https://leaderpharma.co.uk/ dogwalkinginlondon.co.uk

広告を使って人種差別を調べる

オンラインクラシファイド広告のCraigslistを使って人種差別を調べる実験について。

The Visible Hand – Freakonomics Blog

I suspect that most people would say that the skin color of the iPod holder wouldn’t matter to them. […] Economists have never liked to rely on what people say, however.

iPodを売るという個人広告があったときに、出品者の肌の色を気にするかと聞かれれば多くの人は否定する。しかし、口で否定したら差別は存在しないというわけでは当然ない。

Over the course of a year, they placed hundreds of ads in local online markets, randomly altering whether the hand holding an iPod for sale was black, white, or white with a big tattoo.

実際に肌の色やタトゥーの有無が異なるiPod広告を出品してみるという実験が行われた。その結果は、

  • 黒人の出品者は白人に比べて13%レスポンスが17%オファーが少なかった
  • オファーがあった場合に限っても2-4%オファーの金額は少なかった
  • コンタクト人が名前を書かない割合が17%、郵送を受け付けない割合が44%少なく、遠隔地への振り込みを懸念する割合は56%高かった
  • 犯罪の多い地域ではさらにこの差はひろがった

とのことで、黒人と白人とで買い手の行動は明白に違うことが分かる。しかし、これは「人種差別」を示すとは限らない。

With statistical discrimination, on the other hand, the black hand is serving as a proxy for some sort of negative

単に人種を観察できない属性の代理変数として統計的に差をつけることがありえるからだ。人種をシグナルとして利用するのは差別とは言えないだろう。相手が差別されているなら低めの価格でオファーしても通る可能性が高いということもある。

If the ad is really high quality, the authors conjecture, maybe that provides a signal that could trump the statistical discrimination motive for not buying from the black seller.

この統計的区別と単純な差別とを分離するためにはシグナルとしての役割が必要ない状態にすればよい。ここでは広告を非常に信頼できるものにするという実験を行っているが、結果は変わらないということで人種差別の存在を示している。但し、広告の書き方でどれほど信頼性が変わるのかよくわからない。

Black sellers do especially bad in high crime cities, which the authors interpret as evidence that it is statistical discrimination at work.

一方、犯罪率の高低をみると、犯罪の高い地域ほど差は大きく、こちらは統計的な区別があることを示している。犯罪が少なければシグナルの必要はない(=どちらにしろ犯罪はない)からだ。コメント欄には同じ人種には「差別」がないとして、同じ人種同士の取引とそうでない取引とを比べたらどうかという意見もついている。

赤ん坊の値段

養子のマッチングデータから、養子に出される子供の値段を推定している。

Markets in everything: Discount babies

元になっているペーパーは「Gender and Racial Biases: Evidence from Child Adoption」。

It’s about $8,000 cheaper to adopt a black baby than a white or Hispanic child and girls tend to cost about $2,000 more than boys.

養子をマッチする仲介者が提示する金額は、黒人の子供を指定した場合のほうが白人やヒスパニックの場合よりも$8,000安く、女の子の方が男の子よりも$2,000高いとのこと。原因としては、親が自分と同じ人種の子供を好むこと、女児の方が大きな問題を起こしにくいことなどいろいろ考えられる。

It is hard to know exactly how many black newborns in the sample are not adopted and wind up in foster care. Black children make up 32% of the foster care population, but just 16% of adoptees (including domestic and international adoptions).

しかし、このフィー=価格差があっても需給が一致しているわけではない。黒人の養子に占める割り合いは16%だが、フォスターケアの32%を占める。

The paper finds the cost of adopting a black baby needs to be $38,000 lower than the cost of a white baby, in order to make parents indifferent to race. Boys will need to cost $16,000 less than girls.

推定された引受側の選好から計算すると、黒人の子供の需給を一致させるには白人の子供を引き受ける場合よりも$38,000安い必要があり、男女の需給を一致させるには男の子が女の子より$16,000安い必要があるとのこと。

誰もが気づいていても口に出しづらいことを金額にしてしまうことは重要だ。単に数字を見て面白いというだけではなく、養子として引き受け先のない子供の数をどうやって減らしていくかは重要な政策課題だからだ。

女性の出世は何故遅い

結構微妙な記事が多いHBSだが、女性の出世に関する面白いネタがあった。

Women in Management: Delusions of Progress

アメリカでは女性の社会進出は目覚しく、労働人口においても肩を並べている。しかし、社内での出世に関しては有意な差があるようだ。

Even after adjusting for years of work experience, industry, and region, Catalyst found that men started their careers at higher levels than women. […] Among women and men without children living at home, men still started at higher levels.

その差は職務経験・産業・地域・子供の有無を調整しても変わらないとのこと。では何が原因なのか。面白い調査結果が挙げられている。

A quarter of the women in our study left their first job because of a difficult manager—nearly as many as those who moved on for more money (26%) or for a career change (27%). Only 16% of the men left because of a difficult manager.

最初の職を辞めた理由を調査したものだ。こちらも条件付されているのか分からないが、上司とうまくいかなかったという理由が男性に比べて多い。

Of course, these results suggest that women and men may be treated differently by their first managers.

とはいえ、ここから男女が上司に違う扱いをされているのはOf courseとか言われると何だろうか?という気にはなる。女性のほうが人間関係を重視するだけかもしれない(多分にありそうだ)。

Companies must acknowledge their failure on this front, learn why they haven’t succeeded, and come up with better programs to help talented women advance.

その挙句、企業はこの問題を解決して有能な女性の進出を助けなければならないとまで言われるとどうだろう。もし男女の出世における差が単なる差別に基づくものであるなら、差別されている人を優先的に雇う企業は競争で優位に立つはずなので市場にまかせておいてもいいはずだ。

などと少し真面目に考えてしまったものの:

Catalyst works with businesses and the professions to build inclusive workplaces and expand opportunities for women and business.

記事を書いた人たちは女性のための職場環境を整える団体にいるようで、この記事自体が単なる広告のようだ。何か悔しいが書いてしまったのでポストしてみた。

人種差別の現実

巡回させて頂いているブログアメリカにおける人種差別の話について書かれていたので、前に読んでとても感心した黒人と白人の関係に関するエントリーを紹介(是非全文読んでいただきたい):

My Race Essay: What Whites Say Behind Blacks’ Backs « Colin Blog

著者は黒人が支配的なセントルイス出身で自らの経験から何故黒人に対する「差別」がなくならないのかについて論じている。まず現状については次のように述べている。

One such uncle of mine noted […] America is generally an “equal opportunity country.” I wouldn’t go that far, but this is how most white people feel and I think the truth is somewhere in the middle.

基本的に機会は平等に近づいている。これは私の感覚にも一致する。アファーマティブアクションが議論になるよう、教育などにおいて明らかな差別はない。

In my school, there was no systematic exclusion of the black students from excelling in academics. Most of the black students excluded themselves.

学校教育において、黒人が差別を受けているという事実はなく、むしろ彼らが勝手に勉強から離れていくとかかれている。その例として、黒人がほとんどの高校で微積分を取る黒人がいなかったこと、高校を卒業しているのに字が読めない歌手が挙げられている(アメリカの識字率の現実については前に書いた)。実際大学において黒人の比率は非常に低い(うちの大学は特に低いため時折批判に会う)。また白人と黒人は社会的にも早いうちに分離する:

But somewhere along the line, 5th or 6th grade, the white and black students started to segregate themselves.

これは大学になっても続いている。多くの大学生は自分の人種のグループから出ようとしない。小学校あたりで既に分かれているのならその傾向も不思議はない。

では何故「差別」はなくならないのか。これについて著者は自らがレストランでサーバーとして働いた時の経験から説明している。少し長いがまとめて引用しよう:

I have a theory to explain why blacks often suffer discriminatory treatment in society. From my experience in the restaurant service industry, servers and bartenders will tell you that black people don’t tip. This is bullshit. I used to argue that the average gratuity percentage of all black customers, while certainly lower, is not much lower than the average percentage from all white customers. The difference is negligible given low gratuities from rural white people and elderly white people.

But those ghetto white people aren’t such a pain in the ass. They’re in and out. Servers don’t remember them. Nor do servers remember the nice black family that was easy to take care of and left 20%. They remember the ghetto black table that sent back their food for trivial reasons, asked for free samples, complained to a manager, or were a major pain in the ass in some other way while not leaving a tip. The treatment I have gotten from ghetto black tables is simply unconscionable. You don’t get that from any other kind of people. Only black ghetto. Even black servers don’t want to wait on black tables. I was the guy that used to argue that waiting on blacks is not as bad as people make it out to be. And even I would get a feeling in my stomach when I saw a black table sit down in my section. Just the chance that this black table could be a black ghetto table could completely ruin my night.

掻い摘んで説明しよう。黒人客のチップが他の(同じような社会経済的ステータスの)グループに比べすくないわけではない。しかし、チップを払わない客のほとんどは単に食事してさっさと帰るだけなのに対し、一部の黒人客は大した理由もなく食事を突き返し、無料サンプルを要求し、マネージャーに文句を言うなど非常に面倒なことをした挙句チップを置かずに帰る。この体験が余りにも酷いのでサーバーは黒人の客が来ただけでもしかしたらその客がそういう客なのではないかと思ってしまう。

That feeling is uncontrollable. You can’t teach someone not to feel what has been conditioned into their system through experience, like a dog getting its face rubbed in shit after pooping in the house.

そしてこれが繰り替えされると、人間は自分の感情をコントロールできなくなってしまう。

My theory is that discriminatory treatment stems from people trying to thwart or discourage the triflin’ behavior of the ghetto segment. Imagine how police officers, whose exposure to black ghetto must be much higher, could come to treat all black people. Unfortunately, non-ghetto black people are often subject to the backlash against ghetto black people when they are not to blame. They are being treated unfairly. In my view, one third of the black population is fucking it up for everybody.

黒人の一部が余りにも酷いため、多くの人はそれに対策を講じる。ある路地に黒人が集まっていればそれなりの確率でそれが犯罪に結びつくかもしれないので避ける。これは極めて合理的な行動だ。観察できない情報(危険かどうか)が分からないのでそれと相関している他の観察可能な情報(黒人である)を利用しているに過ぎない。そしておそらく人間は単に相関している出来事にも恐怖感といった感情を持つようにできているのだろう(いちいち考えているよりも生存に有利だ)。だがこれは他の心理的問題とは異なる。なぜなら頭で考えたとしてもこの行動は(本人の利得を最大化するという意味で)正しいからだ。

しかも是非はともかく正そうとしても難しい。学歴「差別」を表面上禁止するのは簡単だ。単に求職者に学歴を聞くのを禁止すればよい。学歴はシグナルなので禁止するのは非効率的だろうし、実際に執行するのは困難だろうが理論上は可能だ。しかし黒人に対する「差別」を禁止するのは非常に難しい。肌の色は見れば分かるのでその情報を利用しないように強制することはできない。実際、黒人に多い名前を書いた履歴書を企業に送るとごく標準的な名前で同じ履歴書を送った場合よりも企業から反応がある可能性が有意に低いことが知られている。企業は少しでも観察不可能な情報と相関している情報を意思決定に利用する。

I can’t think of how normal, mainstream black people can disassociate themselves with the ghetto segment in order to receive normal treatment. The black ghetto segment is so triflin’ that the mere presence of a black person can cause worry in worrisome types.

ではまともな黒人はどうやってこの構造が抜け出すのかという疑問が掲げられている。これはそういう黒人を観察していれば分かる。多くの、ここでいうghettoでtriflin’な、黒人は大きなTシャツにダブダブのジーパンを腰ばきし、キャップやフッディー、指輪・ネックレスなどを着ている。それに対してまともな黒人はそれと限りなく反対の着こなしをする。Tシャツはほとんど着ないし、着てもサイズをきちんと合わせる。大抵はYシャツ。ジーパンもぴっちりとしたものを履くし、チノパンであることも多い。シャツはタックインしてしばしば上にはジャケットだ。スーツを着ている人も多い(これはカリフォルニアでは非常に珍しい姿だ)。しゃべり方もまったく異なる。アメリカの多くの黒人は特徴的なしゃべり方をすることが多くなかなか聞き取れないのに対し、彼らは他の人種よりもわかりやすいしゃべり方をする。オバマの演説なんかがいい例だ。

ではこの問題はどうやったら解決するのだろうか。「差別」が黒人であるという情報に基づいて異なる行動をとることを意味するなら上述のように極めて困難だ。「差別」的な行動により不利な扱いを受ける黒人に対する補償が目的であればアファーマティブアクションが該当するだろう。しかしこれは「差別」自体をなくすのには役に立たない。また、他にも観測不可能な情報と相関する特性を持っているがゆえに不利な扱いを受けているグループは存在する。

根本的な解決には、「差別」自体に対処するのではなく、通常の福祉政策・教育政策・再配分政策によって問題となっている層を何とかするのが唯一の対策だろう。人種によって明らかな優劣は存在しない以上、これらの政策によりいつかは人種との相関は消えていくはずだ(逆に言えば本質的な違いが存在しているタイプの「差別」に関してはこの方策は効果がない)。