発展途上国向け温暖化対策

気候変動対策における発展途上国の役割について:

Policies for Developing Country Engagement

温暖化対策となると日本を含めた先進国の責任ばかりクローズアップされるが、発展途上国が取り組める対策を考えるのも重要だ。特に、誰に道義的な(!)責任があるかという負担の擦り付け合いに終始しがちな点は残念だ。

For example, fossil fuel subsidies are common in many developing countries. Reducing or eliminating them would relieve budget pressures, promote more efficient energy use, improve energy security, and avoid unintended distributional consequences while also slowing the growth of GHG emissions.

しかし、温暖化対策になる政策の全てが痛みを伴なうものではない。例えば化石燃料への補助金は燃料価格を下げその消費を促進する。このような補助金を廃止することで、補助金のための財源(と課税に伴う経済の歪み=税の死荷重負担)が必要なくなるし、燃料の利用も適正化される。補助金には燃料の購買者の負担を減らすという再配分的意味合いもあるが、それは他の再配分手段で達成できる。また、実際には業界団体の圧力などで補助金が使われているケースも多く、温暖化対策を理由にそういった政治力を排除できるなら一石二鳥だろう。日本でも高速道路無料化なんて意味不明なことを言ってないで、気候や混雑への外部効果を計算にいれた適正な課税・通行料徴収を行うべきだ。

確定申告は必要?

日本ではサラリーマンの源泉徴収は納税意識を希薄にするというような論調もあるが、オーストラリアの場合は逆に進んでいるようだ。

Generating a social surplus

This Budget includes a measure that is long over-due: taxpayers will no longer have to file tax returns.

ついに確定申告の義務がなくなったというニュースだ。

A 2000 estimate by researchers at the University of NSW put the time cost of tax filing at any average of $346 per person (roughly 8.5 hours times the average hourly pay; adjusted to closer to the present day). That comes to a total cost of $3.7 billion per annum to the economy […]

もちろんこの変更には根拠がある。確定申告を行うために平均8.5時間が費やされており、時給から計算すると一人当たり平均346ドル、国全体で37億ドル(おそらくAUD)の費用がかかっている計算になる。

Of course, there is a catch – if you choose this option you will have to accept a standardised deduction ($500 rising to $1000 in a few years). So this is likely to attract lower income households; so the pure financial saving will be less.

義務がなくなっても、収入の高い人ほど確定申告をするため実際の効果は上の額よりは少なくなるが、それでもこれは莫大な改善と言える。

Already, there are claims that this will harm smaller tax agents. If they were existing because of an inefficient government regulation, they are part of the problem.

小規模の税理士が困るという批判もあるが、彼らが非効率な政策ゆえに存在するのであればそれは理由に非効率の解消に反対するのは無理がある。

確定申告を行うことで自分の払っている税金への意識が高まるというのはその通りではある。しかし、同時に確定申告を義務化するのにどれだけの社会的費用がかかるかを考え、「意識が高まる」という曖昧な目的にそれだけの費用をかける価値があるのかを吟味する必要があるだろう。

州の赤字と人件費

大赤字の州に在住しているものとしてはとても気になるポスト:

Public Sector Pay Outpaces Private Pay

2001年を基準に政府と民間の給料の変動がグラフになっている。不景気になると相対的に政府セクターの給料が魅力的になるのは普通のことだが、次の簡単な計算がいい。

State and local governments pay more than $1 trillion in compensation annually. If compensation is 5% higher than it should be, that’s $50 billion in excess pay costs for the state.

州政府・地方政府が払っている人件費は1兆ドルにも達するという。これが5%多いだけで支出が500億ドル増える。

For example,  in February a survey found that the combined budget gap of all 50 states was $55 billion for the 2011 budget year and $62 billion for the 2012 budget year .

そして州の赤字は合わせて550億ドル程だ。もちろん不景気だから公務員の給料を減らせというわけではないが、こういう大まかな数字を見るのは大事だろう。ちなみに政府部門全体の収入は5兆ドルほどのようだ

日本経済の現状

経済産業省が公表しているスライドがよく出来ているのでここでも紹介(ht @kazemachiroman)。日本が抱える問題とここに至るまでの経緯が丁寧に解説されている。ではどうしたらいいのかという部分になると急に説得力がなくなるが、日本語だし全部読む価値はあるように思う。特に興味深いグラフを幾つか抜粋する。

日本の産業を巡る現状と課題

まず各国の貯蓄率の推移だ。日本は貯蓄率が高く、アメリカは借金だらけというイメージを持つ人が多いと思われるが、日本の貯蓄率はアメリカを下回っている。高齢化や社会保障によって貯蓄率が下がるのはしょうがないが、それにしても衝撃的な数字だ。

最近、株主主権の問題と絡めて話題となった労働分配率だがここでも日本は英米独仏などよりも高い水準を保っている。特にドイツが一番低いのは興味深い。

企業の海外移転に関するアンケート結果だ。多くの企業が生産機能移転を決定ないし検討しているとのこと。生産コストを考えればその流れは当然だろう。日本で働く人は開発・研究・本社機能で能力を発揮出来るようにならないと厳しい。

こちらは三大都市圏及び地方の人口推移だ。全体に人口が減っていくものの、相対的に地方での人口減少が深刻となる。

特に地方圏では、今後急速に人口減少。地域経済の立て直しが深刻な課題。

とはいえ、既に莫大な予算をつぎ込んでいる地方経済をどう立て直すというのだろうか。

実質失業率は急激に伸びている。日本の比較的低い完全失業率は企業による抱え込み=保蔵によって維持されているに過ぎない。

当然これだけの余剰人員を抱えていれば労働生産性で他国に引けをとるのは当然の帰結だろう。

企業内部で再配分が行われているような状況であり、雇用者報酬も伸び悩む。国境を越えられるような人材の確保はますます難しくなりそうだ(こっちも購買力平価だよね?)。

では日本の問題は何か。まず挙げられているのが実効法人税率の圧倒的な高さだ。どこの国で始めても良いような産業があえて日本を選ぶことはないだろう。儲かりそうであるほどそうだ。運輸の関する費用も高く事業コストが足かせになっている状況が分かる。

資本市場としての魅力もない。シンガポールの躍進をみればアジアでの地位は完全に失われたといっていいだろう(追記:資本市場の地位という意味)。

資料では、これらの経緯・現状を踏まえた上でさらなる産業政策の重要性が強調されているが、現状はその産業政策の失敗とも捉えられる。まずは企業活動がしやすい環境を整え、国内での競争を促進することで生産性を上げることが重要だろう。そうすることで、政府が成長産業を決め打ちしなくても、優秀な産業が競争に生き残る。

結論部分こそ微妙だが、全体として非常によく出来た資料なので、時間のある時にでも是非読んでみてほしい。

税金かキャップ&トレードか

温暖化対策は国毎の排出量を決めるキャップ&トレードをベースに進んでいるがそれが望ましい方法なのか:

FT.com / Weekend columnists / Tim Harford – Political ill wind blows a hole in the climate change debate

The incentives provided by the two approaches are similar. Both will lead to a higher carbon price and lower emissions, and both could be tweaked over time to produce much the same trajectory of lower emissions. Either system would work well from an economic perspective.

まず税金による規制と数量規制は大差ない。望ましい水準さえ分かっていれば価格を規制しようが数量を規制しようが構わない。温暖化を抑制するために二酸化炭素がある水準以下である必要があるなら、それを基準にキャップを割り当ててトレードさせようが、そういう水準になるような税金を課しても同じだからだ。

不確実性のありかたによっては優劣があるが、現状ではそのことがキャップ&トレードの根拠としてあげられているということはない。

The trouble with cap-and-trade is that countries must agree how to divide the allocation of permits.

キャップ&トレードの大きな問題はそのキャップをどう決めるかだ。世界全体での排出量に合意がえられたとしてもその配分で合意するのは難しい。他国のために率先して削減するというおめでたい国がたくさんない限りはなかなかうまくいかない。

もちろん税方式ならうまくいくかというとそうでもない。税率を国際的に決めてしまうとそれぞれの国が国内での再分配を一般的な税金を通じて行う必要がある。キャップ&トレードであれば各国で税方式にするか国内でもキャップ&トレードにするかは自分で選択することができる。またそもそも国際的な再配分なしに合意が得られるかという問題もある。個人的には税方式にして国際的な再配分が必要であればそれを明示的に処理するのが望ましいように思う。