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死刑の是非

最近死刑に関する議論を目にした。死刑、すなわち一定の犯罪に対して罪人の生命を奪う刑罰が存在するメリットはなんだろうか。以下の三つぐらいしか思いつかない。

  1. 一種の仕返しによる被害者の喜び(追記:直接の被害者死亡している場合が多いが、ここでは遺族など間接的な「被害者」を含める)
  2. 再犯の防止
  3. 死刑が適用される犯罪を行うことの利得低下に伴なう抑止効果

まず1だが、仕返しが刑罰の正当な根拠にならないだろう。

  • 加害者を殺害しても被害が回復するわけではない。
  • 加害者の殺害自体に喜びを感じる人がいるとしても誰もがそうではない。
  • 一般的に仕返しは道徳的に正当な行為とみなされてはいない。
  • 加害者の殺害が仕返しとして最も有効とは言えない(拷問でもしたほうが苦痛ではないか)。
  • 刑法の他の部分が仕返しを目的としてできているようには思われない。
  • 被害者の効用を高めることが目的なら金銭補償なども可能。

2は矯正の見込みのない犯罪者を社会から隔離する機能だ。これは(パロールなしの)無期懲役で代替可能だ。

3の抑止効果については(サンプルがないので)測定が難しいが、多くの研究ではほとんど存在しないと結論づけられているようだ。犯罪者にとって死刑と無期懲役の違いが何かを考えれば自然な結論だろう。死刑の有無よりも刑務所での生活の質が犯罪率により大きな影響を与えているという研究もある。抑止効果を考えるなら刑務所の待遇を下げればよいわけだ。

よって1を考えなければ死刑と無期懲役の2,3に関する効果にはあまり差がないことが分かる。無期懲役が死刑と異なるのは次の二点だろう。

  • 刑務所で受刑者を養う費用がかかる。
  • 冤罪の場合に補償の余地がある。

現実の死刑制度においては死刑の執行の方が費用がかかるなんて話もあるようだがとりあえず死刑だと費用が最小限で済むとする。するとトレードオフはお金と冤罪の危険性となる。普通の人が生きていくのに苦労するような国であれば税金で受刑者を一生養う費用はバカにならないだろう。しかし、日本のように豊かな国であれば冤罪で無罪の人を殺害してしまう(ないし殺されてしまう)危険性を重要視するのが自然に思えるがどうだろう(費用が掛かり過ぎるなら待遇を下げればよく、抑止効果も増す)。

司法修習給費制の根拠

大変立派な法曹関係者も数多いが、これでは給費制への支持は得られない。

「国民の権利の守り手危うくする」 司法修習給費制廃止で緊急シンポ

日本弁護士連合会会長で、同会司法修習費用給費制維持緊急対策本部本部長として活動する宇都宮健児弁護士が「給費制の維持を!~若い人の夢や志を奪うな!~」と題し講演しました。

「若い人の夢や志」を問題にするなら、その対象を平均的に資力にも能力にも恵まれた司法修習生に限る必要はない。ましてや、その全員に給付する根拠にはならない。

宇都宮氏は、多重債務者の債務額を上回る奨学金を返済している弁護士が多くいる現状を紹介

多重債務者の債務額を上回るローン(※)を抱えている事自体は問題ではない。一般的な体重債務者と司法修習生の返済能力は大きく異なる。

(※)貸与なので奨学金と呼ぶのは不適切だ。

「弁護士になってからも貸与金返済のために仕事を選ばざるを得なくなる」と貸与制の問題点を指摘し

確かにお金で仕事を選ばないといけないのは悲しいことだ。しかし、選ばないでいいという権利は誰にも保証されていない。弁護士になる人だけが仕事を選べるべきという根拠はどこにあるのだろう。今の仕事を辞めてNPOでフルタイムの仕事をしたいという人と比べてどうだろうか。

「弁護士は基本的人権の擁護と社会正義の実現を自らに課していますが、その基盤を崩す貸与制は、社会的、経済的弱者の権利も奪うということ。若者の夢を奪うだけでなく、市民、国民の権利の守り手が危うくなる問題として運動を広げていきたい」

人権擁護や社会正義の実現(?)を目的とした職業は弁護士だけではないし、他にも社会的に意味のある目的はある。社会的・経済的弱者を守るのであれば弁護士ではなく彼ら自身を支援すればいいのではないだろうか。

「弟は大学生、妹は高校生で、父は休職していた。修習にどれだけのお金がかかるのか、自分が不安な状態で人の気持ちを考えられるかという不安がある」(同志社大学法科大学院修了生)

もっと不安な状態の人はいくらでもいるし、もっと大変な環境で遥かに不安定な研究キャリアに進む人も多い。人の気持ちを考えたいから、自分が安心するためもっとお金をくれという主張にどれほど説得力があるだろうか。

、「弁護士を目指していた友人は大学を首席で卒業したのに、父親がリストラされたので進学を断念した。そういう人たちをこれから出してほしくない」(立命館大学法科大学院3年生)

これも、悲しい事例ではあるものの弁護士だけを特別視する根拠にはならない(弁護士はむしろ金銭的リターンが高い)。優秀な学生には(返済義務のない)奨学金を与えて支援するの方が望ましいだろう。

ある業界の人たちが自分の業界内での社会問題を解決しようとするのは当然だという意見もあるだろうが、基本的人権の擁護・社会正義の実現を謳うのであれば自分たちの特権意識にもっと敏感であるべきだ。

フランスでは新聞が瀕死

以前、欧州の新聞社についての記事を紹介したが、いつの間にか瀕死に陥っていたようだ。

Le Monde on The Brink | Monday Note

France’s flagship daily is being crushed by a mountain of debt and has put out a call to investors capable of injecting between 80 and 120 million euros (100 to 150 million dollars) to come to its aid.

via Le Monde takeover battle in final stretch – Yahoo! News.

フランスで最も有名な新聞であるLe Mondeがキャッシュ不足で売りに出ているそうだ。

  • Le Monde seeks at least €100m (for a first round).
  • Le Parisien, a popular daily, is for sale; although quite good from an editorial perspective, it is not profitable and its family ownership wants to refocus on sports-related assets.
  • La Tribune, the n°2 business daily, is looking for a majority investor.
  • Liberation is also facing a  cash stress.

他の有力紙も惨憺たる状況だ。Le Parisienは売却先探し、La Tribuneは投資家探し、Liberationは現金不足とのこと。

どんな状況かが何やらパステル系のグラフにまとめらている。発行数は落ち、収益は落ち、営業利益はほとんどなく、損失が積み重なっている。

An excessive reliance on public subsidies which account for about 10% of the industry’s entire revenue.

しかも、これでも収益の10%は政府の補助金だという。日本でも新聞社の収益が落ちてきたら補助金を与えろとマスコミが運動を起こすのだろうか。フランスを見る限り補助金で問題は解決しないようなのでやめてほしいものだ。

The gent is paid €50,000 per year, works 32 hours per week and 164 days per year. Firing him costs about €466,000 – that’s a  French government estimate, it (we…) might pick part of the tab.

一つの問題は非効率な印刷施設だが、従業員は週32時間、年164日の労働で50,000ユーロを受け取っているそうだ。さらに、その従業員を解雇するにはなんと466,000ユーロかかるそうだ。これでは印刷施設を現代化することもできない。

スポーツリーグにも競争政策

NFLは反トラスト政策の対象になるとの判決が出たそうだ。

Supreme Court denies NFL’s request for broad antitrust protection

American Needle, Inc. sued, claiming the league violated antitrust law because all 32 teams worked together to freeze it out of the NFL-licensed hatmaking business and gave Reebok an exclusive 10-year license.

NFLの全チームがReebokに対する十年間の独占契約を結んだため、ビジネスを失った企業がNFLを訴えたケースだ。NFLの各チームが普通の企業であれば、これは半競争的な行動となる。

Major League Baseball is the only professional sports league with broad antitrust protection.

スポーツリーグではMLBだけが反トラストの適用除外を受けている。これはあるリーグのチーム同士は互いを補完する機能があるためだ(一般的に補完関係にある企業同士の協調行動は競争政策上の問題にはならない)。例えば、チームの実力差がありすぎれば試合がつまらなくなるため、それを防ぐような協調行動は許容される。しかし、チーム同士がファンを惹きつけるために競争しているのも事実で、それを妨げるような協定はファンの利益を損なう=競争政策の対象となる。

The argument that NFL teams also need each other to play an NFL season also doesn’t work, Stevens said. “A nut and a bolt can only operate together, but an agreement between nut and bolt manufacturers is still subject to” antitrust scrutiny, Stevens said.

NFLはこのチーム間の相互依存を反トラストの適用から逃れる口実としているが、判事はナットとボルトを作る企業の関係を挙げてそれを否定している。両者は互いを必要としているが、それだけで反トラストの対象とならないわけではないからだ。

“The fact that NFL teams share an interest in making the entire league successful and profitable, and that they must cooperate in the production and scheduling of games, provides a perfectly sensible justification for making a host of collective decisions,” he said.

それでは何でも反競争的になるという反論については、ゲームの運営などは協調行動をとる正当な理由になるから問題ないと撥ねのけている。これはスポーツリーグに対して、ケースバイケースで(反)競争性を経済的に判断する合理の原則(Rule of Reason)の適用を示唆するものだ

また、スポーツリーグが協調的行動を取っているのは観客に対してだけではない。スポーツ選手の採用においてもチーム同士が協力して行っている。これは選手のキャリアを大幅に制限する買い手独占であり、雇用主としてのスポーツチームに関する競争政策がどうなるかも興味深い

1000ページの温暖化対策法案

温暖化対策の法案であるAmerican Power ActKerry-Lieberman climate change bill)が987ページもあるのは何故か。

Making the Simple Complicated

経済学入門レベルでの温暖化対策は実に単純だ。温暖化が起きてしまうのは、大気汚染同様に、温暖化ガスを排出している主体=生産者が排出の本当のコストを負担していないからだ。二酸化炭素を出しても温暖化の分だけ罰金がかかるわけではないので出しすぎてしまう。

これを是正するのは簡単だ。生産者が排出の本当のコストを全て負担するように税金をかければいい。このような税金をピグー税という。税方式は、直接排出を規制するのに比べて多くの利点がある。以下はその例だ:

  • 経済主体が各自最適化するので情報面での政府の負担が少ない
  • 投資に関するインセンティブを歪めることなく税収が得られる

では、この法案はどうして1000ページ近くなってしまったのか。

First, it tries to do far more than just charge for carbon emissions.

一つ目の理由は二酸化炭素排出抑制以上のことに手を伸ばしすぎていることだ。

Standard economics suggests that many of these interventions would be unnecessary if we had the right tax on carbon emissions; if companies pay the full social costs of their actions, they have the right incentives to invest in greener technologies without any further help from Uncle Sam.

上に述べたように、適切な税(ないし排出権取引市場)を整備すればこうした政府によるマイクロマネジメントは本来必要ない。省エネ技術を直接補助しなくても、エネルギーが高くなれば投資・開発・利用は進むということだ。

The second reason that the bill is so big is that it uses a complicated cap-and-trade system rather than a simple Pigouvian tax.

二つ目の理由は、この法案が税方式ではなく排出権取引を利用していることだ。税方式であれば排出量さえ分かればあとは単に課税するだけだが、排出権取引の場合には権利の割り当てから取引市場の整備など制度的な負担は大きくなる。

In theory, a permit system can be identical to a tax.

排出権が税金に理論上劣っているということではない。どちらにしろ最適な水準を計算して、それだけの排出権を割り当てるかそれを実現するのに適切な税率を設定することになる。

Fixing the number of permits may actually be the right thing to do. As my colleague Martin Weitzman wrote almost 40 years ago, quantity controls are better than prices if we are more certain about the right quantity than we are about the right tax.

排出権という形で量を先に固定することは、税率よりも排出量に関する不確実性が大きい場合には(社会厚生的)に有利な政策となる。温暖化の場合でいえば、どれだけ温暖化ガス排出を抑えるべきかの方が単位当たりの費用を考える方がらくであれば排出権のほうが望ましいということになる。

Giving away permits rather than selling them is often defended as a means of ensuring that global warming doesn’t become an excuse for higher taxes.

排出権を無償で割り当てることは、温暖化対策を新たな税源とするのを防ぐという効果がある。これは税金に対する反感が根強いアメリカでは政治的に重要だろう。しかし、ピグー税による課税のメリットを享受できなくなる。

制度が複雑になる社会的な費用も考えればどちらが望ましいかは微妙なところだろう。

International trade is a third reason that this bill is so complicated, because we are trying to use domestic legislation to handle a global externality.

三つ目の理由は国際貿易だ。温暖化対策は国際的な枠組みで行わなければ効果がないが、現状では各国の国内法と条約を組み合わせていくしかなく、これによって制度が複雑になるのは避けられない。

If such treaties fail to materialize, the United States may start charging imports for the carbon used in their production.

ちなみに法案によれば貿易相手国が条約を遵守しない場合には、炭素量に応じて関税をかけるとのことだ。

While I understand the economic and political logic behind this approach, it is a distinctly dangerous path. Our trading partners will argue that these charges are tariffs in disguise.

これは、水掛け論から貿易戦争に突入する危険を孕んでいる。