価格差別とブラックフライデー

価格差別のいい説明があったのでご紹介:

Price Discrimination Explains Everything, Arnold Kling | EconLog | Library of Economics and Liberty

Suppose that a new video game console comes out. BZ likes video games, but he is only willing to pay about $200 for the console. JS lives for video games, and he would pay $400 for the console. The manufacturer would like to charge $400 to JS and $200 to BZ. However, to do so blatantly would be illegal. It might also be impractical–what is to stop BZ from buying two consoles for $200 and selling one of them to JS for much less than $400?

これが典型的な状況。同じ財に多くのお金を払う人と、そうでない人がいたときに同じ金額しか請求できないというのは売り手にとってはうれしくない。でも誰が多くのお金を払えるのかは分からないし、場合によっては違う金額を請求するのは違法になる(区別する基準が人種や性別だったり、相手が小売店の場合∵ロビンソン・パットマン法)。ではどうするか:

The console maker looks for ways to price discriminate. There might be a “standard” version of the console that sells for $200 and a “deluxe” version that sells for $400. If the features in the deluxe version appeal to JS but not to BZ, this will work. Or the maker might release the console initially at a price of $400, wait three months, and cut the price to $200. If BZ is willing to wait but JS is not, then this will work.

二種類の客の微妙な違いを利用すればよい。例えば、お金持ちはデラックスバージョンを欲しがるけど、他の人は欲しがらないなら、デラックスバージョンだけ高くすることで資産に応じて違う値段をつけられる。

ブラックフライデーのようなセールも同じだ:

If you need something now, you have to buy it whether or not it is “on sale.” But if the purchase is discretionary, you may only buy it “on sale.” The store keeps its prices high ordinarily, in order to pick up profits from the price-insensitive shoppers. The store puts items “on sale” on rare occasions, hoping to pick up profits from price-sensitive shoppers.

値段にうるさいひとはセールを探してくるけど、そうじゃない人はいつでも必要な時に買う。だから普段は高くしといてそういう人からお金をとり、時々のセールで値段にうるさいひとにも売りつける

Unfortunately, they lose profits from price-insensitive shoppers who happen to come in the day of the sale.

ただ、値段にうるさくない人でもセールの日に買いにくることはある。

The beauty of holding sales on “Black Friday” is that stores know that many price-insensitive shoppers will stay away in order to “avoid the crowds.”

でもブラックフライデーのようなもの凄いセールなら話は別だ。お店は異常に混むし、それを誰もが知っているので普通の人はこない。並んでまで安いものを探す客は限られているからだ。

ちなみにArnold Klingは冒頭で、

I think that price discrimination really deserves a lot more attention than it gets in the economics curriculum.

価格差別はもっと経済学のカリキュラムで取り上げるべきだと述べているが、これには大賛成だ。うまく価格差別を行うことは大きな利益につながる。例えばセールスで売る側が先に値段を言わないのもその一つだ。値切りをするかどうかは、客がいくら払えるかと強く相関しているのでそれを狙うわけだ。

こういった手法はデジタル化された社会では一段と重要になる。デジタルな財は限界費用がほぼゼロなので単純な価格競争を行うと利益がなくなる。また音楽・映画・ニュース・ソフトウェアなどはどれも人によって非常に評価が異なる財だ。そういった財の需要曲線は強く下に凸なので独占価格をつけても総余剰のごく一部しか回収できない。逆にデジタル技術は多くの情報を集めることで価格差別を容易にする。

また最近話題になる経済格差も価格差別の必要性を大きなものにする。例えばアメリカでは一枚数十¢の割引になるクーポンがたくさんある。チラシから切り抜いたり、ネットから印刷したりして使用するわけだが、これもそういった手間を惜しまない人にだけ値引きをする価格差別の一種だ。メールインリベートも同様だ。バーコードを切ってはって、郵便を出して、数ヶ月待つ気のある人をターゲットにしている。さらに、電話で抗議しない限り返信しないことでさらに効果的な価格差別になる。

Sun-Oracle合併

まだ欧州委員会からのプレスリリースは出ていないが一応紹介:

CBC News – Technology & Science – EU objects to Sun-Oracle deal

オラクルによるサン・マイクロシステムズの買収提案は今年の四月に発表され、七月には株主の承認がおりている。八月には米司法省の許可もおりているし、つい先日にはその司法省から欧州委員会に向けて、合併が反競争的でない旨の発表までなされている。

European antitrust regulators have formally objected to Oracle Corp.’s $7.4-billion US takeover of Sun Microsystems Inc., citing concerns that the takeover could hurt competition in the database market.

問題となっているのはサンが昨年買収したMySQLの存在だ。言うまでもなくオラクルはデータベースを中心としたソフトウェア企業でその規模はマイクロソフトに次ぐ世界二位だ。

欧州委員会が合併に反対した詳細な理由がないと何とも言えないが、この合併反対はかなり不思議な気がする。合併においては、合併前の企業同士が同じ市場で争っているかが主な争点となるが、OracleとMySQLは対象となる企業の規模がまったく異なる。またデータベース業界にはIBM, Microsoft, Sybaseなど競争相手も多く、合併によって価格を上昇させることはできないだろう。またMySQLはGPLで公開されており、第三者がフォークすることもできる。

一つ考えられるのはオラクルの過去の買収歴を懸念していることだ。オラクルは企業買収を成長戦略の柱としている。有名なPeopleSoftの買収に加え昨年はBEAを買収、データベース以外でもCRMのSiebelなど毎年多くの関連企業を買収している。個々の買収が反競争的でなくても、生産性の向上が示せないような買収を続けることに反対しているのかもしれない(実際PeopleSoftの社員の大多数は既に離職している)。

しかし、競争当局が不明瞭な方針をもっているのは企業に不確実性を与える点で望ましくない:

The uncertainty caused by the EU probe is costing Sun $100 million US a month, Oracle CEO Larry Ellison has said. When Sun released its first-quarter results last week, it revealed a revenue decline of 25 per cent, as competitors IBM and HP, among others, benefited from customer unease over Sun’s future.

合併承認に時間がかかることは社会的な損失を生む。

ちなみに、以下の一節は誤りなので指摘しておく:

Oracle is the market leader in proprietary database software — the kind that is protected by copyright.

GPLもまた著作権によって保護されている。単に変わったライセンスを持っているだけだ。

価格戦争入門

101を謳いながら内容が101でない本ブログですが時には教科書的な内容ということで、価格戦争が何故起きるのか、どうやったら防げるのかについてのバランスのとれた解説がThe New Yorkerから(ジャーナリストが書いているため読みやすく、経済学と英語を勉強したいかたに最適):

The Amazon Wal-Mart price war : The New Yorker

価格競争というのは値下げ合戦のことだ。複数の会社が同じような商品の値段を下げて相手に勝とうとする。ここでは最近話題になったWal-MartとAmazonの間での競争が取り上げられている。

Wal-Mart began by marking down the prices of ten best-sellers—including the new Stephen King and the upcoming Sarah Palin—to ten bucks. When Amazon, predictably, matched that price, Wal-Mart went to nine dollars, and, when Amazon matched again, Wal-Mart went to $8.99, at which point Amazon rested. (Target, too, jumped in, leading Wal-Mart to drop to $8.98.)

オンライン書籍最大手(かつeCommerse最大手だろう)Amazonに対し、売上世界一のスーパーマーケットチェーンであるWalmartが値下げ合戦を始めたという話だ。Wal-Martは10冊の新刊を含むベストセラーをわずか$10で売り出し、Amazonはそれに追従、最終的にWal-Mart、Amazon、Targetの三者が$9付近の価格を提示した。

これ単独でみれば消費者には望ましい。しかし、売っている側はどうだろう。

Since wholesale book prices are traditionally around fifty per cent off the cover price, and these books are now marked down sixty per cent or more, Amazon and Wal-Mart are surely losing money every time they sell one of the discounted titles. The more they sell, the less they make. That doesn’t sound like good business.

書籍の卸売価格は表示価格の約半分だそうで、値引き率が60%を越えるこれらの本は売れば売るほど赤字だ。その中でさらに価格を下げて競争相手から客を奪うことはさらに損失を広げることになる。これが経営者から価格戦争が嫌われる理由である。

From a game-theory perspective, price wars are usually negative-sum games: everyone loses. A recent study found that, if competitors do match price cuts, industry profits can get cut almost in half.

参加者全員の利益は価格戦争によって大きく減る。そのため企業は価格戦争を避ける方法を模索する。それは主に二種類ある:

  • 製品差別化
  • コーディネーション

前者はそもそも価格競争が成立しないようにすることである。製品が非常に似ているため価格での競争が起きる。コンピュータでいえばAppleのように独自の製品を打ち出すことが他の企業との競争を減らすことにつながる

後者は他の企業と協力して価格競争を避けることである。但し、複数の企業が共謀して価格を釣り上げることは独占禁止法に違反する。そのため、企業は直接にコミュニケーションを取ることなく価格競争をする意志がないことを競争相手に伝えようとする。その時のキー・ポイントは

  • 価格を下げた場合どれだけの利益を得られるか(気付かれるのにどれだけかかるか)
  • 報復行為の程度
  • 実際に報復に出ることの合理性(credibility)

となる。一つ目は製品差別化と重なる。差別化が十分であれば相手が価格を下げてもそれほど顧客を奪われなくなる。二つ目は合意を破った場合の対処だ。報復が大きければ抑止効果がある。最後は報復が可能だとして実際にそれを実行に移せるかだ。事後的に報復を実行することが合理的でなければ、空脅しに過ぎない。以下は典型的な手段である:

  1. 一方的な宣言
  2. 業界団体設立
  3. 余剰な生産設備の確保
  4. プライス・マッチング

1は価格安定が必要であることを経営者などが発言することだ。価格に関する合意が違法なのであって、一方的な発言は違法でないためだ。2は業界団体を通じて価格情報をやりとりする。相手の価格を簡単にモニターできれば協力関係にある企業が合意に違反しているかどうかをすばやくチェックでき、違反するインセンティブを減らせる。3は合意に違反した場合の報復を可能にする方法だ。もし相手が価格を下げてきた場合には急速に生産を拡大して簡単に価格競争を起こせる(生産容量が足りなければ相手のシェアを奪えない)。また価格競争が低コストで起こせることは、もし合意を破ったら報復するという信頼性(crediblity)を上げる。最後は消費者に対して競合他社の価格が自社よりも低かったら値下げすると約束することだ。これは相手が価格を下げた場合に消費者が教えてくれるという情報面でのメリットがある上、自動的に価格戦争に突入するという状況を作ることでコミットメントの問題を解決する。

次の一節は若干誤解を招くので注釈しておく:

Sometimes it’s rational: when a company is genuinely more efficient than its competitors, lowering prices is usually a smart move.

価格戦争に突入することが合理的なことがあると述べているが、これは分かりにくい語法だ。経済学的にいえば、価格競争に突入した企業にとってその行動が個別に合理的であることは当然だ。そういう行動を取った以上それは合理的な意思決定の結果としてしか捉えられないためだ。

ここでのrationalは価格を下げることが明らかに価格競争を避けることよりも望ましいことがあるという意味だろう。これは自社が競合相手よりも遥に効率的である場合に該当する(自社の独占価格が相手の限界費用よりも低い)。

では今回のWal-MartとAmazonとの競争についてはどうか。

It’s to lure them online, away from big booksellers and other retailers, and then sell them other stuff. Usually, price wars wreak havoc because they erode the pricing power of an entire business. But, because this price war involves just ten items, its impact on revenue will be small, and outweighed by the positive effects of all the publicity.

これは価格競争というよりも広告のセール品のようなものだと捉えられる。目的は本を買いたい人を自社サイトに連れてくることだ。一旦アカウントを作って、支払い、購入を済ませれば次からオンラインで本(ないし他の製品)を買うのは簡単になる。またスーパーのセール同様品目は限られているため損失も小さい。

The real competition in this price war is not between Wal-Mart and Amazon but between those behemoths and everyone else—and the damage everyone else is incurring is deliberate, not collateral. Wal-Mart and Amazon have figured out how to fight a price war and win: make sure someone else takes the blows.

では何故Amazonは全く同じ本で価格を下げたのか。Wal-Martと戦うためというのは考えにくい。Amazonの顧客はオンラインで本をよく購入する比較的情報技術に明るい人だ。Wal-Martで少し本が売っているからといって客が移るとは考えにくい。多くのオンライン書店を価格比較しているユーザーは一部流れるかもしれないがそれはAmazonにとって特に望ましい顧客層ではない。

むしろAmazonはこの「価格戦争」に乗ることで、Wal-Martと協力したという指摘されている。AmazonはWal-Martと競争することで、オンラインで本を買っていない層へ自らをアピールすると共に、ネット上では価格競争があり本が安く買えるという事実を彼らに知らせることができた。これはAmazonにとってもWal-Martにとってもプラスだ。

同じようなことはオンラインvs既存小売店以外の文脈でもありうる。例えば、iPhoneアプリが互いに価格競争を行うことでiPhoneのユーザーを増やせれば長期的にはプラスになりうる。しかしこの例が示すように一筋縄にいかない。iPhoneの魅力が上がってもAppleがiPhone自体の価格を上げてしまえばAppleの利益が増すだけでアプリ開発者には利益がない。またAppleが何もしなくとも他のアプリ開発者の参入もあり得るし、競争相手が競争を辞めない可能性もある。

HMGシンポジウム

アメリカの競争政策を担う司法省(DOJ)と連邦取引委員会(FTC)が水平合併(Horizontal Merger)に関するワークショップを開催する予定だ。これに先立って、TRUTH ON THE MARKET では専門家によるコメント集められている。

TRUTH ON THE MARKET » Welcome to the Truth on the Market Merger Guidelines Symposium

コメントは以下の質問への回答だ:

  1. Do the Merger Guidelines Need Revision?
  2. If yes, what is the most important revision  you would recommend and why?

一つ目は水平合併ガイドラインの変更が必要か、二つ目はもしそうならどこを直すべきでなぜそう思うのかだ。

水平合併ガイドライン(Horizontal Merger Guideline)とはDOJとFTCが発表している、企業合併に関する指針だ。両者はこのガイドラインに則って合併に関する調査さらには訴訟手続きを行うかを決める。DOJとFTCはともに行政機関であり、彼らがしたがうこのルールもまた法律ではないが、企業にとっては極めて重要だ。実際に合併が反対された場合、裁判によって決着をつけることになり、迅速な合併は不可能になる。

WikipediaにもあるようにHMGは1968年に始めて作られた。競争政策は基本的に産業組織論と呼ばれる経済学の一分野に含まれるが、当時の産業組織論はSCP(Structure-Conduct-Performance)とよばれるモデルを使っていた。簡単に言うと、市場の構造(structure)が企業の行動様式(conduct)に影響し、その行動様式が市場支配力(performance)を決めるというモデルだ。具体的には何らかの市場支配力の測定値を市場の集中度のような構造変数に回帰することになる。

しかし、産業組織論がゲーム理論を取り入れて発展することでSCPは廃れた。これに対応し、1984にHMGの大きな改正が行われた。一つの特徴は市場支配力の存在それ自体を最終目的としないことだ。社会余剰の最大化が目的であり、競争の促進は余剰を増やす限りにおいて追求されるようになった。例えば、合併によって生産の効率化がなされると分かっているなら、市場の集中度が増しても社会的にはプラスでありうる。HMGはさらに1992年に修正されているが以来、現在にいたるまで変更されていない。

では、専門家は何をいっているのだろう。コメントの多くは次の三つの点を指摘している:

  • 一方的な(unilateral)行動とコーディネーションとを明確に分けていること
  • 市場の確定を要求していること
  • 静的なモデルを想定しすぎていること

一つ目は前者を静的なゲーム・後者を動的なゲームと分けて考えていることへの批判である。しかし前者を動学化することは可能でありその場合後者との区別はなくなる。理論的に両者を分ける理由がない以上、ガイドラインでも分離するのは望ましくない。

二つ目はほとんど全ての論者が上げている。ガイドラインではまず合併の是非を決める上で合併する企業のいるマーケットを決めることを求めている。これはSSNIPテストと呼ばれる手続きで決定される。SSNIPテストについてはポストを改めて纏めたいが、理論的に多くの問題が指摘されている。またそもそも、市場を確定することは合併の是非を決める上で必要がない。

三つ目はR&Dの取扱いに関して指摘されている。合併によって長期的な生産性向上が見込める場合にも、生産要素共有などにより得られる生産性向上同様の配慮をすべきだということだ。もちろん、このような配慮は非常に注意深く行う必要がある。生産性向上の有無についてもっとも多くの情報を有しているのは合併企業であり、彼らは常に生産性向上があるから合併は正当化されると主張するからだ。

さらに、内容自体とはもう一つの問題が指摘されている:

  • 当局は実際にはガイドライン通りの行動をとっていない

例えばガイドラインではハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(HHI)を基準にする旨が述べられているが実際の当局の行動はそれと整合的でない。これがどの程度問題かについては議論がある。ガイドラインが当局の政策運用を正確に表していないことは企業の側に不確実性を与える一方で、ローファームや経済コンサルティングファームは実際の運用について十分な知識を要している。専門家を雇っている限り、不確実性の問題は生じない。また、これだけ複雑な政策を正確に記述する事自体不可能だという主張もある。

同じ議論はそもそもこのガイドラインを修正すべきか否かにも適用できる。実際の運用は専門家に理解されているのだから上記の三つのポイントについても改正する必要はないという意見だ。これには二つの利点がある:

  • ガイドラインの改正には多くの労力がかかる(当局のエコノミストの時間を消費する)
  • ガイドラインを一段と経済理論に忠実にすることで法曹関係者の反発を招く

個々のコメントについてはリンク先サイトで探してほしい。

日本では未だに経済理論の競争政策への導入が進んでいないそうだ。これは非効率な政策運用を招くので早急に正すべきだ。また、日本企業であってもアメリカ・EUで訴えられることは実際にあり、こういった経済理論に根ざした司法のもとで争う必要がある。

Netflixのストリーミング

映画DVDレンタル最大手のNetflixは最近ストリーミングに力を入れている。DVDの場合、頼んでから届くまで時間がかかるがストリーミングならその場で鑑賞できる点が受けている。NetflixにとってもDVDを大量に在庫する必要が減るという利点がある。

Netflix to Launch Streaming-Only Service…but Not in the U.S.

Unfortunately, this new streaming-only option won’t be available to any Netflix subscribers in the U.S.

Netflixはストリーミングだけのサービスを売り出すと報道されているが、アメリカでは提供されないそうだ。

Hastings wouldn’t reveal which overseas market would be first to get the new service “for competitive reasons,” but he did say that their initial approach is to prove their model before offering the expanded service in other countries.

その理由として、ビジネスモデルを先に海外で試したいという理由を挙げている。さらに、

It’s likely that Netflix wouldn’t even go this route if they had their way, but apparently, DVDs-by-mail isn’t an option for them overseas.

郵便を利用したDVDレンタルというシステムは異なる郵便システムを持つ国で成り立つかも分からない。

ではアメリカではストリーミングだけのオプションを提供しないことには他の理由はないのだろうか。社長は次のように発言している。

“Everybody also wants to get DVDs,” said Hastings. “All the new releases are on DVD, the vast catalog is on DVD. When there is demand, it will make sense for us to meet that demand for streaming only.”

アメリカ人はみなDVDレンタルサービスも欲しがるため、ストリーミングのみのプランは必要ないということだ。しかし、この発言は真実を語っていない。仮にほとんどのアメリカ人がストリーミングとDVDレンタルという二つのサービスを両方需要していたとしても、個別にも提供したほうが利益は増えるはずだからだ。

直感的に言うと、個別にサービスを提供すれば、Netflixは合わせたパッケージの価格に加え二つの個別価格という三つツールを使うことができるため、一つの場合にくらべれば最低でも同じだけの利益は得られる(財が大量にあれば個別の価格付けのための費用が発生するだろうがNetflixにはあてはまらない)。ストリーミングに強い選好がある人、DVDレンタルに強い選好がある人、どちらも特別に欲しいわけではない人という三つのグループに別々の価格を割り当てる価格差別の一種と捉えてもよい

では何故Netflixは個別のサービス提供を行わないのだろうか。Netflixが主張するように、適切な価格付けのための実験を先に行う必要があるということも考えられる。実際の価格付けは難しいのでこれは頷ける。しかし、ストリーミングやDVDレンタルへの需要や提供できるサービスの質は国によって大きく異なるだろうから海外でやってみたからといってそれがアメリカに適用できるかは疑わしい。

もう一つの解釈はNetflixがDVDレンタルにおける優越的な立場を利用してストリーミング市場での地位を確保しようしているというストーリーだ。NetflixはDVDレンタルにおいては非常に大きなシェアを持っているが、この業界の未来がストリーミングにあるのは明らかだ。抱き合わせにして提供することで、NetflixのDVDレンタルが欲しいひとはストリーミングにおいてもNetflixを利用することになる。このような戦略の有効性については改めてまとめたい。

記事では、もしストリーミング単独サービスへの需要がないとして、そのことがどうハリウッドの販売戦略と結びついているかについて論じられている。興味を持ったかたはどうぞ。

P.S. NetflixのストリーミングはSilverlightを利用しているためLinuxでは動作しない。Silverlight採用においてMicrosoftがどのような取引を行ったかも気になるところだ。