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ハイチの債務免除

ハイチに対して債務免除を行うべきという声が上がっているが、その効果をめぐって疑問が投げかけられている。

For Haitians’ Sake, Drop the “Drop the Debt” | David Roodman | Global Development: Views from the Center

the benefits of debt relief over the next few years, however done, will be tiny.

ハイチの対外債務支払いは2009年で1,800万ドル、2011年で3,400万ドルだと言う。しかもそのうち900万ドルはIDB経由でアメリカ政府が負担しているそうだ。残りは台湾とベネズエラへの負債で、アメリカなどでの市民運動が影響を与えるのは難しい。

How to square this with the enormity of $1.25 billion? Most of Haiti’s debt is not due for a long time. So a typical dollar written off today might not help Haiti (by lowering debt service) for a decade. That’s why cancellation does little good in the short run. It is not a coherent response to crisis.

しかし、ハイチの対外債務は12.5億ドルといわれている。これはその債務の殆どが長期であるためで、債務免除は災害に対する援助としてはあまり意味がないという。

リンク先の記事ではさらに債務放棄に必要な政府のリソースの問題や、援助団体のモニタリングの問題に触れられているが、次のグラフが全体像をよく捉えている。

ハイチが債務のために海外へと支払っている金額は、移民の送金・援助・貿易で入ってくる資金に比べると些細な大きさだ。よって債務放棄のためにリソースを振り分けるのは非効率的だと主張されている。こういう大まかな規模の把握は資源を無駄にせず、効率的な援助を行うために必要だ。

私は債務免除に関しては賛成しない。将来ハイチへの貸付を行う主体がいなくなるという問題もあるが、それ以前に他人に一種の寄付を強制させることに資源を使うことのは非生産的だ。寄付は基本的に所得移転なので、それ自体として何かを生み出すことは少ない(参考:ビジネスをしてお金を稼いで社会のためになろう)。本人が寄付に価値を見出して行うのであれば何らかの効用があるのだろうが、労力を使って他の人間に非自発的な寄付を行わせることは社会全体としてマイナスだと推定するのが自然だろう。

効率的な寄付のしかた

タイトルが過激なために結構批判が多い記事だが、内容はまともな次の記事:

Don’t give money to Haiti | Analysis & Opinion | Reuters

For one thing, right now there’s very little that can be done with the money. There are myriad bottlenecks and obstacles involved in getting help to the Haitians who need it, but lack of funds is not one of them.

目下、援助のボトルネックは資金ではないという。これはハイチの政府機能がほぼ停止状態であることを考えれば頷ける(参考:Haiti: Rescue, Recovery, and Effective Development Aid)。資金があってもそれが救済相手までのチャンネルがなければ届かない。

What’s more, charities raising money for Haiti right now are going to have to earmark that money to be spent in Haiti and in Haiti only.

もちろん援助資金が増えて困ることはないのだが、その寄付の使用目的が限定されている(earmark)というのは問題だ。しかし、寄付の目的が固定されているのは偶然ではない。寄付というのは、お金を支払う人とその対価を受け取る人が異なる取引だこういう取引においては対価が正当であることを信頼出来る形で示せなければ取引が成立しない

災害援助の場合には両者には面識もないため寄付する側が自分でそれを確認できる方法がないので、援助団体への信頼が極めて重要になる。それを助けるのが、目的の限定であり、非営利団体の設立だ(参考:非営利と営利との違い)。目的が限定されていればどれだけ非効率だったとしても一応狙った相手には届くし、非営利であれば無駄が多くとも経営者にそのまま巻き上げられることはなくなる

But as The Smoking Gun shows, Yele is not the soundest of charitable institutions […]

信頼が揺らいでいる支援団体もあり、最近The Smoking Gunでも話題になったYeleが上げられている。この団体はハイチ専門の支援団体だが不明瞭な会計が疑われている。

It will therefore earmark that money for Haiti, and try to spend it there over the coming years, even as other missions, elsewhere in the world, are still in desperate need of resources.

極めて信頼性の高い団体とされる国境なき医師団(MSF)の例が挙げられている。MSFもまたここ数日の寄付をハイチへ向けられたものとして用途を限定しているそうだ。これは彼らが自ら信頼性を高めるための試みであるが、他の地域で資金が必要な場合でも転用できないことを意味する

Do give money to MSF, then, but if you do, make sure that your donation is unrestricted. The charity will do its very best in Haiti either way, but by allowing your money to be spent anywhere, you will help people in dire need all over the world, not just in Haiti. Here’s the message on MSF’s website:

できるだけ効果的な援助を行うためには、寄付を使用目的を限定しない形で行うのがよい。もちろん、そのためには寄付先が非常に信頼できる必要がある。非営利団体は出来る限り寄付者への信頼を高める努力をする必要があるし、その信頼を担保できるような第三者機関や政府の取り組みが必要だろう