農作物価格と貧困

農作物の国際市場での価格が下がると発展途上国にどんな影響があるのか。簡単な答えはその国がその農作物の(ネットで)消費者なのか生産者なのかで決まるということだが、それだけでは終わらない。

Are High Agricultural Prices Good or Bad for Poverty? » TripleCrisis

They conclude: “Adverse agricultural price shocks can have negative effects on poor urban households through labor market transmission, which can offset the gains they might realize as net consumers of agricultural products.”

農作物の価格低下は農家にマイナスであるが、消費者である都市労働者にとってはプラスというのが単純な分析だが、労働市場の動きを含めて考えると必ずしもそうはならない。農業労働への需要が減ると仕事のなくなった農業従事者が都市の労働者と仕事を奪い合うことになる。通常、離農する労働者と競合するのは都市部の比較的貧しい労働者であるため、これは逆進的な効果を持つ。

Conversely, they find that when rice prices go up the overall impact is progressive. The demand for unskilled labor in agriculture goes up, which raises incomes, and raises wages not just in agriculture but generally across unskilled labor markets.

逆に農作物の価格上昇は農家にプラスであるだけでなく、農業従事者と潜在的に競争関係にある貧しい労働者にとっても賃金上昇が食糧の価格上昇を上回る可能性がある。もちろん都市部の多くの労働者にとってはマイナスであるが、影響が貧しい層に出るのか豊かな層に出るのかは政策上重要なポイントだ。

先進国の(自国農家への)補助金は交易条件の低下を通じて開発途上国をさらに貧しくしているが、その負の効果はそのなかでも特に貧しい人に強く現れるということになる。

テレビはオンデマンドに

民放連がCM飛ばし機能に対抗策ということだが、一番の問題はテレビ局が消費者の動きについていってないことだろう。

民放連、機器のCM飛ばし機能「看過できない」  :日本経済新聞

民放各局の収入はテレビ広告が大部分を占めており、広瀬会長は「メーカーが同種の機器を発売するのは民放の経営を危うくするので困る」と強調した。

広告収入が大事なのは分かるが、CM飛ばし機能が出現するのは技術的な必然であり、これを無理やり押しとどめようというのは難しい。テレビ視聴のありかたは、ストリーミングやダウンロードで提供されるオンデマンドと、録画を通じてのタイムシフト・デバイスシフトに移っていっている

CM飛ばしが問題となるのは後者だが、こうした動きが世界中で広がっている以上、日本のテレビ局が家電メーカーに圧力をかけたところでうまくいかないか、取り残されるかのどちらかだろう。

むしろNetflixやiTunesのようにストリーミングやダウンロードに力を注ぐ方がいい。携帯端末でもストリーミングが可能になっており、オンラインで(妥当な価格で)十分なコンテンツが提供されるのなら、自分でわざわざ録画して後で見たり、携帯に移して見たりする必要はない。

ストリーミングであれば広告を飛ばすという問題は生じないし、広告をなくすためにお金を払ってもいいという消費者に対しては広告を非表示にしたり、ダウンロードで対応したりすれば利益になる。インタラクションのあるオンライン上では視聴者を均質な存在と考えるよりも、複数のメニューを提供した方が収益性は高い。

とはいえトップが「看過するつもりはない」などという物言いをしているようでは大した期待はできなさそうではあるが。

マイクロクレジットの危機

New York Timesからインドのマイクロクレジットが陥っている危機についてのレポート。

India Microcredit Sector Faces Collapse From Defaults – NYTimes.com

Microcredit is the extension of very small loans (microloans) to those in poverty designed to spur entrepreneurship. These individuals lack collateral, steady employment and a verifiable credit history and therefore cannot meet even the most minimal qualifications to gain access to traditional credit. [Wikipedia; emphasis mine]

ご覧の通り、マイクロクレジットというのは他に借りるあてのない貧困層に少額の資金を融資することだ。これによって、貧困のトラップにはまっているひとを救える可能性がある。

しかし、その利率は低くはないどころか普通に見れば非常に高い。例えば「Are Microcredit Interest Rates Exploitative? 」というインタビューによると、2006年の調査でメジアン利率は30%(インフレ調整後22%)となっている。かなりの高率ではあるものの、マイクロクレジットの融資先は他で融資を受けられない信用の低い層であるためプレミアムがつくのは避けがたい。

But microfinance in pursuit of profits has led some microcredit companies around the world to extend loans to poor villagers at exorbitant interest rates and without enough regard for their ability to repay.

問題は融資側が返済能力を調べずに融資を提供し、返すあてのない人がそれを受け入れていることだ。記事中ではこれをアメリカで金融危機の原因となった低所得者層への住宅ローンになぞらえている。

Responding to public anger over abuses in the microcredit industry — and growing reports of suicides among people unable to pay mounting debts — legislators in the state of Andhra Pradesh last month passed a stringent new law restricting how the companies can lend and collect money.

自殺の増加などに対し、政治家は融資や回収について新しい規制を導入した。日本でも似たような話があったのは記憶に新しい。

If the trend continues, the industry faces collapse in a state where more than a third of its borrowers live. Lenders are also having trouble making new loans in other states, because banks have slowed lending to them as fears about defaults have grown.

結末も同様で、多くの融資が回収不能になり融資する側が経営危機に晒されている。

The collapse of the industry could have severe consequences for borrowers, who may be forced to resort to money lenders once again.

もちろんこれは借り手にとっても難しい問題で、昔ながらの金貸しから資金を調達する必要に迫られる。

microfinance firms had lost sight of the fact that the poor needed more than loans to be successful entrepreneurs. They need business and financial advice as well, she said.

結論としては、一般に融資を行う際には返済能力を吟味する必要があり、マイクロファイナンスの場合であれば、貧困層が事業で返済するためには単なる融資以上のものが必要であるということだろう。また、融資側が返済できないような融資を行うおかしなインセンティブを持たないような仕組みも必要だろう。