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男女格差指数

2009年の世界経済フォーラム(World Economic Forum)男女格差指数(Global Gender Gap Index)が発表された:

男女格差が最も少ないのはアイスランド、日本は75位 | 世界のこぼれ話 | Reuters

日本が世界で75位で、1位はアイスランドといった情報はいくつもの新聞社などで報じられているが一体どんな指数なんだろう。

同報告書は、経済活動や教育・政治へ参加する権利など、男女間格差がどれだけ縮小したかという視点からランキングを作成、発表している。

例えばこのロイターの記事では上記のような説明がなされている。しかし、これだけではこの指数が何を意味するのか分からない。せめて「同報告書」がどこにあるのかぐらい示すべきではないだろうか。

その報告書はこちらだ。HarvardのRichardo Hausman、BerkeleyのLaura D. Tyson、WEFのSaadia Zahidiによる200ページ強の報告書だ。この数字を報道している人々はきちんとこれを読んだのだろうか。一瞬では読めないが大した量でもない。意味が明らかでない統計量を報道する以上その定義を示すのは義務ではないだろうか。

報告書によれば四つの分野:

  • Economic Participation and Opportunity
  • Education Attainment
  • Health and Survival
  • Political Empowerment

の四つのカテゴリーの中にそれぞれ複数の変数が含まれている。例えば、労働参加率、大学進学率、平均寿命、国会議員数の男女比(の逆数)だ。各カテゴリーについて属する変数の標準偏差が等しくなるように重み付けされて0から1までの値が計算される。最終的なスコアはカテゴリー毎の四つの数値の単純平均となる。ちなみに女性の方が高い数値を記録した場合は1に切り下げられる。

では日本はどうなっているのだろう。報告書の119ページに乗っている。日本は前回の98位から75位に上昇している。内訳は経済活動・機会が54位、教育水準84位、健康生存が41位、政治参加110位となっている。

経済活動・機会では専門職への進出が最高値であるが、賃金格差が大きい。これは硬直的労働市場のため職場復帰が難しいからだろう。復帰後の所得が低いため格差が大きくなり、それに対応して復帰が容易な専門職への進出が進んでいると考えられる。男女格差というよりは労働市場が根本的な問題だろう。

教育水準では大学進学率以外は最高値である。その大学進学率も男性62%に対し女性54%である。しかし、この指数の計算には進学率の水準ではなく、比だけが用いられるため非常に不利な扱いになっている(例えばすぐ上のジャマイカでは大学進学率が男性12%、女性26%で女性の方が高いため最高値になっている)。

次の健康・水準はわずか二項目で平均寿命比と出生時の男女比だ。女性のほうが平均寿命は長いので前者は最高値だが、後者は89位である。出生時の男女比が使われているのは、インド・中国など男子を望む傾向が非常に強い国々における女児の割合が低いという問題を考慮するためだが(missing women problem)、日本で男児より女児が6%少ないことは男子を優先する傾向の現れなのだろうか。男子を生む傾向があるか、性別判断をもとに流産していない(ないし出産後殺害していない)限り男女比が偏ることはない。前者は男女格差とは関係ない。後者が現代の日本で行われているようにも思えない(注)。

最後の政治参加は政治家の男女比だ。日本では政治家のほとんどが男性なため極めて低いランクになっている。これがいいことなのかどうかはよく分からない。政治家が望ましい職業かによるだろう。個人的には政治家になることがいろいろとわりに合わないため、地位・権力に強い関心がある人がなる傾向があり、それが男性による政治の独占を招いているように思う。

どの変数も解釈が難しく、それらを加重平均して作られた指数にどのような意味があるのかはよく分からない。

(注)男児が生まれるまで出産を続けるという程度であればあるかもしれない。しかし毎回の出産における男女比が一定であれば全体における男女比も一定だ。例えばカップルの数が[latex]N[/latex]で、男児が生まれる確率が[latex]p\in(0,1)[/latex]だとする。1人目は全カップルが生み、男[latex]N p[/latex]人で女[latex]N(1-p)[/latex]人だ(整数問題は考えない)。2人目を生むのは1人目が女だった[latex]N(1-p)[/latex]組みのカップルで、男[latex]N(1-p)p[/latex]人・女[latex]N(1-p)^2[/latex]人を生む。[latex]n[/latex]人目として生まれる男は[latex]N(1-p)^{n-1}p[/latex]人で女は[latex]N(1-p)^n[/latex]人だ。何人目であっても生まれる子供の男女比は[latex]p:1-p[/latex]であり、当然その無限和の比も[latex]p:1-p[/latex]だ([latex]\sum_{n=1}^{\infty}N(1-p)^{n-1}p=N[/latex]人対[latex]\sum_{n=1}^{\infty}N(1-p)^n=N \frac{1-p}{p}[/latex]人)。

OECD諸国のジニ係数と相対貧困率

相対貧困率で検索してくる人がいるので追補でも。

OECD諸国の相対貧困率とジニ係数についてはWikipediaにも掲載されている(一次文献はOECD Social, Employment and Migration Working Paper No. 22 Selection of figures from OECD Questionnaire on Income Distribution and Poverty)。

以下がそれを棒グラフにしたものだ:

inequality

せっかく入力したのでGnumericのデータcsvファイルも置いておく。

相対貧困率であれジニ係数であれ一つの統計を計算して所得分配を表すという主張に無理がある。比べるなら所得の分布をヒストグラムなどで示すほうがわかりやすい。また前回述べたように、所得分配を全人口(ないし全世帯)について見ると、年齢・経験による所得の増大と個人・世帯間の格差の区別がつかない。世代毎に所得分配を示した上で所得階層間の移動の度合いを説明する必要がある。

また個人・世帯ごとの所得は国内での物価の差で調整されていないだろう。例えばニューヨークやサンフランシスコは非常に物価・家賃が高いので同じ給料ではまともに暮らせない。国内に特別に物価の高い地域があれば名目所得の分布はより不平等に見える。通常の財であれば裁定取引により価格が国内で劇的に異なることはないだろうが、土地やサービスではそうはいかない。

P.S. これぐらい新聞社なんなりがやるべきだろう。またアメリカ在住者からすると、アメリカと日本との間に大きな差のでない不平等さの指数に意味があるとは思えない。

追記:物価調整(PPP)については前回のポストへのコメントWillyさんからご指摘があったことに気づきました。感謝。

追記:さらに言えば高齢化が進むとこの手の指数はどれも悪化する。年齢が上がるにつれ所得に差がつくからだ。

国名  ↓ ジニ係数  ↓ 相対貧困率  ↓
AUS オーストラリア 30.5 11.2
AUT オーストリア 25.19 9.29
BEL ベルギー 27.16 7.76
CAN カナダ 30.09 10.34
CZE チェコ 25.96 4.25
DEN デンマーク 22.48 4.32
FIN フィンランド 26.1 6.36
FRA フランス 27.3 7.04
GER ドイツ 27.75 8.89
GRC ギリシャ 34.47 8.89
HUN ハンガリー 29.34 8.2
IRL アイルランド 30.37 15.4
ITA イタリア 34.71 12.9
JPN 日本 31.38 15.25
LUX ルクセンブルク 26.06 5.46
MEX メキシコ 47.97 20.26
NLD オランダ 25.06 6
NOR ノルウェー 26.1 6.33
NZL ニュージーランド 33.67 10.4
POL ポーランド 36.74 9.85
POR ポルトガル 35.61 13.67
SPA スペイン 32.91 12.1
SWE スウェーデン 24.28 5.25
SWI スイス 26.66 6.74
TUR トルコ 43.91 15.88
UKG 英国 32.56 11.42
USA 米国 35.67 17.09