公的医療のカバレッジ

Provengeという前立腺がんの治療薬がアメリカの高齢者向け公的利用保険制度であるメディケア(※)に承認されたことが物議を醸している。

(※)アメリカは公的保険がないと言われるが、高齢者はメディケア、低所得者はメディケイドがあるので相当な医療は既に政府部門によってカバーされている。

Provenge, a Prostate Cancer Drug, Gets Medicare Panel Backing

In clinical trials, it extended median survival by about four months compared to a control group. Dendreon is charging $93,000 for each patient’s treatment.

問題となっているのはそのコストだ。Provengeはメジアンで4ヶ月生存期間を延長するが、それに対し製薬会社であるDandreonは$93,000をチャージしている。これは大雑把にいって一年の寿命に対して三十万ドル近い出費であり、末期がん患者の生活の質まで考慮すれば極めてコストパフォーマンスが低い。

Some prostate cancer patients and advocates, doctors and investors in Dendreon say that […] Medicare’s review was based more on cost and, in a sense was the beginning of health care rationing.

“One has to wonder if today’s meeting is about something other than science, namely the cost.’’

この問題について、薬の効用は既に確かめられている以上、問題はコストであり、医療のrationing=割り当ての開始だという声が上がっているが、メディケアの担当者はコストが焦点となっていることを否定している。

確かに$93,000かかる治療を受けたいが保険なしでは受けられない末期患者を前に保険適用を否定するのは倫理的に非難される。しかし、よく考えればそのような批判に根拠があるとは思えない:

  • 全ての治療を保険でカバーすることはできない
  • 治療を受ける側にはどんな治療であっても保険を求めるインセンティブがあるためどの治療が望ましいか分かりにくい
  • 保険でカバーするとしてそれを決定する政府の人間は費用を実際に負担しているわけではなく適切な判断が行えるとは言い難い
  • 同じ費用をかけてより多くの人を救える(より生存時間を稼げる)治療を優先するほうが好ましい

特に最後の論拠は強固だ。$93,000を使って4ヶ月以上生存時間を伸ばす方法は他にもあるだろう。公的保険制度が特定のグループの寿命を他のグループの寿命よりも優先させる倫理的根拠はないだろうから、これを倫理的に否定するのは難しい。理想的にはどんな治療(政策)も同じ便益をもたらすべきであり、そのためにはまず問題の大きな部分がお金であることをオープンに議論する必要がある