イノベーションのコスト

研究開発費に関するグラフが幾つか。大まかな数字をつかんでおくのは重要。

Paying for Innovation – Economix Blog – NYTimes.com

国立科学財団(National Science Foundation; NSF)によるレポート(Science and Engineering Indicators: 2010)からグラフが引用されている。

まずは研究開発費の内訳だ。現在企業による投資が70%近くで、連邦政府のシェアは戦後下がり続け30%を切っている。これは1930年代の水準に迫るものだ。とはいえ、この数字がすなわち研究開発における政府の役割の低下を示すものではない。

Academic performers are estimated to account for 55% of U.S. basic research ($69 billion), 31% of total (basic plus applied) research ($157 billion), and 13% of all R&D ($395 billion) estimated to have been conducted in the United States in 2008.

大学は研究開発費の13%しか占めていないが、基礎研究の55%を占めている。

ちなみに日本はというと、やはり企業に研究開発の割合は近年70%前後で安定している。上のグラフは科学技術研究調査から作った。NSFのグラフの連邦政府は大学や企業への補助金を含むので直接の比較はできないが、研究開発費の大部分を民間企業が請け負っているのは共通している。

研究開発費そのものは世界中で上昇している。国ごとの相対的な量では中国が急激に伸びている以外、比較的安定している。

GDP比でみると日本は非常に高い水準を保っているが近年韓国に追い抜かれている。アメリカ・EUは安定しているが、中国はここでも急上昇を見せている。採集データは2007年となっており、現在では絶対量で中国に負けているようだ

但し、本来はイノベーションのアウトプットを比較するべきだが、測定が極めて困難なため費用を比べざるをえない点には注意が必要だ。使った金額だけにとらわれずどれだけ効率に使うかという視点は忘れてはならない。

Googleのプラットフォーム戦略

Googleのオープン・ソース戦略について以前書いたこと(オープンソースは裏切れない)と同じ論旨のエントリーがTechcrunchにあった:

Googleの「オープン・ソース万歳」はけっこうだが、いいとこ取りなのは否めない

Googleがオープンなのは自社にとって都合がよいときだけだ。Googleが検索アルゴリズムや広告システムのソースコードやデータを公開することなどあるまい。こうした分野の秘密こそがGoogleに巨大な収益をもたらすカギだからだ。

その通りだ。Googleは利益を出すことを目的とする営利上場企業であるし、そもそも利益を出さなければ事業は維持できない(参考:非営利と営利との違い)。これについては前にこう書いた:

Googleは無料であること・オープンであることが重要・必要な場合にはオープンソースを使い、コアなビジネスはプロプライエタリにすることで利益を上げているのだ。

Googleの行っているビジネスはプラットフォームビジネスだ。プラットフォームをコントロールし利益をあげるためには、そのプラットフォームが大きくなくてはいけない。MicrosoftがWindows向けのアプリケーション開発を促進したり、Intelがx86上のシステムや関連コンポーネントを歓迎するのと同じことだ。

OSや携帯やブラウザや本や、その他あらゆる事業分野がオープン化し、無料化してもGoogleには失うものは何もない―検索と広告で収益が上がる限りは。

これは半分正しく、半分間違っている。Googleは携帯・ブラウザ・本をオープン化・無料化することでそこから得られるはずの利益を失っている。Google全体としてはオープン化・無料化した上で検索・広告で収益をあげたほうが最終的に利益が多いというだけだ。

マニフェストの中でプロダクト・マネジメント担当副社長のJonathan Rosenbergは「オープンシステムは常に勝利する」と雄弁に説き、Google社員に対して製品をデザインする際にはオープンさを重視するよう求めている。

それがGoogleが社員に対してオープン化を推奨している理由だ。ここのソフトウェアを開発する部署にとってはオープン化は利益を生まない。無料である限りそれはコストセンターだ。プラットフォーム上で動くアプリケーションから稼ごうという誘惑は常に存在する。そこで重要となるのがオープンソースだ。オープンソースは遡及的なプロプライエタリ化を著作権法により防ぐ。誘惑に乗らないことに法律を使ってコミットするのだ。以前のポストを引用すれば次の通りだ。

サービスやAPIはいつでも引っ込めることができるがオープンソースのソフトウェアを引っ込めることはできない。企業はソフトウェアをオープンソースで公開することにより、それが永遠に公開されつづけることにコミットできるのだ。

これにより、Googleは自分たちが生み出した携帯プラットフォームを後で囲い込んで課金するのではという懸念やそのプラットフォーム自体が提供されなくなるのではという不安を効果的に払拭できる

これはIntelがArchitecture Labでとった戦略と同じだ。IntelはArchitecture Labでの研究の多くを公開・オープン化し、自社内の他の事業部を贔屓しない政策をとった。これによりx86上での開発に参加する企業は安心して活動できた。

デジタル化した市場では企業の成功がネットワーク経済・プラットフォーム市場といった性質の理解に大きく左右される。製品そのものの質よりもそれをどう販売・運用するかが成功の鍵となるのは皮肉なことだ。