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新成長戦略?

産業政策は未だに根強い支持を集めているようだ。

政府が国内産業をリードしていく それが成長のポイントだ/経済産業省の近藤洋介政務官に聞く

今回の新成長戦略が、以前のものとは違う点をひとつだけ挙げて下さい。

具体的な数値目標を出したという点です。

新成長戦略が以前の成長戦略と違うのは具体的数値目標があることだという。しかし、例えば第五世代コンピュータ達成すべき数値目標があったら成功したのだろうか「当初の目標を達成した」と主張することはできなくなるが、うまくいかない事自体は変わらないだろう。日の丸検索エンジンでも同じことだ。

そもそも産業政策が支持されなくなったのは、過去の事例を事後的に評価した結果としてその有効性が否定されたからだ。数値目標があるだけで結果が変わるというモデルでもあるのだろうか。

産業政策(特定産業分野へ予算を重点配分する等)については、そもそも「時代遅れ」「不要だ」との指摘もあります。政府は、教育分野での人材育成や規制緩和に力を注ぐべきだ、という主張です。

むしろ、そうした批判の方が時代遅れだと思います。政府は産業政策に関与せず、規制緩和だけを進めていれば後は自由市場がうまくやってくれる、というのは小泉政権時代の発想です。それは結果として失敗し、今の日本の厳しい状況があるわけです。

だから、産業政策が支持されなくなったのは過去の事例の分析によるものであって、「時代遅れ」とか「小泉政権時代の発想」とかではない。自由市場はうまくいくかいかないかというのは間違った切り口で、単にうまくいく場合とうまく行かない場合があり、データからすると産業政策はうまく行かないということだ(小泉政権下の規制緩和が失敗したとも思わないが)。

局面によっては政府が産業をリードしていく、という姿勢の方が、力がある企業が集まる国々の間ではスタンダードになっています。

例えば韓国では、サムスン電子が凄まじい高収益を上げるなどしています。為替の影響もありますが、背景としては1997年のアジア通貨危機を機に政府主導で分野ごとに企業を集約した、ということがあります。こうした政府関与の結果、サムスン電子などが強くなり韓国経済を引っ張っています。アメリカでも、オバマ政権がグリーン・ニューディール政策で環境・エネルギー分野での産業政策を進めています。また、フランス政府は原発などの海外商談で企業と力を合わせています。

これは単なる印象論と権威主義だろう。サムスン電子が凄まじい高収益を上げるのは、市場を人為的に独占させたのだから当然だ。例えば電話市場を再びNTTだけにすればNTTの収益は爆発的に上がるが、それが日本経済を引っ張るだろうか。引っ張るとしたら方向は下だ。オバマ政権のグリーン・ニューディール政策を産業政策と考えるのは難しい(「ニューディール」という名前から明らかだろう)し、フランス政府が民間企業に口を出すのは昔からだ(そしてそれがフランス経済にネットで貢献しているという話は聞かない)。

結局のところ、どうして終身雇用で安定した給与を貰う公務員が、身銭を切る民間の企業・投資家よりも将来の産業の行末をうまく予想できるのかという問題に答えない限り、産業政策が支持を集めることはないだろう(市場の失敗が明白な場合を除く)。

中小企業は社会の主役?

同じような話で連投になるが、先のポストと合わせると実に皮肉な話だと思う。

中小企業は「社会の主役」 経産省が憲章案

経済産業省は12日、中小企業政策の指針となる「中小企業憲章」の同省案を公表した。中小企業を「経済や暮らしを支え、けん引する力であり、社会の主役」と位置付け、「国の総力を挙げて、どんな問題も中小企業の立場で考えていく」とした。

別に経済産業省を取り立てて批判したいわけではないし、中小企業の重要性を否定するつもりは全くない。しかし、中小企業という一定の条件を満たす企業を特別に保護する必要はあるのだろうか。すでに多くの優遇措置もある。

同省案は、政府が取り組む中小企業政策の基本原則として(1)資金や人材など経営資源の確保支援(2)起業の促進(3)新市場の開拓(4)公正な市場環境の整備(5)セーフティーネット(安全網)の整備―の5項目を列挙した。

1,4,5は中小企業とは直接関係ないし経産省が受け持つべき仕事かも分からない。2のスタートアップについては確かに中小企業の一つには該当するが、一般的な中小企業とは性格が全く異なる。3に至っては何をやりたいのか分からない。

本当に中小企業を応援したいなら、必要なことは官主導での市場開拓などではなく出来るだけ下手な介入をしないことだろう。「官主導の就活サイト」を業界最大手と組んで推進し、他の(中小)企業を駆逐している場合ではない。

官主導の就活サイト

就職関連のビジネスをされている佐藤純さんから次のニュースを頂いた。政府主導で就活支援サイトが開設されるそうだ。

交通費いらず?中小2500社が就活サイト

厳しい就職戦線にのぞむ学生と、採用活動にコストをかけられずに人材不足に陥っている中小企業の橋渡しをする“ネット上の合同説明会”ともいえ、雇用のミスマッチの解消を目指す。

雇用のミスマッチの解消を目指すのはいいが、それを政府が行うのは何故だろうか。就活の支援は産業として成立しており、経済産業省のアイデアを税金で推進する意義はどこにあるのだろう

開設するサイトは「ドリーム・マッチ プロジェクト」で、リクルートが運営する。

しかも、実際に運営するのは最大手であるリクルートだ。もちろん政府に運営ノウハウがあるわけではないので委託するのは構わない。しかし、単に最大手にやらせるだけなら簡単だし、リクルートと競争している企業にとっては自分たちのビジネスを台無しにされたようなものだ

リクルートの観点から見れば、これは単純な売上だ。予算から出る以上とりっぱぐれもないし、全くうまくいかなくても損失はでない。単に儲けてずるいとかいう話ではなく、インセンティブの観点から問題がある。成功してもしなくても同じならどれだけの努力が期待できるだろうか。

結局のところ、このスキームの問題はその内容ではなく、リスクのあり方にある。官庁は自分たちの思いついたアイデアを(民間企業の経営者とは異なり)リスクをとらずに推進する。そして実際の運営もまた、何のリスクもとらずに業界トップ企業が担当する。リスクは全て税金によってカバーされる。

リスクのないところには、考え抜かれたアイデアも成功に全てを賭ける努力もない。何となく良さそうなアイデアを無難に推進するだけでうまくいくなら既に誰かがやっているはずだろう。うまく行かなかった時の尻拭いをするのは国民だ。

追記:@clydemenderさんによるとドリーム・マッチというバラエティ番組の名前にもあるそうです…。

日本経済の現状

経済産業省が公表しているスライドがよく出来ているのでここでも紹介(ht @kazemachiroman)。日本が抱える問題とここに至るまでの経緯が丁寧に解説されている。ではどうしたらいいのかという部分になると急に説得力がなくなるが、日本語だし全部読む価値はあるように思う。特に興味深いグラフを幾つか抜粋する。

日本の産業を巡る現状と課題

まず各国の貯蓄率の推移だ。日本は貯蓄率が高く、アメリカは借金だらけというイメージを持つ人が多いと思われるが、日本の貯蓄率はアメリカを下回っている。高齢化や社会保障によって貯蓄率が下がるのはしょうがないが、それにしても衝撃的な数字だ。

最近、株主主権の問題と絡めて話題となった労働分配率だがここでも日本は英米独仏などよりも高い水準を保っている。特にドイツが一番低いのは興味深い。

企業の海外移転に関するアンケート結果だ。多くの企業が生産機能移転を決定ないし検討しているとのこと。生産コストを考えればその流れは当然だろう。日本で働く人は開発・研究・本社機能で能力を発揮出来るようにならないと厳しい。

こちらは三大都市圏及び地方の人口推移だ。全体に人口が減っていくものの、相対的に地方での人口減少が深刻となる。

特に地方圏では、今後急速に人口減少。地域経済の立て直しが深刻な課題。

とはいえ、既に莫大な予算をつぎ込んでいる地方経済をどう立て直すというのだろうか。

実質失業率は急激に伸びている。日本の比較的低い完全失業率は企業による抱え込み=保蔵によって維持されているに過ぎない。

当然これだけの余剰人員を抱えていれば労働生産性で他国に引けをとるのは当然の帰結だろう。

企業内部で再配分が行われているような状況であり、雇用者報酬も伸び悩む。国境を越えられるような人材の確保はますます難しくなりそうだ(こっちも購買力平価だよね?)。

では日本の問題は何か。まず挙げられているのが実効法人税率の圧倒的な高さだ。どこの国で始めても良いような産業があえて日本を選ぶことはないだろう。儲かりそうであるほどそうだ。運輸の関する費用も高く事業コストが足かせになっている状況が分かる。

資本市場としての魅力もない。シンガポールの躍進をみればアジアでの地位は完全に失われたといっていいだろう(追記:資本市場の地位という意味)。

資料では、これらの経緯・現状を踏まえた上でさらなる産業政策の重要性が強調されているが、現状はその産業政策の失敗とも捉えられる。まずは企業活動がしやすい環境を整え、国内での競争を促進することで生産性を上げることが重要だろう。そうすることで、政府が成長産業を決め打ちしなくても、優秀な産業が競争に生き残る。

結論部分こそ微妙だが、全体として非常によく出来た資料なので、時間のある時にでも是非読んでみてほしい。