日本の英語力

日本人のTOEFLでの点数が低すぎるという話題があったので最新データを紹介。

TOEFL® Test and Score Data Summary for TOEFL Internet-based and Paper-based Tests: 2009 Test Data

現行のTOEFL iBTはReading, Listening, Speaking, Writingの各30点、合計120点となっている。以下はデータのあるアジアの国々について各セクションの平均点数を表示し、総合点でランク付けしたものだ。ラオスが60点で最下位、日本はタジキスタンと共に67点で二番目に低い。特にスピーキングの平均16点は単独世界最低となっている。

アフリカ・中東以外だと、日本よりも平均的の低い国はハイチとラオスしかない。ヨーロッパは流石に高く、オランダでは平均点が大学院出願などで必要となる最大点数である100を超えている。

注:各セクションの平均値の合計とはずれる総合点の平均値でソートしているので順序が前後している箇所がある。

追記:国によって受験者の母集団が異なるので、この数字を持って各国の英語力ないし英語教育を論じるのは難しいですが、一応こういうデータがあるという程度に理解頂ければ幸いです。コメント欄でご指摘頂いている通り、レポート中にも注意書きがあります。

”The differences in the number of students taking the test in each country,…, and the fact that those taking the test are not representative of all English speakers in each country or any defined population make ranking by test score meaningless”.

クリアに考えること

深いことを言ってるような雰囲気で、実際によく読んでみると何を言ってるのか分からない文章は多い。一々突っ込んでいても埒があかないし、そんな時間もないので、次のニコラ・テスラの言葉を送りたい(磁束密度の単位に使われているテスラだ)。

The scientists of today think deeply instead of clearly. One must be sane to think clearly, but one can think deeply and be quite insane. (Nikola Tesla, Modern Mechanics and Inventions. July, 1934)

どんな文脈で出てきたのか知らないがいい言葉だと思う。科学者に宛てられているが、これは数学を用いない学問にこそ当てはまる。数学は複雑な対象を明晰に考えるための補助輪のようなものだ。そのレールに乗っている限り仮定から論理的に導けないことは主張できない(注)。逆に言えば、数学が使えないような分野でこそ論理的な思考の重要性は増す(だから論理的思考云々というビジネス書が売れるのだろう)。数理モデルがないような主張をする時には気を引き締めたい。その意味で、数学ができないから文系なんていうのは実におかしなことだろう

(注)これが義務教育で数学を教える本当の理由だろう。数学ではどれだけ明らかに見えることも証明できなければ意味がない。当たり前だと泣き叫ぼうがいくら具体例を挙げようが、数学のプロトコルに沿って順序立てて説明する必要がある。これは子供に社会にはルールがあることを教え、幼児的全能感から抜け出させる一つのステップになる(だから数学が抜きん出てできる人は子供っぽいことが多い)。

ノミクス

前のエントリーでScroogenomicsを紹介したがJoshua Gansは以下のような発言をしている:

Joel Waldfogel in his new book, Scroogenomics (will the onomics trend know no end?) tell us in a series of essays why you shouldn’t buy presents for the holidays.

ScroogenomicsはScrooge+nomicsで出来ている。もちろんnomicsはeconomicsから取ったものだが、元々はギリシャ語のoikos+nomosだ。oikosは家庭という意味でnomosは習慣とか法律という意味だ(ギリシャ哲学におけるノモスとピュシスの話は大学にいけばどこかで聞くだろう)。語源的にはnomicsだけを他の単語につなげるというのはあまり筋が通っていない。nomic(s)ないしnomyが語尾になっている単語は他にもergonomics、mnemonic、taxonomyなど色々ある。onomicsとなっている場合-o-は繋ぎで入っている(psych-o-logyなどと同じ)。

エコノミクスとの関連で作られた造語としては、Reganomics、Obamanomicsのような人名やFreakonomics、Parentonomics(Joshua Gansの本だ)のような経済書がある。ちなみによく似た接尾辞-omicsがあり、こちらもカタカナでオーミクスと言えば通じる(?)ほどよく使われている(本当はReganのようなnで終わる単語にnomicsをつける場合は-o-をはさむべきなのだろう)。

オックスフォードの面接問題

オックスフォード大学の選考過程で聞かれる質問の例がTimesに掲載されている。こういう選考を行っているのなら日本とは全く違う大学生が生まれるのはよく分かる。ただ日本では二つの文化から現実性は薄そうだ。一つは、筆記試験という明確な基準を好む強い傾向。もう一つは大学入試に対する考え方の違いだ。ここであげられている質問は本当に頭のよい学生を選ぶことを目標としているが、日本の大学入試は選ぶことが主な目的というよりも、勉強をすればいい大学にいけるというシステムを作ることで勉強を促すメカニズムになっている。

Oxford University interview questions: the examples – Times Online

Subject: Geography

Q: If I were to visit the area where you live, what would I be interested in?

地理:もし私があなたの住んでいる場所を訪れるとしたら、どんなことに興味を持つと思いますか?

今住んでいるバークレーであれば、容積率規制とゾーニングが与える景観への影響や、以前紹介した街並みに現れる保守性と政治思想との間の不整合について論じたい。

Subject: Modern languages

Q: What is language?

現代語:言語とはなんですか。

言葉が通じることと人間か否かの判定、どうして言語が倫理の範囲を確定するか、全く異なる言語体系を持つ民族ないし異星人を想定することの意味などが面白いかな。月並みでよければゲームの均衡としての言語を論じればよさそう。

Subject: English

Q: Why might it be useful for an English student to read the Twilight series?

英語:英文学の学生がTwilightシリーズ(吸血鬼が題材の小説)を読むことの意義は何ですか。

読んでいないので分からない…。

Subject: Medicine

Q: Why does your heart rate increase when you exercise?

医学:運動時に脈拍が上がるのは何故ですか。

三レベルの説明が可能か。酸素の供給が必要なこと、そのことを伝達するインフラが存在すること、そのようなシステムを持つ生物が進化論的に生き延びること。

Subject: Biological sciences

Q: If you could save either the rainforests or the coral reefs, which would you choose?

生物学:熱帯雨林か珊瑚礁を救えるとしたらどちらを選びますか。

生物学なので熱帯雨林・珊瑚礁が環境に与える影響を論じるべきだろうが、個人的には費用便益分析を持ち出したい。

Subject: Law

Q: What does it mean for someone to ‘take’ another’s car?

法学:誰かが他の人の車をtakeするとはどういう意味ですか。

まずいろいろな意味がありうることを述べる。そしてそれぞれの用法において社会への影響が異なり、法律的に別の行動として扱われていること、それが言葉の選択にも現れていることなどを述べたい。

Subject: Engineering

Q: How would you design a gravity dam for holding back water?

工学:水を保持する重力ダムを作るとしたらあなたはどう設計しますか。

適当な角度の斜面にダムを作ることを想定し、形状により構造物への負荷がどう変わるかを計算してみるかな。

元記事には面接官のコメントも掲載されている。

TOEFLの行方

出版大手のPearsonがついに英語能力検定業界に参入するそうで:

Quick Takes: Pearson Formally Kicks Off Test to Challenge TOEFL – Inside Higher Ed

現在のこの市場はETSのTOEFLが支配的だ。他にはIELTSがあるが、英連邦の国々以外ではあまり普及していない。

上記記事からリンクされているNew Challenge to TOEFLにTOEFLの問題として会話能力の測定が挙げられている。

“It’s a complaint we hear time and again. Candidates do very well on the written examinations, but they aren’t prepared to engage in dialogue in the classroom,” Wilson said.

TOEFLにもスピーキングが導入されているがどの程度役にたっているのだろう。自分が最初に受験したのは21の時だった。当時は学校の授業以外で英語を使ったことなど一度もなかったがほぼ全てのアメリカの大学院の要求するスコアは越えていた(受験英語も捨てたものではない)。逆に23で二度目受けたときは日常的に英語で会話していたが初回と比べそこまで大きなスコアの違いはなかった(10%も上がっていない)。二回とも特に準備して受けたわけではないので同じ条件だったように思う。

Pearson’s Anderson said that in planning the new test, the recording was viewed as key by admissions officers. The recording will not be reading, but will be of the candidate responding to a prompt requiring analytic thought and explanation — something comparable to what a student might experience in a classroom.

新しい試験では録音内容を学校側も聞けるようにするようだ。これは正しい方向のように思える。スクリーニングが目的であれば、他のスコアで可能である。少なくとも録音を提供しない理由はない。実際に議論や授業を行っているところをビデオに取れば会話ができるかどうかは一目瞭然だろう。

スピーキングの内容を専攻別に分ければより効果的だろう。その昔気まぐれで英検一級の試験を受けたが、面接での得点が足りず落ちた。その時の内容は確か、化粧品開発のために動物実験を行うことの是非について二分で喋れというものだったが、どうやったら二分でまとめられるのか全く分からず功利主義から始めて失敗した。おそらくあまり真面目に考えず、可哀想だ・エイリアンがやってきて人間を使ったらどうする、とか適当に妄想すればよかったのだろうが、そういうのは非常に苦手だ。何か専攻に関連する情報やシラバスのようなものを与えて質疑応答するなどの方がよいように思う。

内容がどのようなものになるにしろ、競争相手の登場は受験者にとっては非常に望ましい。現状のTOEFLの大きな問題には高価格と低品質なサービスがある。日本での受験料は事前予約済みで$200であり、近年上昇し続けている。またサービスのレベルはかなり低い。私が利用した際にはTOEFLのスコアが応募締切りに間に合わないことが多かった(但し、このことは大学側によく知られているのもあり、最終的に届けば問題にはならない)。

この市場への参入は比較的困難である。受験者側は最も多くの大学が受け入れる試験を受ける強い動機がある。受験予定の大学のうち一つでも新しい試験を認めていなければTOEFLを受けることになるだろう。この構造を変えることは困難だ。新規参入者は市場の反対側、大学に注力すべきだ。大学側は新しい試験を認めるのに大きな費用が必要なわけではない。多くの学生が望んでいるのであれば導入するのに抵抗はないだろう。Pearsonは新試験がTOEFL程度の信頼性があることを示し、スコアの読み方を説明し、より使いやすいサービスを提供すればよい。既にビジネススクールの集団を取り込んでいるのは正しい方向性だ。受け入れてもらうために金銭ないし教材などを提供することもありえるだろう。