確定申告は必要?

日本ではサラリーマンの源泉徴収は納税意識を希薄にするというような論調もあるが、オーストラリアの場合は逆に進んでいるようだ。

Generating a social surplus

This Budget includes a measure that is long over-due: taxpayers will no longer have to file tax returns.

ついに確定申告の義務がなくなったというニュースだ。

A 2000 estimate by researchers at the University of NSW put the time cost of tax filing at any average of $346 per person (roughly 8.5 hours times the average hourly pay; adjusted to closer to the present day). That comes to a total cost of $3.7 billion per annum to the economy […]

もちろんこの変更には根拠がある。確定申告を行うために平均8.5時間が費やされており、時給から計算すると一人当たり平均346ドル、国全体で37億ドル(おそらくAUD)の費用がかかっている計算になる。

Of course, there is a catch – if you choose this option you will have to accept a standardised deduction ($500 rising to $1000 in a few years). So this is likely to attract lower income households; so the pure financial saving will be less.

義務がなくなっても、収入の高い人ほど確定申告をするため実際の効果は上の額よりは少なくなるが、それでもこれは莫大な改善と言える。

Already, there are claims that this will harm smaller tax agents. If they were existing because of an inefficient government regulation, they are part of the problem.

小規模の税理士が困るという批判もあるが、彼らが非効率な政策ゆえに存在するのであればそれは理由に非効率の解消に反対するのは無理がある。

確定申告を行うことで自分の払っている税金への意識が高まるというのはその通りではある。しかし、同時に確定申告を義務化するのにどれだけの社会的費用がかかるかを考え、「意識が高まる」という曖昧な目的にそれだけの費用をかける価値があるのかを吟味する必要があるだろう。

意味のないテロ対策

インターポールの事務総長のインタビュー記事「The World’s Top Cop – A Talk with Ronald K. Noble」からの一節。インタビュー自体も短いが、皮肉がきいている。

Aguanomics: Bureaucratic or effective?

What frustrates me […] is that in 2009 there were over 500 million international air arrivals where passports were not checked against Interpol’s database, which contains records on over 11 million stolen passports and 9 million other identity documents.

昨年、到着旅行客数でのべ5億人がインタポールにあるパスポートなどの身分証明書盗難リストへ照合されていないとのこと。これは既に電子的に出来ることだ。

At the same time, if you or I are traveling internationally via the United States or Europe, we are required to take off our shoes and belts, give up our bags and our computers, and sacrifice whatever liquids we might not have consumed before passing through security. We do that for everyone.

その一方で国際線に載ると、靴を脱いでベルトを外し、液体は何ミリリットルとかいう規制がある。費用対効果から考えて実におかしなことだ。こういった規制が必要かどうかという議論をすると、感情的な議論になりがちだが、より効果的な方法があるのにやっていないという点をつくのは効果的だろう。

オリンピックの経済効果

「経済効果」という言葉は極めて胡散臭いが、オリンピックのような大規模イベント招致活動が起きると毎回大々的に発表される(逆に、「費用便益」とあれば、それなりの計算に基づいていることが多い)。

Olympic Games have no long-term impact on employment

Usually, they manage to obtain some public guarantees or even financing on the grounds that such an event and the infrastructure will kick-start an economy and encourage tourism beyond the event.

「経済効果」なんていうものが持て囃される理由は簡単で、イベント招致・開催のための予算を取ってくるためだ。しかし、イベント開催後にその「経済効果」が実際どうであったかを調べることはないし、後に残るのは大きな赤字ということが多い。

Arne Feddersen and Wolfgang Maennig show that these beliefs are wrong, at least for the 1996 Olympic Games in Atlanta.

こちらのペーパーによると、少なくとも1996年のアトランタ・オリンピックについては長期的な経済効果はなかったという。まあ誰もが気づいていたことではあるが、数字になると説得力が違う。

They concentrate on the impact of these games on employment, and using monthly data they cannot find any impact in any sector, except for the sectors directly affected by the event, and only for the duration of the Games: retail trade, accommodation and food services, arts, entertainment, and recreation.

雇用面での影響を見ると、オリンピックに直接関係する産業以外では何のインパクトもなく、それらの産業ですら開催期間中にしか影響は確認されなかったということだ。

I can only reiterate that such events should find a permanent home

もしオリンピックが長期的な効果を持たないのであれば、毎回競技場などを建設するのではなく、決まった場所で開催した方がいいというのは妥当な提案だろう。

高速鉄道のメリット

カリフォルニアにも新幹線のような高速鉄道を通そうと話が進んでいるが、そのメリットは単なる時間の節約だけではない。

How High-Speed Rail Can Help Expand the Economy – Creative Class

It’s been hard to justify high-speed rail (HSR) projects in terms of conventional cost-benefit analysis.

標準的な費用便益分析では、交通機関の便益は時間の節減である。利用者がどれくらいいて、何分短縮出来るか、そして時間の価値はいくらかといったことを考える。しかし、高速鉄道のメリットはそれだけにとどまらない。

First, HSR expands the labor pool available to firms, bringing talented workers from nearby centers within commuting distance and thus expanding the quantity and quality of available employees.

通勤が短縮されることで、企業にとってはアクセスできる労働者のプールが拡大する。

Second, HSR makes more jobs available to workers without making them have to relocate and move to a new home.

逆に雇用される側にとっても引っ越すことなく職を変えることができる。労働市場が大きくなれば、高度に専門化された人材の市場が発達する。

Third, HSR extends the benefits of other expensive, productivity-enhancing infrastructure such as airports across broad regions.

労働市場が拡大するだけでなく、空港・大学のような生産性を上昇させる大規模な施設を利用できるようになる。同じメカニズムは娯楽施設にも当てはまる。人口10万人の街では採算の取れない施設が人口100万人の都市では有効に活用出来る。

これらのメリットは都市への集積化の一般的利点だ。アメリカでは公共交通機関が発達していないので、効果は大きいだろう。

環境の費用便益分析

環境に関する政策の費用便益分析についての記事:

The economics of ecosystems / The Christian Science Monitor

国連環境計画(UNEP)のThe Economics of Ecosystems and Biodiversity reportを紹介している。

As such, it belongs to a broader, ongoing effort to correct what ecological economists say is a failure in most cost-benefit analyses to adequately account for the very real value of living systems.

レポートの目的は費用便益分析において生態系の本当の価値をきちんと考慮するようにすることだという。あくまで正確な計算するべきだということであって、計算しなくていいという話ではないことには注意が必要だ。

The trick is ensuring that the analysis is sufficiently rigorous — that it accounts for all services provided by a forest, both as paper and as living trees, and that it includes both short- and long-term outcomes.

要点は、分析を十分に厳密にすることだ。森林であれば、それがもたらすあらゆる便益(と費用)をきちんとカウントする。

[…] some environmental problems can, in fact, be illuminated by a sufficiently nuanced cost-benefit analysis, while others — such as environmental justice issues — clearly can’t.

費用便益分析へのお決まりの批判も取り上げられている。金銭で表せない価値もあるというものだ。しかし、生命価値は統計的なそれであれば推定できるし、どうしても金銭価値で表せない(したくないなら)数値化するだけで残しておくこともできる。一人助けるのにいくらかかるを計算するだけでも意味がある。

まあ大した記事ではないのだけど、The Christian Science Monitorは教会が発行しているが布教を目的とはせず、昔からネットの活用が早いことで有名であるなど面白い新聞だ。現在は日曜版しか紙媒体で発行しておらず基本的にオンライン新聞となっている。