大学院に行く間違った理由

株主云々の話が続いて飽き飽きという人も多いと思うので教育ネタを。

アメリカの大学教授が書いた、人文系(Humanities)の大学院にいくべきではないというエッセイのご紹介。大抵の分野は人文系よりマシだが、キャリアをよく考えて決断すべきというのは変わらない。博士号取得者の就職難が話題になった日本にも当てはまる。

Graduate School in the Humanities: Just Don’t Go – Advice – The Chronicle of Higher Education

I have found that most prospective graduate students have given little thought to what will happen to them after they complete their doctorates. They assume that everyone finds a decent position somewhere, even if it’s “only” at a community college (expressed with a shudder).

大学院の進学者が学位を取得した後にどうするかあまり考えてもいないのはアメリカでも変わらない。どこかににそれなりのポジションを得られるとぼんやりと思っているだけだという。

よくある進学理由が挙げられているが、これはほとんどの大学院生に当てはまる(残りの三つは本文参照):

They are excited by some subject and believe they have a deep, sustainable interest in it.

一つの興味があるからといってその興味が持続すると信じている。これは経験の少なさによるものだろう。自分があることに(だけ)興味があると信じるがゆえに他の事柄に目を向けず、いつまで立ってもその可能性にすら気付かない。

They received high grades and a lot of praise from their professors, and they are not finding similar encouragement outside of an academic environment. They want to return to a context in which they feel validated.

学校でいい点数をとり教授に褒められるが、他の場所ではうまくいかないから進学する。人間、自分が認められる場所が心地よいというのはその通りだけど、それでは成長しないという面もある。

適材適所と言えば聞こえはいいが、頑張れば伸びる部分もそれを言い訳にするようになる。ちょっと人と喋るのに気後れする人が、いつのまにかそれを誇らしげに語る。

They are emerging from 16 years of institutional living: a clear, step-by-step process of advancement toward a goal, with measured outcomes, constant reinforcement and support, and clearly defined hierarchies. The world outside school seems so unstructured, ambiguous, difficult to navigate, and frightening.

勉強がそれなりに得意な人にとって学校ほど評価のはっきりしたシステムはない。人生の大半を学校制度の中で過ごすと、評価基準が複雑な現実世界に怖気づく。本当は大学にいても成績では決まらない要素はいくらでもあるのにそれに目を瞑っているのだ。

人文系の大学院に進学してもいい理由は次の四つだという:

  • 既にお金を持っていて、生活費を稼がなくてもよい
  • コネがあり仕事を見つけられる
  • パートナーが必要な収入を稼げる
  • 現在の職にプラスで、職場が経費を負担してくれる

ではこれらの条件を満たしていない場合はどうか。

Those are the only people who can safely undertake doctoral education in the humanities. Everyone else who does so is taking an enormous personal risk, the full consequences of which they cannot assess because they do not understand how the academic-labor system works and will not listen to people who try to tell them.

非常に大きなリスクを取っているというのが答えだ。もちろんリスクを取ること自体は悪いことではない。Willyさんの一連のポストが示すように、リスクを理解した上で決断する必要があるというだけだ。大学院に行った人がで何割の人がどこに就職しいくら稼ぐのか、そして大学にいかなかった人がどのくらい稼ぐのかある程度具体的な数字を挙げられないのであればアウトだ

それは人文系だけだというのもまた理由にならない。こういった情報を調べることのコストは、その結末に比べて極めて小さいので、それを調べないのは現実に目を背けているだけだ

News: No Entry – Inside Higher Ed

Unlike history, economics is a field where substantial numbers of non-academic jobs are regularly taken by new Ph.D.’s — and that career path is not considered an oddity. Still, however, about two-thirds of job notices in the fields are from academic institutions.

例えば経済学は民間からの需要もあり、就職に強い分野だとされている。しかし、それでも民間の需要は三分の一に過ぎない。

Among four-year colleges, the decline in positions was more pronounced at institutions without doctoral programs (down 31 percent) than those with doctoral institutions (down 8 percent).

残りの三分の二を占めるアカデミックなポジションの数は大幅減となった昨年からさらに大きく落ち込んでいる。不況でわざと就職を遅らせた学生も多く、厳しい就職事情になるのは間違いない。

個人的な大学院留学に関する目安は先に挙げられた四つの条件がないとすれば

  • アカデミックでない就職先が確立している専攻である**
  • 基本的に金銭的な持ち出しがない*
  • それなりに有名な大学に入れる**
  • (見切りを含め)適切にリスクを管理できる***

あたりだと思う(*は重要性の目安)。逆に言えばこれらの条件が揃っているのであれば、やってみるのは悪くない。

大学院に行く間違った理由” への10件のコメント

  1. トラックバックありがとうございます。仰る通りだと思います。「アカデミックでない就職先が確立している専攻である」、「(見切りを含め)適切にリスクを管理できる」は特に重要ですね。いわゆる潰しが効くっていう奴でしょうか。私は保険として日本の高校の教員免許を持っていますが、留学前に高校の時の担任に問い合わせて中途採用の状況なんかも聞いていました。

    Chronicle of Higher Education はネタの宝庫ですね。もっとちゃんと読むようにしようっと。

    • いえいえ、あのシリーズはすごくよくできていると思います。

      普通に考えれば当たり前のことなんですけどね。あとはセーフティーネットとしての適切なネットワーク作りが重要だと思います。

      >Chronicle of Higher Education はネタの宝庫ですね。

      まあ直にチェックするほどかといわれると微妙なところですが。Inside Higher Edも似たような感じです。

  2. 行くかどうか決めてからの話かもしれないけど、アカデミックキャリアなら特にこういう話題でもっと強調していいのは、指導教授の重要性です。

    誰の元で学位を取ったかということは、推薦状の価値、宣伝の効果など、ある程度安定した地位に行き届くまでの過程をかなり左右すると思います。

    指導教授の業績の評価や、弟子のjob placementの知識が既にあるなら、そこら辺から狙っていくのも賢いと思いますよ。平凡な旗艦州立大あたりでも、そういう評判の高い学者さんは結構いますからね。アイビー級でもdeadwoodはいるし。

    見切りの可能性が大きいなら、シグナリング効果の高い大学が良いに越したことはないですけどね。当然ながら。ここら辺はトップの層が厚いアメリカの大学はかなり恵まれていると思う。

    • この記事が何となく進学する学部生を窘める記事なので、本気で進学する場合の戦略については言及されてませんね。

      事前に細かい研究分野が決まっているのでなければ、ランクが高くて規模の大きな大学がいいと思いますが、焦点が絞れていれば先生で選ぶのもありですね。アウトサイドオプションは下がりますが、そこまで分かっている人にはあまり関係ないかもしれません。

  3. はじめまして。
    日本の大学院で任期つきで働いているものですが、大変興味深い記事でした。
    私も、出口を考えながら大学院に進学しましたが、給付型奨学金やら任期つきの仕事があったおかげで、他の仕事に行きかけながらも結局今は大学院で教えています。

    ちなみに、私も昔働いてたところで院生たちにアドバイスするために文科省の公開データを使って就職率をしらべたことがありますが、結果は以下のようなものでした。

    人文:28%、社会:40%、教育:48%
    (博士課程終了時に就職が見つかっている割合、もちろん任期つきを含む)

    ちなみに日本の一般に統計では社会学や心理学などアメリカでSocial Scienceに入るものが人文に入れられると思いますので、社会は法、経、経営だけだと思います。
    なので任期つきやら大学以外も込みで40%というのはかなり低いですよね。教育がいいのはいわば専門職学位なのと、教育学部設立ブームという当時の大学経営上の流れを反映しでしょうか。
    大学院博士課程進学の方はこのデータを見て良く考えてみるのもいいかと思います。ちなみに、最新データは「学校教育基本調査報告書」で調べれば出てくるはずです。

    蛇足ですが日本の大学院でも修士課程だけなら一般企業に普通に就職できます。印象的なことしか言えませんが、文系の修士卒の一般就職状況は以前よりは良くなっているようです。たとえば、人文系の院生が学部のときに落とされた会社に再チャレンジして採用されたという話を聞きます。

    • こんにちは、コメントありがとうございます。

      >私も昔働いてたところで院生たちにアドバイスするために文科省の公開データを使って就職率をしらべたことがあります

      本来学生が自分で調べるべきですが、いい先生ですね。

      >人文:28%、社会:40%、教育:48%

      本当は文部科学省ではなくその大学院の過去の記録を公表すべきですね。

      >任期つきやら大学以外も込みで40%というのはかなり低いですよね。

      低いですね。それだけのリスクとリターンを計算して入ってきてるひとはどのぐらいいるのでしょうか。

      >蛇足ですが日本の大学院でも修士課程だけなら一般企業に普通に就職できます。

      そうですね。こういう世の中に変わっていってます。ただその過程で不幸な事例が増えないといいなと思います。

  4. ピンバック: Compress and Unpack

  5. 大学3年で経済を学んでいる者です。とても興味深い記事でした。
    ぼくの大学はかなり大学院進学率が高いですが、それ故になんとなく大学院に行く人も多いきがします。

    日本で(アメリカでもかは知りませんが)ワーキングプアの問題が取りざたされてましたが、確かに博士を増やしすぎたというのもあるが、大学院に進んでいる人でもジョブ戦略が甘すぎるためにそうした状況に陥っているという面もあるとおもうのですが。

    とはいっても博士だからダメというよりも、むしろ博士ほどの高等教育を受けてきたものを放ったらかしにするのは、本当に非効率的だと思います。
    高度な教育を受けてきたもが活躍できる社会でないと。

    ところで、最後にRionさんはどうした理由で大学院進学、そして留学をしようと思ったのですか?

    今後のpathを考えるにあたり参考にしたいので、ぜひ教えてください。

    • こんにちは。何となく進学と言うのは凄く多いですね。

      アメリカはワーキングプアという話はあまり取り上げられていないと多います。もっと絶対的な貧困が申告ですから。

      博士が活躍できないのは、活躍できないような人材がセルフセレクトしてしまっているからだと思います。自分たちで仕事を作るぐらいだといいと思うのですが。

      個人的なご相談はメールでどうぞ。アドレスは上のContactにあります。

  6. ピンバック: English proficiency of Japanese (日本人の英語) « The Pillow Diary of Purple Potato

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