「金儲け=悪」の由来

ビジネスをしてお金を稼いで社会のためになろう」では「金儲け=悪」が基本的に間違っていることと、なぜそれに大学生が気付かないのかについて書いた。しかし、一つ答えていない問いがある。それは「金儲け=悪」という道徳がそもそもどこからきたのかということだ。

いつからそういう道徳があるのかという問題は歴史家にまかせるとして、私の考えは道徳規則が社会の変化においついていないというものだ。ビジネス・金儲けがほとんどの場合社会的に望ましいためには、そういう風に社会が作られている必要がある:

社会的に望ましくないビジネスは割に合わないように社会は作られている。

しかし、そういった社会制度が整備されたのは比較的最近のことだ。例えば、価格カルテルは社会的に望ましくない企業活動だが、反トラストが政府の重要な機能と認識されたのはそう昔のことではない。アメリカでシャーマン法が成立したのは120年ほど前のことだ。

社会的に望ましくない行為を取り締まる必要が認識されたとしてもそれを実際に執行するためには有効な警察力をもった国家が必要だ。国家の力が弱かった時代(ないし国)においては法律があっても取り締まりは難しい。また民主主義が確立していなければ、それだけの権力を国が持つことの弊害は極めて大きい

そういった状況では、商売・金儲けが社会善と一致しないため、それに代わるものとして「金儲け=悪」という道徳規則が成立するのは想像に難くない。法律がなければ莫大な利益は他人の犠牲の上に成り立つことが多いだろう。

もちろん今でも法の抜け道は存在し、「金儲け=悪」という概念が存在する余地はある。しかし、本当にやるべきことは金儲けが社会的に望ましいことになるような社会制度を整えることだ。現代に生きる我々はそれを成し遂げるための仕組みを持っている。

追記:図を使ってこのことを説明してみました。下のピングバックリンクからどうぞ。

中国の大気汚染と情報集約

中国の環境(大気)汚染についてthe Atlanticから:

The Atlantic Online | November 2009 | How I Survived China | James Fallows

著者のジャーナリストJame Fallowsが中国滞在注に体調を崩したのをきっかけに大気汚染の問題について論じている。

The health situation for ordinary Chinese people is obviously no joke. After stalling, the Chinese government recently accepted a World Bank estimate that some 750,000 of its people die prematurely each year just from air pollution. Alarming upsurges in birth defects and cancer rates are reported even in the state-controlled press.

中国の健康問題は実際深刻である。ここでは世銀による推計として年間75万人が大気汚染が原因でなくなっていると指摘されている。奇形やガンも激増しているが国有のメディアはそれを報道しないそうだ。

The Chinese government does not report, and may not even measure, what other countries consider the most dangerous form of air pollution: PM2.5, the smallest particulate matter, tiny enough to work its way deep into the alveoli. Instead, Chinese reports cover only the grosser PM10 particulates, which are less dangerous but more unsightly, because they make the air dark and turn your handkerchief black if you blow your nose. (Spitting on the street: routine in China. Blowing your nose into a handkerchief: something no cultured person would do.)

環境問題は報道されないだけではなく、そもそも測定すらされていない。大気汚染の指標である浮遊粒子状物質の量のうちPM2.5がそれだ。PM2.5は直径2.5μm以下の粒子のことで健康被害が大きいとされている。測定されているのは目に見えるPM10だけだ。非公式な数値がアメリカ政府(大使館)から提供されているが、そのレベルは非常に危険なものとなっている。

この事例は民主主義の情報を集める(aggregate)機能を示している。共産主義におけるメディア規制はよく問題になるが、影響はそこに止まらない情報の流通・利用が妨げられるということはそもそも情報を集めようというインセンティブをなくなるということだ。この例では中国政府は自分に都合の悪い情報、PM2.5、の流通を阻止しているが、そのために政府にとって他の有用な情報が入ってこないこともありうる。政府が自ら必要な情報を秘密裏に集めようというのは非効率どころか不可能だ。

逆にテクノロジーはこの情報収集機能を強化している。一つの例はウェブでありTwitterだろうが、CitySourcedなど新しい取り組みもある。政府と国民の情報の非対称を解決することは社会にとって大きなプラスを生み出す

People seem to feel alive.” That made sense when I heard it—in China I had felt terrible, but alive—and makes me say that foreigners who want to go should not be deterred. They could even work on the environmental problems affecting the billion-plus permanent residents.

このような大気汚染にも関わらず中国は活気づいており、尋ねる価値はある、それどころか外国人が環境問題に取り組むことができると締めている。

しかしこの結論はあまりに楽観的過ぎるように思う。現地の人々が環境問題に気付いていないわけではない。気付いているがそれがビジネスにならないと知っているだけだろう。