日本の雇用についてのポストから:
(1)新卒採用
(2)年功序列
(3)終身雇用
これらが日本型雇用だという。何故これらがなくならないかについて以下のように説明している:
大企業は、解雇規制があるからイヤイヤ“日本的雇用”を維持しているのではなく、それが自分達にとって得だと思える強固な理由があるからこそ、それを維持しているのだ。
これは市場の仕組みを考えれば当然だろう。もし解雇規制が原因で合理性のない雇用慣習を採用しているのであれば、解雇規制が問題にならない新規企業に駆逐されるはずだ。
終身雇用の主なメリットは二種類ある:
- 社員のリスクを雇用主が負担できる
- 社員が雇用主に固有の人的投資をできる
1は社員の方がリスク回避的であるため、会社がそれをカバーできるなら給料を節約できるからだ(これはWin-Winだ)。会社員にとって解雇のコストが高いことを考えれば妥当だろう。
2は「“仕事のやり方”ではなく、“我が社のやり方”を知っている社員が望ましい」という部分と重なる。そういった企業固有の知識を習得するのは雇用が保証されていない限り割に合わない。
それに対して終身雇用最大のデメリットはまさに解雇が難しいことだ。解雇という脅しなしに社員を働かせなければならない。ただ、これは成果主義が成立しないということではない。将来の処遇を使ってそれなりのインセンティブを与えることは可能だ。
このように長年続いてきた終身雇用制度にはそれなりの合理性がある。でなければそんなシステムが維持されるわけはない。しかし、終身雇用が続く、最も大きな原因は労働市場の硬直性だ:
今や日本の労働市場では中途人材の新規獲得コストが異常に高くなり(=高品質人材の中途採用市場が整備されないままとなり)、企業は今更方針を変えられなくなってしまっている。
上の部分がそれを表している。長年、新卒採用・終身雇用に依存してきた社会には健全な労働市場が育たない。終身雇用が当たり前だと途中で労働市場でる人間は何か問題があるという悪いシグナルを送ってしまう。そのため中途労働市場が機能せず、新卒採用・終身雇用という制度はさらに強化されてしまう。これを何十年も続けた結果が履歴書が気になってブラック企業を辞めることもできない社会だ。
しかし、この一見強固に見えるサイクルにも解れが見え始めた。この悪循環は中途の労働者が悪いシグナルをもっているというのが原因だ。リストラをする企業や破産する企業が出てくれば、悪いシグナルは減少し、逆のサイクルがまわり始める。中途労働市場が改善、新卒採用の重要性低下、労働者にとっての終身雇用の価値低下、転職の増加、さらなる中途労働市場の改善という流れだ。
つまりはこのように大企業側にも日本的雇用はいろいろメリットがあるわけで、だから簡単には崩れないのだと思った。
確かに今すぐに日本的雇用がなくなることはないだろうが、上のサイクルが逆にまわり始める時に一気に崩れ去っていくだろう。経済全体が伸びていかない以上、この流れを止めることはできない。
そういう意味で、日本の硬直した雇用情勢で厳しい状況に現在置かれている人にとっては、日本がこの先もどんどん落ち込んでいって既成のシステムがさっさと崩壊してくれた方が、チャンスが転がり込んでくる可能性が高いわけですよね。
沈没する船に必死にしがみつきたい感情があるのに、実はかなりヤバいぐらい沈んでしまったほうが、しがみつける浮遊物が多くなるというジレンマですよ(笑)。その前に抜本的な改革があるのが理想なのでしょうが。
毒之助さん:
>日本の硬直した雇用情勢で厳しい状況に現在置かれている人にとっては、日本がこの先もどんどん落ち込んでいって既成のシステムがさっさと崩壊してくれた方が、チャンスが転がり込んでくる可能性が高いわけですよね。
その通りというか、実際さっさと崩壊するんじゃないかという話も。
>その前に抜本的な改革があるのが理想なのでしょうが。
昨今の政策を聞いてる限り船の穴を鉛の板で塞ごう状態なので期待できないですねー。
結局、成長率が下がったことが問題の本質を変えたと思います。平均した成長率が高かった時は、不景気でも会社の内部留保取り崩し、配置転換、早期退職程度で対応できたけど、今やそれでは済まなくなって新卒採用が極端に減ったり、会社が潰れたりするようになった。具体的には97年秋以降の変化ですね。日本の雇用制度というのは、解雇を行ったり新卒採用がマクロ的に抑制されると人的資本が毀損してしまう。結構な数の人が10年前にはこの事に気づいていましたし、学者でもそういうことを言っている人は既にいました。ロスト・ジェネレーション、ニートの増加、ワーキングプア問題、医学部やロースクールの人気化、みな根は同じです。アメリカは大学が不況時の人的資本の毀損を抑えているわけですが、日本も何らかのシステムを再構築する必要があるでしょう。
ただこういう話は政治的には十年間、無視され続けてるんですよね(それが私のようなロス・ジェネ世代の怒りなのです)。理由は単純に既得権益者とその家族の方が人数が多いから。だから、まずは既得権益者の数を徐々に減らして、まあ全男性労働者の半分くらいになったところで、最後に仕組み自体を壊すということが必要かなと思います。しかし、足元では派遣禁止みたいな逆の方向に向かっているわけで、どうなっちゃうかはホント分からない。
中途人材の新規獲得コストが異常に高いというのはちょっと疑問ですね。アメリカと日本の求人を比べると、むしろ日本の中途採用のqualificationは高すぎると思います。博士持ちは採らないとか、35歳以上はマネジメント経験必要とか、意味不明のわがまま言ってられるのは中途採用市場の需給が緩いからだと思います。オリックスのような企業は、業界他社比で賃金が高くないにも拘わらず中途採用でいい人が取れているようですし。
金融のように外資が合理的な人事制度を導入してしまっている業界では国内大手の人材は惨憺たる状況だと思います。メガバンクの離職率は3年で3割と言われていますが、上位層ではもっと高いはずです。金融業界に友人が多い二人の知り合いが「知っている限り全員辞めた」と言っています。
Willyさん:
>結局、成長率が下がったことが問題の本質を変えたと思います。
その通りだと思います。経済全体が伸びていない限り維持できないシステムでしょう。
>結構な数の人が10年前にはこの事に気づいていましたし、学者でもそういうことを言っている人は既にいました。ロスト・ジェネレーション、ニートの増加、ワーキングプア問題、医学部やロースクールの人気化、みな根は同じです。
ほんとに日本の問題のほとんどはこの流動性のない労働市場からきているように思います。
>意味不明のわがまま言ってられるのは中途採用市場の需給が緩いからだと思います。
これは変化の兆しですね。緩い中途市場から企業が採用を始めれば、転職が容易になりさらに市場が膨らむという繰り返しが始まりそうです。
>しかし、足元では派遣禁止みたいな逆の方向に向かっているわけで、どうなっちゃうかはホント分からない。
結局大きな企業がつぶれることによりようやくわけのわからない規制が撤廃されハードランディングという気がします。
日本に関する議論はいろいろ見てきましたけど、日本の現状や問題点について非常に簡潔かつ分かり易く述べられていると思います。
最後にも書いてある通り、労働市場がきちんと機能するようになるには、大型企業の破産は必ず通る道だと僕自身感じています。(現状の制度が経済合理性にあっていないため)
やっぱり一回全部壊さないとダメなような気がしてならないです。
ありがとうございます。
おそらく壊さなくても勝手に自壊するような気がします。新しい企業を応援するほうにリソースを使いたいところです。