発展途上国向け温暖化対策

気候変動対策における発展途上国の役割について:

Policies for Developing Country Engagement

温暖化対策となると日本を含めた先進国の責任ばかりクローズアップされるが、発展途上国が取り組める対策を考えるのも重要だ。特に、誰に道義的な(!)責任があるかという負担の擦り付け合いに終始しがちな点は残念だ。

For example, fossil fuel subsidies are common in many developing countries. Reducing or eliminating them would relieve budget pressures, promote more efficient energy use, improve energy security, and avoid unintended distributional consequences while also slowing the growth of GHG emissions.

しかし、温暖化対策になる政策の全てが痛みを伴なうものではない。例えば化石燃料への補助金は燃料価格を下げその消費を促進する。このような補助金を廃止することで、補助金のための財源(と課税に伴う経済の歪み=税の死荷重負担)が必要なくなるし、燃料の利用も適正化される。補助金には燃料の購買者の負担を減らすという再配分的意味合いもあるが、それは他の再配分手段で達成できる。また、実際には業界団体の圧力などで補助金が使われているケースも多く、温暖化対策を理由にそういった政治力を排除できるなら一石二鳥だろう。日本でも高速道路無料化なんて意味不明なことを言ってないで、気候や混雑への外部効果を計算にいれた適正な課税・通行料徴収を行うべきだ。

アル・ゴアの顕示選好

顕示選好(revealed preference)というのは消費者の行動からその消費者の好み=選好を捉えるという考え方だ。エコバッグをもって車でスーパーに行く人がエコとは言えないのと同じだ。

Sub Specie Æternitatis via The Big Questions

温暖化対策でノーベル賞を受賞したアル・ゴアに関する小さなニュースがある:

Former Vice President Al Gore and his wife, Tipper, have added a Montecito-area property to their real estate holdings, reports the Montecito Journal.

via Los Angeles Times

ゴア夫妻がカリフォルニアのモンテシートに900万ドル近い豪邸を購入したと言うこと。まあ有名人が高級住宅街に家を買うというつまらないローカルニュースだ。

So its minimum elevation above sea level is 0 feet, while its overall elevation is variously reported at 50ft and 180ft.

しかし、このモンテシートはかなり標高の低い地域で大体50フィートから180フィートしかないということだ。これはアル・ゴアと彼の主張にとって都合が悪い。

The elevation of San Francisco is variously reported at 52ft up to high of 925ft.

「不都合な真実」などで温暖化によって水没する危険があるとされたサンフランシスコは52フィートから925フィートで、モンテシートよりもかなり高い。もしサンフランシスコに水没の危険があるなら彼の新邸宅は確実に沈むはずだ。

もしこれが本当なら、温暖化による海水面が上昇すると彼が本当に信じていると考えるのは難しくなる。誰も藻屑と消える運命にある家に900万ドルを投じるはずが無い。

Please note that this is far stronger evidence of Mr. Gore’s lack of sincerity than his willingness to engage in a very carbon-intensive life-style of multiple mansions, private jets, and the like.

複数の家を所有したり、プライベートジェットに乗ったりすることへの批判よりも遥かに強力な批判となる。何故なら、個人で努力しても意味がないと論じることやプライベートジェットは効率的な啓蒙活動に必要だと論じることもできるのに対して、個人資産の購入は彼にとって損にしかならないからだ。

唯一考えられるまともな(?)正当化は、自分が温暖化対策に奔走するというコミットメントとしてというものだが、それなら大々的に発表するだろう。

このことと実際に温暖化は存在するかとは関係ないし、対策の必要性がなくなるわけでもないが、彼は(善悪は別として)話をかなり誇張と考えるのが妥当なように思える。

COP15と笑える舞台裏

あまり経済とは関係ないが地球温暖化に関する面白い記事(温暖化に関する他の記事はこちら):

Copenhagen climate summit: 1,200 limos, 140 private planes and caviar wedges – Telegraph

コペンハーゲンでは地球温暖化に関する国際会議(COP15)が開かれているが、現地の人たちは大忙しだ。

“We haven’t got enough limos in the country to fulfil the demand,” she says. “We’re having to drive them in hundreds of miles from Germany and Sweden.”

リムジンを提供する企業のトップは、あまりの需要に国内では供給が追いつかずドイツやスウェーデンからリムジンを持ってきているという。

The airport says it is expecting up to 140 extra private jets during the peak period alone, so far over its capacity that the planes will have to fly off to regional airports – or to Sweden – to park, returning to Copenhagen to pick up their VIP passengers.

当然空港も大騒ぎで、普段よりも140機多くのプライベートジェットがピーク時だけで訪れる予定で、容量不足から乗客を降ろしたら他の空港へと向かうそうだ。

And this being Scandinavia, even the prostitutes are doing their bit for the planet. Outraged by a council postcard urging delegates to “be sustainable, don’t buy sex,” the local sex workers’ union – they have unions here – has announced that all its 1,400 members will give free intercourse to anyone with a climate conference delegate’s pass. The term “carbon dating” just took on an entirely new meaning.

さらに、政府が参加者に買春をしないように呼びかけていることに対して、性労働者の組合は会議に参加する代表者に対して無料でサービスを提供するとアナウンスしたそうだ。炭素の放射性同位体で年代を測定するカーボン・デーティングと比べられている。

In a rather perceptive recent comment, Mr Miliband said it was vital to give people a positive vision of a low-carbon future. “If Martin Luther King had come along and said ‘I have a nightmare,’ people would not have followed him,” he said.

温暖化対策に関してもっとポジティブなビジョンを示すことの重要性が強調されている。マルティンルーサーキングがI have a nightmareと言ったら人々はついてこなかっただろうという。

真面目な話もちゃんと書かれているのでジョークの効いたニュースを読みたい人におすすめだ。日本の新聞社のサイトでは見かけないタイプの記事だ。

ベジタリアンはいなくなる?

ベジタリアン思想の根底にある動物の権利については前に書いたけど(参考:どうして鯨漁は無くならないか)、そんな問題はまるっきりなくなっちゃうかもしれない:

Meat grown in laboratory in world first – Telegraph

Researchers in the Netherlands created what was described as soggy pork and are now investigating ways to improve the muscle tissue in the hope that people will one day want to eat it.

SFではお馴染みかもしれないけど、人工の肉が作られたそうだ。

The scientists extracted cells from the muscle of a live pig and then put them in a broth of other animal products. The cells then multiplied and created muscle tissue. They believe that it can be turned into something like steak if they can find a way to artificially “exercise” the muscle.

細胞を培養したものなので、クローンした動物を屠殺するわけではない。

Animal rights group Peta said: “As far as we’re concerned, if meat is no longer a piece of a dead animal there’s no ethical objection.”

PETAですらこうして製造された肉を食用にすることには異存ないようだ。

まだ実際に人間が口にするところまでは辿りついてはいないが、こうした技術が発展し、価格面で通常の畜産を凌駕するのは時間の問題だろう。

肉を生産するためにはの数倍から数十倍の穀物が必要であることや、肥育牛による温暖化ガス(メタン)の発生を考えても望ましい流れかもしれない。

税金かキャップ&トレードか

温暖化対策は国毎の排出量を決めるキャップ&トレードをベースに進んでいるがそれが望ましい方法なのか:

FT.com / Weekend columnists / Tim Harford – Political ill wind blows a hole in the climate change debate

The incentives provided by the two approaches are similar. Both will lead to a higher carbon price and lower emissions, and both could be tweaked over time to produce much the same trajectory of lower emissions. Either system would work well from an economic perspective.

まず税金による規制と数量規制は大差ない。望ましい水準さえ分かっていれば価格を規制しようが数量を規制しようが構わない。温暖化を抑制するために二酸化炭素がある水準以下である必要があるなら、それを基準にキャップを割り当ててトレードさせようが、そういう水準になるような税金を課しても同じだからだ。

不確実性のありかたによっては優劣があるが、現状ではそのことがキャップ&トレードの根拠としてあげられているということはない。

The trouble with cap-and-trade is that countries must agree how to divide the allocation of permits.

キャップ&トレードの大きな問題はそのキャップをどう決めるかだ。世界全体での排出量に合意がえられたとしてもその配分で合意するのは難しい。他国のために率先して削減するというおめでたい国がたくさんない限りはなかなかうまくいかない。

もちろん税方式ならうまくいくかというとそうでもない。税率を国際的に決めてしまうとそれぞれの国が国内での再分配を一般的な税金を通じて行う必要がある。キャップ&トレードであれば各国で税方式にするか国内でもキャップ&トレードにするかは自分で選択することができる。またそもそも国際的な再配分なしに合意が得られるかという問題もある。個人的には税方式にして国際的な再配分が必要であればそれを明示的に処理するのが望ましいように思う。