英語は終わらない

英語はリンガフランカとして世界中で利用されているが、その地位に対する懐疑論。

The future of English: English as she was spoke | The Economist

The Economistはこんな記事掲載していていいの?というレベル。英語時代の終焉的な煽りタイトルに長い前置きがある割に、その内容は昔からある技術が全てを解決するというものだ。

  1. 英語のネイティブは330Mほどしかいない(話者は1B以上)
  2. ナショナリズムが公用語化を阻む
  3. 機械翻訳の発展が公用語の必要性自体をなくす

一つ目はナンセンスだ。あくまで第二言語・リンガフランカとしての英語の話しをしているのだからネイティブの数はそれほど問題ではない。そんなことを言ったら長く学術分野で使われてきたラテン語なんてろくに使われていない。

二つ目もリンガフランカとしての英語には関係ない。誰も世界中で英語が母語になるなんて話はしていない。

最後のIT技術の発展云々は可能性としてはありうるが、それがいつになるかは誰にも分からない(言語学者である著者がそれを知っている理由もない)。過去のリンガフランカを例に出して英語も永遠には続かないと書いてあるが、100年後・200年後どうなるかなんて話は普通の人にとってどうでもいいことだろう。今までのところIT技術の発展は言語の壁を取っ払うよりも、情報の共有を通じて言語≒英語の価値を上げる方向に作用している。10年・20年使えそうな技術なら習得する理由としては十分過ぎる。

給食費未納問題

給食費未納「問題」が話題になった。

給食費未納問題、平成17年度と21年度のデータ比較

文科省にあるデータ(印刷物スキャン…)がきれいに公開されている。これを見る限り、未納「問題」は半ばマスコミに作られた「問題」のようだ。ポイントは以下。

  1. 未納の生徒が存在する学校が55.4%
  2. 未納の生徒は1.2%
  3. 未納額の割合は0.6%
  4. 学校の認識としては、保護者の意識問題が53.4%、経済問題が43.7%

四年前のデータもあるが、二点では趨勢について何かいうのは難しいのでおいておく(大差ない)。まず55.4%というのは未納の生徒が一人でもいる学校の割合であり、あまり意味のある数字ではない。実際に未納となっている生徒は1.2%、額にして0.6%に過ぎない。二クラスに一人いるかいないかという水準であり、未納の原因が経済的なものである可能性も考えれば保護者のモラル云々につなげるのは早計だろう。また、未納の原因については学校側の意見であって、実際の原因は分からない

要するに、

  • 未納の規模は報道のイメージより遥かに小さい
  • 未納が近年になって増えたというデータは見当たらない
  • 未納が親のモラルの問題だという根拠は薄い

ということで、一時よく聞いた「若者の凶悪犯罪」なんかと同じくマスコミが煽っているだけのように思える。じゃあ未納はほっといていいのか、と突っ込まれそうだが、本当は重大でない問題に大きなリソースが割かれるのは社会的な損失となる。給食費でいえば回収率は99.4%であり、これ以上回収率を上げるのには大きな費用がかかるだろう。企業の売掛金回収率と比べればこの数字は相当に高い。全員が払っていないと不公平感が生まれるという意見もあるが、実際に「全員」に払ってもらうのは現在のスキームでは不可能であり、結局のところでどこかで妥協するしかない

もちろん理想的には、授業料と一緒に徴収する、天引きする、無料化するなどそもそも学校が集金を行わない仕組みにするのがよいだろう。日本中の学校が債権回収業務に従事するなんて非効率すぎる。

Sonyは何の会社?

何やらSonyについて盛り上がっているようですが、Sonyが今どんな会社かはIR情報を見れば分かる。

これが2010年第二四半期のビジネス分野別売上だ。青い部分がSonyと聞いてまず思い浮かぶ電気製品の類で、緑はPlayStationのようなゲーム機本体やゲームソフトだ。後はSony PicturesやSony Music Entertainment、そしてソニー生命・ソニー損保・ソニー銀行といった金融業務となっている。こうみると一般の消費者のイメージ通りエレクトロニクスとプレステの会社かな?と思われる。

しかし、会社にとって売上よりも大事なモノがある。それは利益だ。各セクションの売上高と利益が上のグラフにまとめられている。利益を一番稼ぎ出しているのは金融業務で、エレクトロニクス関係は利益率が相当低い事がわかる。映画にいたってはマイナスで、かろうじてプラスのゲーム関係もようやく黒字化といったところだ。IBMのように収益性の低い業務を切り離すというのもありえない話ではない(但しソニーの強みが本当に金融なのかと言われると…)。

都知事の反同性愛発言

石原慎太郎都知事の反同性愛発言が物議を醸しているそうで。

痛いニュース(ノ∀`) : 「テレビなんかにも同性愛者が平気で出る」…都知事、アニメ漫画規制に意欲

石原慎太郎知事は「子供だけじゃなくて、テレビなんかにも同性愛者が平気で出るでしょ。日本は野放図になり過ぎている。使命感を持ってやります」と応じた。

しかも、都青少年健全育成条例改正案という同性愛とは関係ない件に関連した発言だそうで。政治的には実に巧妙だ:

  1. 同性愛という意見の分かれやすいトピックで反対勢力を分断する
  2. ゲイが嫌いか好きかという話題になれば、反対派は条例改正案に対しても好き嫌いで反対しているように見える
  3. そもそも同性愛者がテレビにでることと改正案の内容は関係ないので話題がずらせる

反対派に対して本当の議題よりも一段と不適切な発言を投げかけることで注目を逸らしている。

この記事を読んでいたらつい最近みた次のビデオを思い出した。同性愛的傾向が個人の選択か(Is Homosexuality a Choice?)というトピックについてのビデオだ。これはアメリカでは定期的に話題になる。

この問いが重視されるのは、ゲイであることが自由意志によるものでなければ罪に問えないという哲学的な問題に基づいている。しかし、よく考えると個人の選択かどうかは重要ではない。自由意志かどうかが問題になるのは、同性愛であることないし同性愛に基づく行動を取ることが非道徳的という前提が成立している場合だけだ(コーヒーとお茶どちらが好きかというのが自由意志に基づいているかどうかを議論する人はいない)。

しかし、同性愛である事自体を罪とすることは出来ないし(思想・良心の自由)、同性愛的な行動が特別に本人ないし他人に害を及ぼしているようにも思えない。もちろん同性愛者による犯罪も当然存在するが、性的傾向との因果性は確立されておらず区別して考える理由はない(※)。同性愛が自由意志に基づいているかという話題に持ち込むことで、同性愛はよくないという前提を作り出す仕組みになっている(よって、自由意志かどうかは関係ないと返すのが正しい)。

(※)反同性愛の立場を取る論者はよく同性愛者の方が性病・精神病・ドラッグ使用が多いという統計から同性愛は望ましくないと結論付けるが、これは相関と因果の取り違えに過ぎない。社会が反同性愛的であるがゆえに同性愛者が問題を抱えている可能性もあるし、同性愛を認める人の多くが都市生活者というだけかもしれない。

P.S. ビデオを紹介するために記事を書いたと言っても過言ではないので是非御覧ください。笑えます。

アメリカの開発援助

開発援助は無駄遣いと批判されがちだけど、そもそも小さすぎて財政赤字の主な要因にはなりようがないというのは意外に認識されていない。

American Public Opinion on Foreign Aid

Q44. Just based on what you know, please tell me your hunch about what percentage of the federal budget goes
to foreign aid. You can answer in fractions of percentage points as well as whole percentage points.
Mean …………………………………………………………… 27%
Median ………………………………………………………….25
Q45. What do you think would be an appropriate percentage of the federal budget to go to foreign aid, if any?
Mean …………………………………………………………… 13%
Median ………………………………………………………….10

連邦予算のうち何%が海外援助に使われているかというサーベイの結果だ。大体25%が使われているが10%ぐらいに抑えるべきだというのが平均的な意見となっている。しかし実際の海外援助は200億ドル程でこれは連邦予算約3.5兆ドルの0.6%程度でしかない。海外援助の無駄をなくすのはいいが、会社の赤字を解決するのに節電を心がけるようなものだ。

しかもその内訳を見れば「海外援助」と読んでいいのかも微妙だ

トップ5はイスラエル・アフガニスタン・パキスタン・エジプト・ヨルダンといった戦略的に重要な地域への財政支援で、長年最も大きな援助をうけてきたイスラエルとエジプトは開発途上国ですらない(実際こういった援助の半分以上は経済援助ではなく軍事援助だ)。