広告を使って人種差別を調べる

オンラインクラシファイド広告のCraigslistを使って人種差別を調べる実験について。

The Visible Hand – Freakonomics Blog

I suspect that most people would say that the skin color of the iPod holder wouldn’t matter to them. […] Economists have never liked to rely on what people say, however.

iPodを売るという個人広告があったときに、出品者の肌の色を気にするかと聞かれれば多くの人は否定する。しかし、口で否定したら差別は存在しないというわけでは当然ない。

Over the course of a year, they placed hundreds of ads in local online markets, randomly altering whether the hand holding an iPod for sale was black, white, or white with a big tattoo.

実際に肌の色やタトゥーの有無が異なるiPod広告を出品してみるという実験が行われた。その結果は、

  • 黒人の出品者は白人に比べて13%レスポンスが17%オファーが少なかった
  • オファーがあった場合に限っても2-4%オファーの金額は少なかった
  • コンタクト人が名前を書かない割合が17%、郵送を受け付けない割合が44%少なく、遠隔地への振り込みを懸念する割合は56%高かった
  • 犯罪の多い地域ではさらにこの差はひろがった

とのことで、黒人と白人とで買い手の行動は明白に違うことが分かる。しかし、これは「人種差別」を示すとは限らない。

With statistical discrimination, on the other hand, the black hand is serving as a proxy for some sort of negative

単に人種を観察できない属性の代理変数として統計的に差をつけることがありえるからだ。人種をシグナルとして利用するのは差別とは言えないだろう。相手が差別されているなら低めの価格でオファーしても通る可能性が高いということもある。

If the ad is really high quality, the authors conjecture, maybe that provides a signal that could trump the statistical discrimination motive for not buying from the black seller.

この統計的区別と単純な差別とを分離するためにはシグナルとしての役割が必要ない状態にすればよい。ここでは広告を非常に信頼できるものにするという実験を行っているが、結果は変わらないということで人種差別の存在を示している。但し、広告の書き方でどれほど信頼性が変わるのかよくわからない。

Black sellers do especially bad in high crime cities, which the authors interpret as evidence that it is statistical discrimination at work.

一方、犯罪率の高低をみると、犯罪の高い地域ほど差は大きく、こちらは統計的な区別があることを示している。犯罪が少なければシグナルの必要はない(=どちらにしろ犯罪はない)からだ。コメント欄には同じ人種には「差別」がないとして、同じ人種同士の取引とそうでない取引とを比べたらどうかという意見もついている。

Craigslistの経営方針

Craigslistの創設者であるCraig Newmarkと現在のCEOであるJim Buckmasterに関するWiredの記事が非常に面白い。ウェブビジネスやサービスデザインに興味のあるにはかなりおすすめ:

Why Craigslist Is Such a Mess

Craigslistのデザイン上の特徴はまさに何の特徴もないことだ。

This is old-fashioned. But craigslist is old-fashioned in any number of ways. It relies on email and the telephone in an era of SMS and social networks. It sticks to traceless transactions in an industry that makes its living collecting data from every touch. And just as people who run technical companies are reaching an apex of confidence in their ability to invent new forms of community based on sharing everything, craigslist still treats social life as dangerously complex, deserving the most jaded caution.

これは近年のウェブビジネスの流れとはまさに逆である。

Besides offering nearly all of its features for free, it scorns advertising, refuses investment, ignores design, and does not innovate. Ordinarily, a company that showed such complete disdain for the normal rules of business would be vulnerable to competition, but craigslist has no serious rivals. The glory of the site is its size and its price.

にも関わらず、競争を勝ち抜いているのは何故か。それは規模と価格だという。しかし、Craig Newmarkはそれとは異なることを述べている:

“People are good and trustworthy and generally just concerned with getting through the day,” Newmark says. If most people are good and their needs are simple, all you have to do to serve them well is build a minimal infrastructure allowing them to get together and work things out for themselves. Any additional features are almost certainly superfluous and could even be damaging.

彼にとってはシンプルで何の機能もないことこそが強みだというわけだ。結局記事の中ではどちらが本当の理由なのかは追求されていない。

ぱっと思いつくのは、スイッチングコストとコーディネーションの問題だ。Craigslistの競争相手がいるとしよう。ユーザーにとってどちらのサイトを訪れるかはほぼ投稿の数及び訪問者の数に依存している。片方を使っているひとが次にものを売る・買う時に違うサイトを使うための費用は使い方を覚えるぐらいなものだ。

大した機能があるわけではないが、案内広告を利用するひとは多岐に渡り、コンピュータに堪能とは限らない。また多くのユーザーは頻繁にサービスを利用するわけではないのでなるべく簡単なものが好まれるだろう。最終的な選択はユーザー数に依存していたとしてもなるべくわかりやすいインターフェースであるにこしたことはない。

もう一つ考えられるのがコーディネーションだ。スイッチングコストが低い市場では一気にシェアが入れ替わるということは十分にありえる。現在のシェアがどうであれ、将来競合相手が支配的になりそうだとみんなが思っているなら急にユーザーが入れ替わっても不思議は無い。実際ソフトウェア市場では支配的と思われている企業が没落することが過去いくつもあった。

ユーザーの期待を変えるのは困難ではあるが、企業理念のようなものが影響することは十分に考えられる。それなりの数のユーザーが片方の企業を何の理由であれ支持するのであれば、他のユーザーにとってもその企業のほうが成功する可能性が高いと信じる理由となるからだ。次の一節はこの考えと符合する:

But in the battle with MetroVox he had an asset that more than compensated for these shortcomings: For years he had worked on his site with an uncanny, machine-like constancy, doing all the painstaking and repetitive things that would make most people desperate with frustration and boredom, and he had done them happily. And now his users paid him back in the most obvious possible way: They stopped using the List Foundation address, resumed posting their free ads at craigslist.org, and emailed Newmark when problems occurred. Less than a year later, the bubble burst and MetroVox faded away.

Craigslistの元CEOがCraigslistのトラフィックを半ば奪って(詳細は本文参照)始めたMetroVoxという類似サービスとの競争において、ユーザーは今までのNewmarkの行動を元にCraigslistを選んだとされている。少なからずそういうユーザーがいることで他のユーザーも残ったのだろう。ユーザー数が最大に重要である以上、競合相手が多少違うサービスを提供していても問題はない。

他の類似した市場においても同じ議論が当てはまるかは興味深い。

Craigslist拡大

前に新聞社の規模についての記事を紹介したときに小規模な地方新聞の利点として

Craigslistは小さな町をカバーしていないため案内広告(classified ads)からの収益が見込める。

という点が挙げられていたが、Craigslistの案内広告への影響はさらに大きくなった模様:

Craigslist Expands Coverage of Cities by 25 Percent – Bits Blog – NYTimes.com

On Thursday, the San Francisco company quietly added new sites for 140 cities, a 25 percent increase, bringing its global directory to 690 cities over all.

140の都市が加わり、カバーされる都市の数が25%増加したそうだ。これにより、該当する都市で展開されている地方紙の広告収益の低下が予想される。デジタル技術の浸透により、新聞社が様々なコンテンツをバンドルする能力が次々に失われているのは確実なようだ。

新聞社の規模

アメリカでは小規模な新聞の方が大規模な新聞よりもうまくやっているという話。

Small is beautiful (and successful) for newspapers – Yahoo! Finance

原因として挙げられているのは:

  1. 地域レベルでは競争が厳しくない。特にウェブ・ラジオなど他のメディアとの間の競争があまりない。
  2. Craigslistは小さな町をカバーしていないため案内広告(classified ads)からの収益が見込める。
  3. 購読者の興味に対応しやすい。
  4. 非公開会社が多く柔軟な対応ができる。

確かに自分も全国レベルの新聞は全くチェックしていない。ましてや紙の新聞は久しく読んだことがない。RSSリーダーによれば新聞でチェックしているのは、

  • East Bay Express
  • The Berkeley Daily Planet
  • The Daily Californian (campus)

だけだ。その他の新聞は何らかの記事で紹介されている場合にしか訪れない。理由は単純だ。大きな新聞のRSSを購読しても処理しきれないし、大概の記事は興味がない、ないし読む価値がない。重要なことは情報の有無ではなく、それを選別するリソースだ。その意味でローカルなニュースには価値がある。既に地域という要素でフィルターされている。

大手の新聞がこれに対抗するためには、読者によるコンテンツの選択を容易にするほかない。これは紙媒体を前提にするとそもそも不可能なように思われる。

追記:Craigslistのカバー都市が拡大したそうだ。