反知性主義の広がり

面白いと思ったけど紹介していなかった記事:

Op-Ed Columnist – The Tea Party Teens – NYTimes.com

The public is not only shifting from left to right. Every single idea associated with the educated class has grown more unpopular over the past year.

アメリカでは将来見通しが暗くなり、現政権そして政府一般への信頼が揺らいでいるが、さらには教育水準の高い層に関連付けられる考えが一様に支持を失っているようだ。

The educated class believes in global warming, so public skepticism about global warming is on the rise. The educated class supports abortion rights, so public opinion is shifting against them. The educated class supports gun control, so opposition to gun control is mounting.

例として温暖化、中絶権、銃規制などが挙げられている。どれも教育水準の高い層では支持されているが、一般からの支持は落ちる一方だ外交に関しても同様で孤立主義が台頭してきていることが指摘されている。

The tea party movement is a large, fractious confederation of Americans who are defined by what they are against. They are against the concentrated power of the educated class. They believe big government, big business, big media and the affluent professionals are merging to form self-serving oligarchy — with bloated government, unsustainable deficits, high taxes and intrusive regulation.

これを象徴するのはTea Partyだ。ボストンのそれにちなんだティーパーティー運動に関して日本でどれほど報道されているか分からないが、大きな政府、大企業、巨大メディア・裕福な専門家が国を支配することへの反対運動だ。金融安定化法に端を発するティーパーティー運動への国民の支持は高く、二大政党をも上回る勢いのようだ。

The Obama administration is premised on the conviction that pragmatic federal leaders with professional expertise should have the power to implement programs to solve the country’s problems. Many Americans do not have faith in that sort of centralized expertise or in the political class generally.

オバマ政権は政府の抱える問題を現実感覚のある専門家の手に委ねるべきだとしているが、アメリカ人がそういった中央集権的な専門家へ寄せる信頼は揺らいでいるという。

これは一般にAnti-Intellectualismと呼ばれる現象で、反知性主義と訳される。その反対が「国家」におけるプラトンの哲人政治だろう。

… either philosophers become kings in our states or those whom we now call our kings and rulers take to the pursuit of philosophy seriously and adequately, and there is a conjunction of these two things, political power and philosophic intelligence, while the motley horde of the natures who at present pursue either apart from the other are compulsorily excluded, there can be no cessation of troubles, dear Glaucon, for our states, nor, I fancy, for the human race either.   (Republic, 473c-d)

哲人政治では、哲人という全てを修めたような人間が為政者になることで社会がよくなる。ただこれは共産主義と同じで、その哲人のインセンティブと能力の問題を無視している。プラトンなら哲人はイデアを見ているので能力には問題なく、私有財産の禁止と幼少期からの教育によってインセンティブの問題は解決できると言うのだろうが、現実にはそうはいかないのは共産主義の失敗からも明らかだ。だからこそ民主主義という政治形態がその多くの欠陥にも関わらず、世界中で支配的になった(言うまでもなく民主主義が生き残ったのはそれが「正しい」からではない)。

政治家や政策に関わる専門家はこのことを常に頭の隅に置いておく必要がある。どれだけ正しいことを言っていても市民の支持が得られなければ通らないし、そのシステムにはそれなりの合理性がある。反知性主義が起こるのは、市民の不信が限度を超えたときだ。どれだけバカバカしくとも、そのシグナルに耳を傾けなければ、単なるポピュリストが権力を握る危険がある。

http://fukui.livedoor.biz/archives/2130436.htmleither philosophers become kings

反知性主義の広がり” への10件のコメント

  1. 金融規制案で騒がれている時にタイムリーな記事ですね。
    私は、西側先進国の国民は全般的に民主主義を過信していると思います。民主主義は数百年のスパンでは一番うまくいく方法だと思いますが、例えば「経済学的な長期」という程度の長さでは必ずしもうまくいく制度だとは思っていません。アメリカも、民主党と共和党の政策の差が小さくて民主主義があまり機能していないのが経済がうまく回っている大きな理由だと思っています。しかし今回のオバマは、「民主主義的に」金融規制案を作ったという感じですね。

    • 民主主義は単に他の有力な政治形態よりも優位なだけで完璧でも何でもないですからね。

      中央銀行の独立なんてまさにそうですが、経済とは結構相性が悪いかもしれません。民主主義的に経済政策を通すよりも、教育・啓蒙によってまともな政策が支持される土壌をそれこそ「長期」で作っていく必要があると思います。

  2. 英雄を求める空気で充満している時期にヒトラーは彗星のごとく現れ
    徹底的に大衆に迎合して権力を不動のものにしましたからね。

    そういう意味では今の日本は結構「怖い」です。
    勝間さんが教祖まがい自己啓発セミナーで儲けてる程度で済めばいいのですが。

    • 日本の動きも軽視できませんね。今の政権の経済政策はポピュリストの色合いがとても濃いです。テクニカルなことが多いですが、専門家に任せろで済ませずにしないとどうなるか。

  3. 私も民主主義がベストな制度だとは言いませんが、民主主義の成立や広まりと教育水準や知性の問題とは別だと思いますけどねえ。

    アメリカで中絶権、銃規制などが教育水準の高い層と一般大衆(?)で見方が違うのは、アメリカ固有の歴史的・宗教的要因であって、最近の現象ではないでしょう。温暖化も教育水準の高い層が必ずしも支持しているとも思えません。

    また、
    (1)反知性主義の対極が哲人政治であり、
    (2)それが為政者である哲人のインセンティブと能力の点で限界があり、
    (3)それがうまく機能しないのは共産主義の失敗から明らかで
    (4)だからこそ民主主義が広まった
    という各命題は、全く論拠が不明です。特に(1)から(4)に至る論理は意味不明だと思います。

    経済学者のRion様にこんなことを言うのは釈迦に説法でしょうが、例えば、共産主義が失敗したのは為政者のインセンティブの問題ではないし、(共産主義の失敗に限って言えば)おそらく為政者の能力の問題でもないでしょう。

    また、一般大衆が専門家に不審・不信を抱くのは、反知性主義ゆえというよりは、専門家が専門家であるにもかかわらず知性的行動をとっていなかったことがバレてしまったときでしょう。少なくとも、多くの民主主義国家において、市民の専門家への不信は、全く根拠なしに生じるものではなく、専門家が大きな失敗をしたことが原因だと思います。そういう点では、民主主義を反知性主義と結びつけるのは実証的にも正しくないと思います。

    なお、もちろん、私は民主主義が常に正しい結論を出すとは思っていませんし、Rion様が反民主主義だと思っているわけでもありません。

    • >アメリカ固有の歴史的・宗教的要因であって、最近の現象ではないでしょう。

      これはアメリカについての記事で、かつ最近の現象についてです。

      >各命題は、全く論拠が不明です。特に(1)から(4)に至る論理は意味不明だと思います。

      (1)は権力を集中させるか否かに対局でしょう。独裁もありますが、それがうまく行かないのもそれこそプラトンの時代から歴史上明らかでしょう。

      (2)完璧な能力を持った人間が存在せず、いたとしてもその人が社会のために奉仕する理由がないのが哲人政治の問題だと思います。

      (3)共産主義の失敗の原因は何だとお考えですか?

      (4)民主主義が広まったのは、他の体制に戦争で勝つないし、彼らが自壊したためでしょう。

      >専門家が大きな失敗をしたことが原因だと思います。そういう点では、民主主義を反知性主義と結びつけるのは実証的にも正しくないと思います。

      私が主張しているのは、反知性主義は民主主義の観点から放置できるものではないということです。元記事を読むと、面白いネタのように聞こえますが、深刻な問題だという指摘をしています。

      あと専門家の失敗について難しいのは、人々が何をもって失敗とするかです。例えば金融バブルは経済学者の「失敗」なのでしょうか。それを判定する能力がないことが専門家と一般人を分ける部分でしょう。

      何かちょっと話が噛みあってないような気がします。正確な記述を心がけたいと思います。

  4. 個人のキャパシティはそんなに大きくないと思うので、こういうことを考えると暗澹たる気持ちになる人間です。

    専門家へ事を委ねたりするにはいわゆる知性への信頼がなければいけないわけですが(専門家=知性とも限りませんけど笑)、殆どの場合、自分がよく知らないことに関しては、理解することではなく信じることでキャパシティの限界を補っているのが現実だと思います。

    それでもって民主主義では基本的に自らの知見にもとづいた自由意志が尊重され、個人の決定権が大人ならばequal weightとみなされるわけだから、いかに人を信じさせるかが問われてしまうのですよね。

    なんとかならないものでしょうか。

    アメリカのanti-intellectualな傾向は有名ですが、日本だってほんの数十年前は知性のかけらもない人たちによって亡国しかけましたからね。

    知性の側にも優秀なコミュニケーターが求められます。それだけが希望なのか。

    • 一つの方法はやはり教育かなと思います。その過程で実際の専門家を見て、信頼を抱くというステップが重要ですね。どの分野でもきちんと勉強したことがあればある程度専門家に任せる必要と言うのは理解できるはずです。

      >なんとかならないものでしょうか。

      民主主義に関してはどうにもなりませんね。。。それこそ革命が起きてかつ、民主主義よりも効率的な社会形態でなければ生き残らないですから。

      >アメリカのanti-intellectualな傾向は有名ですが、日本だってほんの数十年前は知性のかけらもない人たちによって亡国しかけましたからね。

      どうも今の日本政府が政策がポピュリズムな感じがあって嫌なんですが、まだ自分たちは専門家・知識層的な矜持はありますね。これがなくなったら終わりです。

      >知性の側にも優秀なコミュニケーターが求められます。それだけが希望なのか。

      最終的にはここに落ち着くと思います。教育で聞き手のレベルを底上げしつつ、説明する側の質を高めてギャップを小さくするしかありません。

  5.  反知性主義というものに関心があって検索したらここに着きました。日本の場合、反知性主義というよりも、そもそも社会が知的ではないと思います。東洋社会というだけではなく、それが一つの日本的なあり方なのでしょうね。そういう性質の社会においては、「和をもって尊しとなすべし」なんだなと再認識しています。反知性主義の肯定ではありません。非知的な社会において利己的な非知的主張(わがまま)を抑制するためには、そういう知性も必要かとふと思いました。

    • 反知性主義はアメリカで特に顕著ですね。日本では多少性質が異なると思います。専門家が決める事自体にはあまり反感がないような気がします。

コメントは受け付けていません。