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便乗値上げの規制

アメリカでは多くの州に存在する便乗値上げ(price gouging)の規制について:

Not helping out due to anti-price gouging laws « Knowledge Problem

便乗値上げの規制が何故必要なのか、以前に大抵のエコノミストはそもそも「便乗」値上げが何かと言われると返答に困るだろう。災害時(アメリカではハリケーン、日本なら地震だろうか)に必需品の価格が上がるのは単なる需給の問題だ。

Gasoline consumers in the state would obviously be better off with more supply brought into the state rather than less, and with these stations offering gasoline at a high price rather than not offering gasoline at all.  The law impedes activities by gasoline retailers that would help gasoline consumers.

便乗値上げの禁止という一種の価格規制を導入することは、災害時の供給を減らすことにつながる。短期では、サプライチェーンを全て規制しない限り小売店は在庫を売りきったら終わりだ。長期では、社会的に最適な投資(余分な在庫)が行われない。

この構造は電力市場のメカニズムと似ている。電力は貯蔵不可能でかつ需給がミリセカンド単位で一致する必要がある。しかも個人宅ではリアルタイムで価格を確認することができないので短期価格弾力性はほぼゼロだ。ピーク時と非ピーク時の需要量も劇的に異なり、一部の発電施設は僅かなピーク時にしか起動されず限界費用が極めて高くなる。

電力の供給曲線=限界費用曲線は容量いっぱいのところでほぼ垂直に立ち上がるので、価格規制がなければ需給量が容量限界に達すると一気に価格が跳ね上がる。短期ではこれにより電力会社の費用が上がるわけではないので一種の便乗値上げとも言えるが固定費用が莫大な産業なのでここでレントが発生しなければ容量への投資が行えない。

電力市場ではこのピーク発電能力の確保とピーク時の市場支配力の増大とのバランスを保つためにプライシングの工夫・予備電源の義務付け・連絡線強化・長期契約推進・資産売却命令(divesture)など様々な努力がなされている。便乗値上げについても、単純な値上げ規制より踏み込んだ対策が必要だろう。

P.S. 災害時の便乗値上げを監視するガイドラインをもつ地方自治体は見つかるが、肝心の根拠法が見当たらない。地方レベルの政策なのだろうか?

ANDAリバースペイメント推定違法化

以前から議論になっていたANDA申請を行った企業と先発企業との訴訟において後者が前者に支払いを行う形での示談について新しい法案が提出されている:

Patent Law Blog (Patently-O): Patent Reform: Reverse Payment

ANDA=Abbreviated New Drug Applicationとは米食品医薬品局(FDA)による新薬承認申請(NDA)の一種だ。アメリカで新薬を流通させるためには、その安全性・効果をFDAに認証される必要がある。その許可を申請するのがNDAだ。ANDAは既に流通している薬品と生物学的に同等な後発薬の承認申請を行う際に使われる簡略版である。1984年のハッチ・ワックスマン(Hatch-Waxman)法(正式にはDrug Price Competition and Patent Term Restoration Act)により導入された。これにより、特許が切れた薬品のジェネリック医薬品認証のための費用が節約され、より迅速に市場へ投入することが可能になる。

ANDAを利用するためにはFederal Food, Drug, and Cosmetic Act Section 505(j)に定められた四つの条件のいずれかを満たす必要がある。

  1. such patent information has not been filed,
  2. such patent has expired,
  3. of the date on which such patent will expire, or
  4. that such patent is invalid or will not be infringed by the manufacture, use, or sale of the new drug for which the application is submitted

この中で争点となっているのは四つめの条件だ。Section 505(j)ではさらにANDAで最初に申請を行った企業には180日間の独占権が与えられ、他の企業はANDAの認可を得ることができない。これはジェネリック薬品の開発を行うインセンティブを与えるための限定的な独占である。これを一般にParagraph IV Certificationと呼ぶ。

問題となるのは、後発企業がParagraph IV ANDAを申請するケースだ。Paragraph IV ANDAが申請されてから45日間、当該特許を保有する先行企業は後発企業を特許侵害で訴えることができる(薬品の特許を侵害せずにジェネリック薬品を製造できるのかという疑問は当然だが、薬品を保護している特許は主な薬効成分に関する特許だけとは限らない)。訴訟が始まると判決でるか30ヶ月経過するまでANDAの認可は行われない。この時特許関連の訴訟ではよくあるように示談が成立することが多いのだが、先行企業が後発企業に和解金を支払う形をとることがある。これは通常の特許侵害訴訟の結果とはお金の流れが逆であるためリバースペイメントと呼ばれる。

リバースペイメントが生じる原因として有力なのが、先発企業と後発企業との共謀である。後発企業がParagraph IV CertificationからParagraph III Certificationに切り替えることでジェネリック薬品の参入を遅らせて、現行薬の独占を続けることができる。示談になった場合、該当する特許の有効性について結論はでないため、たとえ特許が無効であっても独占状態は続くことになる。リバースペイメントはこの独占利得の分配と解釈される。

リバースペイメントが本当に反競争的なのかについては様々な意見があるが、ポイントはリバースペイメントの存在が違法行為を推定(per se illegal)するのかどうかである。リバースペイメントがほぼ確実に反競争的行為を示すのであれば推定が望ましいが、そうでないなら示談を推奨する意味での通常のRule of Reasonによる対応が望ましいということになる。

この件については連邦取引委員会(FTC)が以前に訴訟を起こして敗訴しているが、その時には司法省(DOJ)はFTCに反対していた。今回政権が変わったことによりDOJもFTC側に回り、議員から法案が提出されるにいたったというわけだ。

アメリカ反トラスト法メモ

ほぼ自分用メモ。当然IANALで。

アメリカの(連邦)反トラスト法(Antitrust Law)は主に三つの法律(Act)からなる。

  1. シャーマン法(Sherman Act): 1890年
  2. クレイトン法(Clayton Act):1914年
  3. 連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act):1914年

これに加えて細かいものが

  • ロビンソン・パットマン法(Robinson Patman Act):1936年
  • ハート・スコット・ロディノ法(Hart-Scott-Rodino Act):1976年

があるが両者ともクレイトン法に対する修正案である。前者は小規模小売店を価格差別から保護するもので主に連邦取引委員会(FTC)が執行し、後者は一定規模以上の合併に際しFTC及び司法省(DOJ)に通知する義務を定めるものだ。

基本となるのはシャーマン法第一条:

Every contract, combination in the form of trust or otherwise, or conspiracy, in restraint of trade or commerce among the several States, or with foreign nations, is declared to be illegal. […]

第一条は非常に曖昧で競争を阻害する行為が対象となるが、実質的にはコモンローを築く根拠としての役割を果たす。第二条:

Every person who shall monopolize, or attempt to monopolize, or combine or conspire with any other person or persons, to monopolize any part of the trade or commerce among the several States, or with foreign nations, shall be deemed guilty of a felony […]

第二条は市場支配力を有する企業がとる一方的な行動に適応され、略奪的価格付け(predatory pricing)や抱き合わせ販売(bundling)が対象となる。

クレイトン法はシャーマン法の曖昧さに対する不満から生まれたもので主な条項としては、競争を阻害する抱き合わせ販売及び排他取引を禁じる第三条:

It shall be unlawful for any person engaged in commerce, […], to lease or make a sale or contract for sale of goods, […], or fix a price charged therefor, or discount from, or rebate upon, such price, on the condition, agreement, or understanding that the lessee or purchaser thereof shall not use or deal in the goods, […] of a competitor or competitors […], where the effect […] may be to substantially lessen competition or tend to create a monopoly in any line of commerce.

及び水平・垂直合併を規制する第七条:

No person […] shall acquire the whole or any part of the assets of another person engaged also in commerce […] the effect of such acquisition may be substantially to lessen competition, or to tend to create a monopoly.

がある。

FTC法はクレイトン法と同年に成立し、新しい執行機関としてFTCを設立し、第五条において、

Unfair methods of competition in or affecting commerce, and unfair or deceptive acts or practices in or affecting commerce, are hereby declared unlawful.

シャーマン法・クレイトン法において反競争的とされる行為を規制する権限をFTCに与えている。

DOJ、FTCは共に反トラスト法の執行機関であるがいくつかの違いがある:

  • DOJのみが刑事を扱う(シャーマン法違反のみが刑事罰の対象となる)。
  • FTCはよりFTC法に基づき若干広い範囲の行為を規制する。
  • FTCは衡平法上の救済(equitable relief)のみを行う。
  • FTCは内部に準司法的行政機関を持つ。

また日本と異なる点としてシャーマン法・クレイトン法違反により損害を受けた場合には、被害額の三倍(treble damages)の懲罰的賠償を請求できる。

アメリカの法律の原文はコーネル大学ロースクールから。