今回の金融危機において、格付け機関がいかに間違ったシグナルを送ったかについて:
How Moody’s sold its ratings – and sold out investors | McClatchy
A McClatchy investigation has found that Moody’s punished executives who questioned why the company was risking its reputation by putting its profits ahead of providing trustworthy ratings for investment offerings.
Moody’sの例が挙げられている。格付けの信頼性と機関の評判を重視した社員が如何に追いやられていったかについて多くのインタビューを交え詳細に記されている。
原因の一つには格付け機関の収益構造がある。
To promote competition, in the 1970s ratings agencies were allowed to switch from having investors pay for ratings to having the issuers of debt pay for them.
格付け機関は投資家ではなく債権の発行者から収益を得るようになった。そのため格付け機関は利益を得るために格付けを発行者の意向に沿う形に歪めるインセンティブを持った。
Moody’s was spun off from Dun & Bradstreet in 2000, and the first company shares began trading on Oct. 31 that year at $12.57. Executives set out to erase a conservative corporate culture.
When Moody’s went public in 2000, mid-level executives were given stock options. That gave them an incentive to consider not just the accuracy of their ratings, but the effect they’d have on Moody’s — and their own — bottom lines.
さらにMoody’sは2000年に株式市場へ上場し、広範な社員にストックオプションの支給を始めた。これは社員に格付けの正確性ではなく、会社の利益をまず考えるインセンティブを与えた。
格付け機関が正しい格付けを行うインセンティブは基本的に評判を維持するためだ。しかし金融市場において格付けが正しかったかが判明するのは数年に一度、不景気になったときだけだ。景気のよいときにはほとんどの株は上昇するし、債権もデフォルトを起こすことはほぼない。レストランのように商品の質がすぐに判明する業種とは評判がプレーヤーに与える影響は大きく異なる。さらに格付け自体は単なる意見に過ぎないため法的責任は生じない。仮に生じたとしてもそれを確認する方法がない(注)。
しかし格付け機関のような組織がここの投資家の代わりに情報を集め処理することは社会的にプラスだろう。格付け機関を機能させるには、投資家が現在の格付け機関が問題のあるインセンティブ構造を持っていることを認識する必要がある。そうすれば、問題のある所有形態の機関は信用されず市場から排除されるだろう。
(注)リスキーな債権を特定のCDOに混ぜることで発行会社が利益をあげられること、それにより安全なトランシェでもデフォルトする可能性があること、投資家がそのようなCBOを発見できないこと、そしてデフォルトした場合でも債権の分布がランダムでないことを証明できないことを示した最近の論文についてこちら。
格付け機関のインセンティブを考える事は大事ですね。日本でも金融機関が母体のJCRよりR&Iの方がましだと言われてますし。利益の相反が起こりやすい金融の分野では、この手の仕組みを上手く回すのはとても難しい気がします。
個人顧客向けのフィナンシャル・アドバイザーなんかもそうですが(笑)。
信頼を上げるために格付け機関が自らインセンティブ構造を整えてくれればいいのですがそうもいかないようですね。
むしろ不思議なのはうまく回すのがとても難しいはずなのに、みんな利用してしまうところでしょうか。多くの資金が他人の金を運用しているファンドマネージャーばかりでしかも彼らの業績評価が歪んでいるのではないかと考えています。
格付け機関が発行者からフィーを貰っているのは投資家は分かっていたはずなわけで、それでもAAAは本当に安全だと信じきっていた、と言うのはどうも説明になっていないように思います。
そういった問題を知りながらファンドマネージャー達がレーティングを受け入れていたのは、mutual fundやpension fundなどではレーティングの低い投資が規制されているから、というのが大きいのではないでしょうか。
厳密な規制がなくても、ファンドマネージャーがAAAでない案件に投資をして失敗した場合、(過度に)大きなペナルティを受けるのであれば説明になります。
もちろんこのような非効率な報酬体系を採用している企業がどうして市場から排除されないかという問題は残ります。可能性としては市場への参入が困難で競争が十分に働いていないか、そもそも情報の非対称などにより最適な報酬体系の設計が困難であるかのどちらかでしょうか。レーティングの低い投資を規制しているのはマネージャーのインセンティブ付けが難しいことの証左のように思えます。
1つだけの投資をしているのなら確かに、レーティングの低い投資は避けるようにするでしょう。でもファンドマネージャーの評価は、ポートフォリオ全体のパフォーマンスによって決まるわけですよね。Diversifyされていれば、レーティングが低い投資ばかりでも全体のリスクは抑えられます。それを考えると、規制が無い場合にマネージャーがレーティングの低い投資を特に避ける事はないのではないでしょうか。
さらに言うと、個々の投資のレーティングに関して規制をする事のメリットが見えません。規制が難しいからそうなっているのでしょうが。
実際の運用については知りませんが、マネージャーの評価=ポートフォーリオのパフォーマンスが低かったときにレーティングの低い投資案件を含めているとそれを雇用主に批判される可能性はあるように思います。
個々の作業に雇用主が規制をかけることはよくあります。インセンティブ付けが簡単な場合はこういうことはあまり起きません(e.g. セールス)。
説明不足でした。雇用主ではなく、FedやSECが規制をしている話です。↓の6pに、網羅してはいないようですが表があります。
http://www.newyorkfed.org/research/quarterly_review/1994v19/v19n2article1.pdf
雇用主が規制しているかどうかは知りません。
ああそちらでしたか。
>さらに言うと、個々の投資のレーティングに関して規制をする事のメリットが見えません。規制が難しいからそうなっているのでしょうが。
これは資本比率規制に一本化してもよいように思います。個々の投資のリスクを規制するにしても民間の格付けに規制を連動させているのは非常によろしくないですね。
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