https://leaderpharma.co.uk/ motorsavederby.co.uk

ワインレーティングなんて無意味

レナード・ムロディナウ(Leonard Mlondinow)によるワイン・レーティングの問題についての記事:

Why Wine Ratings Are Badly Flawed – WSJ.com

世の中には大量のワインがあってどれがどれだか分からないし、いいワインを買うときは値札で選んでいるなんていう人も多いだろう。

It was in this climate that in the 1970s a lawyer-turned-wine-critic named Robert M. Parker Jr. decided to aid consumers by assigning wines a grade on a 100-point scale. Today, critics like Mr. Parker exert enormous influence.

質の分からない財がたくさんあれば、出てくるのがレーティングビジネスだ。

According to a 2001 study of Bordeaux wines, a one-point bump in Robert Parker’s wine ratings averages equates to a 7% increase in price, and the price difference can be much greater at the high end.

Robert Parkerのレーティングが一つ上がると平均7%価格が上がるという。この上昇分はハイエンドのワインのほうがさらに大きくなる。

しかしビジネスのレーティングとして重要になるのは信頼性だ。債権のレーティングが問題になったのも記憶に新しい(参考:格付け機関の失敗レーティングを機能させる方法)。ではワインのテイスティングの信頼はどうだろうか:

In his first study, each year, for four years, Mr. Hodgson served actual panels of California State Fair Wine Competition judges—some 70 judges each year—about 100 wines over a two-day period. He employed the same blind tasting process as the actual competition. In Mr. Hodgson’s study, however, every wine was presented to each judge three different times, each time drawn from the same bottle.

ここではカリフォルニア州のワインコンペにおける実験が紹介されている。70人のジャッジが100種類のものワインを2日間で評価する。そこで同じワインを同じボトルから三回ずつ出したという。

The results astonished Mr. Hodgson. The judges’ wine ratings typically varied by ±4 points on a standard ratings scale running from 80 to 100. A wine rated 91 on one tasting would often be rated an 87 or 95 on the next. Some of the judges did much worse, and only about one in 10 regularly rated the same wine within a range of ±2 points.

すると同じジャッジが同じワインに対して大体±4異なるレーティングを出したという。レーティングの数字が80-100しかないことを考えると随分と大きな誤差だ。

he made a bar graph of the number of wines winning 0, 1, 2, etc. gold medals in those competitions. The graph was nearly identical to the one you’d get if you simply made five flips of a coin weighted to land on heads with a probability of 9%.

さらに多くのコンペのデータから各ワインが金メダルを取る頻度を計算したところどのワインも同じ確率で金メダルを取ると考えたときの分布とほぼ同じだったという。

レーティングの回数・人数を増やしていけばより正確な数字を出すことはできるかもしれないが、現状のワインコンペの結果は信頼できないようだ。

まあとはいえここに出てくるのはコンペに出されるようなワインに限られていることには注意が必要だ。買い物ついでにスーパーで手に取るワインについても当てはまるかはわからない。

P.S. ちなみにレナード・ムロディナウはバークレーでPh.D.を取りカルテックに理論物理学者として就職したが、後にハリウッドでテレビ・映画の脚本家になったり、コンピュータゲームを作ったりしている異色の人物だ。ここ数年は科学に関する啓蒙書を数多く執筆している。スティーブン・ホーキングとの共著が特に有名だが、単著であるThe Drunkard’s Walk: How Randomness Rules our Livesも昨年ベストセラーになった(積みっぱなしでまだ読んでません…)。

格付け機関の失敗

今回の金融危機において、格付け機関がいかに間違ったシグナルを送ったかについて:

How Moody’s sold its ratings – and sold out investors | McClatchy

A McClatchy investigation has found that Moody’s punished executives who questioned why the company was risking its reputation by putting its profits ahead of providing trustworthy ratings for investment offerings.

Moody’sの例が挙げられている。格付けの信頼性と機関の評判を重視した社員が如何に追いやられていったかについて多くのインタビューを交え詳細に記されている。

原因の一つには格付け機関の収益構造がある。

To promote competition, in the 1970s ratings agencies were allowed to switch from having investors pay for ratings to having the issuers of debt pay for them.

格付け機関は投資家ではなく債権の発行者から収益を得るようになった。そのため格付け機関は利益を得るために格付けを発行者の意向に沿う形に歪めるインセンティブを持った。

Moody’s was spun off from Dun & Bradstreet in 2000, and the first company shares began trading on Oct. 31 that year at $12.57. Executives set out to erase a conservative corporate culture.

When Moody’s went public in 2000, mid-level executives were given stock options. That gave them an incentive to consider not just the accuracy of their ratings, but the effect they’d have on Moody’s — and their own — bottom lines.

さらにMoody’sは2000年に株式市場へ上場し、広範な社員にストックオプションの支給を始めた。これは社員に格付けの正確性ではなく、会社の利益をまず考えるインセンティブを与えた。

格付け機関が正しい格付けを行うインセンティブは基本的に評判を維持するためだ。しかし金融市場において格付けが正しかったかが判明するのは数年に一度、不景気になったときだけだ。景気のよいときにはほとんどの株は上昇するし、債権もデフォルトを起こすことはほぼない。レストランのように商品の質がすぐに判明する業種とは評判がプレーヤーに与える影響は大きく異なる。さらに格付け自体は単なる意見に過ぎないため法的責任は生じない。仮に生じたとしてもそれを確認する方法がない(注)。

しかし格付け機関のような組織がここの投資家の代わりに情報を集め処理することは社会的にプラスだろう。格付け機関を機能させるには、投資家が現在の格付け機関が問題のあるインセンティブ構造を持っていることを認識する必要がある。そうすれば、問題のある所有形態の機関は信用されず市場から排除されるだろう。

(注)リスキーな債権を特定のCDOに混ぜることで発行会社が利益をあげられること、それにより安全なトランシェでもデフォルトする可能性があること、投資家がそのようなCBOを発見できないこと、そしてデフォルトした場合でも債権の分布がランダムでないことを証明できないことを示した最近の論文についてこちら