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衰退産業が持ち出す文化議論

February 4th, 2010

今日、仲俣暁生さん(@solar1964)が「そもそも出版文化って、文化なんだろうか」と発言されていた。しかし、出版業界の人間でもない私にとって出版が文化かどうか自体にはあまり興味がない。単に「文化」の定義によって決まるだけの話で、出版業に特別な文化的要素があるのなら銀行にも医療にも、当然アカデミアにもある(そして保護したいようなものでもない)。それなりに閉鎖的な業界ならどこでも「文化」と呼びうるものがあるだろう。消費者にとっては重要なのはその「文化」が何を生み出すかであって、「文化」そのものではない。

では何故今になって出版業界は文化について論じ始めたのか。これは業界を保護してもらう口実だ。それも、「出版」ではなく「業界」であることがポイントだ。「出版」を守るためなら出版「業界」を守る必要はない。日本の農業や林業を守るために既存の業界における「文化」を保護する必要がないのと同じだ。だから、農業・林業保護の議論に株式会社導入は表立って出てこない。

文化そのものである著作物の生産やその流通を政府が支援する理由はいくらでもある。最も大きいのは著作物の公共財的性質であり、著作権は(本来期間を限定された)独占権を与えることで著作者にインセンティブを与え、出版に関わる人々はその権利から生じる利益の一部を得る。しかし、今出版業界に起きているのは競争相手の出現だ。そして著作者にとってはダウンストリームで競争が起きることは取り分が増えるという意味で望ましい(出版社がKindleとiPadが競争するといいと思うのと同じだ)。

一産業が自分たちのやっていることは文化だと言い出す時、その業界は回復の見込みがない程に衰退へと向かっている。重要なのはその産業が担っていた機能が社会に提供されているかであって、以前その機能を果たしていた業界が存続しているかではない。既存企業を保護することは技術変化に対応して新しい価値を提供する新規企業を潰すことでもあり、業界が「文化」と言う言葉を使った時は特別に慎重になる必要がある。

タブレットと新聞業界 by Google

January 29th, 2010

Advertising AgeにGoogleでChief EconomistをつとめるHal Varianによるタブレットと出版業界との関係についての発言がまとめられている(今週の水曜日にJ-schoolであった)。

Google Exec Says Newspapers Need to Re-Think Their Models – Advertising Age – Digital

まず新聞業界が直面している問題についてはこう述べている:

The trouble is the audience for news has been declining. Newspaper circulation has been slipping since 1990 and has plummeted in the past five years. Online, only 39% of internet users surveyed by Pew said they spent time online looking for news.

紙の発行数が落ちているにも関わらず、オンラインでニュースを探している人は39%しかいないという。

“The verticals that drive traffic are things like sports, weather and current news, but the money is in things like travel and shopping,” says Mr. Varian. “Pure news is the unique product that newspapers provide, but it is very hard to monetize.”

しかもそのオンラインで人々が読むのはスポーツ・天気予報・最近のニュースなどであって、新聞社にとってお金になる旅行やショッピングではない。そういったものは専門のサイトにいけばいいからだ。紙の流通費用によってさまざまな情報をバンドルして売っていた新聞はその能力を失っている。本当に新聞特有の情報である純粋なニュースは(著作権の保護もなく)利益にするのが非常に難しい

Typically, 53% of newspaper spending goes to traditional printing for distribution — costs eliminated through digital distribution — compared with 35% on what the Google exec called the “core” functions of news gathering, editorial and administration.

これに対抗する一つの方法は支出を減らすことだ。新聞社の支出の53%は印刷や配達などに充てられており、ニュースを作ることには35%程しか使われていないそうだ。よって、オンラインに移る過程で前者の支出をカットしていくことが収益改善につながる。The Huffington Postなどがいい例だろうか。

Google wants to help publishers use web technology to grow, Mr. Varian said. “I think papers could better exploit the data they have. They need better contextual targeting and ad-effectiveness measurement.”

逆に収益を増やす方法としては、Googleらしく情報の活用を上げている。オンラインでの行動は現実世界のそれに比べて情報収集が容易だ。これを利用すればより効果的な広告を打つことができる。個人の情報に基づいたきめ細かな価格差別によって収益率を上げることも可能だろう。

“We know there will be eventual competition from other devices, like the Kindle,” he said, “and of course there’s still the whole web. I don’t think the tablet should be viewed as the be-all and end-all of distribution.”

iPadがiPodのようにプラットフォームを支配して、消費者余剰を吸収してしまうことについてはKindleのような競争相手がいるので大丈夫だとしている。

“Users will likely engage with the tablet during peak leisure hours, and you would imagine that’s very attractive to publishers.”

むしろタブレットの存在はニュースが読まれる時間を増やすことにつながるため、新聞社にとっては魅力的だという。これはまず全体のパイを考えるエコノミスト的な視点だ。

しかし、一つGoogleにとって都合の悪いことが抜けているようにも思われる。確かにiPadがe-bookの市場を独占し余剰を吸収することはありそうにない。しかし、オンライン収益の鍵となる広告の市場はどうだろう。Googleが圧倒的なシェアを握る広告市場において、Googleはオークションの設計を通じて市場支配力を行使できる。もちろん既存のチャンネルよりも効率的なチャンネルを可能にした企業が利益をえるのは正当なことだが、それによって実際にコンテンツを生産している人間の利得が減ることはコンテンツ生産のインセンティブを与える著作権制度の趣旨からすると懸案事項だろう。

Mr. Varian’s list of suggestions doesn’t include pay walls, such as the New York Times’ plan for a metered approach to charging users. “It’s too easy to bypass,” he says.

ちなみにNYTの有料化については、簡単に回避できるという技術的な理由でうまくいかないとしている。