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消費者による差別

本当の人種差別は雇用主ではなく消費者にあるという研究(ht @ecohis):

Decomposition of the Black-White Wage Differential in the Physician Market

Hence, a firm that has a “taste for discrimination” would not pay a worker of a different race a wage commensurate to that worker’s productivity.

雇用における人種差別は二つに区別できる。一つは雇用主が被差別人種を雇いたくないという人種差別で、これは特定の人種の給与が生産性に比して低いという形で現れる。

if consumers are unwilling to purchase goods and services produced by minorities, then minority workers would not be as valuable to all firms and minority workers would receive lower wages than majority workers as a result.

もう一つの差別は消費者が特定の人種からのサービス提供を嫌うという種類の差別だ。消費者がこの種の選好を持っているなら、雇い主にが人種に対して無差別であったとしても被差別人種の労働者を雇うことによる便益が低いため給与も低くなる。

In general, if the number of nondiscriminating employers is large relative to the number of minority workers, or if the nondiscriminating firms have constant or increasing returns to scale technologies, then minority workers may not be affected by discrimination at all.

しかし前者の雇用側の差別は、差別的な雇用主の数が比較的小さい限り給与水準へ大きな影響を与えない。非差別的な雇用主が被差別人種の労働者を雇うために競争するためだ。そういった雇用主が多ければほぼ全ての被差別人種労働者が非差別的な労働者のもとで働くことになるし、その給与も生産性に見合う水準まで競り上がる。

それに対して、後者の消費者による差別は全ての被差別人種労働者の収益性を下げる(消費者がサービス提供者の人種を選択できない限り;これは雇用主に比べて消費者で困難だ)。また消費者の人種に関する選好を直接規制・是正することは倫理面・費用面で困難だ。

Since those who are self-employed would not encounter firm discrimination, any discrimination that is experienced by self-employed workers must have originated from consumers. Salaried workers, on the other hand, may face discrimination that is both employer- and consumer-based. Based on this intuition, we make two claims.

この二つの効果を分離するために、元ペーパーでは自営の労働者と雇用されている労働者の給与を比較している。自営の場合には雇用主による差別はないからだ。

The survey contains information on a wide range of variables—such as physician specialty, board certification status, and waiting time for patients—that would enable us to control for consumer demand and worker productivity, thereby effectively isolating the effects of different types of discrimination in the physician market.

もちろん自営の人と給与を貰っている人とではそもそも同じ母集団でないため、その差を計算に入れる必要がある。ここでは若手の医者に関するデータが利用されている。個々の医師についての詳細な情報を利用するためだ。

At most, discrimination lowers the hourly wages of black physicians by 3.3%. The decompositions show that consumer discrimination accounts for all of the potential discrimination in the physician market and that the effect of firm discrimination is actually in favor of black physicians.

結果、白人と黒人との間の給与差は僅か3.3%でその殆どは消費者によるものだということが分かったそうだ。もちろんこれは医療という業界の特殊性かもしれないし、自営と給与所得者との差異のコントロールがあまりうまくいっていない可能性もあるが、直感的な結果だ。但し、雇用主の差別が給与差に影響を与えていないのは差別的な雇用主が比較的少ないというだけで、差別がないということではないことには注意する必要がある。

広告を使って人種差別を調べる

オンラインクラシファイド広告のCraigslistを使って人種差別を調べる実験について。

The Visible Hand – Freakonomics Blog

I suspect that most people would say that the skin color of the iPod holder wouldn’t matter to them. […] Economists have never liked to rely on what people say, however.

iPodを売るという個人広告があったときに、出品者の肌の色を気にするかと聞かれれば多くの人は否定する。しかし、口で否定したら差別は存在しないというわけでは当然ない。

Over the course of a year, they placed hundreds of ads in local online markets, randomly altering whether the hand holding an iPod for sale was black, white, or white with a big tattoo.

実際に肌の色やタトゥーの有無が異なるiPod広告を出品してみるという実験が行われた。その結果は、

  • 黒人の出品者は白人に比べて13%レスポンスが17%オファーが少なかった
  • オファーがあった場合に限っても2-4%オファーの金額は少なかった
  • コンタクト人が名前を書かない割合が17%、郵送を受け付けない割合が44%少なく、遠隔地への振り込みを懸念する割合は56%高かった
  • 犯罪の多い地域ではさらにこの差はひろがった

とのことで、黒人と白人とで買い手の行動は明白に違うことが分かる。しかし、これは「人種差別」を示すとは限らない。

With statistical discrimination, on the other hand, the black hand is serving as a proxy for some sort of negative

単に人種を観察できない属性の代理変数として統計的に差をつけることがありえるからだ。人種をシグナルとして利用するのは差別とは言えないだろう。相手が差別されているなら低めの価格でオファーしても通る可能性が高いということもある。

If the ad is really high quality, the authors conjecture, maybe that provides a signal that could trump the statistical discrimination motive for not buying from the black seller.

この統計的区別と単純な差別とを分離するためにはシグナルとしての役割が必要ない状態にすればよい。ここでは広告を非常に信頼できるものにするという実験を行っているが、結果は変わらないということで人種差別の存在を示している。但し、広告の書き方でどれほど信頼性が変わるのかよくわからない。

Black sellers do especially bad in high crime cities, which the authors interpret as evidence that it is statistical discrimination at work.

一方、犯罪率の高低をみると、犯罪の高い地域ほど差は大きく、こちらは統計的な区別があることを示している。犯罪が少なければシグナルの必要はない(=どちらにしろ犯罪はない)からだ。コメント欄には同じ人種には「差別」がないとして、同じ人種同士の取引とそうでない取引とを比べたらどうかという意見もついている。

赤ん坊の値段

養子のマッチングデータから、養子に出される子供の値段を推定している。

Markets in everything: Discount babies

元になっているペーパーは「Gender and Racial Biases: Evidence from Child Adoption」。

It’s about $8,000 cheaper to adopt a black baby than a white or Hispanic child and girls tend to cost about $2,000 more than boys.

養子をマッチする仲介者が提示する金額は、黒人の子供を指定した場合のほうが白人やヒスパニックの場合よりも$8,000安く、女の子の方が男の子よりも$2,000高いとのこと。原因としては、親が自分と同じ人種の子供を好むこと、女児の方が大きな問題を起こしにくいことなどいろいろ考えられる。

It is hard to know exactly how many black newborns in the sample are not adopted and wind up in foster care. Black children make up 32% of the foster care population, but just 16% of adoptees (including domestic and international adoptions).

しかし、このフィー=価格差があっても需給が一致しているわけではない。黒人の養子に占める割り合いは16%だが、フォスターケアの32%を占める。

The paper finds the cost of adopting a black baby needs to be $38,000 lower than the cost of a white baby, in order to make parents indifferent to race. Boys will need to cost $16,000 less than girls.

推定された引受側の選好から計算すると、黒人の子供の需給を一致させるには白人の子供を引き受ける場合よりも$38,000安い必要があり、男女の需給を一致させるには男の子が女の子より$16,000安い必要があるとのこと。

誰もが気づいていても口に出しづらいことを金額にしてしまうことは重要だ。単に数字を見て面白いというだけではなく、養子として引き受け先のない子供の数をどうやって減らしていくかは重要な政策課題だからだ。

オリンピックの経済効果

「経済効果」という言葉は極めて胡散臭いが、オリンピックのような大規模イベント招致活動が起きると毎回大々的に発表される(逆に、「費用便益」とあれば、それなりの計算に基づいていることが多い)。

Olympic Games have no long-term impact on employment

Usually, they manage to obtain some public guarantees or even financing on the grounds that such an event and the infrastructure will kick-start an economy and encourage tourism beyond the event.

「経済効果」なんていうものが持て囃される理由は簡単で、イベント招致・開催のための予算を取ってくるためだ。しかし、イベント開催後にその「経済効果」が実際どうであったかを調べることはないし、後に残るのは大きな赤字ということが多い。

Arne Feddersen and Wolfgang Maennig show that these beliefs are wrong, at least for the 1996 Olympic Games in Atlanta.

こちらのペーパーによると、少なくとも1996年のアトランタ・オリンピックについては長期的な経済効果はなかったという。まあ誰もが気づいていたことではあるが、数字になると説得力が違う。

They concentrate on the impact of these games on employment, and using monthly data they cannot find any impact in any sector, except for the sectors directly affected by the event, and only for the duration of the Games: retail trade, accommodation and food services, arts, entertainment, and recreation.

雇用面での影響を見ると、オリンピックに直接関係する産業以外では何のインパクトもなく、それらの産業ですら開催期間中にしか影響は確認されなかったということだ。

I can only reiterate that such events should find a permanent home

もしオリンピックが長期的な効果を持たないのであれば、毎回競技場などを建設するのではなく、決まった場所で開催した方がいいというのは妥当な提案だろう。