ANDAリバースペイメント推定違法化

以前から議論になっていたANDA申請を行った企業と先発企業との訴訟において後者が前者に支払いを行う形での示談について新しい法案が提出されている:

Patent Law Blog (Patently-O): Patent Reform: Reverse Payment

ANDA=Abbreviated New Drug Applicationとは米食品医薬品局(FDA)による新薬承認申請(NDA)の一種だ。アメリカで新薬を流通させるためには、その安全性・効果をFDAに認証される必要がある。その許可を申請するのがNDAだ。ANDAは既に流通している薬品と生物学的に同等な後発薬の承認申請を行う際に使われる簡略版である。1984年のハッチ・ワックスマン(Hatch-Waxman)法(正式にはDrug Price Competition and Patent Term Restoration Act)により導入された。これにより、特許が切れた薬品のジェネリック医薬品認証のための費用が節約され、より迅速に市場へ投入することが可能になる。

ANDAを利用するためにはFederal Food, Drug, and Cosmetic Act Section 505(j)に定められた四つの条件のいずれかを満たす必要がある。

  1. such patent information has not been filed,
  2. such patent has expired,
  3. of the date on which such patent will expire, or
  4. that such patent is invalid or will not be infringed by the manufacture, use, or sale of the new drug for which the application is submitted

この中で争点となっているのは四つめの条件だ。Section 505(j)ではさらにANDAで最初に申請を行った企業には180日間の独占権が与えられ、他の企業はANDAの認可を得ることができない。これはジェネリック薬品の開発を行うインセンティブを与えるための限定的な独占である。これを一般にParagraph IV Certificationと呼ぶ。

問題となるのは、後発企業がParagraph IV ANDAを申請するケースだ。Paragraph IV ANDAが申請されてから45日間、当該特許を保有する先行企業は後発企業を特許侵害で訴えることができる(薬品の特許を侵害せずにジェネリック薬品を製造できるのかという疑問は当然だが、薬品を保護している特許は主な薬効成分に関する特許だけとは限らない)。訴訟が始まると判決でるか30ヶ月経過するまでANDAの認可は行われない。この時特許関連の訴訟ではよくあるように示談が成立することが多いのだが、先行企業が後発企業に和解金を支払う形をとることがある。これは通常の特許侵害訴訟の結果とはお金の流れが逆であるためリバースペイメントと呼ばれる。

リバースペイメントが生じる原因として有力なのが、先発企業と後発企業との共謀である。後発企業がParagraph IV CertificationからParagraph III Certificationに切り替えることでジェネリック薬品の参入を遅らせて、現行薬の独占を続けることができる。示談になった場合、該当する特許の有効性について結論はでないため、たとえ特許が無効であっても独占状態は続くことになる。リバースペイメントはこの独占利得の分配と解釈される。

リバースペイメントが本当に反競争的なのかについては様々な意見があるが、ポイントはリバースペイメントの存在が違法行為を推定(per se illegal)するのかどうかである。リバースペイメントがほぼ確実に反競争的行為を示すのであれば推定が望ましいが、そうでないなら示談を推奨する意味での通常のRule of Reasonによる対応が望ましいということになる。

この件については連邦取引委員会(FTC)が以前に訴訟を起こして敗訴しているが、その時には司法省(DOJ)はFTCに反対していた。今回政権が変わったことによりDOJもFTC側に回り、議員から法案が提出されるにいたったというわけだ。

オラクル・サン合併承認

OracleとSunとの合併について、司法省はハート・スコット・ロディノ法に基づく審査を終了した模様。司法省のプレスリリース等はまだ出ていない。

U.S. Department of Justice Approves Oracle Acquisition of Sun

両者ともIT業界では非常に有名な企業なので大きな注目が集まっているが、提供する商品・サービスの面ではあまりオーバーラップがない。

Oracleは2005年にERPを提供するPeopleSoftと合併しており、司法省及び十の州政府が合併を阻止するために訴訟をおこしている。この時の司法省の論点は、ERPは対象とする企業の規模に応じて三つに分けられ、その中で最も複雑な部分は寡占的な市場であり合併は反競争的だというものだった。しかしその際、最終的に司法省は敗訴しており、前回と比較すると問題点の少ない今回のケースで訴訟に至らないとは自然というところか。

むしろ業界ではオープンソースに友好的であったSunが持つ知的財産がOracleのもとでどのように扱われるかが注目されている(下記関連ニュース参照)。

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アメリカ反トラスト法メモ

アメリカ反トラスト法メモ

ほぼ自分用メモ。当然IANALで。

アメリカの(連邦)反トラスト法(Antitrust Law)は主に三つの法律(Act)からなる。

  1. シャーマン法(Sherman Act): 1890年
  2. クレイトン法(Clayton Act):1914年
  3. 連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act):1914年

これに加えて細かいものが

  • ロビンソン・パットマン法(Robinson Patman Act):1936年
  • ハート・スコット・ロディノ法(Hart-Scott-Rodino Act):1976年

があるが両者ともクレイトン法に対する修正案である。前者は小規模小売店を価格差別から保護するもので主に連邦取引委員会(FTC)が執行し、後者は一定規模以上の合併に際しFTC及び司法省(DOJ)に通知する義務を定めるものだ。

基本となるのはシャーマン法第一条:

Every contract, combination in the form of trust or otherwise, or conspiracy, in restraint of trade or commerce among the several States, or with foreign nations, is declared to be illegal. […]

第一条は非常に曖昧で競争を阻害する行為が対象となるが、実質的にはコモンローを築く根拠としての役割を果たす。第二条:

Every person who shall monopolize, or attempt to monopolize, or combine or conspire with any other person or persons, to monopolize any part of the trade or commerce among the several States, or with foreign nations, shall be deemed guilty of a felony […]

第二条は市場支配力を有する企業がとる一方的な行動に適応され、略奪的価格付け(predatory pricing)や抱き合わせ販売(bundling)が対象となる。

クレイトン法はシャーマン法の曖昧さに対する不満から生まれたもので主な条項としては、競争を阻害する抱き合わせ販売及び排他取引を禁じる第三条:

It shall be unlawful for any person engaged in commerce, […], to lease or make a sale or contract for sale of goods, […], or fix a price charged therefor, or discount from, or rebate upon, such price, on the condition, agreement, or understanding that the lessee or purchaser thereof shall not use or deal in the goods, […] of a competitor or competitors […], where the effect […] may be to substantially lessen competition or tend to create a monopoly in any line of commerce.

及び水平・垂直合併を規制する第七条:

No person […] shall acquire the whole or any part of the assets of another person engaged also in commerce […] the effect of such acquisition may be substantially to lessen competition, or to tend to create a monopoly.

がある。

FTC法はクレイトン法と同年に成立し、新しい執行機関としてFTCを設立し、第五条において、

Unfair methods of competition in or affecting commerce, and unfair or deceptive acts or practices in or affecting commerce, are hereby declared unlawful.

シャーマン法・クレイトン法において反競争的とされる行為を規制する権限をFTCに与えている。

DOJ、FTCは共に反トラスト法の執行機関であるがいくつかの違いがある:

  • DOJのみが刑事を扱う(シャーマン法違反のみが刑事罰の対象となる)。
  • FTCはよりFTC法に基づき若干広い範囲の行為を規制する。
  • FTCは衡平法上の救済(equitable relief)のみを行う。
  • FTCは内部に準司法的行政機関を持つ。

また日本と異なる点としてシャーマン法・クレイトン法違反により損害を受けた場合には、被害額の三倍(treble damages)の懲罰的賠償を請求できる。

アメリカの法律の原文はコーネル大学ロースクールから。