介護職の待遇が酷いというのはよく聞く話だ。
介護業界で“男の寿退社”が相次ぐワケ:日経ビジネスオンライン
入所施設、訪問介護、病院など介護のニーズが高い中で売り手市場のはずが、介護職の賃金水準が低く、長時間労働も余儀なくされ、ボランティア精神を頼みにしているような状況だ。
賃金水準は低く、労働環境も劣悪との内容だ。賃金がフェアか否かという問題は置いておくととしてし賃金が低い理由はいくつも考えられる。
一つに実際には介護への需要が小さいことだろう。介護が必要だと「言う」人は多いが実際に十分なお金を払う人が少ない(支払える額は所得に依存するので、それが一般的な意味での「必要性」と一致するとは言わないが、経済的にはそれを効率的に区別する方法がない)。そのため介護保険による補助が行われている。
もう一つの理由は介護労働は極めて規格化されていることだろう。これは上の理由で介護報酬の多くが政府を通じて払われていることによる。国がお金を出す以上、何に対して幾ら払うのかはっきりさせないといけない。しかし、このような政策により、逆に介護労働は規格化されてしまい、労働者がレントを得る手段がなくなる。〇〇という資格を持っている人間が××をすると幾らみたいな状況では、労働者の価値は〇〇であることでしかない。それでも〇〇が希少であれば給与水準は高止まりするが、でなければ待っているのは完全なコモディティ化だ。また規制によって給与が高くとも、それが資格という形で規格化されているなら資格を得る競争段階でその利得は散逸してしまう(弁護士になるとこれだけ儲かると周知されていれば受験者はそれだけの費用を払って競争することになる)。
労働のコモディティ化は特に派遣産業で顕著だ。派遣される労働者は一定の記述に合致しているからそれに対応する仕事が与えられる。逆に言えば一定の記述に合致しているなら誰でもよい。もちろん相当な専門性を持っていればそれでも高い報酬を得ることも可能だろうが、そこまでの専門性を誰もが獲得できるわけではない。一つのスキルで食っていくというのは言うだけなら格好良いが、そんなことができる人間はほとんどいない。例えば、統計の専門家への需要はこれから伸びるだろうが、測度論を勉強して理解できる人はどれだけいるだろうか。
これからの労働関係の対立というのは、介護や派遣に限らず、規格化によりコモディティとなってしまった労働者とそうでない労働者・経営者(その区別も意味を失っていくだろうが)との間に起きるだろう。世界中で学校教育が広がり、言われた仕事がきちんとこなせるというのが貴重な能力だった時代は終わった。派遣業規制の盛り上がりなどは、自分で仕事を見つけられず言われた仕事しかできない人のラッダイト運動ではないだろうか。
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下請けSEとしても実に深刻な問題で、30を前にして人生大いに悩んでいます。
いや誰にとっても深刻な問題だと思います。どうにか個性を出していきたいものです。
介護ビジネスに関してはその通りだと思います。
日本のように高齢者が大半の資産を持っている高齢社会で
介護や医療など高齢者向けビジネスを政府が仕切ってしまうと
だんだん社会主義みたいになってしまいますね。
規制を緩和し、医療、介護、住宅、個人向けサービスといった複数の
サービスの垣根を低くすることで高齢者向けサービスでも
民間の活力を引き出すような政策を期待したいところです。
まあ期待薄なのは分かってますけどw
規格化だけでなく、買い手独占でもありますね。日本の医療費同様の抑制がかかりますが、医師と違う数が多いので給与がかなり低くなっています。
あまり規制するとこうなるのは仕方ないので出来るだけ規制は緩めでやってもらいたいところ。誰かが福祉で儲かるのはいいことだという認識が必要です。
ピンバック: コモディティ化対策編 » 経済学101
労働者・経営者(その区別も意味を失っていくだろうが)というのが、鋭い、と思いました。
そもそも、「金融工学」が入った時点で、労働そのものの意味が変わっていると思いますが…。パンをつくるのも、株で儲けるのも労働。
全くその通りで企業の持ち主が労働者なわけで…
ども、あ…たしかにそうですね。そういう意味で書いたわけではなかったんですが、こっちの方が深い解釈だと思います。
これを、老共産党員に説明したことがあるのですが「君はバカにしているのか?資本家が労働者のハズない、ん?」と怒られた経験があります。
>>例えば、統計の専門家への需要はこれから伸びるだろうが、測度論を勉強して理解できる人はどれだけいるだろうか。
確かに、測度論なり確率論なり、使える程度の理解でも、
その辺の大学の数学科でもできるのかどうか。
統計の専門家への需要に関して、もうちょっと詳しくお聞かせ願えませんでしょうか。
今学部4年で、
経済学研究科の統計コースか情報理工学系研究科の統計、
か情報理工で離散凸解析のほうにいこうかなーと思っています。
「統計は面白そうだけどイマイチ需要があるかわからない、
離散凸解析はいろいろつぶしが利きそう」
というイメージだったので、統計家への需要について知りたいです。
とりあえず大学院でしょうね。統計ならどこでもつぶしはきくでしょうが、悩んだら一番オーソドックスな学科=統計学科に行けばいいのではないかと思いますよ。
いえ、悩んでいたのは統計に行くか、離散凸解析(とか)に行くか、です。
統計に行くなら情報理工に行こうと思ってます。
統計コースも受けると思いますが、なにぶん学生が毎年一人とかなため・・・。
情報理工だと、まわりの学生が自分と違って、高校から理系、で、なんとなく面白そう、っていうのもあります。経済の院生は就活が主眼の学生割合も多そうですし。
公共政策はもっとシュウカツ学生が多そうですが、そうでない人と二極化みたいな感じだったんでしょうか?
(あ、学部計量の先学期のTA資料に、rionさん作成のものがありました笑。)
追伸
とにかく、統計の需要あるみたいでその事実?を知れてよかったです。ありがとうございます。
離散凸解析がどんな職業に結びつくのかいまいち分かっていないので、そこの院生と先生にでも聞いてみるのがいいかと思います。
公共は基本的に就活生ですよ。一人別の生活をしていました。
#あんなもんがまだ…。