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iPadはe-bookリーダーじゃない

間の抜けたタイトルですが(どうも題名をつけるのは難しい)、Appleからついに発表されたタブレットマシンiPadがそこら中で話題なので関連記事でも紹介:

Three Reasons Why the iPad WON’T Kill Amazon’s Kindle – Bits Blog – NYTimes.com

iPadはiBooksという電子書籍ソフトウェアを搭載しており、AmazonのKindleの対抗馬と目されているが実はそうでもないという記事だ。

The Kindle is for book lovers, and the iPad is not.

Sure, the Kindle’s potential market may have shrunk today, since the two-books-a-year folks will now opt for the more versatile iPad.

But the Kindle (and other devices with E Ink screens) will continue to be the best device for lovers of long-form reading, period.

一つ目の理由は、Kindleがターゲットとしてる層とiPadがターゲットとしている層が全く違うということだ。これは非常に重要なポイントだ。何故なら、読書と音楽ではユーザーの嗜好の分布が全く異なるからだ。音楽であればもちろんマニアは存在するが、一般人もかなりの消費を行う。しかし、これは書籍には当てはまらない。

1/3 of high school graduates never read another book for the rest of their lives.
42 percent of college graduates never read another book after college.
80 percent of U.S. families did not buy or read a book last year.
70 percent of U.S. adults have not been in a bookstore in the last five years.

どの程度信用できるかは分からないがこちらのページが引っ張ってきた統計だ。普段から読書をする人には信じ難いが、読書を全くしない人というのはかなり多い(参考:Facebook | Grad Students グループ)し、識字率にさえ問題のあるアメリカでは(参考:ヤクザと識字率)その傾向はさらに顕著だ(待ち時間なんかにただボーッとしている人が多い)。

Kindleが読書マニア向けのデバイスとすれば、iPadは読書のライトユーザーのためにデバイスとなるだろう。これはAppleがiPodでとった戦略に近いだろう(iPodが音質を売りにしたことはないと思う)。例えば、ゴシップ誌が唯一の読み物という(おそらく毎月一冊以上本を読む人より多い)層にとってe-inkは必要ない。カラー液晶の方がいいに決まってる。

ただiPodと違うのは、読書のライトユーザーは音楽のライトユーザーとは異なり、大したコンテンツ消費を行わないということだ。Appleはこの層だけを相手に(既にAmazonが大きなシェアを持つ)電子書籍ビジネスを行うことはできない。逆に他の会社が電子書籍を独占しその余剰を回収されるほうが困るのでオープンなePubフォーマットが採用されているのは自然だ。

Appleの狙いは今のところ限定的な市場であるタブレットを市場として確立させることだろう。それを成し遂げるためにはタブレットの価値を上げる必要があり、電子書籍はその一つの方策、行ってみればおまけだ(もちろんKindleとの関係を市場が騒ぎ立ててくれる分には大歓迎だろうが)。そのブランドを最大限に活用して電子書籍リーダーとしてのKindleやネットブック・ラップトップとは違う新しい市場を開拓するというのはAppleらしい。実際Appleは「Apple – iPad – The best way to experience the web, email, & photos」と紹介しており、e-bookは出てこない。

Amazon will continue to improve on the Kindle.

Amazonは先行者ではあるが、Kindleはニッチ市場を相手にしているため、さらに製品の特化を進め、一段とiPadから離れていくはずだ。本業が書店であるAmazonにとってこの戦略は非常に合理的だ。本を殆ど読まない層を頑張って取り込む必要もない。

The Kindle store will continue to thrive.

Amazon smartly separated its Kindle hardware division from its Kindle e-book store and has since released or announced Kindle apps for the iPhone, PC, Mac and Blackberry.

Kindleを生産するハードウェア部門は電子書籍の販売部門とは分離されているし、Kindleのアプリケーション版は様々なプラットフォームで展開されている。これはプラットフォーム企業に典型的な戦略だ(参考:Googleのプラットフォーム戦略)。プラットフォームの魅力が増すことが最も重要なことであり、その上のアプリケーション層を狙うのはむしろ特殊なケースだ

KindleにはDRMもあるので、あわよくばe-bookリーダー市場でiPodのようにシェアを取れればいいと考えていたのだろうが、書店であるAmazonにその絶対的必要はない。e-bookリーダー市場が他社に独占されて書籍販売による利益を回収されてしまわなければ十分だ。Amazonが欲しいのはハードウェアとしてのKindleではない。リーダーが競争的に(安く)供給されるならAmazonは書籍販売で利益をあげられる。もちろん競争はあるだろうが、それは電子書籍でなくても同じことであり、Amazonがそこで既に競争優位を持っている。

iPadはe-bookリーダーじゃない」への9件のフィードバック

  1. 子飼弾さんの記事を読んで買う人なんているのかと思いましたが、インタラクティブな絵本とか教材とかにも使えるのかな。
    個人的にはPCと携帯で十分なので、書籍をpdfやメルマガで安く提供してくれた方がうれしいですが。

    • 今でもタブレットを購入している人は少なからずいるので、そういった層には受けるかもしれません。タブレット欲しいけどAppleしか買わないとか。

      教材としてはキーボードがないのはどうなんでしょうかね。自分のコンピュータの使い方が一般から乖離しているのであまりつかめていません。ただ授業のハンドアウトなんかをiPhoneで見ている学生は見かけますね。

      >個人的にはPCと携帯で十分なので、書籍をpdfやメルマガで安く提供してくれた方がうれしいですが。

      まったく同意です。特に学術論文の類がもっと公開されるといいのですが。

      本はあまり値段を気にせず、どんどん頼んじゃってますが。

  2. アマゾンはハードウェアと限定せず、プラットフォームで勝負してくだろうというのは、よく分かりませす。iPadもiPhone同様Kindle storeのチャネルにもなるのでは?だとすると、題名のiPadはe-Book readerではない、というのがよくわかりません。

  3. 誤字がありまして失礼しました。
    アマゾンはハードウェアと限定せず、プラットフォームで勝負してくだろうというのは、よく分かります。その戦略化では、iPadもiPhoneやPC同様Kindle storeのチャネルにもなるのでは?だとすると、題名のiPadはe-Book readerではない、というのがよくわかりません。

    • primaryにe-book readerではないという意味です。そこに注目するのはおかしいということで、kindle storeのチャンネルになるのはappleにとってもamazonにとっても悪いことではないでしょう。

  4. ピンバック: iPadは何を創り出すのか – 出版社がこんなことするから弾かれる日本市場 « そうだ!スタンフォ~ド、行こう。

  5. I am the proud owner of an Amazon Kindle, but I think that he will soon be replaced. I myself am excited about the Kindle, however, that thrills me even more of Apple iPad.

  6. ピンバック: バイオマスからエネルギー

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