アメリカでは著作権侵害の申し立てに対し、フェアユースが抗弁として用いられる。フェアユースが認められるかどうかは以下の四点(17 U.S.C. § 107)にしたがって総合的に判断される(balancing test):
(1) the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes;
(2) the nature of the copyrighted work;
(3) the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and
(4) the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work.
(1)使用目的(2)著作物の性質(3)利用の程度(4)市場への影響である。日本でもフェアユースを導入しようという議論が進んでいるが、Copy & Copyright Diaryさんでその内容が紹介されている。
日本版フェアユースの範囲 – Copy & Copyright Diary
日経の記事では、フェアユースとして認められるものとして
1. 広告で利用する写真にたまたま美術品などが写り込んでいるケース
2. 合法的な利用に必要なケース(CDをインターネット配信する場合のサーバーでの楽曲複製など)
3. 本来の利用でない複製(言語分析のために小説を複写するなど)があげられている。
これらは技術的理由・取引費用の観点で正当化できる。配信のための複製は著作権者にとっても必要だし、一部に入り込んでしまう程度の二次利用は取引費用がなければ簡単に合意できるはずだが、現実には交渉費用・裁判費用・支払いに伴う費用などにより難しい。よって、当該著作物の市場価値への影響がなければ(=取引費用がなかったとしても極めて少額の使用料になる)、最初から利用可能としておくことが望ましい。
朝日の記事では、フェアユースとして認められないものとして
* 社内会議で配るために書籍の一部をコピーすること
* 他人の著作物を利用して新たな創作をするパロディーの2つが例としてあげられている。
逆にフェアユースにならない例として社内利用やパロディーが挙げられている。おそらく商用利用は基本的にアウトということだろうが、いずれも程度によるだろう。小規模の企業内利用で元の作品の収益が悪化するとは考えられない。逆に商用目的のパロディであれば交渉費用は複製の規模に対して比較的小さいのでフェアユースにならないのも妥当に思える。
ただし、アメリカにおけるフェアユースは一般規定であり認めらるもの・認められないものを列挙するというのは趣旨が異なることには注意する必要がある。あくまで個別ケースについて四つの観点からチェックするという構造だ。日本版フェアユースという言葉遣いは(同様の構成をとらないのなら)誤解を招くように思う。
本題とは関係ないがちょっと気になった部分がある:
法制問題小委員会では日本版フェアユースの導入について検討を行っているが、秋より具体的な検討は権利制限の一般規定ワーキングチームで行われていた。ワーキングチームは非公開で行われていたので、そこでの議論は全く分からなかった。
フェアユースに関する議論は非公開のようだ。朝日新聞と日経新聞がその内容を報じているが、それもインターネット上には存在しない。著作権に関する議論がこれほど閉鎖的でいいのだろうか。
フェアユースについてはこれからも注目していきたい。
JASRACの包括契約が公正取引委員会から独禁法違反の勧告を受けたのが去年2月。
「著作権法は国際条約だから」を正義の御旗にしてきた人達を一杯見てきましたので、
フェアユースという概念が出てきただけでも進歩したのかな、と。
もうwebのせいで(おかげで)世界中著作物が溢れかえってるわけで、
それらは資源として考えるなら浪費しまくった方が社会にとっては効率的な対象です。
当然使用の縛りは緩い方が良いに決まっている。
地デジの時の録画フォーマットをめぐるデジコン委員会の紛糾っぷりを鑑みると、
この手の話題は著作権者や消費者団体が幾ら話し合った所で
自分の取り分を主張して「荒れるだけ」です。
青木さんのような経済の専門家に「全体の利益を最大にするには」という意見を外から言ってもらう方がいい。
>JASRACの包括契約が公正取引委員会から独禁法違反の勧告を受けたのが去年2月。
JASRACの包括契約がanti-competitiveかどうかは結構微妙ではあります。アメリカでもBMI・ASCAPによって包括契約は行われています。
>当然使用の縛りは緩い方が良いに決まっている。
現段階で著作権の縛りは緩いほうがいいと思いますが、それはフェアユースとは分けて論じたほうがいいと思います。フェアユースを単に著作権を弱める動きと取られてしまうと通るものも通らなくなる恐れがあるります。
>経済の専門家に「全体の利益を最大にするには」という意見を外から言ってもらう方がいい。
この分野もまた基本的に経済学で決まるべきにも関わらず全くその導入が進んでいない分野です。将来的な改善が望まれます。