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アメリカの開発援助

開発援助は無駄遣いと批判されがちだけど、そもそも小さすぎて財政赤字の主な要因にはなりようがないというのは意外に認識されていない。

American Public Opinion on Foreign Aid

Q44. Just based on what you know, please tell me your hunch about what percentage of the federal budget goes
to foreign aid. You can answer in fractions of percentage points as well as whole percentage points.
Mean …………………………………………………………… 27%
Median ………………………………………………………….25
Q45. What do you think would be an appropriate percentage of the federal budget to go to foreign aid, if any?
Mean …………………………………………………………… 13%
Median ………………………………………………………….10

連邦予算のうち何%が海外援助に使われているかというサーベイの結果だ。大体25%が使われているが10%ぐらいに抑えるべきだというのが平均的な意見となっている。しかし実際の海外援助は200億ドル程でこれは連邦予算約3.5兆ドルの0.6%程度でしかない。海外援助の無駄をなくすのはいいが、会社の赤字を解決するのに節電を心がけるようなものだ。

しかもその内訳を見れば「海外援助」と読んでいいのかも微妙だ

トップ5はイスラエル・アフガニスタン・パキスタン・エジプト・ヨルダンといった戦略的に重要な地域への財政支援で、長年最も大きな援助をうけてきたイスラエルとエジプトは開発途上国ですらない(実際こういった援助の半分以上は経済援助ではなく軍事援助だ)。

Wikileaksの意図

Wikileaksについて何か書こうかと思ったら、背景にある思想についてよくまとまった記事を発見したのでご紹介。

Julian Assange and the Computer Conspiracy; “To destroy this invisible government”

Wikileaksの創始者とされるJulian Assangeの書いた文章が公開されている。そこからは、Wikileaksの目的が特定の情報の開示ではないことが分かる。これは今回のケーブルゲート事件で公開された内容がそれ自体としては特に新しい情報ではなく、せいぜいゴシップにしかならないことと整合的だ(以下はその点をネタにしたDaily Show)。

では彼の目的はなんなのか。それは政府の権威主義(authoritarianism)を抑えこむことだ(どうも権威主義という辞書訳はいまいちなので体制によるコントロールみたいなものを想像してもらいたい)。

Authoritarian regimes give rise to forces which oppose them by pushing against the individual and collective will to freedom, truth and self realization. Plans which assist authoritarian rule, once discovered, induce resistance. Hence these plans are concealed by successful authoritarian powers. This is enough to define their behavior as conspiratorial.

リークはその手段に過ぎない。彼によれば権威主義は陰謀と強く結びついている。それは権威主義が個人や集団の自由を制約するがゆえに社会からの反発を避けるためにはその存在を隠匿する必要があるためだ(※)。権威主義はその維持のために秘密=陰謀を必要とし、逆に成功している体制はその力を使って隠蔽を行うという構図だ。

(※)もちろん暴力に基づく権威主義社会はあるだろう。

しかし、この隠蔽行動にはコストがある。それは組織の意図を隠すことによる組織内のコミュニケーション不全だ。複数の人間が一定の目的のために強調するのは難しいが、その目的を公にせずにそれを行うのは一段と難しい。指揮命令系統が明示されていない会社を考えれば分かりやすい。組織図が存在すれば秘密を暴くのは簡単になってしまうし、中央集権的な体制は切り崩しに弱い。テロリスト団体が分権的でゆるい連帯によって成立しているのと同じ理由だ。

体制は、その維持とこのコストとを常にトレードオフしていると捉えることができる。ここまでくればWikileaksの意図は明らかだろう。彼らは特定の情報を公開することそれ自体には興味を持っていない。リークを行うことで組織内部でのコミュニケーションを難しくし、体制自体を攻撃することなく機能不全を起こそうとしているのだ。

こうまとめると教科書にあるようなマスメディアの存在意義と大差ないような気もする。おそらく旧来のマスメディアには、本当に現体制を攻撃するような行動を取る能力がないのだろう。言論の自由とか報道の自由といってもそれはあくまで国にの保障された権利に過ぎず、テロリストだとか反愛国的だなどとレッテル張りされてしまえば対抗できない。Wikileaksはテクノロジー(とそれに伴う国際化)を使って本来のメディアの存在意義を達成しようとしているように思える。

まだ中身を覗いていない人は実際にダウンロードしてみましょう。BitTorrentのクライアントと7zipを用意してこちらまで。日本のアメリカ大使館からの情報はまだ公開されていませんが。

グルーポン・ストアとローカル広告市場

Googleがグルーポンを買うのか買わないのかという話は全然追えていないけど、グルーポンが近日提供するというGroupon Storesは興味深い。グルーポンのバリュエーション高すぎという話やカルチャーが違いすぎとかいう話を見かけるが案外ありかもしれない。

Groupon 2.0, You Better Believe This Is The Future Of Commerce

グルーポン・ストアが提供する機能それ自体は実は真新しくない。

  • グルーポンに自社のページを作れる
  • (「健全な」10%のマージンで)自分のグルーポンが作れる
  • 作ったグルーポンは適切にマッチングされたユーザーのフィードに流れる
  • その他、客と店との標準的なソーシャル機能が実装される

自社ページを作れるなんて単なるモールだし、クーポンなんて自社サイトで作れる。ソーシャル機能が欲しければTwitterでもFacebookでも何でも使えばいい。しかし、これら全てを達成しているプラットフォームはない。

例えばYelpには多くのレストランレビューがあり、お店は広告を打ったり情報を発信したりできる。しかし、Yelpがこういった情報のワンストップサービスになるのは難しい。Yelpのが提供する情報のコアはレビューであって一般客を惹きつける力はそれほど強くない。言い換えれば、見るだけの人が圧倒的に多い。

その点、グルーポンのコアはディスカウントであり、一般消費者に強くアピールする。その結果が大量のメール購読者だ。グルーポンはセンセーショナルなディスカウントを使って多くの消費者を呼びこむことで、消費者がローカルなビジネスについての情報を得るプラットフォームを作る可能性を持っている

消費者の多くは実際、ローカルな情報を多く必要としている。新聞の折り込みチラシが相変わらず重視されるのはその証拠だ。しかし、今のところこういったローカル情報をデジタルで効率的に収集する場所は見当たらない。それは折り込みチラシよろしくプラットフォームビジネスで、消費者と事業者を両方巻き込んで始めて成立するためだ新聞はその記事を使ってプラットフォームを形成しているが、グルーポンは有名なクーポンを使ってそれが出来る

ここにグーグルがどう絡んでくるか。グーグルは長年ローカルな広告市場で苦戦しているし、Facebookやその他位置情報サービスとも競合関係にある。グルーポンはそのローカル広告市場で今までのところ一番サクセスフルな解を見つけた企業だ(クーポンというマス消費者や小規模店に馴染みあるヴィークルを使ったのがポイントだろう)。 また、グルーポンがAdWordsやYouTubeに出稿している広告料も膨大だ。統合すればこういったコストを内部化できるし、同様に広告が出ているFacebookへの対抗策にもなる。

買収の噂は賛否両論で両者のカルチャーの違いなど疑問視する向きにも説得力があるが、案外ありな話なのかもしれない。

追記:タイムリーにEbayがローカルショッピングサーチエンジンのMiloを買収したそうで。既存のビジネスとのコンフリクトをどう処理するのか興味深い。

有名人カードビジネス

何故かくっだらない記事を眺めていたら、あまりにもせこいビジネスの話が出てきて面白かった。

Pre-Paid Kardashian Kard is Not Your Best Option

どうしようもないゴシップ記事なんだけど目が止まったのはデビットカード。

カーダシアン姉妹(※)が作ったプリペイド式のデビットカードだが、消費者や専門家の批判ですぐに取りやめになったそうだ。そもそも誰がこんなカード作るんだよ、と思いつつもどんな内容だったのかチェックしてみるとなかなか強烈だ。

  • 半年のフィーを含めた初期費用が$59.95
  • 月会費$7.95
  • 請求書を払う度に$2
  • ATMから現金を引き出す度に$2.50
  • サービスセンターに電話する度に$1.50

カード自体は明らかに頭の緩めな10代をターゲットにしており、商魂たくましいとしか言いようがない。プリペイドのデビットカードをお小遣い用に使うというのはそれほど悪くないアイデアだが、プリペイド式ならいくらでも選択肢はある。また、子供に渡すにしても、普通のチェッキング口座にデビットカードのほうが余程勉強になりそうだ。

日本でもクレジットカードが普及すると、子供やオタク(AKBとかジャニーズあたり)を狙ったやたらと高くつくカードがどんどん出てきそうだ。AKBのために48枚のカードを作ったなんてスレが登場する日も遠くはないか。

(※)何故有名なのかと言われるとよく分からない有名人。パリス・ヒルトンとかの亜種か。

ストーリーによる説得

何かを示したり、相手を説得したりするときに、ストーリーを語る人と統計を使う人がいるけどのこの違いは何かという記事(前読んだと思ったら少し前の記事だった)。

Stories vs. Statistics – NYTimes.com

In listening to stories we tend to suspend disbelief in order to be entertained, whereas in evaluating statistics we generally have an opposite inclination to suspend belief in order not to be beguiled.

気になったのはこの一節。ストーリーを聞く場合には疑うのを止めて楽しもうとする一方で、統計を読むときには逆に信じるを止めるという。しかし、ストーリーの場合に疑わないのは”entertained”が目的ではない。

あるストーリーが説得的かどうかを決めるのはそれが内部的にコヒーレントかどうかだ。ストーリーは世界の状態を記述するものだが、ありうる状態は無数にある。例えば、「道を歩いているサラリーマンに通りすがりの女子高生が飛び蹴りをして蹴られたサラリーマンが突如バク転した」というのも、こうして記述できるという意味でありうる状態だ。

だがそんなストーリーを信じる人はいない。サラリーマンが歩いているだけで女子高生に蹴られるというのはありえなさそうだし、蹴られてバク転する人は見たことがない。しかし、不整合に気づくためにはとりあえずは正しいと仮定して聞く必要がある。パーツ毎に疑っていては整合性まで辿りつかない。

a.) Linda is a bank teller.

b.) Linda is a bank teller and is active in the feminist movement.

これは我々が確率計算が苦手というのを示す時によく使われる例だ。「リンダがバンクテラーである」という状態は「リンダがバンクテラーでかつフェミニストだ」という状態を包含しているのでどちらである確率が高いかといえば前者だ。しかし、多くの人は後者がよりありそう(likely)と答える。

しかし、これは確率計算を間違っているというよりも質問者と回答者の意図がかみ合っていないと捉えるべきだろう。「この商品は最高です」という宣伝文句と「この商品は最高で最高金賞受賞です」という宣伝文句があったとしてどちらがありえそうか。後者だろう。回答者は、aとbの確率を比較しているというよりも、aとbの発言どちらが信用できるかを判断していると言える。

ある事象に対する記述は無数にあるが、長ければ長いほどどこかで整合性を失いやすくなる。真実は確実に整合的なので、説明が長くて整合性が取れているほど説得力がますという仕組みだ

統計で言えば、仮説をとりあえず信じてサンプル数を増やすと検定力が上がるのと同じことだろう。