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ナショナリズムとリベラル

どっかで昔書いたことがが巡回先のブログで論じられていたので紹介:

Ben Casnocha: The Blog: The Nationalism of Liberals vs. Conservatives

Conservatives tend to be proud nationalists. They poll higher on questions that ask, “Are you proud to be an American?” There’s the image of conservatives with their big American flags and trucks. Conservatives’ nationalism, at its strongest, tends to manifest in hawkish foreign policy.

保守派はナショナリストだ。日本では保守主義の定義が難しいが、右派が国旗や国家に対する愛着と言う意味でナショナリスティックと言えるだろう(むしろそうであるかが右派・左派を分けれているとさえ言える)。

Yet at the same time, they believe strongly in American jobs and workers. Narratives around the “little guy” being screwed by big bad multinational corporations is very much part of the liberal imagination. So liberals’ nationalism, at its strongest, tends to manifest in economic nationalism. In particular, protectionism.

しかし、ここで指摘されているのはその左派=リベラルも実はナショナリスティックだという点である。これは保護主義に現れている。自国労働者を守ろうという意見は自国を他国に比べて優越するという考えにほかならない。

Bottom Line: Liberals make fun of conservatives’ patriotism, but in fact liberals’ preferred economic policies are more dangerously nationalistic, and full of contradictions.

最後に著者Ben Casnochaはリベラルが保守派の愛国主義を批判しながら、経済政策でナショナリスティックであるのは矛盾だとして指摘している。

全くその通りではあるがこれがリベラル(=米民主党)への批判になっているのかと言えば疑わしい。そもそもリベラルを何を持って定義するかにもよるが、ある国の中で議論する際に相手を説得するための唯一の(正しい)方法はある政策が相手にとっても得なんだと示すことである。ここで自国民の利得を優先するのは矛盾ではないし、愛国主義でもない(むしろ自国民の利得を超越した価値を愛国心に見出したときに愛国主義になるといってもよい)。ここでたまたま保守派が推す自由貿易が保護主義よりも望ましいのはナショナリズムとは関係なく単に経済理論によるものだ。

ただ、だからといってリベラルが保守派愛国主義をバカにすることもできない。そもそも国という概念が恣意的である以上、愛国心は必要な概念である。アメリカで愛国心が非常に持て囃されるのはこのせいだろう。移民が多い国では国という概念は希薄だ。ビザや市民権という意味では重要だが、社会の枠組みとしては弱い。別の言い方をすれば、社会ために何かしようという時に「アメリカ」という枠組みを採用する必然性がない。地元のためとか自分たちの民族的なコミュニティーを思い浮かべる人が多い。これだけ愛国心を祭り上げていても再配分政策が全くされないのもそうだ。

建築の保守性

バークレーは非常にリベラル・革新的な街として有名だけど、街並みは非常に保守的だ。小さな一軒家が只管並んでいて、高層建築は大学構内を除きほとんど存在しない。

A photo of the Berkeley Bowl West from San Francisco Chronicle

A photo of the Berkeley Bowl West designed by Kava Massih; picture from San Francisco Chronicle

市内に拠点を構える建築家へのインタビューがあった:

InBerkeley » Berkeley’s conservative impulse in architecture

KM(Kava Massih): One of the things I’ve always been surprised at is that progressives see architecture as the opposite. The more liberal you are, the less you see development as a good thing. Yet trying to hang on to the status quo is a conservative trait.

リベラルであるほど開発を支持しないという一見矛盾した現象はどこから来るのだろう。ダウンタウンの開発計画については、

IB: What do you think about the Downtown Area Plan?

KM: Well, it was very watered down. The issue for me is that the less density we have in Berkeley, the more sprawl there will be elsewhere. You’ll continue to have people commuting from Tracy. But it’s impossible to tell someone we’re putting up a tall building next to your house. That new building may house 400 people, but no one thinks about the good environmental consequences of that.

アーバンスプロールの影響を挙げている。都市部の人口密度を挙げることは通勤による環境負荷を減らすだけではなく、郊外におけるスプロールを減らす。

ではなぜリベラルは開発を支持しないか。これはむしろ問題の設定が間違っている。

リベラルと呼ばれる人々が必ずしも言葉の意味としてリベラルであるとは限らない。むしろ、ある一定の思想を持っている人々を指すラベルに過ぎない。このことは自称リベラルな人々と議論したことがあればすぐに分かることだ。だから問題への答えは簡単だ。アメリカでリベラルと呼ばれる人々はたまたま建築において保守的な選好を持っていたに過ぎない。日本で政治的な左右が特定アジア諸国に関する立場によって決まるように、アメリカではそれが宗教的な立ち位置によって決まっているように思われる。

海外からみた政権交代

もはや日本の政治ニュースはさっぱり分かりませんがThe Economistに記事が出ていた:

Japan’s election: The vote that changed Japan | The Economist

There are three reasons to believe that this vote marks a big change.

今回の選挙結果が変革をもたらす三つの理由が挙げられている。

  1. The first is the scale of the DPJ’s victory.
  2. Second, the rejection of the LDP is the culmination of deep changes in Japan’s political culture.
  3. Third, by overthrowing the LDP, Japan’s voters have turfed out not just a party, but a whole system.

民主党の圧勝、長年に渡る親米・産業優先政策への反感、政官業の癒着の否定がその三つだ。これらの理由が正当なのかは分からないが、最大の課題として挙げられている次の一節は正しい。

The test will be taking on the bureaucracy. Mr Hatoyama will have to strike a delicate balance. On the one hand the DPJ demands accountability, and promises to break bureaucrats’ backs to get it. On the other, it needs to harness bureaucrats’ talents if it is to formulate and carry out sound policy, particularly since so many new DPJ politicians are wet behind the ears.

日本の政党には実質的な行政運営ができないのは明らかだ。これはどの政党でも変わらない。そもそもそういう機能が無いと言ってもよい。

費用効用分析の運用改善

UCLAのMark Kleimanによる費用便益分析への提案:

The Reality-Based Community: Reforming regulatory benefit-cost analysis

彼が挙げているのは三つ:

  1. 所得分配を考慮しない
  2. 間接的・長期的・不確実な要素の排除
  3. 市場の存在しない財の評価における問題

一番目の点については理論上は関係ない。日本においてはむしろ利点だろう。アメリカでは共和党を中心に福祉政策や累進税への支持が少ないが、日本では政治家・官僚による利益還元的な行動の方が問題だ。当然、確実に便益がマイナスな低所得者向け住居提供のような政策は非常に打ちにくくなるがそれは事実便益がマイナスである以上より説得力のある理由が必要というだけの話だろう(例えば、住居であればお金で渡すよりも確実に対象を特定できるとか)。

二番目の問題についてはより精密な確率の推定を提案しているがもっと根本的な難点がある。それは不確実性を計算に入れた後何を指標に政策を選ぶかだ。極端な例でいえば、費用や便益が平均値を持たないような分布もありえる。国がどの程度リスク回避的な政策選択をすべきということもある。

三番目はやはり理論上は問題ないのだが、現実には難しいパターンだ。例に挙げられている命の価値だがこれは生活の質で調整された余命を用いることで対処できる。環境の価値となると現実的に測定するのは非常に困難になるが、少なくともその他の費用便益の計算をするだけでも価値はあるだろう。費用効用分析にも費用がかかるのであまり期待できない調査をしてもしょうがないということはある。

日本ではまだ費用効用分析の導入があまり進んでいないのでこのような弊害はあまりないが、将来的には同じ問題が発生するだろう。しかし、最大の問題は教育だ。費用便益分析には様々な理論的・現実的問題があるが最終的な正当性はそれが一つの情報源に過ぎずそれ自体で政策を決定しない点にある。問題点はあるが、最終的には民主主義によって決定するのだから情報は多いに越したことが無いだろう、ということだ。但し、このディフェンスが有効であるためには国民、少なくとも政治家が何が仮定されていて、どのような問題があるかを知っていてかつ最終的な決定権が自分にあると認識している必要がある。政策決定に費用便益分析の導入が進むにつれて、基礎となる経済学を含めその読み方を一般に知ってもらうのが重要だ(これは統計分析の結果を利用するのにある程度の統計の知識が必要なのに似ている)。