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デトロイトの縮小

追記:Willyさんのコメントが大変参考になります。

アメリカで最も急激に衰退していっている都市がデトロイトだ。世界的に見ても大都市が縮小していくというのは珍しい現象だ。

Goodspeed Update » Detroit

Since the middle of the 20th Century, no American city has experienced the severe economic shock experienced in Detroit.

デトロイトの没落が始まったのは二十世紀中盤だ。現在でも全米11位で100万人近い人口を誇るが、ピーク時には全米4位の都市だった。経済圏としては依然450万人近いが、人口の大半が郊外にスプロールしている。

Millions of jobs left, but new jobs were not easily accessible and often required high education levels. These so-called spatial and skill mismatches resulted in skyrocketing jobless rates among central-city blacks.

製造業の職がなくなったことにより、低スキルの労働者が都市中心から動けない状態で大変なことになっている。

それでも人口の流出は止まらず、今回の不景気で大量の空き家が発生している(ht @gshibayama)。

人の住まなくなった土地・建物では税金が支払われずに政府の所有になることも多く、市内にはやたらと政府の土地があるようだ。

こうした住居は段々と建て壊されており、市内の住居数は四十年間着々と減っていっている。

産業の転換により、ある産業に特化した都市が機能を終え縮小して行く。この時にどのようなことが起きるのか、どうすればできるだけ問題を起こさずに新しい均衡へ移っていけるのか、デトロイトはとても興味深い都市だ。

追記:デトロイトでは年収の1.5倍で家が買えるそうです(ht @Kelangdbn & @gshibayama

日本の強みは東京にある

日本の強みは集積経済

日本国内のグローバル化において、グローバル化が日本に及ぼす影響を日本国内での地方の衰退と比較し、「東京が地方の政令指定都市のような存在になる」と主張した。この変化はWillyさんが指摘されたように、

もっともマクロ的な指標から考えると日本が他の先進国対比で衰退するスピードはそれほど急速ではないと思います。例えば日米の一人当たり経済成長率を比べ ると米の方が高いと思いますが、その差は大きめに見積もって1%程度です。Medianで比べたらもっと小さいか、逆転の可能性もあるでしょう。

一部の論者が騒ぎ立てるほど急速には進まないが、徐々に進行していく。そのとき、日本の強みは何だろうか。

私は、将来日本の最大の強みは東京という巨大集積経済になると考える。都市の集積経済(urban agglomeration)の経済効果は莫大だ。規模の小さな経済地域では成立しないようなビジネスも可能だし、集中した都市機能は企業活動を効率化する。また環境税を含めた資源価格の高騰は地理的な集中を有利にする。地価が高すぎると言う向きもあるが、地価の高さは逆に集積経済のメリットがどれだけ大きいかを示している。

再び国内との対比に戻れば都市の優位性は明らかだろう。都心部への労働人口の集中は総体としての地方の衰退をもたらしたが、その程度は地方の中でも辺境の地域において深刻であり、地方でもっともうまくやっているのはもともと規模のある都市部である。それが世界規模で進行するのなら、日本の頼みの綱は東京ということになる。

東京の規模

東京が大都市であることは誰でも知っているが、その経済規模が本当にずば抜けたものであることはあまり知られていない。行政区域としての東京、すなわち東京二十三区、の人口は約880万人で世界11位に過ぎない(首位はインドのムンバイで約1,300万人だ)。しかし、行政区域がどこでしきられているかは経済的には重要ではない。例え、街の名前が違っていても街が完全に連続していれば途中で区切ることに経済的な意味はないし、ほとんどの人が東京に勤めているようなベッドタウンは実質的には東京の一部だ。

このような実質的な指標においては東京という都市は世界でも群を抜いて大規模だ。例えば、人口密度を元にしている国連による都市圏のトップ10は以下の通りだ(Wikipedia; World Urbanization Prospects: The 2007 Revision Population Database):

  1. 東京(日本):35,676,000人
  2. ニューヨーク(アメリカ):19,040,000人
  3. メキシコシティ(メキシコ):19,028,000人
  4. ムンバイ(インド):18,978,000人
  5. サンパウロ(ブラジル):18,845,000人
  6. デリー(インド):15,926,000人
  7. 上海(中国):14,987,000人
  8. カルカッタ(インド):14,787,000人
  9. ダッカ(バングラディシュ):13,485,000人
  10. ブエノスアイレス(アルゼンチン):12,795,000人

東京がいかに巨大かがよく分かる。人口が急激に伸びているインドの都市が目立つが、それでも東京の半分程度の規模だ。私が今住んでいるサンフランシスコとイーストベイを含む都市圏は人口・面積ともに東京都市圏の十分の一だ(道理で田舎っぽい気がするわけだ)。

もしグローバル化によって都市への集積が進行し、都市経済の重要性が増すのであれば日本という国にとって東京の重要性はさらに増していくはずだ。

東京に集中するビジネス

近年の資源価格の高騰・去年からの世界的な不況・円高の急速な進行もあり、日本企業の収益は悪化しているが、東京への主要ビジネスの集積は変わっていない。これをFortune Global 500を使って見てみよう。2009年度のGlobal 500のトップ10は石油会社が台頭しており(参考:原油買うので手一杯)、日本の企業としては唯一トヨタ自動車が10位に入っているだけだ(石油関連以外ではあとWalmartとING Groupが入っている)。しかもトヨタは今年赤字決算であった。

しかし、Fortune 500に入る企業がどこに所在しているかを見ると面白いことが分かる(Wikipedia)。

  1. アメリカ:140社
  2. 日本:68社
  3. フランス:40社
  4. ドイツ:39社
  5. 中国:37社

中国経済の拡大もあり、徐々に数は減らしているものの日本には多くの大企業が残っている。これをさらに都市別にすると、その東京への一極集中具合が分かる。

  1. 東京:51社
  2. パリ:27社
  3. 北京:26社
  4. ニューヨーク:18社
  5. ロンドン:15社

ここでも東京の規模は圧倒的だ。二位・三位のフランス・中国もまた中央集権的な国家だ。

まとめ

グローバル化が国内での都心への人口集中同様の効果をもたらすのであれば、日本の中心としての東京の重要性は増していく。東京は現時点で世界最大の集積経済であり、グローバル化で日本の国としての相対的優位がなくなっても、その地位を維持していく。地方へのばらまきをやめ、東京都市圏への適切な投資を行っていくことが重要になるだろう

コメントに関する追記

  • ソウルが都市圏トップ10に入っていないのは都市圏の定義の仕方とデータ不足によるものです。雇用をベースにした都市圏の定義では2位につけるものもありますね。しかし東京都市圏が群を抜いているというのはかなり頑強な事実ないように思います。
  • 東京一極集中のリスクについて複数のコメントを頂きました。最もな懸念であり、都市国家である香港やシンガポールはいずれも国防の面で脆弱なのは否めません。ただ、リスクを理由に第二新都心設置や首都移転をしてもよい結果になるとは思いませんし、何より現在の地方への移転の根拠は東京の都市としてのリスク分散ではないでしょう。また、ここでの主張は東京へ資源を集中させるというよりも、現状の地方への莫大な移転を控えて適切な投資を行うという穏当なものです。この問題についてはコメント欄の毒之助さんやWillyさんの発言をご覧ください。
  • 都市部と地方での公平性の問題についてはasatsumaさんから、相続税をキーにコメントを頂いたのでご覧ください。
  • 日本で二番目の規模を誇る大阪大都市圏は世界で見ると大体十位ぐらいです。ちなみに都市の規模についてはジップの法則が成立することが知られています。
  • 東京に消費地以外の意味があるのかについては、世界規模の企業の本社が集中しているということで十分説明できています。工場だけが東京になくても付加価値を生み出しているのは東京でしょう。
  • 「金融もITもサービス産業も生産性が低い」:輸出入は比較優位で決まるのですべての生産性が低い国はありません。分散したら一段と生産性が落ちるでしょう。
  • 「東京には大半の人は住めない。子供を生んで育てるサイクルがない。」:先進国なら概ねどこでも同じです。親が地方にいる過渡期なのが原因かもしれません。
  • 「地方都市集積はダメ?」できればいいですが、補助金を回しても寂れる一方なので現実的な財政出動では不可能でしょう。
  • 「東京の込み具合は頭おかしいとしか思えない。」あれはあれで非常に効率的ですし、きちんと投資すればかなり緩和できるのでは。密度の低い街は人と会うのも大変ですよね。
  • 「東京に投資するいうても、道路と高層建築(基本その地代)につっこんでるだけやん。」:高層建築と交通機関への投資は重要では。同じことを地方でやる現状よりははるかに効率的でしょう。
  • 「「東京都市圏は世界的にも凄い→東京への投資が重要」って物凄い論理の飛躍だな。」:東京の資源が地方へ吸い上げられていても東京都市圏がすごいというのは東京への投資が効率的である可能性の高さを示すと考えます。
  • 「東京だけの一極集中は賛成できない。」:他のコメントにも共通しますが、一極集中を推し進めようという積極主張ではありません。大都市へ集中していくという経済の流れに税金で対抗するのはやめよう程度です。
  • 「多くの物の遠隔地からの供給コストが抜けてる。」:地方も自給自足ではありません。また供給コストはすでに価格に織り込まれています。
  • 小泉政権で既に行われた的コメントがいくつかありましたが、それは正しいかどうかとは関係ありません。
  • 他所で既に同様のことが論じられているというのも当然そうだと思います。リンクされている場所以外は見ていないので何か新しい見方を提示できていれば幸いです。
  • トヨタは愛知ですがトヨタが発展したのは地方への所得移転ではないでしょう。またこれから国際的な規模の企業が生まれるとしたらそれは大都市、特に東京になるように思います。
  • 都道府県のデータを表にされている方がいらっしゃいました。
  • 「データが都市人口と会社数だけで、この主張を信用していいものか正直疑う。」:どんな主張も疑うべきだと思います。これはブログなのでとりあえず二点程意外に知られていない事実を紹介しました。定性的にはこういう考え方もできるということなので、定量的な話は実証しないと分かりません。
東京だけの一極集中は賛成できない。

車社会

アメリカの車社会度合いよく示しているマップがあった:

Driving Alone: D.C. Is Greenest – Economix Blog – NYTimes.com

driving-alone

色の濃い州ほど、単独で自動車通勤をしている人の割合が高いことを示している。都市部では公共交通機関の発達やカープーリングの導入などにより色が薄くなっている。しかし、むしろ興味深いのは絶対的な水準だ。

The District of Columbia and New York — whose residents are heavily dependent on public transportation — had the lowest rates of solo commuters, at 37.2 percent and 53.7 percent.

ワシントンDCとニューヨークがもっとも公共交通機関に依存した州とされているが、それでも一人で自動車通勤する人の割合は37.2%と53.7%だ。日本での正確な数字は分からないが検索したら見つかった古い内閣府の調査によると人口30万人以上の都市部では20%というところだ。

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