移民が必要な本当の理由

少子化に伴い大規模な移民受け入れの是非が日本でも議論されるようになった。長所・短所見極めることが肝要だが、あまりとりあげられないメリットがあるので紹介したい。しばらく前に読んだ記事になかなかいいストーリーがある。

America’s Secret Innovation Weapon: Immigration – GigaOM

Immigrants come to the United States and take menial jobs so that their children have a chance at a better future, he told me. While the jobs they take are below their intrinsic capabilities, they’re focused on giving their children a better life, not personal job satisfaction.

著者は父親から聞いた話を取り上げている。移民は生来の能力に見合わないような卑しい仕事につき、子供のために働く。

Second-generation children, seeing how hard their parents work to give them an opportunity, in turn work hard at school, where, he noted, they often focus on mathematics and science in pursuit of the economic returns promised by careers in engineering and medicine.

二世は親が開いた機会を活用し、工学や医学などを目指す。

Third-generation kids figure the economic return on effort expended is better for business and legal professionals and pursue those professions instead of technical ones.

三世はビジネスや法律関係の仕事の方が技術職より効率的に儲けられると気づきそういった職につくようになる。

By the fourth generation, any immigration-related incentives to work hard are largely nonexistent.

四世にもなると移民という出自に基づく、勤労へのインセンティブはなくなる。

この話はかなり現実に基づいたものだ。「どうして三世の所得が低いか」では次のように書いた:

移住を決意する外国人は平均的に能力が高い。しかし、彼ら自身は移民に伴いそれを完全に生かすことができない。その子供である第二世代はその高い能力を受け継ぐ一方、高度の教育を受け高い所得を得る第三世代になると、遺伝的能力は平均に回帰していくため、集団としてのアドバンテージは消えていく

上のストーリーが基本的に正しいことがわかる。海外の移住を決意する人間はたとえ学歴や資格、既に確立された地位がなくとも平均的にいって能力が高いはずだ。

日本では移民自体ほとんどいないのでこれは実感できないかもしれないが、これは感覚的にも正しいように思う。日本人の永住者を含め、アメリカでの移民の多くに当てはまる。第一世代の移民は文化や言語の問題もあり、あまり社会的な活躍ができないが平均を有意に上回る能力を持っている。

これは大学院に留学してくるような層だけについての話ではない。国境をまたいで渡ってくる人間は自分の能力が高く、それが自国ではいかせないが故に移住するのだ。

さらに軽視すべきではないのでは、単純な能力だけでなくリスクに対する態度だ。たとえ能力が同じ人間であっても自分の故郷から離れ外国に住み着こうとする人間は遥にリスクを受け入れることができる人間だ

日本は特にリスクをとれる人間が足りない。優秀でリスクのとれる人間が少ないと、思い切ってリスクをとった人間に対する目も冷たくなってしまう。新しくビジネスを始める人間が、優秀でリスクのとれる人間と見られるか、他に何もできない社会から外れた人間と見られるかの差だ。

二世に関する議論も妥当だ。親がお金を稼いでいる現場をみて育つことの多い二世は教育を受け、より効率のよいビジネスを目指すことも多いし、逆にお金の関わらない学究の道を歩むことも多い。どちらも社会にとって大きなプラスをもたらす。

移民に関する議論はゼロサムをベースに考えるべきではない。ビジネスを起こす人間、科学や工学の研究に従事する人間は決められたパイを奪っていくのではない。いかにパイの全体を増やしていくかが問題だ。

そしてまた移民を受け入れることで問題が生じるという時それが移民であるがゆえの問題なのかを考えて欲しい。移民は自分や子供の生活をよくするためのたくさんのエネルギーをもった存在だ。それが問題を起こすなら、まずすべきことは自分たちの生活を改善するというごく真っ当な欲求が社会のためになるような仕組み作りだ。これは移民がいなくても同じことだ(参考:「金儲け=悪」の話を絵で説明してみる)。ただし、移民には社会の暗黙の了解や固有の道徳はなかなか通じないので、それらになるべく頼らないような設計を心がけたい

コメントについての追記

clydemenderさんのご指摘のとおり、最後の一文:

ただし、移民には社会の暗黙の了解や固有の道徳はなかなか通じないので、それらになるべく頼らないような設計を心がけたい

は実はこのポストのポイント。自国民ではうまく回っている社会も、それが「社会の暗黙の了解や固有の道徳」に依存している場合には移民を受け入れてもうまくいかない。移民が一般的な国家においては、常識・道徳の類は自然に明文化された法律によって置き換えられている。移民の問題を抜きにしても、社会の変化が激しい状況ではこういった依存から抜け出すべきだろう。

また生永雄輔さんからは以下の指摘があった:

米州では成功している事と、欧州で失敗している事の比較がないのが気になる。多分移民を考えるにあたって、一番比較しやすいのはこの両者じゃないかと。

これももっともな指摘だ。私自身はヨーロッパで暮らしたことが(すごく小さいときを除き)ないので、何も言えないが関心がある。そのうちヨーロッパの人に聞いてみよう。もちろん数字を見ていくことはできるが、クロスカントリーの統計分析になってしまいあまり生産的とは思えない。

移民が必要な本当の理由” への10件のコメント

  1. 本題とはずれてますが、移民1世から3世になるに連れて1次産業から3次産業に移っていくのが特に興味深いです。
    ただ、今みたいに途上国でよい教育が受けられて且つ移民の売り手市場という状態だと、移民1世の部分に当たる人材がいなくなるかもしれませんね。それはそれでいいのかな。

  2. >移民1世から3世になるに連れて1次産業から3次産業に移っていくのが特に興味深いです。

    教育水準が効いてくるのかと思います。

    コメントありがとうございます。

    >今みたいに途上国でよい教育が受けられて且つ移民の売り手市場という状態だと、移民1世の部分に当たる人材がいなくなるかもしれませんね。

    途上国でよい教育を受けられるんでしょうか。できてもそれを証明できるかという問題もあるかと思います。

  3. リスクを取ることを厭わない移民とイノベーションを関連付けるのは大変面白い見方ですね。

    元記事では実証の裏付けがなさそうな点が不満だし、「三世の所得が低い」の元記事で引用された論文(しっかり読んでませんが)も、メキシコ移民だけを考えたり、まだあまりcomprehensiveではないような気はします。余談ですが(非白人系)Latinoは理工学系にはあまり流れてこないですからね。僕の印象では、女性よりもまだ少ないんじゃないかと。

    後半のRionさんの意見には禿しく同意です。移民を単に一時的なmenial workの担い手としてでなく、彼らにしっかりしたupward mobilityの存在を意識させられるような環境がないと、結局お互いに不幸になりかねないですね。都合のよいところだけ得ようとするのが、移民政策が失敗しやすいパターンだと思います。

    もっとも日本の場合は、女性だとか「ニート」だとか、自国民でさえ上手く使えてない状況ですからね。それを踏まえると、日本はまだまだ社会的にも精神的にも、移民を受け入れる態勢は整っていないのではないかな、とも思います。

    人様のブログでなに長文コメ残してるんだろう(笑)。

  4. >リスクを取ることを厭わない移民とイノベーションを関連付けるのは大変面白い見方ですね。

    教育・所得はどこまで実証されているのか気になりますが、リスクに関しては直感的に明らかな差がありそうです。

    >メキシコ移民だけを考えたり

    アメリカのこの手の論文はこればっかりなんですよね(笑)。日本でどうなってるかも知りたいですが今度は数が足りないっていう。

    >都合のよいところだけ得ようとするのが、移民政策が失敗しやすいパターンだと思います。

    いや本当にゼロサム的な考えって誰の得にもならない。しかも不景気になると蔓延りがちですね。

    >もっとも日本の場合は、女性だとか「ニート」だとか、自国民でさえ上手く使えてない状況ですからね。それを踏まえると、日本はまだまだ社会的にも精神的にも、移民を受け入れる態勢は整っていないのではないかな、とも思います。

    もっともです。マクロ政策がぼろぼろですから労働力不足を理由にした移民受け入れは無理があります。リスク云々は労働力不足を越えた意味があるんだよという指摘です。

    まあ日本のあの均質っぷりも過ごしやすいのは事実ですし、失われれば二度と戻ってはこないので難しいところです。

    >人様のブログでなに長文コメ残してるんだろう(笑)。

    いえいえありがとうございます。また是非お願いします。

  5. >途上国でよい教育を受けられるんでしょうか。できてもそれを証明できるかという問題もあるかと思います。

    NUSとか清華とか上海交通みたいなアジアの大学だけ、しかも高学歴人材だけを念頭に置いて発言してしまいました。たしかに、まだまだ一般化できるレベルじゃないですね。

  6. うめけんさん:

    >しかも高学歴人材だけを念頭に置いて発言してしまいました。

    高学歴人材にだけを見ると、英語の通じない日本になんかこないという話になりがちですね。

  7. 今さらのコメントですが、Twitterで話題になっていたので。借金して日本にわたった中国人の家族2代にわたるものがたりです。「泣きながら生きて」
    http://nakinagara.net/story.html

    どうもこの記事のエントリ思い出しました。
    (そういや僕の曽祖父はアメリカ移民でした。4世となりしかも日本在住の僕には、出自に基づく勤労の意志も、遺伝的特性も…)

    ところで、移民した人たちでつくる移民コミュニティが、移民者の成功の可能性を高めているのではないかと思います。有望な若者にすでに成功したコミュニティが人脈であったり資金であったりを提供する構造は華僑に限らずあると思います。

    もっとも、その出自に基づく排他的なコミュニティは現地の人々からの反感も買いそうですが。

  8. >借金して日本にわたった中国人の家族2代にわたるものがたりです。「泣きながら生きて」

    いい話ですね。こういうものが、徐々に移民に対する態度をかえていくきっかけになると思います。

    >(そういや僕の曽祖父はアメリカ移民でした。4世となりしかも日本在住の僕には、出自に基づく勤労の意志も、遺伝的特性も…)

    四世でもない私はw。

    >ところで、移民した人たちでつくる移民コミュニティが、移民者の成功の可能性を高めているのではないかと思います。

    これ結構面白い話ですね。外国人であることがネットワークを強めるというのはありますね。なぜか日本人には全くといっていいほどないのですが。。。日本町とか潰れかけてます。

    >もっとも、その出自に基づく排他的なコミュニティは現地の人々からの反感も買いそうですが。

    華僑レベルまでいくとそうですねー。

  9. はじめまして。
    遺伝子の進化について研究していたものです。
    使う数学や考えは経済学と非常に近いので、経済学もとても好きでした。

    本題ですが、生物学っぽい話を盛り込む時の内容は少し決定論的因果で説明しすぎの傾向があり、ちょっと乱暴な気がします。
    例えば、「移住を決意する外国人は平均的に能力が高い」などという部分は、結局能力というのがなんのことかよくわからないので、この部分だけでは反証不能です。

    IQなどは遺伝率が高いことが知られているのですが、IQというのは昔は女性の方が低く(男女により脳の処理の得意な分野に差があるため)、その差を考慮し点数の比重を変えることで同じにしたという経緯があります。
    この例からも、みんなが同意するような基準の能力というのはなかなか難しいと思います。

    >「単純な能力だけでなくリスクに対する態度」

    ただ、新奇探索傾向(遺伝子が強く影響することがわかっています)などのようにリスクや挑戦を好むかどうかなどという遺伝的な素質と、移民全体の傾向を結びつけるのはありそうな推論だと思います。

    本当はメールで送りたかったのですが、アドレスがわからずコメントにだらだら書いてしまいました。
    失礼しました。

    • こんばんは。ゲーム理論では進化の話も多少扱いますね。

      能力の定義を厳密に行う必要はあるのでしょうか。経済では能力は観測不能なので他の説明変数を放り込んだり、操作変数で内生バイアスを取り除いたりします。

      ここでの能力は(潜在的)所得獲得能力といっていいと思います。

      メールはContactに載せてあります。

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