフーの喜多埜裕明氏、KDDIの高橋誠氏となっている。

ネットの利用に関しては喜多埜氏と高橋氏の二人についてTwitterのアカウントが確認できた(@kitano123@makjob)。あとは三田誠広がかなり古風な個人サイトを運営されている。しかしこれらも例外であり、参加者のテクノロジーの利用は進んでいないと見るべきだろう。。

業種別では、大学4、作家4、出版4、書店3、印刷3、ネット2、メーカー2、通信2、図書館1となっている(これに省庁関係者が加わる)。既存の出版の仕組みから利益を得ていると考えられる作家・出版・書店・印刷が14に対して、電子書籍を推進するであろうネット・メーカー・通信は6しかいない(作家は本来ニュートラルと考えられるが参加者はどなたも既に業界団体の上に立つ立場であるからして、既存の仕組みを支持していると考えるのが妥当だろう)。言うまでもなく経済学関係の人は見当たらない。

「中小の 出版業者の保護を図る狙い」とある割には中小出版業者の代表は少なく、むしろ大手出版社関係者が多い。金原氏が社長をつとめる医学書院が中小出版業と言えるが(訂正:年齢が違っている模様です)、医学書院の出版物の価格を考えると保護を図るという主張は消費者にとって受け入れがたいのではないだろうか

最後に、シャープの安達俊雄氏および丸紅の小城武彦氏は旧通商産業省出身だ。経済産業省が関わる懇親会なのだからこういった情報は公開するのが筋だろう

追記:金原氏の情報が違っているという情報を頂いたので注記しました。

iPadはe-bookリーダーじゃない

間の抜けたタイトルですが(どうも題名をつけるのは難しい)、Appleからついに発表されたタブレットマシンiPadがそこら中で話題なので関連記事でも紹介:

Three Reasons Why the iPad WON’T Kill Amazon’s Kindle – Bits Blog – NYTimes.com

iPadはiBooksという電子書籍ソフトウェアを搭載しており、AmazonのKindleの対抗馬と目されているが実はそうでもないという記事だ。

The Kindle is for book lovers, and the iPad is not.

Sure, the Kindle’s potential market may have shrunk today, since the two-books-a-year folks will now opt for the more versatile iPad.

But the Kindle (and other devices with E Ink screens) will continue to be the best device for lovers of long-form reading, period.

一つ目の理由は、Kindleがターゲットとしてる層とiPadがターゲットとしている層が全く違うということだ。これは非常に重要なポイントだ。何故なら、読書と音楽ではユーザーの嗜好の分布が全く異なるからだ。音楽であればもちろんマニアは存在するが、一般人もかなりの消費を行う。しかし、これは書籍には当てはまらない。

1/3 of high school graduates never read another book for the rest of their lives.
42 percent of college graduates never read another book after college.
80 percent of U.S. families did not buy or read a book last year.
70 percent of U.S. adults have not been in a bookstore in the last five years.

どの程度信用できるかは分からないがこちらのページが引っ張ってきた統計だ。普段から読書をする人には信じ難いが、読書を全くしない人というのはかなり多い(参考:Facebook | Grad Students グループ)し、識字率にさえ問題のあるアメリカでは(参考:ヤクザと識字率)その傾向はさらに顕著だ(待ち時間なんかにただボーッとしている人が多い)。

Kindleが読書マニア向けのデバイスとすれば、iPadは読書のライトユーザーのためにデバイスとなるだろう。これはAppleがiPodでとった戦略に近いだろう(iPodが音質を売りにしたことはないと思う)。例えば、ゴシップ誌が唯一の読み物という(おそらく毎月一冊以上本を読む人より多い)層にとってe-inkは必要ない。カラー液晶の方がいいに決まってる。

ただiPodと違うのは、読書のライトユーザーは音楽のライトユーザーとは異なり、大したコンテンツ消費を行わないということだ。Appleはこの層だけを相手に(既にAmazonが大きなシェアを持つ)電子書籍ビジネスを行うことはできない。逆に他の会社が電子書籍を独占しその余剰を回収されるほうが困るのでオープンなePubフォーマットが採用されているのは自然だ。

Appleの狙いは今のところ限定的な市場であるタブレットを市場として確立させることだろう。それを成し遂げるためにはタブレットの価値を上げる必要があり、電子書籍はその一つの方策、行ってみればおまけだ(もちろんKindleとの関係を市場が騒ぎ立ててくれる分には大歓迎だろうが)。そのブランドを最大限に活用して電子書籍リーダーとしてのKindleやネットブック・ラップトップとは違う新しい市場を開拓するというのはAppleらしい。実際Appleは「Apple – iPad – The best way to experience the web, email, & photos」と紹介しており、e-bookは出てこない。

Amazon will continue to improve on the Kindle.

Amazonは先行者ではあるが、Kindleはニッチ市場を相手にしているため、さらに製品の特化を進め、一段とiPadから離れていくはずだ。本業が書店であるAmazonにとってこの戦略は非常に合理的だ。本を殆ど読まない層を頑張って取り込む必要もない。

The Kindle store will continue to thrive.

Amazon smartly separated its Kindle hardware division from its Kindle e-book store and has since released or announced Kindle apps for the iPhone, PC, Mac and Blackberry.

Kindleを生産するハードウェア部門は電子書籍の販売部門とは分離されているし、Kindleのアプリケーション版は様々なプラットフォームで展開されている。これはプラットフォーム企業に典型的な戦略だ(参考:Googleのプラットフォーム戦略)。プラットフォームの魅力が増すことが最も重要なことであり、その上のアプリケーション層を狙うのはむしろ特殊なケースだ

KindleにはDRMもあるので、あわよくばe-bookリーダー市場でiPodのようにシェアを取れればいいと考えていたのだろうが、書店であるAmazonにその絶対的必要はない。e-bookリーダー市場が他社に独占されて書籍販売による利益を回収されてしまわなければ十分だ。Amazonが欲しいのはハードウェアとしてのKindleではない。リーダーが競争的に(安く)供給されるならAmazonは書籍販売で利益をあげられる。もちろん競争はあるだろうが、それは電子書籍でなくても同じことであり、Amazonがそこで既に競争優位を持っている。

出版社・芸能事務所・フリー編集者

電子書籍化が国内出版社同士の協力を促しているというニュース。気になったのは電子書籍の出版権についての記述だ。

asahi.com(朝日新聞社):電子書籍化へ出版社が大同団結 国内市場の主導権狙い – 文化

著作権法ではデジタル化の許諾権は著作者にある。大手出版社幹部は「アマゾンが著作者に直接交渉して電子書籍市場の出版権を得れば、その作品を最初に本として刊行した出版社は何もできない」と語る。

現状では出版社は電子書籍の出版権を持っていない。よってアマゾンのような第三者がその権利を著作権者から直接取得してしまう可能性がある。

日米の「綱引き」で作家の取り分(印税)が紙の本より上がる可能性は高い。出版社から見れば、作品を獲得するためにアマゾンとの競争を迫られることになる。

作家の取り分が紙の本より上がることは社会的にみれば望ましい。ある書籍のがもつ潜在的な市場規模のうち、著作権による独占で得られる著者の取り分はかなり少ない。よって本来社会的には価値のある著作も、著者の個人的見返りに見合わないために執筆されない。作家の取り分が増えればより多くの著作が世に出回る

講談社の野間省伸(よしのぶ)副社長は「経済産業省などと話し合い、デジタル化で出版社が作品の二次利用ができる権利を、著作者とともに法的に持てるよ うにしたい」との考えだ。新潮社の佐藤隆信社長は「出版社の考えが反映できる場を持つことで国内市場をきちんと運営できる」と語る。

そうすると、電子書籍の権利の話は出版社が自分の取り分を維持したいだけのようにも聞こえるがそうでもない。何故なら電子書籍の売上と紙媒体での売上には外部性があるからだ。出版社にとっては営業努力をして紙媒体で売った作品を電子書籍でばらまかれては努力が無駄になってしまう。逆に、新規の著作では電子書籍が紙媒体のプロモーションのために使われるだろう。

このような問題を解決する簡単な方法は二つの販売経路を一つの主体が管理することだ(内部化)。そうすれば、紙媒体の売上への影響も計算にいれた上で電子書籍のプロモーションを行うことが出来る。

出版社も新しい出版契約についてはデジタル化の権利まで含むものにするだろうが、過去の契約については作家と再交渉が必要、つまり作家への見返りが必要であり、これを政策的になんとかしてほしいというのが上の発言だろう。

ただ、この流れが電子書籍の権利までに止まるかは疑わしい。音楽市場においてデジタル化は音楽の販売によって利益を上げるというビジネスモデル難しくした。アーティストはライブパフォーマンスで稼ぐようになっており、既に有名アーティストがコンサートプロモーターであるLiveNationのような企業と契約している。これは上の理屈と全く同じで、ライブと音楽販売との間の外部性を内部化するビジネスモデルだ。前者の重要性が増せば、ライブを本業とする企業がレコードレーベルに優位に立つのも頷ける。

書籍でも執筆者にとって著作の売上自体の重要性は減っていっている。収益化の難しいデジタル化はその流れを加速させるものだ。本を出版することで知名度・ネットワークを築き、別の経路でその金銭的リターンを享受しようとする人が増えれば、出版は個人のプロモーションの一部でしかなくなる

そうなったときに出版社が競争優位を持っているとは限らない。個人レベルのプロモーションでは例えば芸能事務所に分がある。今ならソーシャルメディアのコンサルタントがプローモーターとなることもありうるだろう。プロモーションを一手に引き受けるものが出版も手がける。

また利益の回収方法が多様化すればそれを適切にカバーするビジネスがなくなるかもしれない。そうなれば、将来稼ぐことを見越して出版社が作家を囲い込むことはできなくなる。有名になったとして出版で稼いでくれないなら投資を回収できないからだ。結果、著者自身がリスクを負った上で必要に応じて外部と契約することが多くなるだろう。これはフリーの編集者という職業を生む。

現在の出版社が生き残ろうと思うなら、音楽業界がたどった道を分析し、それに抗うのではなくうまく乗っていくべきだ。

追記:

紙の本の出版権とデジタル化権の抱き合わせには反対」に実際の業界の慣習を交えた興味深いエントリーがある。これについても後ほど考察したい。

電子出版は誰に必要か

「電子出版の未来を考える会議」レポート « マガジン航[kɔː] via Geekなページ

電子化のメリットを多く受けるのは都市部ではなく、配本が行われない地方になるのかもしれません。

これはあまり強調されないがその通りだ。電子化というのは出版の限界費用を下げることであり、その最大の潜在的利益享受者は書籍を手に入れることができていない市場の消費者だ。企業は限界費用を下回る価格では財の販売をしないので当然だ。

同様の利益享受者としては私を含めた海外在住日本人があげられる。私は紙の本が好きなので週1,2冊はAmazon.comで注文しているが、アメリカで日本語の本を買ったことはない。わざわざジャパンタウンにいくのも大変だし、欲しい本がそこにあるとは限らない(というか多分ない)。日本のオンライン書店を使ったり、店舗で取り寄せしたりすることは可能だろうがかなりの費用がかかる。もし日本の本がKindleで簡単に手に入るなら紙の本が好きな私もKindleを即注文する。

こういう潜在顧客層は非常に貴重だ。電子出版化で限界費用が下がったからといって、市場価格を下げれば利益が落ちる。限界費用がゼロになったからといって価格をゼロにすれば固定費用が回収できないからだ。しかし、現在定価よりも1000円高く払っている層に定価で書籍を提供するなら既存の市場と共食いになり利潤が損なわれることはない。特に海外での販売であればおそらく海外の顧客と国内の顧客とを識別することが可能なので(第三種)価格差別でより効果的に利益をあげることができる。

もちろんDRMは不完全なので電子出版を一度行えばある程度の不正コピーは避けられない。しかし、電子出版をすべて避けて通ることはできない。特に入手が難しいような専門書の類など、もとから大した利益が上がっているとは思えない。そういった本の執筆の最大の目的は執筆者の名声・評判をあげることであり、書籍と補完的なサービスの提供で利益をあげればいいのではないだろうか。これは音楽業界で既にかなり進行していることだ。

追記:肉団子さんのRetweetにあるように、マニア向けの書籍を電子化するのも理にかなっている。マニアは既に他の人が欲しがらなくなった絶版本などを買いたがっているので彼らにそれを提供しても既存の売上には影響がない。紙であれば絶版した本を再び販売するコストが高すぎて不可能だろうが、電子化されていれば利益をだせる。すべての消費者に対して電子書籍を提供せずに、部分的な導入だけを考えても電子書籍を販売することはプラスだろう。